「生涯、これ以上のバンドは組めない」――ASIAN KUNG-FU GENERATIONが到達した節目のステージ
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2016-2017 「20th Anniversary Live」 2017.1.11 日本武道館
日本の音楽シーンにひとつの時代を築いたバンドが、また新たな歴史を刻んだ。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONが結成20周年を記念してまわった全国ツアー、そのセミファイナルとなった日本武道館での2Days公演、2日目。立方体のフレームに囲まれたステージを覆うように紗幕が貼られ、観客達の期待と興奮の入り混じったざわめきと、BGMだけが響く中、じっと開演の刻を待つ。BGMが途切れ、大きな歓声が起こると同時にいきなり場内が暗転、次の瞬間に紗幕に山田貴洋(Ba)のシルエットが映し出され、彼の弾き出すゴツゴツとした感触のベースラインが聴こえてきた。「遥か彼方」だ。最初期のアルバム『崩壊アンプリファー』の1曲目に収録されている楽曲が、記念すべきライブの始まりを告げた。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
初っ端から爆発的な盛り上がりを見せた場内の余韻が冷めやらぬまま、後藤正文(Vo/Gt)の奏でるギターリフが導いたのは「センスレス」。フロアとステージの間の紗幕と、ステージ背後のスクリーンの両方へ次々に映像を投影することで、立体感のある視覚演出が実現しており、重低音を厚くしたドライブ感満点の演奏が生み出すフィジカルな興奮との相乗効果で攻め立てる。続く「アンダースタンド」の1サビ終わりで紗幕が落とされ、まばゆい光が会場中を照らすと、眼前には満員・総立ちの場内から無数の手が上がり祝祭間溢れる光景が広がっていた。あらためてステージを見やると、会場が武道館なので大きくステージを組むことも可能なところを、メンバー4人にサポート・キーボードの下村亮介(the chef cooks me)を加えた5人がかなり近めの位置関係を取っており、ちょうど中規模のライブハウスくらいの距離感で演奏しているのが印象的だ。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
「どうもこんばんは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONです」「リラックスして、自由に楽しんで帰ってください」と最初の挨拶をした後藤は、いつも通りで全く気負いのない様子。それとは対照的にセットリストの上では、長年彼らのライブを彩ってきた楽曲達が前半から惜しみなく投入されていく。伊地知潔(Dr)が冒頭の4つ打ちのリズムを刻み始めた時点で大いに沸いたのは「君という花」。後藤や喜多建介(Gt)はリズムに乗って体を揺らしながら演奏し、それと同じように、会場中のオーディエンスもみな思い思いに揺れている。「すごい懐かしい曲を」と紹介された「粉雪」や最寄りのスタジオの部屋番号から名付けたという「E」といった初期楽曲から、力強く阿吽の呼吸で繰り出されるサウンドのバンド感が秀逸だった「踵で愛を打ち鳴らせ」など中期にあたる楽曲、スリルのある演奏と3声のハーモニーでも魅せた最新シングル「ブラッドサーキュレーター」まで、新旧さまざまな楽曲が並んだ前半戦。メンバーそれぞれ、時折笑顔をみせたり満ち足りた表情も覗かせていたのが印象に残っている。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
サイケデリックな質感をもった「月光」が場内を一旦クールダウンさせたところで、彼らは一旦ステージを後にした。ここまで、20年のキャリアの至る所からこの日のためにセレクトされた楽曲達はどれも特別な味わいで、いずれも当然のように大歓迎されていたのだが、ふと一つの事実に気づく。『ソルファ』の楽曲をまだ1曲もやっていないのだ。アジカンを代表する名盤であると同時に、唯一心残りのある作品として2016年にリメイク盤がリリースされた『ソルファ』。この日も当然、そこに収録される楽曲たちの演奏を待ちわびるファンは多かったであろう。実際、インターバル中にステージ脇のスクリーンに投影されていた各年代のアーティスト写真が、2004年の『ソルファ』時の4人から2016年の『ソルファ』時の写真へと意味深に切り変わったときには、ひときわ大きな歓声が上がっていた。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
ちょうどそのタイミングで4人がステージに戻って始まった後半戦は、スクリーンに巨大なスピーカーの映像が映る中放たれた、お待ちかね『ソルファ』の収録曲「振動覚」から。前半以上にキレを増したようにも感じるアンサンブルを展開し、場内のボルテージは再び急上昇する。伊地知によるカウントからイントロの最初の小節が鳴り響いた時点で、言葉にならない叫びが会場中から上がったのは、アジカンを代表するナンバー「リライト」だ。スクリーンにはアリーナ席のオーディエンスの様子がリアルタイムで映し出されていたのだが、一人残らず、と言っていいくらい歓喜の表情ばかり。曲間で起こった盛大なクラップには後藤が右手を上げて応え、ダブ的アレンジの施されたCメロでは自然とコール&レスポンスも沸き起こった。さらに畳み掛けるように、聴こえてきた重厚なサウンドによる軽快なイントロは「ループ&ループ」。ここへきての最強アンセムの連打にスタンド席が揺れた。これらの楽曲が世間一般的にアジカンの代表曲であるだけでなく、ライブの場においても10年以上にわたって熱狂を起こし続け、浸透し続けてきたという事実のもの凄さと強さとを改めて実感する瞬間だ。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
そこからもテンポよく次々に楽曲が演奏されていき、「君の街まで」「マイワールド」と披露された頃には、ほとんどの観客がこの後半戦の意味合いを、興奮とともに理解していたのではないだろうか。つまり、2016年版『ソルファ』を曲順通りに再現していっているということを。
