ヴィジュアルシーン最大の年越しイベント『Over The Edge』公式レポート到着
2007年に渋谷公会堂にて“Over The Edge”としてスタートし、会場建て替えのため2015年からは場を国立代々木競技場 第二体育館に移して、新たに“Tokyo Chaos”の名で続けられてきたヴィジュアルシーン最大の年越しイベント。今年は通算10回目という節目であると同時に、国立代々木競技場の改装工事に伴い来年からのイベント休止を告知しての開催ということで、一旦の“有終の美”を飾ろうとバンド15組&セッション3組が集結。それぞれが特別な想いを込めたステージで、10年のシーンの集大成とも言える濃厚すぎる14時間を繰り広げてみせた。
記念すべき10thアニバーサリーのトップバッターはThe THIRTEEN。初回より毎回欠かさず出演しながら、2015年9月に活動休止したSadieの真緒(Vo)と美月(G)により2016年春に結成されたユニットで、ある意味このイベントにとっては“帰ってきた”感も強い。それゆえ真緒の凄まじい咆哮で幕開けて、「Welcome to Tokyo Chaos! Welcome to The THIRTEEN!」と1stシングル「LIAR.LIAR,」を贈るなり、真昼の12時半からクラップと客席にヘッドバンギングと合唱の嵐を巻き起こす統率力はサスガ。Sadieのラウドとヘヴィを引き継ぎ、メロディックな「KAMIKAZE」では「生きてるか東京!」と懐かしい煽りを聴かせながらも、「朝4時半に起きたんで声がカスカス!」と笑いを誘うMCや、シングルギターとして上手に立った美月の堂々たるプレイ。何より晴れやかに突き抜けるサウンドと、「年末最後にバカになろうぜ!」と終始一貫して“楽しむ”ことに徹した体感型のライヴは、The THIRTEENだけの持ち味だ。始動時からサポートを務めるkazu(B)とRyo(Ds)も爆音を鳴らして、4人一丸となったバンドパワーに30分のステージもあっという間。「今年は結成してたくさんのファンに助けられました。来年もっともっとみんなを楽しませていくんで宜しくお願いします!」という謙虚な挨拶に続くラストの「KILLER MAY」ではポジティヴなパワーを存分に振り撒き、3月20日に恵比寿リキッドルームで行われる1周年ワンマンへの期待を膨らませた。
続いて現れたのは2009年の“Over The Edge”以来、実に7年ぶりの参加となるダウト。今春、長年所属していた事務所から独立を果たして、こちらも2016年に再スタートを切った5人組だ。「ダウトが“Tokyo Chaos”に戻ってきました!」と幸樹(Vo)が喜びの声をあげると、ダンスビートに乗せてスタートした1曲目「感電18号」から、フロント陣はステージ上に華やかに展開して、ひヵる(G)は早くも花道へ。「2016年の締めくくりとして僕たちの全てをここにぶつけたいと思うんで、好きに暴れて好きに音楽を楽しんでくれたら嬉しいです」という幸樹の言葉通り、デスヴォイス満載の「53」に威吹(G)がアコギを爪弾くジャジーな「JUDAS」と、次々に彩り豊かなナンバーを投下してゆく。そのいずれにも日本的情緒が滲むのがダウト流と言えるだろう。「大晦日にライヴをやって、君たちも大晦日にライヴに来るような音楽バカだと思います。共にバカ騒ぎしませんか!?」と羽扇子を振る「卍」や手拍子が楽しい「MUSIC NIPPON」、加えてツーステップで一体感を生む「シャングリラ」と、後半戦は人気曲の乱れ打ち。三三七拍子と「今日ここを選んだ君たち、心から愛してるぞ!」の叫びで締めくくった彼らは2017年に結成10周年を迎え、その記念日である3月4日に東京・上野恩賜公園野外ステージ(水上音楽堂)で野外フリーライヴを行うことも決定している。
