フルカワユタカ×Base Ball Bear・小出祐介 いわくつきの出会いからサポートでの共演、互いの音楽観まで語り尽くす

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2017.2.1
フルカワユタカ / Base Ball Bear・小出祐介 撮影=西槇太一

フルカワユタカ / Base Ball Bear・小出祐介 撮影=西槇太一

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フルカワユタカが3年ぶりとなるフルアルバム『And I’m a Rock Star』をリリースする。フルカワ自身が「過去の自分と今の自分がとても自然に繋がったこの2年間を、ありのまま表現するようなアルバムを作りライブがしたいと思いました」とコメントしているように、DOPING PANDA時代も含めてフルカワユタカというロックアーティストの多面的な音楽性をすべて注ぎ込んだ内容になっている。本作の完成とツアーの開催を記念して、Base Ball Bearの小出祐介との対談を実施。ご存知の方も多いと思うが、フルカワはBase Ball Bearの元ギタリスト・湯浅将平の脱退を受けて昨年3月に開催されたライブツアー『LIVE BY THE C2』にサポートギタリストとして参加。Base Ball Bear史上最大の危機ともいえる局面を乗り越えようとするメンバーを文字どおりそのプレイでサポートした。この日の2人の対話は、いわくつきの出会いの記憶を紐解くところから始まった。

――2人が初めて会ったのは何年くらい前のことですか?
 
小出祐介:たぶん2005年くらいですね。ドーパン(DOPING PANDA)のデビューはいつでしたっけ?
 
フルカワユタカ:SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)に入ったのは2005年かな。ベボベ(Base Ball Bear)の方が入ったタイミングはちょっと早かったと思うんだよね。
 
小出:本当ですか? でもその時にはドーパンが全国規模のツアーをやるバンドになっていたのに対して、僕らはまだ東京から出たことがないペーペーでしたからね。DOPING PANDAのライブを最初に観たのは『KINOSHITA NIGHT』(ART-SCHOOLが不定期で開催している主催イベント)かな? 僕と関根(史織/Ba)で放課後に制服を着たまま観に行ったんですよ。勉強のために加茂(啓太郎/プロデューサー)さんつながりのART-SCHOOLのライブにゲスト枠で入れてもらって観に行ったら、ドーパンがすごくて(笑)。ワイヤレス(ギター)とか使っているし、(シークエンスの)ピコピコ音も出ているし、3ピースバンドなのにアンサンブルもすごいし、「どうやっているんだ、これ? わけわかんねえ、すげー!」って全部もっていかれちゃったんですよ。
 
――強烈に覚えているんだ。
 
小出:覚えています。その後2005年くらいになって、同じ事務所の同じ部署に所属したってことなんですね。そして直属の後輩となった僕らを「(ドーパンの)ツアーに帯同させてやってくれ」という話になったんでしょうね、オープニングアクトとして僕らが帯同させていただくことになる、と。
 
――なるほど。
 
フルカワ:3、4か所かな? もっと回ったかな。
 
小出:いや、もっとやりましたね。最初は東北地方だったと思います。そのあと米子や広島にも行って、ドーパンとフジ(フジファブリック)とアート(ART-SCHOOL)の3マンツアーにも行きました。全く地方に行ったことがない僕らからしたらすごく有り難い機会でしたし、良い経験だったんですけど……そのツアーで完全に(フルカワに対して)委縮するんです(笑)。当時の自分は人とうまくコミュニケーションを取れない時期で。しかも、自分でも失礼なことをしているという自覚もあるのにどうにも出来ないんですよ。コミュニケーション能力が低すぎて乗り越えられなくて。たぶんフルカワさんたちも先輩として「あいつら大丈夫か?」と思っていたと思うんですけど、その視線も勝手に過剰に感じた結果、余計に心を閉ざしてしまったと(笑)。
 
――フルカワさんはその時ビシッと言ったんですか?
 
