コブクロは『TIMELESS WORLD』ツアーで何を表現し、伝えたのか?【クロスレビュー その2】生粋のコブクロ育ち編
コブクロ 撮影=後藤武浩
KOBUKURO LIVE TOUR 2016“TIMELESS WORLD”supported by Ghana
2016.11.20(SUN)さいたまスーパーアリーナ
コブクロの全国ツアー『KOBUKURO LIVE TOUR 2016“TIMELESS WORLD”supported by Ghana』が12月17日(土)、18日(日)の京セラドーム大阪公演をもち終了した。2005年にリリースされた大ヒットアルバム『NAMELESS WORLD』とリンクした最新アルバム『TIMELESS WORLD』を携えた今ツアーで、コブクロは何を表現し、伝えたのか? ツアー中盤となった11月20日(日)のさいたまスーパーアリーナの模様を、仕事を通して長きに渡りコブクロを観てきた元『ORICON STYLE』編集長の田中久勝氏と、小学生の頃にコブクロの音楽に出逢ったことがきっかけで“音楽に関わる仕事に就きたい!”と思ったというSPICEライターの新人シマザキの二人によるクロスレビューでお届けする。
生粋のコブクロ育ちがライブレポートを書いたら
~歌がうまい!コブクロのそれ以外のこと~
今年6月にリリースした2年6か月ぶり、通算9枚目となるオリジナル・アルバム『TIMELESS WORLD』を携え、8月27日より北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナを皮切りに、およそ4カ月にわたるツアー『KOBUKURO LIVE TOUR 2016 “TIMELESS WORLD”』を実施してきたコブクロ。ここでは、11月20日に行なわれた埼玉・さいたまスーパーアリーナでの公演のレポートをお送りするが、今回はコブクロ=歌がうまいという周知の事実以外にフューチャーしてみたい。そこで、人生の半分をコブクロとともに歩んできた筆者の主観によるコブクロおよびコブクロライブの“一周まわってあまり知られていない話”を書き連ねてゆきたいと思う。
◆やたら服がオシャレ
あまり奇抜な印象を持たれにくい二人だが、実は二人ともかなりのオシャレさん。小渕は高校卒業後に服飾の専門学校への進学を考えたほどの洋服マニアで、これまでにも自らグッズのデザインを手掛けるなど、その器用さとセンスはお墨付き。そして黒田は生粋のスニーカーマニアで、公式instagramにはあらゆるスニーカーに関する投稿が目立つだけでなく、「OFF-WHITE」などの新鋭ブランドをいち早く取り入れたファッションはネットでも話題となっている。ちなみにこれまで、ライブ中にはしばしば黒田が小渕のファッションをイジるシーンが登場してきたが、そういうときは大概黒田が緊張しているときが多いようだ。この日も、ものすごく汗っかきな小渕が黒いブルゾンを頑なに脱がないことに対し、しきりに「お前は早よ脱げやもう!」と突っ込むシーンがあった。今後はぜひとも二人のファッション……と関連して繰り広げられるイジりトークにも注目して頂きたい。
コブクロ 撮影=後藤武浩
◆歌4:漫談6 !?
