村井良大&中川晃教が“大○○”をつく? ブロードウェイミュージカル『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』インタビュー
(左から)村井良大、中川晃教
世界中で愛されているチャールズ・M・シュルツのコミック『ピーナッツ』を原作にしたブロードウェイミュージカル『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』が、この春シアタークリエに登場! 本格的な稽古を前に、チャーリー・ブラウン役の村井良大とスヌーピー役の中川晃教が、作品に寄せる期待を語り合ってくれた。
――おふたりは今作が初共演になりますね。
中川:ホントに村井くんとは今作が初めてですね。でも存在はよく知ってましたよ! 出演作のチラシを見かけたり、舞台のプロデューサーさんを通じてお話をうかがっていたので。ただなかなか共演の機会がなくて、この『きみは~』で念願の初共演を果たすわけですが……とにかくね、「村井くんがチャーリー・ブラウン。うわ、ぴったり!」って(笑)。
村井:そうなんですか?(笑)
中川:役者としては、もちろんいろんな表情を持っていると思うけれど、僕の中のイメージではピッタリ。さっき聞いたら村井くんは10年、僕は15年間表現者として活動していて、この作品で出会えたのは素敵な運命だな、なんかいいなって思ってます。
村井:僕はもう一方的にアッキー(中川)さんの舞台を観てきてますけど、やっぱり舞台上でのイメージだったり、人間力の素晴らしさをずっと感じていました。アッキーさんは“舞台に立つ人”ですね。そのなかでも玄人というか。
お互いの印象は?
――玄人?
中川:苦労してる人?
村井:違いますよ~(笑)。なんだろう……照明がパーッと当たってても「照明なんかいるか!」って、光すらも跳ね返しちゃうくらいの圧がある人。
中川:なにそれ!
村井:照明の“中”にいるというよりも、照明の“前”にいる人なんです。
中川:そうかぁ。嬉しいような……なかなか独特の見方をしてくれてるんだね(笑)。
村井:舞台に立ってるだけで説得力があるんです。その場に立ってる強さっていうんですかね。『ジャージー・ボーイズ』でもそれはすごく感じたんですけど、セットも音もすべて一体となった中にアッキーさんが立ってる。その姿がお芝居というよりもそこにリアルに生きている人間にしか見えなくて。
――“ミュージカル・スター”とはまた違う存在?
村井:スターというよりは、そこに生きている人。だから“玄人”なんです。光を浴びてるんじゃなく、自ら光を放つ存在。僕の勝手な主張ですが(笑)。
中川:うん。ありがとう!!
村井良大
――そんな中川さんが今回演じるのは、世界一有名なビーグル犬・スヌーピー。
村井:そのことがもうすでに相当面白いですよね。アッキーさんがスヌーピー! そんなの楽しみしかないでしょ? アニメを見るとスヌーピーって結構辛辣なこともやっているから、そういうところを舞台でもガリガリ出してもらいたいし、稽古場でアッキーさんがスヌーピーとしてどう立っていくのか、ホントに早く見たいです。でも、チャーリー・ブラウンとスヌーピーって直接会話はできないんです。
中川:人間と犬だからね。チャーリー・ブラウンはスヌーピーを見て「なにをまた勝手に妄想してるんだろう?」なんて思ってるのかも。「せっかく僕がこうしてご飯を持ってきてあげたのに、なにひとりでゴソゴソやってるの?」って(笑)。
村井:ハハハハッ。
中川:スヌーピーはスヌーピーで飼い主のチャーリー・ブラウンのことは大好きだから、「なんで今日は全然話しかけてくれないんだろう」とか、一方的にいろんな感情を抱きながら見てるんだろうな。そうした気持ちが、スヌーピーの個性でもある皮肉だったり野性的だったりっていう行動で表現されていく。
村井:それがときに辛辣なわけですね。なんか新鮮! 今までスヌーピーの気持ちとか考えたことなかったからなぁ。
――ちなみに実際の犬との触れ合いは?
中川:うちは女の子のワンちゃんがいるんだけど、すごく“私”を強調してくるよ。だからもう「姫っ!」って抱きしめてあげる。「美人だね~」って褒めたりもして(笑)。
中川晃教
――チャーリーとスヌーピーもよくハグしています。犬と人間、温もりが言葉を超えた絆なんでしょうね。
村井:言葉を超えた絆かぁ。もうホントにどんな舞台になるのか、まだ全然想像がつかないです。
――ビジュアルは発表されましたね。おなじみの柄の黄色いセーターのチャーリーと、鼻も耳も首輪もあるスヌーピー。
村井:前髪クルッね(笑)。でも、なによりもまずは原作の『ピーナッツ』の世界感を理解していかないことには、役づくりにもとりかかれないと思ってます。僕の場合は、役名がシンプルにタイトルになっちゃってるじゃないですか。『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』って。みんなたぶん「どんないい人の話なんだろう?」って思って観にきてくださると思うので、どんないい人なのかを自分で紐解いていかないと!
