世界最大のダンス・カンファレンス『Amsterdam Dance Event』を体験レポート
僕が最後にアムステルダムを訪れたのは2005年、気がつけば10年ぶりのアムステルダム。風景から街の空気、匂いは良い意味で変わっておらず、目の前に写る光景はなんだか故郷に戻ってきたような、安堵感を感じさせる歓迎ムードでした。
そう、今回オランダへ来た目的は、ダンスミュージックファンなら1度は行くべきであろうイベント『Amsterdam Dance Event(通称:ADE)』です。やっと念願が叶い、2016年10月19日に開催された同イベントを満喫してきました。
僕が2000年に初めてオランダにやってきたとき、当時のダンスミュージックに感銘を受け、気がつけば生業となり、人生の道筋となったきっかけが『アムステルダム』。当時、大晦日は格闘技イベント会場で迎え、そこから都内のクラブに流れ、そのまま朝一番の飛行機でアムステルダムに行くというのが恒例行事となり、飛行機では大晦日に出場したピーターアーツ、アーネストホーストと同じ飛行機になることがよくあったのを覚えています。そして到着したアムステルダムは、時差でカウントダウン前という、1年に2度カウントダウンを迎えるという何とも贅沢な遊び方をしていました。
そして毎年『ADE』は、アムステルダムで10月下旬(今年は10月19日から23日)の5日間に渡って開催されます。1年中、活気のあるアムステルダムですが『ADE』は更に活気が溢れており、開催中は街中が『ADE』の象徴であるイエローフラッグで染まり街中どこでもダンスミュージックが爆音で流れているというダンスミュージックファンにしてみたら天国な期間であります。開催5日間で450以上のイベント(Techno、House、EDM、Trance など)があり、最先端の音楽が連日連夜、街にあふれます。約35万人以上を動員する、他に例のない世界ナンバーワンのダンス・ミュージック・カンファレンスが『ADE』であり、オランダへの経済効果は計り知れず、国家までも動かすとてつもない規模というのを体験しました。
『ADE』は様々な催しが行われます。決して大音量で馬鹿騒ぎするイベントでなく、“Playground”と呼ばれるワークショップが開催され、機材デモンストレーション、ミュージックディスカッション、プロモーター、エージェント達のミーティングなどが朝から行われます。人気アーティストが登壇するプログラムは入場制限がかかるほど注目を集めており世界中の音楽関係者が真剣に語り、集うカンファレンスとして開かれていますが、もちろん一般の方も参加可能。カンファレンスのも早々にSold outします。ヨーロッパだけでなく、アメリカ、そして最近では日本からも多数の参加者が見受けられました。
到着したその日の夜は、Djmag主催のDJランキング発表会が行われるアムステルダムアリーナ横に隣接する“ハイネケンミュージックホール”へDjmag Japan 社長のSamと一緒に向かいました。
市内から乗ったタクシーでは、行き先を聞くやいなや、ドライバーも待ってましたと言わんばかりに、慣れた手つきでFMのチャンネルをシャレたテックハウスのチャンネルに切り替える所が嬉しく、これぞオランダ流“おもてなし”という感じでしょうか。どうだと言わんばかりに話しかけてくるドライバーと会話は弾んだ所で会場に到着。
会場は毎年恒例、世界中のダンスミュージックファンが注目するDJランキング発表とあれば、会場は盛り上がらないはずがなく、世界中からこの日を待ち望んだ一般来場者をはじめ、世界中のプロモーター、関係者も大集結。会場が異様な雰囲気に包まれるなか、DJランキングが発表されました。
2016年度DJランキング1位は並みいるトップDJを抑えて、オランダのアムステルフェーン出身の若干20歳の天才EDMアーティスト、マーティン・ギャリックスが受賞しました。おめでとう!
