「新春浅草歌舞伎」を彩る人気若手女方! 中村壱太郎インタビュー

インタビュー
舞台
2016.12.14
中村壱太郎

中村壱太郎


若手俳優の登竜門として、新春の浅草名物となっている「新春浅草歌舞伎」。今年も尾上松也を筆頭に、坂東巳之助、中村壱太郎、中村隼人という勢いのある若手たちが出演、それぞれ大役に全力で挑戦する。

その公演に2014年以来3年ぶりに登場するのが、上方歌舞伎の若手女方として人気の中村壱太郎。今回の「新春浅草歌舞伎」では第1部に出演、近松門左衛門の名作『傾城反魂香』では主人公又平の女房おとくを、華やかな道行ものの舞踊『義経千本桜 吉野山』では静御前を演じる。この2つの役柄への取り組みとともに、最近ますますフィールドを広げている俳優としての多彩な活動についても語ってもらった。

お正月にふさわしいハッピーエンドの『傾城反魂香』

──「新春浅草歌舞伎」には、3年ぶりの出演ですね。

その前は3年連続で出させていただいていたので、少し間が空いたのは自分としてもちょっと寂しかったです。最初に「新春浅草歌舞伎」に出させていただいたのは2012年で、(市川)猿之助のお兄さん(片岡)愛之助のお兄さんがいらっしゃって、僕はそのお二人と勘九郎のお兄さんや七之助のお兄さん、獅童のお兄さんがご一緒に出演されていた「新春浅草歌舞伎」を、いつもワクワクしながら観ておりましたから、自分もやっと出られるんだという嬉しさがありました。そのあと2015年から(尾上)松也のお兄さんを中心とする若手が引き継いで、僕もそのまま一緒に出たかったのですが、父の襲名などもあって2年ほど出られなかったんです。その間、皆で「新春浅草歌舞伎」を賑わせているということも聞こえてきて、「いいなあ、僕もまたあの公演に戻りたいな」と思っていましたので、今回は戻って来られたという嬉しい気持ちでいっぱいです。

──「新春浅草歌舞伎」にはとても思い入れがあるのですね。

やはり猿之助のお兄さん、愛之助のお兄さんというお兄さん方が、どれだけ強い思いを持ってやっていらしたか、それをそばで感じていましたから。その思いを引き継いで、気持ちを込めて出演させていただきたいと思っているんです。

──今年はポスタービジュアルを見ても看板の1人という立場での参加ですね。

プレッシャーも感じますけど、とても嬉しいです。演目も『傾城反魂香』と『吉野山』という、松也のお兄さん、巳之助さんとがっちり芝居が出来る2作ですし、今回の「新春浅草歌舞伎」は第1部のみの出演なので、2つのお芝居を精一杯つとめたいと思っています。

──『傾城反魂香』では、又平の女房おとくの役です。

この演目とは私の家は縁が深くて、父は又平をやっておりますし、祖父がおとくをやっております。そして近松門左衛門のものですから上方にも縁のある作品で、それがやれるだけでなく、1つ年上の巳之助さんとご一緒できるのが嬉しいなと。いつも同世代の仲間同士で集まると、それぞれやりたい作品や役の話ばかりしていましたから。それが夢物語ではなく、こうして実際に演じることになったのは、本当に幸せだなと思います。

──おとくの演じ方については?