「えー、今日は歌も歌います」
コブクロのライブでよく耳にするのがこの言葉。通常のアーティストのライブであれば、MCは長くても20~30分が多いのではないだろうか。コブクロのライブでは、平均して1時間の漫談タイムがある。とはいえ何か特別な話をするわけでもなく、ファミレスで繰り広げられるような他愛のない話を抜群のテンポで展開していくことが殆どだ。中にはこれを楽しみにライブに訪れる人も大勢いるはず。ちなみに、この日はDVD収録ということもあってか、恒例のメンバー紹介では気合いが入って……。
小渕「そして最後のメンバーは、今日も手拍子という素晴らしい楽器を1万9000個の楽器を持ってきてくれました、そしてそれは僕たちバンドの、偉大なる指揮者です! みんなの手拍子、笑顔に今日もついていきます! お客さーーん!」
黒田「お前昨日そんなテンションちゃうかったやん! DVD収録に合わせてきてる! 今日すごいのきたね! なんで!? 最後のメンバーは1万9000……? 長いねん! ほんでどういう繋がりで指揮者出てきてん!? お前、次からみんな燕尾服着てきてたらどないすんねん!」
と、序盤からコブクロ漫談が炸裂していた。
◆良いのは歌詞だけでなく、“言葉”
コブクロ=歌がうまいの他に、世間にはコブクロ=歌詞が良いという印象を持つ方が多く見受けられるが、注目していただきたいのはその“言葉”のチョイスである。筆者が「ここにしか咲かない花」を耳にしたのは、2005年の春のことだった。当時放送していたドラマ主題歌で、美しい島の風景と、“あけもどろ”という耳慣れない言葉がやけに心に残る、やさしい歌。“あけもどろ”とは琉球の古語で、東の海に赤々と昇る太陽の光が空を染める様子を表す言葉だという。その後も、肉眼で見えるか見えないかギリギリの明るさを持つ星のことを“六等星”と呼び、人間の内に秘めた情熱と同じように、周りには見えなくても一生懸命に輝いていることを学んだり、どこにでもある、日常の風景が変わるような言葉を彼らからたくさん教わった。当時、まだ知らないことばかりだった筆者の“名もない世界”は、この出会いからこれまで、彼らの紡ぐ歌詞やメロディ、そのすべてによって形取られていったと言っても過言ではない。私たちがまだ出会ったことのない美しい言葉が、そこにはたくさんある。ぜひ一度、言葉を探しに来てみてはいかがだろうか。
◆JKからお婆ちゃんまで、安心安全
筆者が初めてコブクロのライブに訪れたのは、12歳。それから毎回足を運ぶようになり、友人はもちろん、家族全員で行ったこともあれば、恋人と行ったこともあった。現在24歳となった筆者が身をもって経験したこととして断言するが、年齢性別を選ばない、そして、人生のどんなタイミングで訪れても必ず響く何かを持って帰れるのがコブクロのライブである。すごいのは会場にはまだまだ女子中高生などの若年層も増え続けているということ。常に進化を続けるコブクロならではのポイントだ。実際に今回のアルバムでは、打ち込みをベースにしたループが効果的に使われている「tOKi meki」や「Tearless」など、これまでのコブクロのイメージが覆るような振り切った楽曲が収録されており、それらがライブでどのように披露されるのか、期待を膨らませる人も多かったのではないだろうか。
中でもライブで4曲目に披露された「SNIFF OUT!」では、勢いよく燃え上がる炎の演出に度肝を抜かれてしまった。MCで黒田が「今日は炎がいつもよりすごない? DVD収録入るからちゃう?(笑)」と、おどけてみせていたが、どうやら今回の演出は黒田自ら考案したもの。その後に続く「奇跡」や、黒田が久しぶりに作詞・作曲した新曲「Tearless」でも、スクリーンに映し出される映像からレーザービームまで、これまでのコブクロライブでは見たことのない演出が次々に飛び出していたのが印象的だ。正直、今回の演出には驚いたファンも多かったかもしれないが、より多くの人に届く歌のため、進化を続ける。そんなコブクロの姿勢は、<変わり続ける為に 変わらずにいるよ>と歌っていたあの頃のままである。これが、時代を越えて愛され続けるコブクロの魅力ともいえよう。
コブクロ 撮影=後藤武浩
◆いくつもの楽曲からなるコブクロという物語
ここで、このツアーの柱となった、「未来」という楽曲のことを。そもそもは映画『orange -オレンジ-』の主題歌として書き下ろされた楽曲だが、10年後から手紙が届くというストーリーにちなみ、コブクロが10年前に出した「桜」のジャケットから10年分の未来を描いたデザインをジャケットにしたことがすべての始まりだった。加えて、「桜」のカップリングは「今と未来を繋ぐもの」。