3番手のheidi,は“Over The Edge”に“Tokyo Chaos”と10年を通じて、なんとたった2組しかいない皆勤バンドのうちの一つ。本イベントで何度も披露されてきた「レム」でライヴを幕開け、まずはド頭から義彦の伸びやかな歌声で圧倒し、ディープなheidi.ワールドで会場を呑み込んでゆく。そこから一転、タイトル通りのお囃子のリズムが響く「幻想囃子」で客席中のタオルが振られると、「まだ2曲しかやってないんですけど、非常に楽しいんで……思いっきり楽しんで帰れよ!」と義彦も笑顔に。そんな彼のシャウトで始まった「虹色レイン」に、最新シングル「サクラアンダーグラウンド」とアグレッシヴな楽曲が続くが、キャッチーなメロディに爽快なビート、加えてナオ(G)のギターソロには彼らならではの叙情豊かなセンスが光って、さすが10年選手と唸るばかりだ。そしてラストに「思いっきり暴れて帰ってください」と贈られたのは、もちろん「おまえさん」。本イベントで常にheidi.のライヴを締めくくってきたお馴染みの楽曲に、ナオとコースケ(B)もステージ両端の花道に飛び出して、桐(Ds)のドラムフィルも決まれば、オーディエンスも拳を振り上げて咲きまくり! その光景に「お前らの顔、全部見えるぞ!」とテンションブチ上がった義彦は、最後に“おまえさん”の5文字をエコー利かせまくりで、例年以上に絶唱してみせた。新年は年明け早々1月8日からアルバムツアーがスタートと、2017年もheidi.に休む暇はない。
華やかなサーチライトと手拍子が湧く中に現れた4番手はカメレオ。登場するなり客席へとフラッシュリングを投げ込み、自らも光るメガネを装着。そしてSEがやむなり「聞いてよ、ステージ袖がメチャクチャ寒い! だからあっためてちょうだい!」とHIKARU.(Vo)が叫ぶ破天荒なステージは、素晴らしく彼ららしいものだ。一足早い正月気分を満喫する羽織袴スタイルで、ダンサブルな「運命開華ディスコ」にジャジーな「サンドウィッチLOVE」で揺らす客席も、LEDリングでキラキラと眩く光っている。「全部出しきって新年迎えようぜ!」と楽器隊も含めた5人全員がマイクを取り、アイドルさながらのダンスで花道の端から端まで駆け回る「↑アゲていこう歌↑」では、「僕たちはバンドですけど、こうやってジ●ニーズのパクりみたいなこともやっているので」と潔く宣言する場面まであった(笑)。その曲中で「S●AP!」「最高!」とコール&レスポンスする奇天烈なステージは、さらにジュリ扇を振り、楽器隊に至っては銜えながら演奏する「ダメ男」へ。さらにダメ押しとばかり、「全員で折り畳んで」の声にオーディエンスが歓喜するラストの「ニート姫」では、「みなさんにプレゼントを持ってきました!」と、なんとお年玉つき餅を客席に投げ込み!「2017年もガンガン行こうと思ってるんで」と気勢を上げた彼らの新年が、果たしてどんなものになるのか? 全く想像もつかない。
「2016年、最高の思い出で楽しもうぜ!」と白を基調にした衣装と同様に、音楽でも爽やかな風を吹かせたのはBlu-BiLLioN。打ち込みに振り切ったシングルで新境地を拓いた「S.O.S」でのスタートから「自己中心的ユートピア」でタオルを振らせると、「Miss Mermaid」ではteru(Key)の華やかな鍵盤プレイとダンサブルなビートで、スタイリッシュに大人びた世界を生み出してゆく。それはキーボ―ディストを加えた6人編成であり、タブーを恐れない挑戦心と幅広い音楽スキルを持つ彼らだからこそ為せる業。自らのスタイルを確立した2016年の経験は、そのパフォーマンスに明らかな自信を与え、結果「GARDEN」のように拳振り上げるシーンの“王道”曲も、突き抜けるような爆発力を備えることに。サウンドの要として各曲でテクニカルなギターソロをブッ放す宗弥(G)、エモーション全開に花道に出て華あるオーラで魅了するmag(G)に、青空まで高く突き抜ける歌声を聴かせるミケ。そんな彼の「心の中で“Blu-BiLLioNちょっと楽しい”って思ってる人いるでしょ? その気持ち今、ぶつけるとき!」という言葉で、どんどんテンポアップする「Ready?」では、Seika(Ds)と珀(B)がガッチリとリズムをキープして、場内の合唱とモッシュを煽り立てていく。そして「2017年も俺たちは夢を諦めることなく歌っていきます」とラストに演奏されたのは、最新シングルの「この手に在るもの」。彼らのメンバーカラーである青のペンライトが大きく振られ、MC通りの熱い想いを謳ったリリックと溶け合う感動的な光景で、観る者の胸を幸福感で満たしてくれた。