父の襲名公演で、おとくを猿之助のお兄さんが演じていらしたのですが、どこをとっても「女房」そのもので本当に素敵で、今も目に焼き付いています。先輩の女方さんはほとんど皆と言っていいくらい、色々な方が演じている役ですし、愛されている役ですから、その役をできるのは嬉しいのですが、挑戦だけで終わらないように、しっかり演じて、「またどこかで観たい」と言われるようになりたいです。

──この演目は途中で悲劇になりますが、最後は明るい終わり方で、「新春浅草歌舞伎」にふさわしいですね。

そうなんです。夫婦で死のうとしているところ奇跡が起きて、ハッピーエンドになる。僕も本当に好きな作品です。相手役が巳之助さんですのでとても心強いですし、ともに生きてきた又平とおとくという夫婦の間柄が、花道に一緒に出た瞬間に滲み出るといいなと思っています。

ただのお姫様ではない、強いところもある静御前

──もう1つの演目は「義経千本桜」の中の『吉野山』で静御前ですね。

「義経千本桜」は長い演目で、『吉野山』はその中の1場面、去年の「新春浅草歌舞伎」で松也のお兄さんが狐忠信をされた「四の切」(『川連法眼館の場』)の前の話になります。とにかく華やかでお正月らしい演目で、僕が演じる静御前はお姫様の役ですので、綺麗に艶やかにというところを心がけて出たいなと思っています。絵面の美しさだけでも喜んでいただける演目ですので、しっかり演じて、お客さまに楽しんでいただきたいと思っています。

──静御前は様々な物語に出てくる有名な女性像ですが、この『吉野山』ならではの演じ方というのはありますか?

「義経千本桜」では、静御前は色々な場面に登場しますが、そのほとんどを有り難いことに演じさせていただいております。最初に演じたのは通し上演のときで、玉三郎のおじさまが他の場面の静御前を演じていらっしゃったので、お化粧からなにから丁寧に教えていただきました。静御前は白拍子ですから、ただのお姫様ではない「女武者」とも言われるような強いところもある女性だと思います。僕個人として何度も演じさせていただいたことで、とても思い入れのある役になっています。今回は初めて清元で踊りますが、義太夫とは違う、「ウミジ」と専門用語で言うのですが、音楽の流れがどこかこってりしているんです。そのこってりした情緒の中で、お姫様のたおやかさを表現したいと思っています。

──舞踊では家元でいらっしゃるわけですが、踊りで身につけたものが、俳優であることに役立つ部分も多いでしょうね。

すべての所作の基礎に踊りがありますから。母も吾妻流の家元で、その家元を僕が2年前に継いだのですが、父は歌舞伎俳優ですから、両方の血が私の中で混ざり合っているんです。生まれた時から邦楽がいつも鳴っている家で、本当に当たり前のように踊りの世界にも入っていきました。

──若手の女方さんの中でも、所作の美しさでは定評があります。

いえ、環境にも恵まれていたことと、なにより踊りが大好きなんです。踊りは音楽もほとんど生演奏ですから、その日その日で演奏もちょっとずつ違ってきますし、またお客さまの雰囲気でも違ってきたりします。もちろんそれはお芝居も一緒ですが。そういう中で、悲しいとか嬉しいとか感情を踊りで表現する。そこがやり甲斐のあるところだと思います。

歌舞伎で培ってきたものを生かしながら様々な活動を

──壱太郎さんは愛之助さんとともに上方歌舞伎の旗手として注目されていて、10月の新橋演舞場の『GOEMON』でも活躍しました。

愛之助のお兄さんに引っ張っていただきながら、上方歌舞伎の新たな風を起こしたいという思いはあります。今回の『傾城反魂香』も僕は上方の演目だと思っていて、もちろん色々な演じ方がありますから一概には言いきれない部分もありますが、いわゆる義太夫ものなど、上方歌舞伎の「こってり」したものを大事にしていきたいと思っているんです。その基盤を大切にしながら、色々なことにチャレンジしていきたい。それこそ祖父も若い頃は女優さんと一緒にお芝居をしたり、女性と踊ったりして、芸の幅を拡げてきました。僕もできるだけ外の風を受けて、それを歌舞伎の中に持って帰ってこられるようにと思っているんです。『GOEMON』は「システィーナ歌舞伎」の演目でしたが、大阪での再演が叶いまして、さらに東京でも上演できて、正直びっくりいたしました。でも、これまでも「システィーナ歌舞伎」には女優さんや現代劇の俳優さん、宝塚やOSK出身の方など色々な方が出演されていました。そうなると歌舞伎俳優がやっているから歌舞伎だと思うしかないくらいで(笑)。そういう作品でも、今までやってきた歌舞伎を信じて臨めばちゃんと歌舞伎になるし、それがきっかけで歌舞伎を観にきてくださる方が増えたら、それが一番ですから。そうやって活動を広げながら、上方歌舞伎を大事にしていきたい、そこは愛之助のお兄さんと一緒なんです。