――“いい人”って、とても含みのある言葉だと思います。
村井:そうなんです。そもそも“いい人”って、自分がなろうと思ってなるモノでもないから。
中川:まわりの人が「あなたはいい人よ」って言うものだもんね。だからむしろ、本人はそれが悩みだったりするわけでしょ?
村井:絶対そうだと思う!
中川:で、実際はどうなの? いい人なの?(笑)
村井:えっ、僕ですか? 僕はもう……絶対、いい人です(笑)。で、そんな自分に嫌気がさしてる。
中川:嫌気がさしてる……?
村井:そこがちょっと難しいところで、自分は別にみんなにいい人と思われたいとかないですし、好かれたいから「こういうことをしよう」、「こういう風に言おう」とかも全然考えてない。ただ、“合わせる”ところがあるんです。その場や人の空気に合わせて振る舞うので、現場によって自分のキャラが違ってることはあると思う。
役作りについて
――その結果、いい人だなぁと思われている。
中川:ああ、なるほどね。でもそれってコミュニケーションを大事にしているってことでもあるよね。
村井:相手とちゃんと会話をしたいという気持ちが大きいです。もちろんちゃんと自分も出しつつ、よりスムーズに話せるように会話の方法は都度相手に合わせて抽出しています。
――相手をイヤな気持ちにさせたくない、というの気持ちを感じます。
村井:変にぶつかったりせず、わかりあえたらいいなって思うんですよ。例えば、舞台をやっているとありがたいことにスタンディングオベーションしていただくことがあるんです。でも数人は座ってらっしゃる場合もいる。そのときに「ああ……!」と思うんです。「平等じゃない」って。価値観の違いとか、なにかの事情があるんだとしても、座っている方を見つけると「みんなに届けられなかった」って思ってしまって。
――悔しい?
村井:そこはもう自分のわがままとも言えるんですけど、「全員が同じ気持ちで“うわ~っ”となってもらうために、もうちょっとなにか自分にできることがあったんじゃないか」って考えちゃうんです。「これじゃ満足させられなかったのかな、チクショウ!」って。
中川:それがいい人なんだとすると、実はすごく神経質でナイーブってことだよね。
村井:……そうなんですよ。
中川:それって確かにチャーリー・ブラウンっぽいよ。
村井良大
――彼はコミックの中でもけっこう内省してますよね。
村井:独り言多いですよね。劇中にもあるけど、バレンタインカードを渡そうとしてすっごいシミュレーションした挙げ句に本番で失敗しちゃうとか(笑)。彼はいつも完璧を目指して頑張っているのに結果がともなわないことがほとんど。それがまた可愛らしいところなんだけど。確かにナイーブだし、自分でもドジなことがわかってるからそこを打破したい、という頑張り屋な面からは神経質なところも感じられます。
中川:そういう全部をひっくるめてちょっと不思議な感じがあって、それが彼の魅力なんだとも思う。
――スヌーピーについてはいかがですか?