いつものSEで始まったDaizyStripperのライヴは、冒頭に「今日はこのステージを2016年を振り返るライヴにしたいと思います」と夕霧(Vo)が宣言して、なんと春夏秋冬の四季を巡る構成に。まずは、まゆ(G)がアコースティックギターを弾く「春めく僕ら」をしっとりと贈り、拍手を受けての「雨音のワルツ」では柔らかなメロディで清涼な夏の景色を鮮やかに描き出してゆく。さらに押し隠せない“あなた”への想いを、少しずつエモーショナルの度合いを増す演奏に沿って届けてゆく「茜色に咲く」で秋を。最後は風弥(Ds)が奏でる美しいピアノの音から、なお(G)の狂おしいギターソロへと感情が急カーブする「雪恋華」で冬を表すが、ここまで全曲スローなナンバーで構成するというのは前代未聞。自分たち以外のファンも大勢詰めかける大型イベントで定番曲を排し、ひたする“聴かせる”ことに徹するのは危険な賭けだが、そこで逆に自らの豊かな喜怒哀楽に基づく歌心を見事に引き出してみせたのには“さすが”と息を呑むほかない。最後は5人で出す5年ぶりのフルアルバム『HOME』(1月11日リリース)から、表題曲の「HOME」をプレイ。震災で実家を失った夕霧の体験を元に、みんなが帰れる場所を作りたいというメッセージが、オーディエンスの手拍子と足拍子と共に深く胸に刻み込まれて、思わず涙腺が緩むほど。6月5日のTOKYO DOME CITY HALLで迎える10周年ワンマンを前に、本イベントにおける彼らの歴代ライヴの中で、紛れもないベストアクトを見せてくれた。
幕が開くと同時に楽器隊が「包丁の正しい使い方~終息編~」のフリーキーな音を鳴らして、ただならぬムードで開始したDEZERTのステージは、初っ端から驚きの連続だった。千秋(Vo)は登場するなりステージから降りて、無心にヘッドバンギング&モッシュする客席や懸命に演奏する楽器隊を他人事のように見つめるだけ。ようやくステージに上がったかと思えば、ギターを抱えて虚ろな表情で「異常な階段」を弾き語る。その間、他のメンバーは音を出さずに立っているだけなのだから唖然とするほかない。へヴィに炸裂する「宗教」で、ようやくノーマル(?)モードに移行したかと思いきや、オーディエンスが猛烈な勢いで身体を折り畳む「秘密」で「一言いい? あんま客入ってねーな」と場内を爆笑させる言動は、やはりノーマルからは程遠いもの。さらに「殺意」でオーディエンスを左右両脇に詰めさせてアリーナの真ん中を開けると、「最初に戻りまーす」という千秋の一言で、SaZ(B)のゴリゴリの重低音から「包丁の正しい使い方~終息編~」が再スタート。すると、またもやステージから降りてセンターの客席を踏み歩き、なんとスタンド席の階段を最後方まで駆け上がって「生きてる!?」とデスヴォイスで殴り込む。そんなフロントマンを後目にMiyako(G)とSaZは花道へと進み、SORA(Ds)と共に当たり前のように爆音を鳴らす姿のクールなことといったら! 一方、席通路を一周した千秋は「すみません適当になっちゃって。絶望セッションはしっかりするんでよろしくお願いします」と、なんとそのまま退場して、今年も異端児ぶりを如何なく発揮してみせた。
暗転の瞬間「シーッ」と声がして、「8番手アルルカンです。よろしくお願いします」という丁寧な挨拶に拍手が湧く……が、彼らライヴはそんな行儀の良い振る舞いとは反比例するものだった。攻撃的なサウンドで絶望を謡い上げる「境界線」から、「Tokyo Chaos、楽しもうか!」と煽る暁(Vo)に応えてオーディエンスが左右にモッシュする「人形」と、繰り広げられてゆくのは目くるめく自虐世界。歌謡曲を思わせるウエットなメロディが、また暁特有のネガティヴな詞世界の深みを倍増させてゆく。そんな闇度の強い世界観を支える楽器隊のパフォーマンスも、年を追うごとに進化があらわに。堕門(Ds)の高速ビートから叙情メロへと抜ける「墓穴」では、そのベタなメロディを奈緒(G)がギターソロで見事に弾きこなし、また、逆サイドの來堵(G)と共に頻繁に花道へと出て見応えのあるステージングを披露。一方で祥平(B)は本舞台にドッシリと佇む、その姿が長身と相まって光る。「このイベントも一旦お休みらしいので、次に会えるのがいつになるのかわかりません。それまでにもっと強くなっておこうと思います」との暁の言葉に続き、頭が吹っ飛びそうな勢いで満場の拳があがる「ダメ人間」は何度観ても圧巻。しかしラストに演奏した最新シングル「カルマ」は、ここまでのアグレッシヴな流れとは少々趣が異なり、今後の新たな広がりを期待させた。「⑧番手アルルカンでした。ありがとうございました」という締めくくりの言葉も実に好印象。音、歌詞、パフォーマンスと、その全てに芯が通っている。
