ダンスミュージックに焦点をあてた国際カンファレンス&イベント『TOKYO DANCE MUSIC EVENT』をレポート
TOKYO DANCE MUSIC EVENT
日本初のダンス・ミュージックに焦点をあてた国際カンファレンス&イベント『TOKYO DANCE MUSIC EVENT(以下、TDME)』が、12月1日(木)から3日(土)の3日間、東京・渋谷の5会場にて実施された。
音楽ビジネスに携わる国内外のキーマンたち約50名が登壇した「カンファレンス(国際会議)」、世界的なレーベルや著名ミュージシャンによる楽曲制作のワークショップ「セッションズ(音楽制作)」、シーンをリードするアーティストたちを迎えた「ライブ(音楽パフォーマンス)」という、3種類のプログラムで構成された今回のイベント。国境や言葉の壁を越えて世界中に広がるダンス・ミュージックについて、改めてさまざまな視点から議論し、実際にそれを体験することによって、その文化の魅力をより深く理解できる意義深い内容となった。
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カンファレンス(国際会議)
渋谷ヒカリエホールAで行われた「カンファレンス(国際会議)」の初日は、音楽フェスやコンサート、クラブなどライブビジネスについての話題を中心に討論。イベントは渋谷区長・長谷部健氏の挨拶でスタートし、「日本のプロモーターによる音楽フェス事情」と銘打ったパネルでは、スマッシュ、クリエイティブマンプロダクション、そして2017年に日本での初開催を予定している世界的なフェス『EDC(Electric Daisy Carnival)』を招致するGMOの各担当者が登壇。『FUJI ROCK FESTIVAL』『SUMMER SONIC』『electrox』などを例にとり、ダンス系のアクトは特に若い世代からの支持が強いため、日本のシーンにおいてもまだ伸びしろがあることが報告された。
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続く「アジアのフェスティバル革命」には、タイのソンクラン(水掛け祭り)に倣ったウォーターパーク感覚の都市型フェス『S2O Songkran Music Festival』、豪華客船で船旅をしながら音楽を楽しめるマレーシアのクルージング・パーティー『It‘s The Ship』といったEDMイベントの主催者が参加。出演者のラインナップだけでなく、「特別な体験」「非日常的な空間の演出」を売りにしたこれらのフェスの在り方は、日本のエンターテインメント業界にとってもヒントと成り得るものだった。
そして世界的な人気を誇るロシアのフィメールDJ、ニーナ・クラヴィッツ氏へのインタビューでは、DOMMUNE/現代美術家の宇川直弘氏が「テクノ・グローカリズム」をテーマにトークセッションを展開。独自の発展を遂げたロシアのクラブ・シーンにおいて「трип(トリップ)」というレーベルを主宰し、世界中をツアーすることで各地のローカル・シーンともコネクトする彼女の「文化的背景が異なってもコミュニケーションできる」という言葉は、インターネット以降の多様な文化が入り混じった状況におけるダンス・ミュージックの意義を問うものでもあった。
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また、日本ならではの話題である風営法改正にまつわるパネルも注目を集めた。「AFEM(Association for Electronic Music)」CEOのマーク・ローレンス氏と、「クラブとクラブカルチャーを守る会(CCCC)」の会長でもあるZeebra氏によるセッションでは、今年6月の法改正に至るまでの活動を紹介。それに尽力したアーティマージュ/日本ダンスミュージック連盟の浅川真次氏、グローバル・ハーツの村田大造氏、アソビシステムの中川悠介氏、インクストゥエンターの田村優氏が登壇した「風営法改正によるクラブとダンス・ミュージックの未来」では、法改正によって銀行からの融資が受けられるようになるなど、クラブの社会的な状況が好転している事例が語られた。一方で、日本はアジアの他国に比べて英語でのコミュニケーション力が弱いという問題を指摘。IR(統合型リゾート)の実現も見据えつつ、ファッションや食文化といった日本独自のカルチャーとの相乗効果を狙うことが、世界へのアピールにも繋がるという意見も出た。