中川:人間がスヌーピーを演じるってことにもう意外性があるじゃないですか! スヌーピーなんて誰もが「あのスヌーピーね」って思い浮かべられる唯一無二の有名なキャラクターでしょ? それを自分が演じるってことは、おそらく表現として相当いろんなことが試せるんじゃないかと思うんです。お話をいただいたとき、まずそこに非常にわくわくしました。
中川晃教
――物語は『ピーナッツ』の仲間たちの日常。子どもたちが家や学校で巻き起こすちょっとしたエピソードのスケッチです。
中川:自分が子どもの頃に好きだったのは、ひとりで遊んだり、ピアノを弾いたりして過ごす日常。そして、親に初めてミュージカルに連れて行ってもらって、「うわあ、こんな世界があるんだ!」って思ったりしたちょっとした非日常。そのどちらにも自分の思考と集中力で軽く行き来ができちゃうのが、子どもの特権ですよね。自分の中にある子ども像と、チャーリー・ブラウンやスヌーピーたちのストーリーとは通じるモノがたくさんあるように思います。
村井:やっぱりもっと原作の世界観を知りたいな。それをカンパニーみんなで共有したい。簡単に言うと「みんなでこの作品を愛したい」ってことだけど、さらにもっと深いところも一緒に探っていきたい。
「作者はどうしてこの台詞をこのキャラクターに言わせたんだろう」とか、「その言葉の真意とは?」ってところもちゃんと知りたいです。『ピーナッツ』はただの可愛い漫画ではないので、子どもとは思えないクールな台詞や表現も楽しみのひとつ。この世界を壊さずに、生身の人間だから伝えられることを探求していきたい。
中川:それをこの若いメンバーで創っていくという未知さがね、たまらないよね(笑)。
村井:ホントに。相当未知ですよ。
――ここはやはり中川さんが先輩として引っ張って行く、と。
中川:わ、そうか! なんだか新鮮だなぁ。アニメだと子どもが思う存分『ピーナッツ』の楽曲を上手いとか下手とかじゃなく歌っている。それはこの世界を伝える上ですごく重要な要素なんだけど、“ブロードウェイミュージカル”としての『ピーナッツ』の世界となると、それ以上のモノが絶対必要。
2次元に描かれている人気者たちの物語を人間が3次元のミュージカルとして立ち上げていくからには、まずは僕らがしっかりとキャラクターたちと向き合い、作品と向き合い、丁寧に創っていくことが大事だと思います。たくさんの人に愛されているキャラクターたちのミュージカルをお客さんたちの目を奪い、耳を奪い、心を奪うショーに高めなくっちゃ。そしてみんながそこへどうアプローチしていくのか。
やり方は本当にそれぞれ違うと思うし、そこがとっても興味深い。しかもミュージカル一本でやってきている人たちだけじゃないところがまた面白いんです! ねぇ、村井くんは踊りは好き? 歌は好き? 芝居は好き?
村井:好きです! あとは……人が好き。だからこの少人数のカンパニーも僕的にはすごく好みな環境です。みんなでがっぷり、この歴史あるミュージカルに取り組んでいきたい。
どんなミュージカルになるのか
――本作は今年、50周年を迎える“本物”です。
村井:スヌーピーや『ピーナッツ』の仲間たちのことを知っている人はたくさんいるけれど、日本でこのミュージカルを知っている人はそんなに多くないと思うんです。だから、ちゃんと観にきて欲しい。気軽にアニメを見るような感覚ではなく、どっぷりとミュージカルを愉しんで、この世界に浸ってもらえたらいいなぁと思います。この中に出てくる台詞がまたけっこう心にグサッとくる表現も多いので、僕らが演じる子どもたちの言葉から、大人が聞いたら大切なことを思い出せる……。そんなところも拾い集めてもらえたら。
中川:おそらく最初はみんな少し違和感を感じると思うんです。「なぜ『ピーナッツ』の世界を大人がやるの?」って。
村井:ですね(笑)。
中川:この違和感を愉しめるっていうのがとても重要で、そうなったときにすごい爆発力をもって伝わることがたくさんあると思う。だから僕らに大事なのは“弾ける”こと。僕らがいろんな方向、いろんなやり方でとにかく思い切り弾けていくことが、この作品を成功に導けるんだと思ってます。お客さんにもぜひその弾けっぷりを愉しんでほしいな!
村井:“ウソをついてる”ってすごく好き。ミュージカル自体、「なんでそれを歌にするの?」とか突っ込まれることもあるけど、それがいいんですよ。この『きみは~』も、子どもが演じるのが一番いいのかもしれないけれど、大人が演じるということが、お客さんに強烈に届くときがあるんですよね。それがアッキーさんの言う違和感ってことだと思うんだけど、そういう“大ウソ”がちゃんとつけるときって、いい作品になるんですよ。絶対。
中川:わかる! いいね~。一緒につこうよ、大ウソ。
村井:つきましょう! 素敵な大ウソ。きっと素晴らしい舞台になりますよ。
(左から)村井良大、中川晃教
ヘアメイク=森 香織(村井良大)、井上京子(中川晃教)
インタビュー・文=横澤由香 撮影=荒川 潤
2017年4月9日(日)~4月25日(火)
シアタークリエ (東京都)
サンケイホールブリーゼ (大阪府)
2017年5月9日(火)~5月10日(水)
日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール (愛知県)
チャーリー・ブラウン:村井良大
ルーシー:高垣彩陽
サリー:田野優花(AKB48)
ライナス:古田一紀
シュローダー:東山光明
スヌーピー:中川晃教