ここで開催直前に追加発表された、その名も“絶望セッション”が舞台へ。ヴィヴァルディの「春」をバックに登場した面々は、DEZERTから千秋(Vo)とSaZ(B)、アルルカンから奈緒(G)と堕門(Ds)にMUCCのミヤ(G)という顔ぶれだ。まずは蜉蝣の名曲「腐った海で溺れかけてくれた僕を救ってくれた君」を、先程の約束通り千秋がシリアスに届け、同じく蜉蝣の「アイドル狂いの心理学」へと続ける。本家のヴォーカリスト・大佑の声音を真似てエキセントリックに迫り、客席から“オナニーしました”の大合唱を浴びると、「一度やってみたかった!」と感激しきり。果てはメンバーに「最近いつした?」と聞き回り、ミヤが「昨日」と答えたところで演奏再開する流れも振るっている(笑)。さらに「絶望セッションって聞いて、MUCCの「絶望」やるって思ってるんでしょ? そんな予定調和、絶対しないです! でも大晦日だから予定調和もいいかも」と壮大なツンデレを発動させれば、場内は大興奮。続いて奈緒が「すげー楽しいぞ!」と手拍子を煽ってからは、なんと「茫然自失」まで! MUCCの初期からの名曲2連発に驚喜して暴れ狂うオーディエンスに、千秋は「DEZERT終わったんで帰っていいですよ……ウソです!」と彼らしい言葉を残して、本日最初のセッションは幕を閉じた。
“絶望セッション”に続いて、Mix Speaker’s,Inc.が贈る物語が“絶望レストラン”というのは偶然か必然か。NIKA(Vo)によってシェフにパティシェ、ソムリエにウェイトレスとメンバーが紹介されると、最新シングル「最後の晩餐」からシアトリカルな舞台の幕が開く。タイトル通り物騒と狂乱を掛け合わせて眩い「Carni=balism」では、お立ち台に立ったAYAの先導により客席のカラフルなペンライトが大きく左右に振られて、早くも感動の波を呼ぶ……が、肉食ウェイトレスに扮した彼のミニスカートから覗く美脚に目は釘付けに(笑)。続く「ドクロキッチン」ではseek(B)もヘヴィな掛け声をかけて、オーディエンスを煽動。そんな彼は本イベント始動時より中心的役割を果たしてきた人物でもあるということで、ここで少々真面目なMCが為される。
「この10年間で沢山のバンドさんが出演してきて、皆勤賞はheidi.とMix Speaker’s,Inc.だけ。バンドとしては嬉しいことですが、一つのヴィジュアルシーンとしては多くのバンドが解散や活動休止を迎えたということで寂しい想いはあります。オリンピックのアレやコレでしばしお別れすることになってしまいましたが、これからも若いバンドマンが“出たい”と思ってくれるようなイベントを目指したいですし、さらにカッコイイバンドになって帰ってきますから、それまでしっかりバンギャ活動を続けてください!」
そんな愛に溢れた言葉に「YOU♪愛♪メッセージ」が続けば温かな一体感が生まれ、「Last hours」では大きな手拍子が。ヴィジュアルシーンへの愛、バンドへの愛、それを支えるバンギャルへの愛がひしひしと伝わるステージに胸が熱くなる。
2015年の解散までイベント常連だったMoranのヴォーカリスト・Hitomiを中心にしたセッションも、ある意味ヴィジュアル愛を示すものだったかもしれない。ナイン・インチ・ネイルズをSEにして現れたのはギターに海(vistlip)と祐弥(ex.DuelJewel)、ベースに玲夏(ダウト)、ドラムにNao(A9)といった面々。そして「さあ代々木……始めようか!」という彼お馴染みの合図で、HitomiがL’Arc~en~Cielの「HONEY」を歌い出すと、大歓声が湧いて一斉にオーディエンスが同じフリを繰り出してゆく。「一緒に踊りませんか? 代々木の皆さん」と、HitomiがNaoと共に過去属していたFatimaの「Sticy flower」を披露してのMCでは、今回の衣装がジャージ縛りであるという情報が。