フルカワ
:まぁ、ワーッと言いましたよね。アンコールが終わったらベボベが先に帰っていたことがあって、「帰ってこい」って言って呼び戻したんですよ。そのあと「挨拶もしないで何ホテルに戻っているんだ」って言いました。僕らはパンクロックのヒエラルキーでいうと最下層のちょっと上くらいにいたんですけど(笑)、「先輩がカラスは白いって言ったら白だ」という世界で育っちゃったんです。今となっては「それがよくなかったなぁ」と本当に反省しているんですけど(笑)。
 
小出:いや、これは完全に僕らがダメなんですけどね(笑)。ただ、今となってはこんなにフラットに話してくれるのに、ドーパン時代はなぜそんなに鎧を着こんでいたんですかね?
 
フルカワ:湯浅(将平/元Gt)とはのちに仲良くなれたんですけどね。でも当時は、ベボベに限らずあまり他の出演者としゃべらなかったんです。よく髭の須藤(寿)くんともそんな話をするけど。これは僕らの世代だけではないと思っているんですけど、どうなんですかね。
 
――尖っている故のしゃべらないと、閉ざしている故のしゃべらないというのは違いますからね。フルカワさんは先端が丸くなったんでしょうね。

 
フルカワ:当時(の自分には)、周りをバカにしていたところがあると思います。自分でスイッチを入れて、“負けないぞ”というところが行きすぎているような感じでした。それを天狗というのかもしれないけど、「俺だけすごい」みたいな時期はありましたね(笑)。
 
――でもそれが「ロックスター」という発言にもつながってくるわけですよね?
 
フルカワ:「自分は何だってわかっているぞ」って思い込んでいる時期があって、その時の感じが印象に残っちゃっているんじゃないかなと思うんです。一番やばかったのが30(歳)くらいの時。メーカーの人から「次のアルバムどうする? この制作費どう使う?」って聞かれて、「スタジオを作らせてくれ」って言ってスタジオを作ったら、(制作費が)すっからかんになっちゃったんです。エンジニアにも頼めない状態で、ミックスも自分で全部やっていました。(それが起こったのは)いろんなエンジニアをクビにして、信用していたエンジニアとも袂を分かってからです。
 
小出:行くとこまで行っていますよね。
 
フルカワ:やばかった。メンバーはついてきてくれたけど、そうすると正解が3人だけの正解になっていくんです。その時が一番やばい。あとその時、事務所の周年イベントがあって。事務所の全アーティストが出ていたんですけど、断ったんですよね。それが社内で大問題になって。断った理由は「そういうゴングショーみたいなものには出たくないから」でした。「売り上げで会場を決めるんじゃなくて、いいものをいい会場でやらせろ」みたいなこともマネージャーを通して言おうと思ったんですけど、当然マネージャーが言わなかったんです。今思うと生意気にも程があるんですけど、「僕たちは今自力をつけている最中で、他のフェスも断っているから、横並びで誰かと共演するものには出たくないです」って言いました。

フルカワユタカ 撮影=西槇太一

フルカワユタカ 撮影=西槇太一

――その時のフルカワさんは、徹底的に行ききらなきゃいけないという感じだったんですか?
 
フルカワ:そうですね。メジャーに来て、最初はベットして(賭けて)もらえるからよかったし、(バンドが)真新しいからみんな寄ってきたんですけど、そこから2段階目に行けるかどうかが勝負で。そこで自分勝手にやってつまずくバンドがけっこう多いんですが、例にも漏れず僕らもそうなってしまったんです。立て直そうとしていた時に、2009年に興行的に派手な失敗をしちゃうんです。本当は(興行を)セーブしなきゃいけないところを、さらに踏み込んだんですよ。会場を上げてZeppツアーを組んだんですけど、それがひっくり返っちゃったんです。照明まで連れていく一番大きなチームで押していったら、バタバタと倒れていっちゃって。ツアーが全部終わって帰ってきた時に、「ああ、終わるんだな、次出せないかもしれない」って思って、そこで一回自力をつけたいと思ったんです。認めないようにしていたけど、(自分たちは)本当に上手いバンドでもないし、自分も本当に届くような歌を歌えているわけではないということを真相としてわかっていたから。「誰と勝負しているんだろう、続かないな」と思っていたのもあり、それとその興行的な失敗が重なってしまって、「これは本音でやってかないと無理だ」と思いました。そこで行ったのがエッジな方向だったんです。スタッフを集めて腹を割って座談会をして、もっとわかりやすいことをしなきゃではなくて、もっと俺たち流にやらないとってなったんです。
 
