西村ツチカインタビュー セックスマシーン『はじまっている。』のイラストに込めた「アナログ感」の妙技

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セックスマシーン『はじまっている。』

セックスマシーン『はじまっている。』

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音楽ジャケットのアートワークを担当するクリエイターを取り上げる連載企画『アートとミュージックが出会う場所』。第三回目は漫画家・イラストレーターの西村ツチカ氏に登場してもらった。

2017年1月にリリースされたセックスマシーンの新アルバム『はじまっている。』。昨年4月に発売されたシングル『新世界へ』同様、ジャケットイラストを手がけているのは漫画家の西村ツチカである。ともに神戸出身であり、旧知の仲だという両者。音楽好きで知られ、バンド『トーベヤンソン・ニューヨーク』のギタリストとしても活動する西村は、どのような思いで今回のジャケットを手がけたのか。制作にまつわるエピソードや、彼の音楽遍歴について話を聞いた。

 

――セックスマシーンのボーカル、森田剛史さんと西村さんは同じ神戸の出身で、デビュー前からの知り合いとお聞きしました。出会ったきっかけを教えてください。

森田さんとは同じ神戸の大学で、他にも神戸ではバンドマンの先輩が何人かいました。メガマサヒデさんとか、元ユウテラスの星野さんとか。星野さんは一時セックスマシーンにも在籍していたんですが、そういったセクマシまわりの先輩方が当時から仲良くして下さいました。神戸の板宿にあるフォーク喫茶によく集まっていて、そこで森田さんとも初めて出会いました。

――昨年発売されたシングル「新世界へ」に続いてのジャケットイラストですが、どんな形でオファーが来たんですか。

「新世界へ」のオファーは森田さんから直接いただきまして、そのときに「今度アルバムを作るからそれもよろしく」みたいな話があったんです。それで、今作でもイラストを描かせてもらう運びになりました。

――制作はどのように感じで進めていったのでしょうか?

わりと自由にやらせてもらいました。曲を聴かせていただいてから、ラフ画を何枚か描いてそこからよさそうなものを選んで。事前の打ち合せは、アルバムの方向性をざっくりと聞いただけでしたね。前回の「新世界へ」のジャケットは女の子がベッドに乗って浮かんでいる絵だったので、今回も同じ感じで描こうと思ったら、「バンドメンバーを出してほしい」という注文があったくらいです。

セックスマシーン「新世界へ」

セックスマシーン「新世界へ」

――「新世界へ」のイラストは空に浮いている感じだけど、『はじまっている。』は、前に進んでいる感がありますね。

昔のセックスマシーンは、「彼女にフラれたから寝る」といった現実逃避系の曲が何曲かあって。でも、「新世界へ」はそこから外への一歩を踏み出す感じの曲だったので、「ベッドに乗ったまま外に出てみよう」と思いました。

――『はじまっている。』のメインにはプロペラ機が描かれています。西村さんの作品に乗り物が大きく出てくるのは珍しいなと感じたのですが。

女の子とか自然の風景が好きなのでよく描きますけど、確かに乗り物系は少ないですね。僕の中で「冒険的な勢いを表せるモチーフがないかな」と考えたときに浮かんだのが、ベルギーの漫画『タンタンの冒険』だったんです。主人公のタンタンが、船や飛行機に乗って世界を冒険するお話で、そこからヒントを得ました。タンタンの世界はメカの考証もちゃんとされていて、実際の飛行機が出てくるんです。

――タンタンの要素が入っているんですね。セックスマシーンの過去のアルバムはキング・クリムゾンやピンク・フロイドのパロディもあって、その対比が面白いです。

そこは森田さんのパロディ趣味ですね。森田さんはプログレ以外にも、80年代の漫画、たとえばゆうきまさみさんや島本和彦さんとかが好きみたいです。音楽では、C-C-BとかTOM☆CATも好きなようで。

――TOM☆CAT好きというのは、1stフルアルバムの『ふられ気分のロックンロール』というタイトルに表れていますね。

僕もその時代のピコピコしたテクノポップは好きなんです(笑)。

――今はCDが売れないといわれていますが、そんな時代にCDジャケットを手がけるに当たって意識した点、工夫した点はありますか。

「イラストの質感としてのアナログ感」を出したかった気持ちはあります。まっすぐに見える効果線ですが、実は定規を使わずにフリーハンドで描いてます。用紙もわら半紙を使って、墨汁でペン入れしました。細い線はスムーズに描けるんですが、太い線は少し力を入れると墨汁が滲んでしまうんです。そのコントロールできないひずみが、アナログ感として伝わればいいかなと。

――確かに、ジャケットの上部に書かれた「セックスマシーン」という文字をよく見ると滲んだ感じが見えますね。

はい、文字は特に力を込めて太く描きました。

――従来の幻想的なイメージの西村作品と比べて、今作はどちらかというとリアリティ寄りですね。かと思えば、ジャケットの左側に描かれている日野さんのベースのネックが極端に長かったり、不思議な点も目に付きます。