さらに、ジャージを持っておらず海に服を借りたHitomiが、「でもNaoのは裾が長くて、ジャージじゃなく『エヴァンゲリオン』みたい」と突っ込んで、「近未来ジャージなの!」と返される一幕も微笑ましい(笑)。そこから「息を合わせて全員で叫んでください」と贈られた「誘惑」(GLAY)では会場中が“Because I love you”と大合唱したが、その一体感はラストの「READY STEADY GO」(L’Arc~en~Ciel)でも言わずもがな。祐弥がギターソロをかき鳴らせば、サビのコーラスはもちろん玲夏が務めて、先人へのリスペクトをしっかりと形に現した。
ここで幻想的なSEにより、場内のムードをグッと変えたのがYUKIYA率いるKαinだ。まずは「Cradle」で壊れそうな儚さと棘のように痛い感傷を醸し、kazu(B)もThe THIRTEENとは打って変わって静かな佇まい。しかし「俺たちのバンド、もう一人歌う人がいるんですよ」と「月の葬列」でSHIGE(G)がヴォーカルを取るや、YUKIYAはギターを鳴らしながら花道を端から端まで駆け、戻るとSANA(G)と背中合わせになってギタリストとしてのパフォーマンスで魅せる。「Latency Sorrow」でも同じ箇所をSHIGEと別々の節で歌う巧みなツインヴォーカルで斬新に魅せるが、彼曰く「去年のセッションにギターで出たのに花道があるのに後で気づいたから、今日はヴォーカルでは味わえないことを味わいに来た」とのこと。その願いを叶えて「今の気持ち? すごい楽しい!」と破顔して、さらに「時間軸が違う世界に生きていて1年に1回大晦日にだけ交わる君たちに、今年もお年玉があります」とCD&DVDを無料配布することを告げると、あまりの太っ腹ぶりに場内から歓声が湧く(ただし、その条件は本日配布しているチラシを物販席に持って行って「捨てません!」と宣言することだとか・笑)。そんな彼の心意気を受け取ってか、切なさ滲む「Closer」では手拍子が場内を満たし、タイトルを繰り返すシンプルなリリックとギターネックをグッと握り込む姿に想いが滲んで、やはり最後は心揺さぶる幕切れに。笑いとジョークの裏に大きな愛を感じさせるステージには、今年も重鎮の貫禄十分であった。
大休憩後の一発目はvistlip。「代々木、楽しもうぜ!」と智(Vo)が気炎をあげ、まずは「SIREN」を颯爽かつアグッシヴに放てば、続く「Imitation Gold」ではYuh(G)のフライングVからへヴィなギターリフ&ソロが轟く。ただ、どんなに激しくともメロディはキャッチーで、どこまでも上向きの高揚感を備えているのが彼らの特徴。さらに「来年は10周年を迎えるので盛り上げたい」という智のMCが物語るように、節目に向けての意気込みが例年に増してライヴを厚みあるものに。「ミニヨンのパンツがチラチラ見えてると思うんですけど、そこは気にしないでください」と可愛い告白を智がして、「ここがドコよりも熱いイベントだったって証明できるように楽しんでいこうか!」と「HEART ch.」のギターリフが鳴れば客席は熱狂。加えて開演から7時間超が経っているタイミングで「まだ始まったばっかだよな? 楽しもうぜ!」との煽りもドSに、これまた人気の定番曲「LION HEART」を繰り出してゆく。マイクに掴みかかってラップを放つ海に、ステージギリギリまで前に出る瑠伊(B)と攻撃的なパフォーマンスは相変わらずながら、Tohya(Ds)のタイトなドラミングといい、昨年までよりもグッと締まった演奏は間違いなく彼らが積み重ねてきた年月の賜物。ラストの「Idea」では座り込んでエモーショナルにギターをかき鳴らす海に、緻密な速弾きをサラリ弾きこなすYuhとギター隊の対比もいっそう鮮烈になり、10周年でのさらなる飛躍を予感させた。