小出:タイム感がうちのバンドと同じですね。僕らも初の武道館公演が2010年の正月にあったんですけど、そこで一度挫折したんですよ。学生時代からの地続きでずっとやってきて、大きくはないけどたぶん波には乗っていたんだと思うんです。それが、ライブの手応えが良くなくて目が醒めたというか、「俺、武道館で何やってんだろ」みたいな感じになっちゃって。それから、ライブのやり方がわからなくなるほどナーバスになって。その後、2011年の震災とツアーが重なってストイックになりすぎた結果、メンバーの仲がぐちゃぐちゃになって、空中分解寸前までいったんですけど、なんとか4人で踏ん張って、作品を作って、自分たちの苦悩ごと開放していくような方向に向かった結果、危機を脱することができたんです。
 
――そしたら、昨年ああいうこと(湯浅の脱退)があって。
 
小出:そうですね。しかも去年はバンドの結成15周年、メジャーデビュー10周年だったわけですから皮肉ですよね。それが2月なんで、まもなく1年ですよ。
 
フルカワ:もう1年だ。早いなぁ。
 
小出
:脱退発表の直前にイベント(『チャットモンチーのこなそんフェス2016』)があり、発表の1週間後にはツアーが始まるような感じでした。石毛(輝/lovefilm、the telephones)くんなんてリハーサル2回、2日で7曲覚えてもらっての本番でしたからね。無茶苦茶なことを完璧にこなしていただけて、本当に感謝しています。で、そのあとのフルカワさんとのリハも、実際は3、4回しかやっていないんですよね。それでツアーのフルセットを覚えていただいて。それも、ずーっとお付き合いがあっての4回ならまだしも、約10年間国交が断絶していましたからね(笑)。
 
――でも10年前のすごく怖い先輩っていうイメージを乗り越えるだけの思いがなかったら、フルカワさんにオファーしなかったと思うんだけど。
 
小出:まず、自分が10年前の自分じゃないっていう自覚があったんですよ。だからもしもフルカワさんが10年前のピリピリした人のままでもたぶん大丈夫だろうっていうのがあった。あと、野音(2016年4月30日『日比谷ノンフィクションⅤ』)の演出の構想がすでにあって、ギタリストではなく“ボーカル・ギター”の方々を呼んだ方が画的にウケるだろうなって思ってたんです。どうせならこのピンチごとエンターテイメントへ昇華したかったので。……というのを踏まえて、挨拶とお願いを兼ねた電話をフルカワさんにしたんですけど、僕も緊張していたもので色々すっ飛ばして、「フルカワさんが入ってくれたらウケると思うんです」って言っちゃって(笑)。……それがまずかったっぽくて(笑)。
 
――なるほど(笑)。
 
フルカワ:最初の一言目がそれでカチンときましたよ。それで俺が言ったのが、「別に君らのためにやるわけじゃないから。大久保(Base Ball Bearマネージャー)と湯浅のためにやるだけだから」で。小出くんがその時、「はいはい……」みたいなことを言ったのかな? 俺と小出くんとでここの記憶が違うんですけど、小出くんがここで(電話を)切ったと思うんですよね。
 
小出:僕は、フルカワさんが切ったと思ったんですよ。だから「やっちゃった。怒って切られちゃったかもしれない」って大久保に言ったんです。
 
フルカワ:でも、それくらいのことで蹴るのはやめようと決めていました。ものを作ることが(説明に)先走ることは僕にもよくあることなので。

――いざスタジオに入ったら、「なるほど」って感じでしたか?
 
