作・北村想&演出・鹿目由紀、初顔合わせによる女性二人芝居『偶然の旅行者ーThe Accidental Touristー』名古屋で上演
エス・エー企画『偶然の旅行者ーThe Accidental Touristー』チラシ
’70年代歌謡曲を背景に、謎の女ふたりが男の旅と女の旅を語り尽くす
昨年、寺山修司の脚本&鹿目由紀(劇団あおきりみかん主宰・劇作家・演出家)の演出による公演で立ち上がったエス・エー企画(成り立ちはこちらの記事を参照)。その第二弾として、『偶然の旅行者ーThe Accidental Touristー』が12月15日(木)から名古屋の「G/pit」で上演される。
今作は北村想の書き下ろし戯曲で、鹿目が北村作品を演出するのはこれが初となる。両者は名古屋を拠点に活動する劇作家、演出家の先輩、後輩として、日本劇作家協会東海支部のイベント等を通して旧知の仲だが現場を共にしたことはなかったため、「食事でもしましょう」ということに。その際、同席した女優の徐梨恵(総合劇集団俳優館)と空沢しんかのために北村が戯曲を書き、鹿目演出で上演しようという話が持ち上がり、それが実現の運びとなったわけだ。
左から・演出の鹿目由紀、出演者の空沢しんか、徐梨恵
“旅”をテーマに書かれた本作の舞台は、廃駅の待合室である。なぜかそこで暮らしている女と、廃線になった汽車でそこを訪れた女…謎の女ふたりの会話劇として展開されるのだが、その中には「小さな日記」「さよならをするために」「いちご白書をもう一度」など、’60年代後半から’70年代の歌謡曲20曲以上からサンプリングされリミックスされたエッセンスが随所に散りばめられている。
「夜にJ-POPを聴いていて思いついたんですが、歌詞をモチーフにしてセリフをつないでいくと面白いなと。書いてから気づいたのが、そういえばこういうことって寺山(修司)さんがやりそうなことだなと」と、北村。
稽古風景より
“旅”をテーマにした理由については、
「家の中に閉じこもっていると屈託してしまうから外に出たいっていうことで、旅モノを書いたんですよ。思いついたら早いので、1週間で書いて渡しましたね。(いつもより執筆に)時間が掛かったのは、どの歌を使おうかと探していたから。もちろんそのまま使ってるわけじゃなく、テキトーに変えたり混ぜたりしてますし、ほんのひと言だけ引用しているものもありますけど、(年代的に)わかる人にはすごくわかりやすくしてある。「これはあの歌だな」と観客が探せるように、「ポケモンGO」じゃないけど「J-POP GO」みたいになってますよ(笑)。「落語はイリュージョンだ」って(立川)談志家元が言ったけど、やっぱり演劇もイリュージョンですから、あり得ない話をさもありそうな風に私の場合は書く、役者は演じるわけです。シチュエーションは何がいいかなっていうことで、旅だから列車にするか駅にするかだけど、単純に駅じゃ面白くないから廃駅にしようと。廃駅なのに吹雪の中を汽車が走ってる。もうその辺からJ-POP風ですよね」
と語り、かなり楽しんで書き上げたよう。
稽古風景より
一方、戯曲を受け取った鹿目は、
「初見の時はスラッと読んだのですごく叙情的な作品だなと思ったんですけど、’70年代の歌謡曲の歌詞がうまく変えられて盛り込まれているので、それはあたり前だっていう話で(笑)。(元歌が)わかるものとわからないものがあったので、宝探しみたいに見つけていくのが楽しくて。想さんは遊びで歌を入れて書いた戯曲を、私がどういう風に感じて演出するだろうと思ったみたいですね。旅について語っていくんですけど、ふたりが出会ったことで、考え方が変化していく話なのかなって思いながら演出しています。疲れてくると視野が狭くなることってあるじゃないですか。あまり周りが見られないみたいな。そんな状態の人がここへ訪れた時に、多角的な話を聞いて視野が広がって、例えば、旅というのはこういう形のもの、生きるということはこういうことだ、と思ってきたけどちょっと違うのかな? って思うというか。自分としては、結構共感性がある話なんです」と。
稽古風景より
演出のポイントについても、
「シンプルな二人芝居で、劇団で演出する時とは全く違うのでその楽しさを味わっている感じですね。想さんのホンはやっぱり面白いなって思いました。字面で読んでると叙情的なことに引っ張られてたんですけど、実際にやってみるとアホらしさ加減が際立っていて(笑)。コメディのセンスが非常にあるんだなと思いましたね。知的なズッコケというか、もともと知的な部分がベースに敷かれていて合間にバカが埋まってる感じなので、それを発掘していく感じが楽しい。あとは女性二人芝居で私も女性なので、それは持ち味として出せたらいいかなぁと思ってます。想さんがどういう意識で書かれたかはわからないんですけど、女同士だとここで打ち解けるよね、というところやここで共有感覚を持つ、みたいな点を大事にしたいなと思ってます」
と、こちらも楽しみながら取り組んでいる様子。
当時のドラマティックな歌謡曲とセリフを巧みに紡いだ北村マジックと、女性の視点から女二人の関係や微妙なニュアンスを立体化した鹿目演出が見事に融合し、観ているこちらも冬の小旅行へ出掛けたような気分になる本作。〈昭和と現代をつなぐ〉というエス・エー企画のテーマどおり、その頃青春を送った層には懐かしく、若い世代はきっと新鮮な輝きを感じる作品として幅広い世代が楽しめる作品にもなっている。年の瀬の慌ただしいひととき、イリュージョンに誘われひと息ついてみては?
尚、16日(金)~18日(日)には下記のゲストを招き、アフタートークも開催予定だ。
16日(金)19:30 ゲスト:八代将弥(room16)×徐梨恵
17日(土)19:00 ゲスト:はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)×はしぐちしん(コンブリ団)×空沢しんか
18日(日)15:00 ゲスト:北村想×出演者×鹿目由紀
■作:北村想
■演出:鹿目由紀
■出演:徐梨恵(総合劇集団俳優館)、空沢しんか
■日時:2016年12月15日(木)19:30、16日(金)19:30、17日(土)14:00・19:00、18日(日)11:00・15:00
■会場:G/pit(名古屋市中区栄1-23-30)
■料金:前売2,800円、ペア券5,000円、学生割2,000円 ※当日券は500円増し。学生割は当日学生証を提示
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、⑦番出口から徒歩6分
■問い合わせ:090-4483-9755(正手)
■エス・エー企画 特設ブログ:http://blog.goo.ne.jp/aruotoko-arunatsu