2016年が終わりに近づいたところで、さすが常連の存在感を示したのがMERRY。大正期のバンカラ大学生を思わせる学帽に黒いマントを纏ったガラ(Vo)が、「聴こえるか、代々木、俺の声が!」と歌詞を巧みに煽りに変えて「ジャパニーズモダニスト」を放つと、場内は一瞬にしてMERRYワールド一色に。中でも怪我で一時活動を休止していたため、本イベントには4年ぶりの出演となったテツ(B)がステージ前方でベースを鳴らして腕を振り上げると、場内からは大きな歓声が湧き上がる。そんな事情もあってか、本日2つ目の「絶望」と名を持つ曲で暴れ狂ってからの「T.O.P」では、ガラの歌声から常にも増して強い決意と希望を感じられた。事実、テツの完全復活を受けて活発なライヴ活動を繰り広げた2016年にMERRYが果たした進化は著しいもので、特にオーディエンスを巻き込む牽引力には一段と磨きが。シニカル極まる「千代田線ブルース」からの「傘と雨」も、2月1日にリリースされる新曲にもかかわらず満場の手拍子を呼んで、MERRYらしいレトロな情緒を結生(G)のギターソロが醸してゆく。「2017年も何があるかわかりません。バンドも、君たちも。だけど1日1日が幸せでありますように、そんな想いを込めてこの曲を贈ります」と前置いて演奏されたのは「Happy life」。風情あるアコースティックアレンジにより、“悪い日もあれば良い日もあるだろう”というリリックを抑揚豊かに刻み込まれ、この曲の真価を本当の意味で知ることができた気がした。歌い終わると机の上に正座して一礼したガラに拍手が。完全体を取り戻した5人に、2017年も幸多かれと願う。
時刻は23時30分。2016年のラストアクトとして登場したのは、もちろんMUCCだ。ステージ背面いっぱいに広がるバックドロップを背に「蘭鋳」のイントロが鳴れば、場内は一瞬にして沸騰。「長丁場お疲れ様! 今年一年の暴れ納めの準備はできてんのか!?」と逹瑯(Vo)が全員座らせて4カウントでジャンプする、これが無くては年を越せない!と言い切れる本イベント最大のド定番曲で幕開けるという想定外の展開に、オーディエンスのテンションは早くも振り切れる。「全部置いて行ってもらおうか、いいか!」と投下された「ENDER ENDER」では、身体を折り畳むヘヴィな爆音とダンサブルなビートの不思議な共存に胎内を揺さぶられ、楽器隊が渾身のコーラスを放つ「KILLEЯ」でもメタリックなプレイに狂乱。
「毎年こうやって大勢の仲間たちと、大勢の皆さんとワイワイ年を越せて嬉しいです。でも、ずっと続けてきた年越しのイベントが、悲しいことに来年再来年どこも会場がない! このイベントも活動休止ということで、久々に皆さん年末年始をゆっくり過ごして、このイベントの良さを改めて確認する時期になるといいなぁって」
そう逹瑯が告げると、年明け10分前ということで今日の出演者を次々に呼び込み、カウントダウンタイムへ。毎年楽屋裏に設置されている飲み部屋が今年は初めてニコ生で中継されているため、Mix Speaker’s,Inc.のseek(B)いわく「多くのバンドマンが放送の抑制を受けて大人しい」ということだが、その中で頑張ってくれたと引っ張り出されたのはBlu-BiLLioNのミケ(Vo)とダウトの直人(Ds)。ミケは自慢のハイトーンで「最高だな、おい!」と叫び、直人は淀んだ低音で「最後お見苦しい姿見せてしまって……」と対照的なテンションで感想を述べた。今回なんと3ステージ出演となるkazuは「今までいます? 3ステージ!」と語気を荒げ、「逹瑯が始めたっていうからサバゲー始めようかと思って」というHitomiは、その逹瑯から「時間通りに来れます?」という痛いツッコミを。「この後12時から僕、ツイッター始めることになりました!」とMix Speaker's,Inc.のAYA(G)が宣言して、YUKIYAも「このイベントが復活するまでに結婚していたい!」と驚きの発言をするが、オーディエンスには「復活までに勝手に結婚したり子供作ったり、バンギャルあがることはやめてくださいね!」とseekが念押しする(笑)。さらに「この世代に頑張って飲み散らかしてほしい」と若手のDEZERTとアルルカンのメンバーを前に押し出した逹瑯は、「こうしてseekさんの顔を見て年を越すのも今年で最後と思うと……」とシンミリして、何故か二人で手を繋ぐナゾの状態に(笑)。「また帰ってこような!」と年明け10秒前からカウントダウンして、0時になった瞬間、銀テープと共に新年を祝う。