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翌日の「カンファレンス(国際会議)」は、音楽マーケティングやストリーミング配信、メディアなどのプロモーションの話題が中心に。エイベックス、ビートインク、ソニーミュージック、ユニバーサルミュージックの担当者が集ったディスカッションでは、日本でのダンス・ミュージックの受け入れられ方について、レコード会社ならではの視点で議論。続くパネル「グローバルの視点から見るダンス・ミュージック・シーン」にはUltra RecordsのCEOパトリック・モクシー氏が登壇し、カイゴやマーティン・ギャリックスといった自身が手掛けたアーティストの事例を交えつつ、ヒットにおけるパフォーマンスの重要性やフェスのプロモーション効果について語った。また、世界中の音楽をストリーミングで聴くことができる現在の環境は、日本およびアジアのアーティストが世界に進出するチャンスという発言もあった。
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「日本/アジアのストリーミングサービスの可能性」では、AWA、LINE MUSIC、KKBOXの各責任者がそれぞれのサービスにおける新たな取り組みについて発表。いずれもユーザーからは好評で、海外の市場に比べるとまだ時間は必要ながら、今後日本でもサブスクリプション型の音楽配信サービスがスタンダードになるであろう感触があるという。また、今年9月に日本でのサービスをスタートしたSpotifyより、スポティファイジャパン株式会社の代表取締役社長・玉木一郎氏も登壇。「アーティストとファンを結びつけるためのツール」「必要な時に必要な人に必要な音楽を届ける」などの基本理念について語った。
そして「海外の音楽メディア事情」には、「The FADER」「DJ Mag」といった世界的なメディアの編集長やエディターが参加。モデレーターを務めた☆Taku Takahashi氏の「日本やアジアのアーティストが興味を持ってもらうには?」という質問に対しては、日本ならではの文化やロマンティシズムを意識し、強いアイデンティティーを有することが大切というコメントがあった。「ラジオでダンスミュージックを伝えるためには」というパネルでは、日本でダンス・ミュージックを紹介するマス媒体の少なさがネックとなっているなか、☆Taku Takahashi氏が主宰するblock.fmや宇川直弘氏のDOMMUNEといったネット発の媒体の存在意義が改めて意識された。
2日間で合計19ものトークセッションが行われた「カンファレンス(国際会議)」は、ダンス・ミュージックの未来と可能性を多様な角度から考えることによって、日本の音楽業界の抱える課題と今後のためのヒントを浮かび上がらせた、希望に溢れるイベントになったのではないだろうか。
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セッションズ(音楽制作)
レッドブル・スタジオ東京で2日間に渡って開催された「セッションズ(音楽制作)」。初日はPioneer DJのスタンドアローン型ハードウェアサンプラーTORAIZ SP-16のワークショップや、音楽制作ソフトウェアAbleton Liveのユーザーたちが集う「Ableton Meetup Tokyo」などを実施。後者ではSeiho氏、Moochy氏、DJ BAKU氏を迎えたトークセッションも行われ、それぞれが過去のコラボレーションの事例を取り上げながら、自身の楽曲制作の手法やエピソードを披露した。さらに、banvox氏のプロダクション・ワークショップでは、☆Taku Takahashi氏が聞き手となって音楽制作についてトーク。最後には実際にソフトを使ってボーカル音源のカットアップを実演するなど、貴重な催しとなった。
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そして2日目は、UKの人気テクノ/ハウス・レーベルTOOLROOM RECORDSによる音楽学校「TOOLROOMACADEMY」が開講。同レーベルに所属するテクノ・プロデューサーのウメックと、ハウス・デュオのプロック&フィッチが講師となり、音楽制作のノウハウを伝授するこのプログラム。参加者はレーベルA&Rにデモ音源を直接評価してもらえるということで、海外出身の人を含め多くのDJ/クリエイター志望者が自身のトラックを提出していた。