フルカワ:初日で「なるほど」って思いましたね。最初はちょっと舐めていたんですけど、「彼らはこんなに上手なんだ」って思って。ライブは湯浅に誘われてよく行っていたんですけど、ライブってたとえば2階席とかの引きでしか観ないからなかなか(演奏が)わからないじゃないですか。スタジオで、直で出ている音を聴いて、3人の会話とかも聴いていているうちに、バンドとして「なるほどな」と思ったんです。……事務所入った時にさ、バスツアー(『ベボベ号でゆく、ドキドキ遠足バスツアー』/2007年)とかやっていたでしょ?(笑) 今ぶっちゃけると、そこで(ベボベの印象が)止まっていたんです。でもすごい勢いでやっていた彼らの5年くらい(の音楽活動)を見て、「なるほど」って思いましたね。
 
――音楽的な力を感じたということですよね。たとえばベボベのギターのフレーズの面白味みたいなものを、弾きながら感じたりしました?
 
フルカワ:『C2』(6thフルアルバム/2015年)のギターと今までのギターは全然違うんですよ。根本が違うというか、(『C2』のギターは)まずソングライターが作るギターだし、リズムがわかる人が作るギターなんです。湯浅はメロディのオクターブ奏法でやっていて、それがいいメロディだったりして、ベボベの曲の色付けになるんです。昔の甘酸っぱい通過音みたいなテンションを、あいつはナチュラルにやっていたんです。そういうのを弾いてわかった気もしたし、『C2』のアンサンブルを聴いて、自分の乗せ方と案外近いものもあるなって気づきました。
 
――弾いて初めて気づいたっていうのが面白いですね。こいちゃん(小出)は、フルカワさんがギターを弾いている音を聴きながらどんなことを思いました?
 
小出:一発で「大丈夫だな」って思いました。それはおそらく、自分とフルカワさんはリズムが持ち味というか、タイプが近いからでしょうね。こちら3人の出来上がったアンサンブルにシュッと入ってきてくれました。リズムの縦線が合うのですぐに気持ちいい演奏になりましたね。
 
――フルカワさんは、実際、ベボベのライブを迎えてどうでしたか?
 
フルカワ:初日の仙台に関しては、(練習期間が)2週間しかなかったので自分としては反省しかないです。大見得を切ってきたんだから、もっとちゃんとやってあげたかったなっていうのがありました。
 
――MCはフルカワさんも話していたんですか?
 
フルカワ:最初はしないように心がけていました。湯浅がいなくなった喪失感みたいなものは、ファンとメンバーでは同じ温度のものではないので。彼ら(ベボベ)は喪失したことよりも、「このツアーをどう成功させてどう野音につなげるか」とか、「僕がいなくなった後はどう3人でやっていくか」というところにフォーカスを当てていたので、しゃべり始めちゃうと(メンバーのテンションとファンのテンションの間に)乖離が生じるんですよね。(メンバーは)楽しいときは楽しいってなっちゃうので。そこは誠に勝手ながら制そうと思っていました。それはいい人ぶりたいわけではなくて、湯浅のため、ベボベのため、自分のためにです。(自分たちだけで)ワーッと盛り上がっても僕には得がないし、お客にも得がない。それは一度解散を経験している人間としてわかっていたので。
 
小出:それは本当に助かりました。でも最初は、「そもそもライブが楽しいと思えるかどうか」っていう不安がありましたね。状況が状況なので、「どんな顔していけばいいかわからない」という感じの初日でした。
 
フルカワ:(お客さんが)泣いているしね。
 
小出:そうそう。案の定、特に初日の異様な空気は経験したことがないものでしたね…。だけど本数を重ねるにつれてどんどん、ライブ自体の楽しさとか、フルカワさんと演奏する楽しさとか、ツアーで各地へ赴く楽しさとか、「バンドが楽しい」という実感が溢れてきて。高松での打ち上げで、10年越しにフルカワさんとお酒を飲めたのも嬉しかったなぁ。フルカワさんの隣りに座っていた関根が日本酒を飲んでいて、フルカワさんに「ちょっと飲みますか?」って勧めるんです。フルカワさんも「ちょっともらおうかな」って空けたビールグラスを傾けるんですけど、関根がパンパンに注ぐんですよ。またそれをフルカワさんがすぐ空けちゃうもんだから、再びパンパンに注ぐ……っていうのを繰り返してたら、フルカワさんが仕上がっちゃって……というか終わって(笑)。翌日、東京戻りの移動車で、酒が残ってるフルカワさんが意識を保つためなのか運転席の大久保にずっと話しかけるんですけど、徐々に独り言みたいになっていって、最後には、「『かつや』かぁ……」とかいって車の窓から見えた看板を読みあげ続けるっていう(笑)。僕らはもうそのフルカワさんが面白くて仕方がなかったし、チームになれた気がして嬉しかったですね。