MCでは2004年の『ソルファ』リリース時のツアーを振り返る一幕もあり、当時は大変だった、悔しい思いもたくさんした、と後藤。さらに「『ソルファ』の収録曲はアジカンの中でも難しいんです」「でも、12年ぶんの積み重ねがミルフィーユみたいに重なっていって……この例えが思った以上に響いてないけど」と笑いながら、12年の歩みと、その中で実感した自身の成長を口にする。弾いているフレーズや歌っている内容自体は変わらなくても、バンドは絶えずさまざまなものを吸収して血肉とし、成熟してきた。だからこそこのタイミングで、キャリアで唯一心残りのあったという『ソルファ』の再解釈と全曲再レコーディングに踏み切ったのだろうし、この日披露された『ソルファ』の収録曲たちがこんなにも輝きを放っているのだろう。キャリアを重ねるうちに獲得してきた大人の余裕ともいえる安定感と奥深さを感じさせながらも、ロックバンドの放つ衝動的なエネルギーはしっかりと内包している、そんなライブが展開されていく。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
エレクトロやダンスの色が濃い「ラストシーン」、静と動を行き来しながら疾走する「サイレン」、イントロや間奏で前3人がステージ先端まで歩み出て喝采を浴びた「Re:Re:」、オシャレなコード感と16分で刻むドラム、大きなフレーズを歌うギター&ベースが心地よい「真夜中と真昼の夢」……随分前から知っていた楽曲たちのはずなのに、懐かしさを感じる以上に、「こんなにもカッコよかったのか」と再認識させられるような感覚だ。何より凄いのは、2010年代の音楽シーンでキーワードとして語られてきた“エモさ”も“4つ打ち”も、すでにアジカンが2004年に発表した楽曲たちが内包していたという事実。そんなエポックメイキングな存在であった彼らが、20年の節目に現在のモードを示すかのように鮮やかに再定義してみせた邦楽ロックの真髄に、ただただ圧倒される。
下村亮介(the chef cooks me) 撮影=TEPPEI
ゲストとしてNAOTOストリングスが登場し、本編ラストナンバーとして演奏された2016年版『ソルファ』の最終楽曲・「海岸通り」には、もう冒頭から胸を打たれてしまった。喜多のギターとストリングスが主旋律と副旋律を代わる代わる担いながら、徐々に熱を帯びていくドラマティックなアレンジ。生のストリングスを交えたことで、より壮大に鳴らされる同曲でのエンディングは、名盤再現パートの締めくくりとしても、記念すべきライブ本編の締めくくりとしても、完璧だったのではないだろうか。
アンコールではまず後藤一人が登場し、「ソラニン」と「Wonder Future」をアコースティックギターの温かみある音色とともに弾き語りで届けた後、喜多、山田、伊地知の3人のみでシンプルなパンクロック調の「タイムトラベラー」と「八景」を演奏。メインボーカルを担った喜多は「武道館でメインボーカルを執るというのは、なかなか……」恐縮していたものの、再び4人揃っての「さよならロストジェネレーション」では、今度はギターで大いに歌ってくれた。ここからは携帯電話での写真撮影OKであることがアナウンスされたため、みな写真を撮りつつ聴いていたのだが、誰からともなくバックライトを点灯させはじめたことで、最終的には会場中を白い光が満たすという美しい景色が出現。そのまま「新世紀のラブソング」へと進み、再度ストリングスも加わって大団円の幕切れとなった。最後は4人+下村とで肩を組みながらラインナップ。やがて彼らがステージを後にしても、最後のSEが鳴り終わるまで、盛大な拍手が鳴り止むことはなかった。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
「ロックンロールバンドって良いなぁ」
この日、後藤はそう言っていた。映画『オアシス:スーパーソニック』を観たという話題からの発言だったのだが、そう実感していたのはおそらく彼だけではなく、この日のライブを目撃した誰もがそう確信したんじゃないだろうか。2017年1月11日、日本武道館のステージには間違いなく、最高のロックンロールバンドが立っていた。結成から20年を経たこのタイミングで「生涯、これ以上のバンドは組めないってことはハッキリした」と自らを誇ることのできたロックンロールバンド。そして、今世紀、ずっと僕らとともにあったロックンロールバンドが。
その名は、ASIAN KUNG-FU GENERATION。ありがとう。そして、これからもよろしく。
取材・文=風間大洋 撮影=TEPPEI
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=TEPPEI
1. 遥か彼方
2. センスレス
3. アンダースタンド
4. 暗号のワルツ
5. ブラックアウト
6. 君という花
7. 粉雪
8. マーチングバンド
9. 踵で愛を打ち鳴らせ
10. 今を生きて
11. E
12. スタンダード
13. ブラッドサーキュレーター
14. 月光
15. 振動覚
16. リライト
17. ループ&ループ
18. 君の街まで
19. マイワールド
20. 夜の向こう
21. ラストシーン
22. サイレン
23. Re:Re
24. 24時
25. 真夜中と真昼の夢
26. 海岸通り
[ENCORE]
27. ソラニン(弾き語り)
28. Wonder Future(弾き語り)
29. タイムトラベラー
30. 八景
31. さよならロストジェネレーション
32. 新世紀のラブソング
発売中
初回盤
<仕様>透明スリーブ&銀箔
[通常盤 (CD)] KSCL-2811 ¥2,913+税
通常盤
【CD】
01.振動覚
02.リライト
03.ループ&ループ
04.君の街まで
05.マイワールド
06.夜の向こう
07.ラストシーン
08.サイレン
09.Re:Re:
10.24時
11.真夜中と真昼の夢
12.海岸通り
【DVD】(初回生産限定盤Disc 2)
『ソルファプラス』- a day with AKG -
1.「夕暮れの紅」Recording Documentary
2.「夕暮れの紅」Music Clip