そこからは「残り少ない時間ではありますが、もう少しMUCCブッ放したいと思います!」と再びMUCCのテリトリーに。「2017年、MUCC20周年になります。また騒がしたり、メンドくさいこといっぱいやると思いますが、ついて来れる人はガッチリついていてもらえたら。興味半分の人も大歓迎!」と、2017年のファーストアクトをスタート。客席で振り上げられる拳の先にキラキラと銀テープが光る「ニルヴァーナ」から、悲しみの中に在る人々へのありったけの優しさに満ちた「ハイデ」というニクい流れに、心中には熱いものが静かに湧き上がる。「ありがとう。MUCCでした!」と演奏を終えると、“Over The Edge”から“Tokyo Chaos”と10年かけてイベントを育ててきた最大の功労者に、惜しみない歓声と拍手が。20年もの間描き続けた軌跡の果てに開く花を、ぜひとも今年この目に焼きつけたい。
続くA9は、新年に相応しく全真っ白の衣装で登場。ヒロト(G)のアルペジオから「the beautiful name」が始まり、最後に白いマントをなびかせて将(Vo)が現れると、その少女マンガから抜け出てきたような出で立ちに、場内からは思わず溜め息が漏れる。そんなドリーミングな世界観を、壮大かつロマンティックなサウンドが押し広げて、ヒロトと虎も堂々たる足取りで花道へ。そこで彼らに向けられていたペンライトの光は、「飛ばしていこうぜ!」とアッパーに転換した「Heart of Gold」でリズミカルに上下に跳ね、センターに集ったフロント陣と重なって輝きを増していく。「あけましておめでとう。2017年、最高の1年にできそうな実感はありますか?」と呼びかけた後は、なんとスペシャルゲストとしてBAROQUEの怜を招き、2016 年にA9の新たな境地を拓いた「PRISMATIC」を将とデュエット。繊細なプレイによるスタイリッシュなナンバーは怜のイメージとも良く似合い、間奏では虎と顔を見合わせて笑い合う場面も。「俺と虎はBAROQUEのローディーの子とバンドを組んでシーンに入ったんで、胸がいっぱい。このハッピーな想いをどんどん繋げていきたい」と、続いて2月28日にリリースされるニューシングル「MEMENTO」を一足早く披露する。Nao(Ds)の激烈なドラムフィルから始まるこちらも、サビでキャッチーに広がるA9らしいナンバーで、沙我(B)のベースソロからヒロトの速弾きへと抜ける間奏も聴き応え十分。だがラストの「九龍」では、ここまで紳士だった将が「新年早々死んでこい!」とデスヴォイスで豹変して、客席をヘッドバンギングの嵐に! 純白に、そして漆黒に、オーディエンスの望む様式美を隙なく魅せる彼らもまた、シーンにとっては重要な存在であるに違いない。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマで幕開けたBAROQUEも、壮大さでは負けていない。「楽しもうね。よろしく!」と挨拶した怜(Vo)の伸びやかなヴォーカルにスケールの大きい音像が、まずは「DREAMSCAPE」というタイトル通りの夢の景色を描き出してゆく。しかも、この日のリズムサポートはKENZO(Ds)にシドの明希(B)と、同世代の気心知れた仲間たち。さっそく圭(G)は明希へと寄り添い、共に弦楽器隊として左右に大きく展開する息の合った空気感も抜群だ。「ガリロン」で十代の衝動そのままに躍動して、さらに「我伐道」から「独楽」と初期から人気のアッパーチューンを並べたメドレーでは、花道の先で狂おしくギターをかき鳴らす圭から明希のスラップという、実に贅沢なソロ繋ぎも目撃できた。そこから現在のBAROQUEが誇るトキメキ溢れる世界観の種になったとも言えるナンバー「凛然アイデンティティ」へ。「みんな2017年になった瞬間から運勢良さそうな顔してる」という圭のMCもあったが、自らの信じる音楽を貫くことで2016年、飛躍的に認知度を上げた彼らの運を切り拓いたものは、彼ら自身の努力に他ならない。そこで築き上げたBAROQUEワールドの代表曲とも言える「PLANETARY LIGHT」をクリーンな音色で届けられると自然に心がほどけ、眩い光を胸に灯されたところで贈られたラストソングは「GIRL」。彼らの運命を変えたと言っても過言でない、この最新シングルでは怜がブーケを客席に投げるのが恒例だが、なんと今日は圭も花道の先から白い花をオーディエンスに! 曲に込められたあまりにも尊いメッセージ、それを一言一言語りかける怜の包容力ある歌声、そして会場中で湧く手拍子に、またしても胸が熱く濡れる。彼らの新年一発目は1月28日のEX THEATER ROPPONNGI公演。「うちのワンマン面白いぞ!」との怜の言葉通り、そこではアナタの見たことのない世界、知らなかったチャネルが開かれてゆくだろう。