――こうやって道筋を辿っていくと、本当に感慨深いなぁと思います。さて、今回のインタビューの本題であるフルカワさんの新作についてなのですが、Base Ball Bearのサポートに参加したことがフィードバックされたということはありますか?
 

フルカワ:あります。楽曲的にもありますよ。「真夜中のアイソレーション」という曲は、Base Ball Bearの「THE END」(5thフルアルバム『二十九歳』収録/2014年)がザ・ポリスからインスパイアされているみたいな話を聞いて、そこからものすごくインスピレーションを受けています。あのテンポの曲を自分でもドーパンでもやったことがなくて、ロッカバラードみたいなものもやったことがないんですよ。でもやっていて気持ち良かったし、聴いていてもそうでしたね。あの曲は、はじめ4つ打ちの「Video Killed the Radio Star」(ザ・バグルス/1979年)みたいなイメージで作っていたので。
 
小出:へえ、じゃあけっこう変わったんですね。リズムのアプローチも違いますよね。

フルカワ:うん。……これも初めてぶっちゃけるけど、小出くんの歌詞は正直あんまり好きじゃなかったんです。独特なのはすごくわかったんだけど、「焼酎」とか出てくるんですよ。

小出:「愛してる」(6thシングル/2007年)かな。
 
フルカワ:そのワードの選び方が僕には無い感じなんです。僕の読む本にも見るものにも出てこない。でも『C2』の曲も演奏して口ずさめるくらいまで覚えたら、歌詞の深みの部分が見えてきて、「なるほどな」って思うことがいっぱいあったんですね。それは小出くんの書き方や表現にインスパイアを受けたというよりも、「それでいいんだ」と思えたところがあったというか。僕が今書いているような歌詞も、「なんであいつこんな言葉選んでるんだ?だせえな」と言う人もいるだろうけど、結局自分の深層というかコアな部分で歌詞を書かないと強いものにならないし、伝わらないし、そこで書いていれば真剣に聴いたときに伝わるんだなって思って。ベボベのファンはそういうところに突き動かされているし、(自分も)そういうものを書かなきゃいけないと思いました。今までは誰にもケチをつけられないようなものにしていたところが歌詞にはあって。だから英語を使うという部分もあったし、日本語にしても刺々しいことは書いているけど、言葉の選び方とかにはあんまりポリシーをもってやっていなかったところはあるかな。

小出:実際、今回アルバムを聴かせていただいて、歌詞を読んで、「フルカワさん、こんな歌詞書くんだ」ってちょっとびっくりしたんですよ。歌詞の内容そのものというよりも、歌詞表現の位相や帯域がどういうものか凄くわかったので。本当にタイトル通りの作品になっていますよね。
 
フルカワ:いやけっこう……影響受けてます、俺。
 
小出:(笑)。
 
フルカワ:けっこう拒絶していた部分のところに入っていって感化されるわけじゃないですか。それで影響を受けない方がおかしいと思うんですよ。意外性と驚きを持ち帰ってそこから制作が始まったので。歌詞に関してはこの部分と、去年1年間僕が書き続けてたコラムが大きく影響しているんだろうなと思いますね。
 
――全曲通してフルカワさんの私小説と捉えていいでしょうか?