講演は両アーティストとも実際に機材で楽曲を制作しながら行い、オーディエンスからの質問にも時にジョークを交えながら回答するなど、終始和やかなムードで進行。最後のA&Rによるデモ音源のフィードバック・セッションでは絶賛の評価も多く、参加者にとって多くの学びと経験が得られるアカデミーとなったようだ。
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ライブ(音楽パフォーマンス)
今回のTDMEでは、2日と3日に計5つの「ライブ(音楽パフォーマンス)」を開催。その先陣を切ったのが、2日夜に渋谷ヒカリエで行われた「TDME×BOILER ROOM」だ。ストリーミング配信メディアのBOILER ROOMおよびDOMMUNEを通じて世界にライブ配信された本公演には、これからの日本のシーンを牽引するであろう気鋭のアーティストが出演。
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ディープなテクノ・セットで魅せたSekitova、生け花を採り入れた他に類を見ないライブでオーディエンスの度肝を抜いたSeiho、硬質なテック・ハウスで心地良いグルーヴを紡いだSatoshi Otsuki、多彩な機材を駆使してエッジーなテクノ・サウンドを生み出した紅一点のgalcid、ヒプノティックなDJプレイでイベントを締め括ったWata Igarashiと、各自の持ち味を活かしたパフォーマンスで世界にその存在を知らしめた。
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さらにこの日には2つのライブが開催。SOUND MUSEUM VISIONでの「VISION x TDME」には、マッド・ディセントからのリリースでも知られるLAのETC! ETC!を筆頭に、banvox、SHINTARO、DJ MOEといったアーティストが集結。トラップ~ベース・ミュージックを中心に強烈なクラブ・バンガーが次々と投下され、アッパー極まりないイベントとなった。
もう一方のWOMBで行われた「STERNE with TOOLROOM LIVE」には、「TOOLROOM ACADEMY」にも登壇したウメックとプロック&フィッチが出演。自身の楽曲を中心にTOOLROOM関連のナンバーをスピンして盛り上げ、最後は石野卓球がジェフ・ミルズのクラシック“The Bells”も含む鉄板のDJプレイで、WOMBに集ったテクノ好きたちを熱狂させた。
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翌3日の夜には、contactで「Giorgio Moroder x TDME」が実施。ミュンヘン・ディスコの生みの親であるイタリアのダンス・ミュージック・レジェンド、ジョルジオ・モロダーの来日公演ということで、若者から年季の入ったファンまで多様なオーディエンスが会場に詰め掛けた。そのDJパフォーマンスでは、ドナ・サマーやブロンディ、アイリーン・キャラといった自身の手掛けたヒット曲を惜しみなくプレイ。それらと彼が昨年リリースした30年ぶりのアルバム『Deja Vu』からの新曲を繋げることで、自身の音楽と現在のEDMが地続きのものであることをみずから実証するような、ダンス・ミュージックの歴史を感じさせる公演となった。
そしてWOMBで行われた「TDME Closing Party」には、KEN ISHIIや大沢伸一といった日本を代表するアーティストに加えて、海外から注目のアクトが登場。フランスのタイラシンは、エレクトロニカやミニマル・テクノの影響を感じさせるディープなトラックに、みずからサックスを吹いたりドラムパッドを叩いたりするアグレッシヴなパフォーマンスで独自の音世界を展開。さらにハウス・シーンで人気を集めるドイツの新鋭クラップトーンは、トレードマークの鳥の形をしたマスクをオーディエンスに配布しつつ、全体的にアッパーな選曲で会場を熱く盛り上げ、ラストはアンダーワールド“Born Slippy”という大ネタ曲で華麗に締め括った。
ジャンルも世代もバラバラなれど、それぞれのやり方でダンス・ミュージックの魅力を追求するアーティストを招聘したTDMEのライブイベント。現場に足を運んだ人は、きっと刺激的で楽しい夜を過ごせたはずだ。
Text & Photo by 東京ダンス・ミュージック・イベント実行委員会
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