今回の『ADE』では、450以上のイベントがぶっ通しで行われており、EDM発信地であるオランダにて近年EDMも下降線とも言われていますが、そんなの全く感じさせない盛り上がり。深くシーンが根付いているこの国にとって、ジャンルとか、そんなことはどうでもいいのかもしれません。
『ADE』は、一度に全てのジャンルが集結する1大街型フェスティバルであり、純粋に音楽を楽しもうぜ!という思いを感じさせてくれます。国のメイン産業ともなれば、国立美術館だろうが国家建造物地だろうがお構いなしにパーティー会場を作ってしまうという、この国の音楽に対する向き合い方には、ただただ脱帽……としか言いようがありません。
日本で言う明治神宮の本殿にDJブースを置きアーミン・ヴァン・ブーレンが『A State of Trance』(オランダのラジオ番組)をやり、本殿の敷地内で公開収録が行われるみたいな感じ。想像しただけでもゾッとします。でもオランダならそれがやれてしまうんです。
今回の『ADE』の目的は本業であるイベントのMTGと来年度のDJブッキングをこのタイミングで擦り合せるのが目的です。Top100に名を連ねるDJをブッキングするのは至難であり、何万軒ともある世界中のクラブ、フェスティバルとの競い合いブッキングをしなければ行けないので、そう簡単に呼べることもできません。ましてや10時間以上のフライト掛けてアジアに来る事も限られており、エージェントサイドにメールだけでは伝わらないので、ここ『ADE』まで出向き事前アポイントの上、交渉が始まります。僕の場合、EDMだけでなくTechno、Houseも平行で主催イベントをしているので1日5社以上のエージェントと午前から夕方まで30分間隔で行います。
とはいえ、英語が堪能でなく中学レベルの英語程度の自分が現地のエージェントとビジネス会話も出来るはずがないので、オランダライデン大学で日本語科を勉強し、漢字読みから全てパーフェクトなイルセちゃんに通訳を依頼。今回彼女がいなければ、できなかったミッションでありました。本当にありがとう。
MTGが終わり会食後、2日目の夜はオランダの人気フェスティバル『Awakenings』と今やテクノで世界ナンバーワンと賞賛されているアダム・ベイヤーとのコラボイベント『Awakings × Drumcode』へ。
5000名のは早々にSold out。会場はセントラルステーションの西側の昔のガス工場を転用したWestergasfabriekの中にあるGashouder。ここはかつての廃墟が見事にリノベーションされており、なんとファッションウィークも行われているとか。文化の最先端の発信基地です。その独特の存在感や構えは、日本では絶対に体験できない、とっておきの空間。ただただ凄い!の一言。
オランダの音楽を応援する者としては、体力や時間が許す限り、たくさんのイベントに足を運んで体験して頂きたいと思っていますが、せっかくここまで来たら、音楽だけでないオランダのカルチャーにもぜひ触れていただきたい。また正直オランダ料理というのは街にそんなにないんです。でも、アムステルダムには世界各国様々な料理があるので、是非そちらも楽しんでみてくださいね。
僕の場合は頑張って早起きし、ジョギングして街を探索します。冬は冷え込むこの国ですが、10月はまだ15度前後と過ごしやすくジョギングするには最適な気温です。軽いスニーカー持参で、アムステルダムの街を走ってみてはどうでしょうか? 朝の素敵な光景と空気に触れ合い、さらにいい1日がスタートできますよ。
3日目の夜は日本でも人気のテクノDJクリスチャン・スミス、モニカ・クルーズがホストを努める『Terminal M×Tronic』がQ-Factoryにて開催。DJアンナ、ピッグ・アンド・ダン他、このイベントにWOMBで開催している人気テクノイベント『INTENTION』のレジデントDJのドランケンコングも出演していました。
会場サイズはリキッドルームが2つあるイメージ。来場者はコアなテクノファンで会場は大熱狂。またドランケンコングが出演していたこともあり、彼らを応援すべく日本人の姿が多数見受けられのが非常に嬉しい光景でした。彼らも異国の地での声援は嬉しかったと思いますし、僕的にはメインアクトよりもドランケンコングのプレイが素晴らしかった。地元の耳の越えたクラウド達も完全にロックしていましたね。
そして朝8時まで遊び、数時間睡眠でのぞんだ4日目は、デイパーティーによるフェスティバルへ。セントラルステーション裏手、無料のフェリーが出ている北の再開発地区にあるNDSM Decklandにて『Deckyard』フェスティバルへ。広大な工場跡地をフェスティバルにした会場。
人気テクノDJ ダブファイアを始め、そうそうたるラインナップ。広大な敷地に大型テントの会場が5つ、約5000名以上の来場者が昼から元気に盛り上がっておりました。これだけ多数の来場者がいるのに、特に会場トラブルもなく円滑に運営できるのは、先代から受け継がれた運営チームの努力のおかげだと思います。ですが一方で、この規模の興行を開催実現まで漕ぎつけるのには、何よりこの国がフェスティバルを尊重し、積極的にサポートしているという姿勢があっての事だと(日本で運営に関わっているからこそ)痛切に思います。「公共施設を存分に使ってください。来訪者の方たちにストレスがない環境へお招きします。ぜひ楽しんでもらってください」というオランダ国からのメッセージが本当に感じられました。