フルカワ:考え方はいろいろあると思いますよ。たとえば1曲目(「サバク」)は、僕の話だけど僕に限ったことではなくて、他のバンドにもよくある話だと思うし、別に一般社会にもある話だと思います。強烈に(この歌詞を)書けたのは、5年前の自分の解散と、去年のベボベのサポートがあったからかな。私的なことであるということではないと思うんだけど、でも自分の根底にあるものしか書いていないです。
 
小出:今まで英語だったからわからなかったかもしれないですけど、日本語でありありと表現されているから、「こういう言葉をもっている人なんだ」っていうのが初めてわかりました。

Base Ball Bear・小出祐介 撮影=西槇太一

Base Ball Bear小出祐介 撮影=西槇太一

――「真夜中のアイソレーション」とか「walk around (feat.いつか [Charisma.com])」とか、サウンドが歌心を呼び寄せているところもあると思います。フルカワさんがこういう歌詞を書くということに、きっとドーパン時代からのコアなファンは驚くんでしょうね。
 
フルカワ:年のせいかもしれないけど、「僕は音楽家だから音楽だ」って言ってきたんですけど、最後は歌詞なのかなと思い始めて。音楽の作り手だっていう自負でやってきたから、認めたくはないんですけど……(笑)。でも最後刺していくのはどっちみち歌詞なんだなっていうのはあります。
 
小出:これは僕もずっと言ってきていることですね。口酸っぱく「最後は歌詞だ」って言っています。どんなに曲が良くても、歌詞が良くないとどうにもならないし、でも曲が平たくても、歌詞がずば抜けていると素晴らしくなったりするんです。フルカワさんが一回ここに触れたことで、僕はもう「次が聴きたい!」っていう気持ちになっています。
 
フルカワ:本当?(笑)。でも俺も次が聴きたいんだよね。
 
小出
:歌詞は底なし沼なんですけど、本当に面白いですよ。超映像的にしたり、超抽象的にしたり、振り切って書いてみるのも面白いですし、“私小説度”と“物語度”のバランスを上げ下げしてみるのも面白かったり。僕の場合は韻や言葉遊びもジャンジャン入れていくので「焼酎」みたいなワードが出てくるんですね。あれは直前の「親友」という言葉の韻に引っ張られて出てきた言葉なんです。

フルカワ:へえ~。教わっています、今(笑)。
 
――(笑)。フルカワさんがこのアルバムを作った意義ってものすごく大きいですよね。ご自身が誰よりも感じていると思うんですけど、要は今までのキャリアとか残してきたものとか、舐めた辛酸とかもすべて受け入れて、一回今の自分という現在地を示すということじゃないですか。
 
フルカワ:そこまで考えてないですよ? でも振り返るとそうなっている可能性はある。
 
――でもタイトルも象徴的だし、サウンド面でもそれはすごく象徴的だし。ドーパンのこととか今までのことをすべて受け入れるという、そういうアルバムにならざるを得なかったということですよね?

フルカワ:そうなんですよね、きっとね。意図的に詞に重きを置いてやろうとは思わなかったんですよ。ただコラムを1年書いていて、その評判がよかったりとか、ベボベと一緒に回ったりしたこととかで、嘘も書けないし、平たくするのも嫌になっていて。

――素直というか、フレッシュだなとも思いました。全体通して生々しいし(笑)。
 
小出:日本のロックって私小説的になりがちなんですよ。音がそういう言葉を呼ぶんでしょうね。でも、私小説ってナルシスティックな部分と背中合わせなので、“自分をさらけ出している気がする気持ち良さ”に身を任せすぎると、どんどん気持ち悪いものになっていくんです。鏡に向かって話しかけている姿を見せられている感じになってしまうというか。
 
フルカワ:わかる。木下理樹でしょ?
 
一同:(笑)。
 
小出:木下くんは全然違うけど(笑)。でもこのフルカワさんのアルバムの自意識と俯瞰は、グッとくる凄く良いバランスだと思いました。こちらも酔わせてくれるロックアルバムですよね。このあとのアルバムがもっと聴きたいです。

――小出さんは今ツアー中ですが、ニューアルバムに向けた制作もしていると思うんですけど。
 
小出
:佳境という感じですね。
 
――どんな感じになりそうですか?
 