時を越えたこの運命的な巡り合わせが、結果的に『TIMELESS WORLD』を生み出すことになったのだ。しかし、コブクロはこの「未来」という1曲でライブを掌握させるのではなく、ある一つの流れから、物語的に構成を組んで挑んできた。コブクロが、コブクロとして初めて書いた「桜」。やがて生まれた「蕾」。そして、新しい「未来」。3曲続けて歌い切った二人が深々と一礼すると、1万9000人から惜しみない拍手が1分以上にわたって贈られた。
そしてラストナンバーには、コブクロにとっての“今と未来を繋ぐもの”――「STAGE」。
結成から18年。路上から始まり、どんどん広く、大きくなっていくステージ。遠くまで見えるようになったけれど、近くが見えなくなっていないか、自問自答する日々もあったという。けれど、コブクロがもっと遠くまで歌を届けるために、そのステージを支え続けてくれる仲間やファンがいた。“一番近くに居てくれるみんなを想って、遠くまで届く歌を歌いたい”。そんな想いで作られた歌は、また新たなコブクロの未来を形取るように、1万9000人の大合唱でゆっくりと会場を満たしていった。
このように、コブクロには“物語”がある。一人ひとりがコブクロと過ごしてきた時代とともに紡がれるその物語は、年を追うごとに深みを増し、新たなる未来を創出する。ともに歩み続けられる、それが、コブクロというアーティストだ。
ここで一度皆さまにお聞きしたい。私たちは10年前、コブクロがいない未来を想像したことがあっただろうか。いなくなるわけがない、そんな風に思ってはいなかっただろうか。それは、彼らの歌が、これまでもごく自然に歌い継がれてきたように、歌い継がれるべき歌であるからだと筆者は考える。きっと、これからもそうであるように。流行歌の生まれづらい現代の中で、ポップ・ミュージックの道を突き進み続け、王道も極めれば個性となることを証明して見せたのが、コブクロだ。アンコール後に発せられた「来年も再来年も、10年先も。明日も、よろしくね!」という小渕の言葉はある意味新鮮で、この先の“未来”に、二人がどんな物語を見せてくれるのか、これからも楽しみでならない。
コブクロ 撮影=後藤武浩
◆おまけ ~コブクロとともに歩んだ半生を振り返る~
人生をともに歩み続けられるアーティスト、コブクロ。ここで、コブクロと人生の半分をともにしてきた筆者の人生プレイリスト(12歳~)を僭越ながら公開したい。共感するもよし、あなただけのプレイリストを作ってみるもよし、宜しくご査収いただければ幸いだ。
12歳:「待夢磨心‐タイムマシン‐」
年を追うごとに深みを増す名曲。筆者は卒業文集のタイトルにもこの曲名をつけ、今でも誕生日を迎えたらこれを初めに聴くという儀式を執り行なっている。
15歳:「YELL~エール~」
受験に向かう電車の中で繰り返し聴いたことを今でも鮮明に覚えている。受かる。
16歳:「神風」
新生活に胸躍らせ恋に恋する季節、間違いない。筆者はこの時期に「神風」と書いてある扇子をなぜか購入した。
17~18歳:「コンパス」
夢を見ましょう。この歌に出会っていなければ、今これを書くこともなかったと思う。そしてこの歌が響く人は、絶対にコブクロにハマれるはず。
19歳:「虹」
広がる世界に己の小ささを知る。虹が見えなくなったのは、虹の真下まで来てしまったからなのだ。
20~22歳:「NOTE」
忘れたくないことが増える。記せば分かることもたくさんある。この楽曲による価値観の形成は人生に大きな影響を及ぼした。
23歳:「ここにしか咲かない花」
イントロから理由もなく泣ける。本当の意味を理解できるようになる。
24歳:未定
24歳を迎えたばかりの筆者は今年どんなマインドでコブクロソングを求めるのかまだ分からないが、今回のライブで筆者が心から号泣してしまったのは、「flag」だった。その時々によって染み入る楽曲が違ってくる現象は、もはや健康診断にも通ずる何かがある。自身の健康状態を確かめたい方は、ぜひ一度コブクロのライブに足を運んでみてほしい。
取材・文=シマザキ 撮影=後藤武浩
【クロスレビュー その1】>>「言葉にならない言葉を探す旅」
2016.11.20(SUN)さいたまスーパーアリーナ
01. SUNRISE
02. 六等星
03. hana
04. SNIFF OFF!
05. 奇跡
06. Tearless
07. Flag
08. 同じ窓から見てた空
09. 何故、旅をするのだろう
10. NOTE
11. 桜
12. 蕾
13. 未来
14. サイ(レ)ン
15. tOKi meki
16. SPLASH
17. LOVER'S SURF
18. 今と未来を繋ぐもの
19. STAGE