──その活動の1つにオン・ケンセンさん演出の『三代目、りちゃあど』への出演もありましたが、バリ島まで行って稽古されたそうですね。

こんな大プロジェクトだとは思わずに参加したんです。去年の春に歌舞伎座で父の襲名披露をしていたとき、オン・ケンセンさんが観に来られて、僕と一緒にやりたいと言っていただきました。オン・ケンセンさんはアジアの様々な文化に興味を持たれていて、その作品の中に日本の様々なジャンルの演劇、歌舞伎も現代劇も宝塚も取り入れたいと。その意図で作られたので、現代劇といっても僕は歌舞伎のスタイルで演じました。

──とてもシュールでユニークで美しい舞台で、壱太郎さんの歌舞伎調も違和感がありませんでした。

そういう意味では「システィーナ歌舞伎」もそうですが、洋舞や洋楽が入ったりする中で、自分なりに役を作っていく。自分の歌舞伎の引き出しから、今回はこのくらい出すとか、これまでの経験や観てきたものの中からその要素を借りるなどして、作っていくんです。ですから逆に、歌舞伎の女方さんでやってくださいと言われても、全部がぜんぶ女方ではやらないで、良い意味で崩すというのもありで作っています。

──俳優としてとても柔軟ですね。やはりその資質は、お祖父様の坂田藤十郎さん、お祖母様の扇千景さんから繋がる血筋なのだなと。

そうかもしれません。舞台は好きで現代劇もよく観ていますし、なんでも挑戦してみたいと思っています。ただ僕ができることというのは、やはり歌舞伎で培ってきたものなので、それを生かしながら、これからも色々挑戦していきたいです。

──最後に改めて「新春浅草歌舞伎」の見どころをぜひ。

歌舞伎は、観たことのない方には入りにくい部分もあると思いますが、そこを若手俳優たちが演じることで入りやすくしているのが、この「新春浅草歌舞伎」だと思います。そして出ている若手たちが、ここからさらに一歩上に行こうという思いで頑張っている姿を観ていただき、応援していただければ嬉しいです。お客さまも一緒に舞台を作ってくださるつもりでいらしていただきたいですね。

なかむらかずたろう○平成2年生まれ。中村鴈治郎の長男。平成7年に初舞台。幼少時から舞踊や邦楽の基礎を積み重ねてきた実績があり、平成26年に日本舞踊吾妻流七代目家元・吾妻徳陽を襲名。舞台では女方が中心で可憐な印象が強いが、最近は色気も匂い立つ。「新春浅草歌舞伎」には、3年ぶり4回目の出演。

【取材・文/榊原和子 撮影/アラカワヤスコ】

〈公演情報〉
「新春浅草歌舞伎」
第1部
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、近松門左衛門 作
傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
土佐将監閑居の場
二、義経千本桜
吉野山(よしのやま)
第2部
お年玉〈年始ご挨拶〉 一、双蝶々曲輪日記
角力場(すもうば)
二、四世鶴屋南北 作
御存 鈴ヶ森(ごぞんじすずがもり)
三、岡村柿紅 作
棒しばり(ぼうしばり)
●1/2~26◎浅草公会堂
出演◇尾上松也、坂東巳之助、中村壱太郎、中村隼人/中村錦之助
〈お問い合わせ〉ホン松竹 0570-000-489
http://www.asakusakabuki.com


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