小出:歌詞に関しては私小説的なところは一通りやったし、俯瞰の度合いを濃くしたものもやったんですが、今現在の考えから振り返ると、ちょっと縮こまっているなぁと感じていて。自分を掘り下げて「人生の主人公は誰だ?」とか、「ミクロからマクロへの跳躍」とか、「普通とは?」みたいなことを考えに考え抜いてきた結果、もう一次元上から捉えると全部がしっくりくるようになって。また歌詞の面白さを知ったという感じです。
 
フルカワ
:へえ。俺は何作あとにこんなモチベーションとか精神状態で歌詞を書けるようになるんだろう(笑)。僕の先輩ですからね、日本語の歌詞に関しては。

――最後になりますが、フルカワさんのツアーに向けての話を聞けたらと思うんですけど。
 
小出:これはどういう編成でやるんですか?

フルカワ:東名阪は普通に4人。ベースが村田シゲで、(ドラムは)カディオで、(ギターは)新井(弘毅)くんで。あとアコースティックのツアーがあって、福岡、仙台、札幌、吉祥寺って須藤と回ります。吉祥寺のSTAR PINE'Sは僕も初めて行く会場なんですけど、須藤くんから「いいところがあるよ」って聞いたのでやります。日程調節したら、ファイナルがバンドの方じゃなくてSTAR PINE'Sになっちゃったっていうね。だから須藤くんと2人で頑張ろうって思っています。
 
小出
:でも今回のアルバムは歌を聴いてもらいたいから、弾き語りとかすごくいいと思います。
 
――それは僕も思います。フルカワさんはずっとメロディメーカーではあったと思うんですけど、弾き語りで歌の強度がより浮き彫りになると思います。
 
小出:ちなみにレコーディングの時はどうしていたんですか?
 
フルカワ:ドラムだけカディオで、あとは全部自分。
 
小出:バンドセットで演奏してみてどうでした?
 
フルカワ:全然違うよね。自分一人の方が、グルーヴがキュッとなるから。自分でやるからタイミングが全部同じになるんだよね。バンドでやると全部違う曲だなって思う。「俺的にはもっとこういうグルーヴなんだけどな」って思うんだけど、すごい面白いところもあるから。バンドでやる意味を感じながらやっています。
 
小出:今後も制作は基本一人でやっていくんですか?
 
フルカワ:本当はリハスタからバンドで曲を書きたいんだけど、ドーパンの後期くらいから全部一人でデモを作っているから、どうしても(一人)ね。そっちの方が早いから。でも本音はドラムとベースと3人でもいいから入って、現場でアレンジを決めたいです。やっぱりバンドマンなんで。

――そっか。新しいバンドを組みたいという気持ちはありませんか?

フルカワ:それもね、ゼロじゃないですよ。ベボベと一緒に回ると「バンドっていいな」って思っちゃったんで(笑)。
 
小出:(笑)。

フルカワ:(サポートメンバーは)長い間一緒にいるから「バンドメンバーだよ」みたいなことも言ってくれるんだけど、でも正式なバンドじゃないですからね。僕もバンドメンバーとしては当たっていけないし、バンドだったら喧嘩していいんだけど、それができない部分があるから。彼らも「バンドみたいなもんだ」という感じで付き合ってくれるけど、一線はあるし運命共同体ではない。バンドっていうのは、特にボーカルでバンマス(バンドマスター)だったらわかると思うけど、他のメンバーの命運ももっていたりするんです。だから本当にぶつかるときはぶつかるし、脱退もするし解散もするわけで。でもそれがしんどいとはいえ、バンドに勝る魅力はないですね。だけどバンドは考えていないですよ。やりたいけど、僕のバンドは生涯で1つだけですから。

小出DOPING PANDAですね。
 
フルカワ:そうだね。

 
取材=三宅正一 構成=笠原瑛里 撮影=西槇太一

リリース情報
フルカワユタカ 『And I’m a Rock Star』
発売中
『And I’m a Rock Star』

『And I’m a Rock Star』

NIW128
税抜価格¥2,778+税

収録曲: 
1.サバク
2.I don't wanna dance
3.and I'm a rock star
4.真夜中のアイソレーション
5.lime light
6.so lovely
7.walk around (feat. いつか [Charisma.com])
8.can you feel
提供楽曲セルフカバー:2015年9月9日発売 FRONTIER BACKYARD mini Al 「Backyard Session #2」収録
9.next to you
10.プラスティックレィディ
提供楽曲セルフカバー:2015年2月4日発売 りぶ Al「singing Rib」収録