懐かしすぎる「十戒」のSEが鳴り、そして大トリを飾ったのはラストセッション・押しちゃんズ。“押ちゃん”とはMUCCやMERRYと共に“御三家”と並び称されながらも2007年に解散した蜉蝣のヴォーカリスト・大佑のことで、MUCCの逹瑯(Vo)やMERRY(Vo)のガラとはプライベートでも親交が深く、解散後にthe studsを結成してからは“Over The Edge”にも連続出演していた。残念ながら2010年に急逝した彼をしのび、蜉蝣の楽曲をカバーすべく大佑と関わりの深い面々が集まったのが今回の押しちゃんズで、楽器隊は蜉蝣で一緒だったユアナ(G)にkazu(B)、the studsのaie(G)にMUCCのSATOち(Ds)、さらに本人曰く“最後の舎弟”というシドの明希(B)という恐ろしく豪華な布陣。そして逹瑯とガラはもちろん、怜(BAROQUE)を加えたトリプルヴォーカルで、まずは「R指定」の多重ヴォーカルを全て生声で再現してゆく。胸を張ってすり足し、マイクの周りをぐるぐる回るユアナのエキセントリックな動きも蜉蝣時代のままで、その後ろを逹瑯が追いかける場面も。「代々木! 首から上、全部置いてってくれ!」と逹瑯が叫んでの「リストカッター」では「祈りましょう」「祈りなさい」の声を3人で重ねてゆくが、痛みに満ちた彼の詞世界に触れるたび、その真意を二度と問うことができないのだという事実が悔しい。
MCでは大佑と一緒に飲むたび、夜中の2時を過ぎるとプロレス技をかけられたというエピソードを明希が告白。「蜉蝣……いいですね」と思わず呟いた怜に、全員黒という衣装の縛りに則って上半身を黒塗りしたガラは「2017年、ちょっと光沢感出していこうかなって」と嘯くものの、素足を塗っていないことを指摘されて「ごめんなさい」と素直に謝る(笑)。また、蜉蝣の曲は演奏が難しいということで、SATOちは「普通にやってほしい!」と困り顔。そんな彼を「間違えても大丈夫」と安心させていたというkazuは、さすがに3ステージ目ということで「特に何もないです!」と躱したものの、前2ステージとは違って美しい長髪をスッキリとセットしていた。喋らない設定のユアナはマイクを向けられると「うるさい、帰れ、バカ!」と相変わらずの対応をし、aieは「こんにちわーっす」と気の抜けるような返しを。そんな“普段通り”に逆に大きな愛情を感じてしまうのは、深読みのしすぎだろうか。「蜉蝣の解散ライヴがあってから今年で10年目。kazuさんとユアナさんに何かして欲しいところですね」とガラが告げれば拍手が湧いて、逹瑯からガラ、怜へと歌い繋ぐ「ゆびきり」では客席から手扇子も。ラストは逹瑯が「では最後に……思いっきり……蜉蝣しなさい!」と叫んで「夕暮れの謝罪」へと雪崩れ込み、3ヴォーカルでサビを合唱。人数以上に圧倒的な声の厚さは、きっと其処に集った人々の想いの厚さに他ならないだろう。
記念すべき10回目にして、休止前最後のイベント。そして大佑の七回忌を終えたばかりという、さまざまな意味での節目であった今年の“Tokyo Chaos”に込められていたメッセージ――それは1日1日を当たり前に過ごして、1年の終わりには“良いお年を”と。そして始まりには“今年もよろしく”と声を交わして、共に年月を重ねていけることの素晴らしさではなかっただろうか。そんな“当たり前”がどれだけ貴重なものであるかを最も実感できるのは、皮肉にも当たり前が当たり前でなくなったとき。来年からはその機会がやってくるわけで、当たり前にあった年越しライヴが大晦日の予定に無くなったときに我々が何を感じるものに、きっと重要なヒントが隠されているはずだ。それを大切に携えて日々を過ごすことが各々の人生を、そして、いつの日か復活するであろう“Over The Edge”=“Tokyo Chaos”を、ますます輝かせるに違いない。
撮影:木村泰之 レポート・文:清水素子