今回『ADE』を通じて様々な施設などに行く機会があり、これまでよりも深くこの国について考え、触れ合うことができました。平等で自由な社会を目指し、同性結婚や安楽死の法制度化など日本とは異なる文化がそこにはあります。また自由を謳歌することはOKですが、起こりうる不測の事態は自分の責任で対処してくださいね、というスタンスがオランダ流。自己責任とセットで、自由を許容している国こそがオランダでもあります。
今、日本の若者達は海外に目を向ける人が少なくなってきているように感じます。僕がこうやって10年近く音楽関係の仕事を続けられているのも、15年前にアムステルダムの地に降り、文化に触れたことがきっかけです。仕事やプライベートなど人生にプラスになることが、ここオランダでたくさん学べます。まっすぐに文化を触れ合う事が、何より大切かと思います。1人でも多くの方が、オランダへ足を運び、日本とは違った環境に触れ合い、今後の人生のプラスとしながら、学んだことを日本で伝えてもらえることを祈っています。
是非、来年は多くの日本人の方が『ADE』を楽しんでいただければ嬉しいですし、僕個人としては、音楽をきっかけにオランダ文化を多くの方へ発信していきたいと思っています。
先日、日本で初めてダンスミュージックを特化した、音楽カンファレンス&イベント『TOKYO DANCE MUSIC EVENT』が都内にて開催されました。今回のプログラム内容は、大枠で“各メディアや影響力あるキーパーソンとのディスカッション” “音楽制作、製品発表” 数箇所で行われた“ライブ”等がメインです。 音楽関係者始めIT関係、芸能関係、自治体など非常に幅広く各業界のキーパーソンが総勢集まり非常に豪華な顔ぶれでした。
『TDME』はアジアのプラットフォームを目指している印象でしたが、今回のカンファレンスでは、残念ながら若い層にはあまり情報が行き届いていなかった印象です。会場へ熱心に足を運び参加している20代の若者もあまり多くないなと感じました。是非、来年度は1人でも多くの若者達に参加を呼びかけ、ダンスミュージックに興味を持ち始めた若者、夢を抱いているプロデューサー、日本一を目指しているDJなどが積極的に参加できる環境を作り上げ、普段混じることがない大手企業、メーカー、店舗オーナー、プロデューサーとの白熱したディスカッションの場を積極的に取り入れ、現場の声を聞いてもらいたいと思っています。
彼らはこれからのシーンを担う宝でもあります。今シーンの停滞は誰もが感じる所であります。それを1年2年で変えることは難しく、5年、10年と長期ビジョンを掲げ、根底部分である若い世代と向き合い、尊重して育てて行く。そんなカンファレンスをやってもらえることを願います。
そして先日、『EDC』(Electric Daisy Carnival:エレクトリック・デイジー・カーニバル)の開催が発表され、いよいよ来年日本に上陸します。『Ultra Music Festival』(ウルトラ・ミュージック・フェスティバル)、『Tomorrowland』(トゥモローランド)と並び、世界3大フェスティバルの1つでもあります。
正直な話を申し上げますと、僕はあまり国内フェスティバルに対して若干消極的な面もあるのですが(汗)、『EDC』は個人的に大好きで、是非とも日本で見たかった大好きなフェスティバルで本当に楽しみです。会場はZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園と都市型では国内最大級のダンスミュージックフェスティバルになる模様です。
『EDC』の魅力はなんといっても、これぞ“ザ・USA!!”という音楽イベントの枠を超えたエンターテインメントショーです。世界一のエンタメ国アメリカが手がけるともなれば、遊園地やド派手な特効、花火大会級の打ち上げや華やかなパフォーマーなどの演出がとどまることがないエンターテイメントダンスミュージックの祭典。我々、日本人には一番合っているフェテバルではないでしょうか。東アジア圏では初開催となり、アジア近隣国からの来場も多数見込まれるので、アジア最大級のダンスミュージックフェスティバルになるでしょう。エンタテイメント業を生業にしている者として、是非圧巻なるフェスティバルを期待したいと思います。
取材・文=Masa Tokunaga
1976年愛知県生まれ。ヨーロッパ放浪中に出会ったフェスティバルの魅力にとりつかれ、ダンスシーンの世界へと足を踏み入れた、気鋭のイベントプロデューサー。当時はまだ稀であったクルーズベースの東京湾船上パーティーを成功(2005年)に導いた後、2006年以降都内を中心に大型のイベントを次々と立ち上げる。収容1000名超の大型クラブ「ageHa」「WOMB」をベースに、テックハウス(Rhythmholic at WOMB)、EDM/トランス(Revamp at WOMB)といった、時代に呼応する音楽スタイルを自在に操り、これまでに100組以上のインターナショナルDJ陣を日本へと招聘。夜を彩ってきた。意外性を持たせたDJラインナップと実力派VJ陣のセレクト、更に+αのプロデューススキルは、遊びに飢えたナイトクラヴァーズから高い評価を得ている。