 

ライブ情報
■フルカワユタカ

「And I'm a Rock Star TOUR」
2017年2月10日(金)東京都 渋谷 WWW X
2017年2月25日(土)愛知県 名古屋 JAMMIN’
2017年2月26日(日)大阪府 梅田Shangri-La
各プレイガイドにて一般発売中

“And I'm a Rock Star TOUR extra ”(acoustic live)
福岡 2017 年 2 月 14 日(火) 福岡 Queblick w/須藤寿
北海道 2017 年 2 月 16 日(木) 札幌 KRAPS HALL w/須藤寿
宮城 2017 年 2 月 19 日(日) 仙台 PARK SQUARE w/須藤寿
東京 2017 年 2 月 28 日(火) 吉祥寺 STAR PINE’S CAFE w/須藤寿

 
■Base Ball Bear

Base Ball Bear Tour「バンドBのすべて 2016-2017」
※終了分は割愛
2月4日(土)鹿児島県 鹿児島SR HALL
開場:17:00/開演:17:30
(問)キョードー西日本/092-714-0159
2月5日(日)熊本県 熊本B.9 V2  
開場:17:00/開演:17:30
(問)キョードー西日本/092-714-0159
2月11日(土)三重県 四日市Club Chaos
開場:17:00/開演:17:30
(問)JAILHOUSE/052-936-6041
2月12日(日)静岡県 静岡UMBER
開場:17:00/開演:17:30
(問)JAILHOUSE/052-936-6041
2月17日(金)岡山県 岡山IMAGE
開場:18:30/開演:19:00
(問)HIGHERSELF/082-545-0082(平日11:00〜19:00)
2月18日(土)広島県 広島CAVE-BE
開場:17:00/開演:17:30
(問)HIGHERSELF/082-545-0082(平日11:00〜19:00)
2月25日(土)愛媛県 松山サロンキティ  
開場:17:00/開演:17:30
(問)DUKE松山/089-947-3535(平日10:00~18:00)
2月26日(日)徳島県 徳島club GRINDHOUSE
開場:17:00/開演:17:30
(問)DUKE高松/087-822-2520(平日10:00~18:00)
3月4日(土)岩手県 盛岡CLUB CHANGE WAVE
開場:17:00/開演:17:30
(問)キョードー東北/022-217-7788
3月5日(日)青森県 青森Quarter
開場:17:00/開演:17:30
(問)キョードー東北/022-217-7788
3月9日(木)北海道 帯広Rest
開場:18:30/開演:19:00
(問)マウントアライブ/011-623-5555(平日11:00〜18:00)
3月11日(土)北海道 札幌PENNY LANE 24 
開場:17:00/開演:17:30
(問)マウントアライブ/011-623-5555(平日11:00〜18:00)
3月12日(日)北海道 旭川CASINO DRIVE
開場:17:00/開演:17:30
(問)マウントアライブ/011-623-5555(平日11:00〜18:00)
3月18日(土)群馬県 高崎club FLEEZ
開場:17:00/開演:17:30
(問)ディスクガレージ/050-5533-0888(平日12:00~19:00)
3月19日(日)新潟県 新潟LOTS
開場:17:00/開演:17:30
(問)FOB新潟/025-229-5000
3月24日(金)大阪府 なんばHatch
開場:18:00/開演:19:00
(問)キョードーインフォメーション/0570-200-888(全日10:00~18:00)
3月29日(水)東京都 ZEPP TOKYO
開場:18:00/開演:19:00
(問)ディスクガレージ/050-5533-0888(平日12:00~19:00)

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料金:スタンディング¥4,500(税込)+1Drink代別途

※3歳以上必要
※サポートギター:弓木英梨乃(KIRINJI)

 
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