そこは意識して描きました。飛行機のスピードで長くなったようにも見えるし、単にヘタクソなだけかもしれません。リアリティと不思議な感じを両立させたいという気持ちはあります。パース(遠近法)を積極的に無視した構図もよくやります。

――西村さんの作品は、描き込まれた背景とあっさりした人物のコントラストがあって、どこか水木しげる作品を思わせます。

水木しげる作品は大好きです。アシスタントを雇って背景を描き込ませるのは発明だと思います。たくさん仕事を抱えていたそうなので、そのための手法でもあったのかなと。

――西村さんはご自身でもバンドをやられていますが、好きなCDのジャケットを教えてください。

今、パッと思いついたのは、大島弓子先生の『綿の国星』という漫画が70年代にありまして、そのイメージアルバムのジャケットがめちゃかわいいんです。中央にネコ耳少女が描かれていて。ピアニストのリチャード・クレイダーマンも参加したアルバムなんですけど、僕はレコードプレヤーを持ってなかったときに、あまりのかわいさに買って部屋に飾ってたくらいです。もちろん、原作の漫画もとても素晴らしいです。

あとは、プログレにハマってた時期に聴いていたアクサク・マブール(注:1)の『無頼の徒』というレコードのジャケットですね。昔の西洋画みたいなテイストで、これもすごく好きな作品です。当時は辺境音楽にハマっていて、巻上公一(注:2)さんの口琴を使った演奏とかにも惹かれてました。

――幅広く音楽を聴かれていますが、最も好きなジャンルはなんでしょう?

最近気づいたんですが、自分は学生時代に聴いていた音楽が今でもずっと好きなんですよ。80年代のテクノポップも好きですが、それのリバイバル的な音楽。大学のときにポストパンク・リバイバル(注:3)があって。LCDサウンドシステムとかザ・ティン・ティンズとか。

――当時は「ダンスパンク」なんていわれてましたね。

そうそう、その辺の音楽が好きなんです。その後になるとダーティー・プロジェクターズ(注:4)とかヴァンパイア・ウィークエンドとかが出てきて。ダーティー・プロジェクターズは現代のプログレっぽくて、いろんな音楽を取り入れたエッセンスを持っていて、それが不思議なバランスで成り立っている感じが好きです。

――そういったプログレやニューウェーブを聴いてきた西村さんが、シンプルでエモーショナルな音楽のセックスマシーンのアルバムジャケットを手がけるというのが興味深いです。

でも、僕が一番好きなのは日本のTheピーズなんです。まず一番好きなパンクがあって、プログレやニューウェーブに行って、そこから辺境音楽にも行ったという遍歴なので、パンクは音楽の旅の出発点といえるかもしれません。

――では、最後にセックスマシーンの『はじまっている。』を手に取る方へメッセージをお願いします。

それはもう「セックスマシーンのライブに行きましょう」という一言ですね。本当にライブが圧倒的なので。この前、大阪のロフトプラスワン WESTのイベントで森田さんたちといっしょに、ミュージシャンと漫画家が集まって大喜利大会をやったんです。そのときに森田さんの弾き語りのライブを見て、やっぱりすごいなと。なので、ぜひ皆さんにライブでのセクマシを見ていただきたいです。

セックスマシーン『はじまっている。』

セックスマシーン『はじまっている。』

 

(注:1) 現代音楽や民族音楽、ジャズの要素を取り入れた、70年代から活動するベルギーのグループ。
(注:2) 80年代に人気を博したテクノポップバンド「ヒカシュー」のリーダー。テルミンや口琴の演奏で知られる。
(注:3) 2000年代に入り巻き起こった80年代リバイバルのひとつ。「ニューウェーブ・リバイバル」などとも呼ばれる。
(注:4)2002年に活動を開始した、ブルックリンを拠点とするアメリカのバンド。

プロフィール情報
西村ツチカ
 


漫画家、イラストレーター。
2010年、短篇集「なかよし団の冒険」(徳間書店)でデビュー。同作で第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞。
他の作品に「かわいそうな真弓さん」(徳間書店)、「さよーならみなさん」(小学館)がある。
また、インディー出版レーベルのDIORAMA BOOKSが発行する漫画雑誌「USCA」「DIORAMA」にも漫画を発表している。
2017年2月より、ビッグコミック増刊(小学館)で「北極百貨店のコンシェルジュさん」連載開始。
 
連載情報
北極百貨店のコンシェルジュさん

ビッグコミック(小学館)にて連載中
新人コンシェルジュの名前は秋乃(あきの)。働いている場所は百貨店。きちんとした品ぞろえと丁寧なサービスが売りの、ごく普通の百貨店です。でもただ一つ違っているのは、お客様はすべて……動物だったのです。
http://big-3.jp/bigcomic/index.html

 

リリース情報
セックスマシーン
5th full album 『はじまっている。』


2017年1月25日発売
PWR-012/¥2,130(税抜)
[収録曲]
1.  始まってんぞ
2.  新世界へ
3.  たったひとつの冴えないやりかた
4.  いったいどっち
5.  唱歌「凪」
6.  別れの合図
7.  地球よ
8.  悲しくて眠りたい
9.  むげんだい
10.  胡蝶の夢
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