『ミュシャ展』が開幕 全20点が勢揃いした超大作《スラヴ叙事詩》に画家・ミュシャの魂を感じる

レポート
2017.3.10
《スラヴ叙事詩》の展示風景

《スラヴ叙事詩》の展示風景

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チェコを代表する画家、アルフォンス・ミュシャの作品約100点を展示する『ミュシャ展』が、2017年3月8日~6月5日にかけて東京・六本木の国立新美術館で開催されている。開催に先立っておこなわれたプレス向け内覧会では、関係者による作品解説などが行われた。ここでは本展の見どころをお届けしたい。

展示室入口

展示室入口

 

ポスターアート“じゃない”
約16年かけて描かれた、ミュシャの超大作を観る

アール・ヌーヴォーの華やかな作風で、西洋絵画の作家の中でも日本でとりわけ人気の高いミュシャ。2013年に森アーツセンターギャラリーで開催されたミュシャ展は2ヶ月ほどの会期で20万人以上の入場者数を記録した。今回の『ミュシャ展』は晩年の超大作《スラヴ叙事詩》が初めてチェコ国外で初めて一挙展示されるという話題性もあり、2013年を遥かに上回る入場者数が予想される。

「1章・ミュシャとアールヌーヴォー」の展示風景。名作《ジスモンダ》《ハムレット》《ロレンザッチオ》《メディア》ほか、ポスターアートも観られる

「1章・ミュシャとアールヌーヴォー」の展示風景。名作《ジスモンダ》《ハムレット》《ロレンザッチオ》《メディア》ほか、ポスターアートも観られる

1860年に現在のチェコ東部(当時はオーストリア領モラヴィア)にある、イヴァンチツェという小さな町に生まれたアルフォンス・ミュシャ。18歳の時にプラハ美術アカデミーを受験するが不合格となっている。その後ウィーンに渡り、支援者の助けを得てミュンヘンとパリのアカデミーで学んだ。そんな彼が、芸術家として認められ始めたのは30歳を過ぎてからのこと。34歳の時に舞台『ジスモンダ』のポスターを手がけ、アール・ヌーヴォーの先駆者として一躍名声を得ることになった。その後、1910年に故郷のチェコに戻って20点の連作による大作《スラヴ叙事詩》を手がけ、1938年に78歳でその生涯を閉じている。

《スラヴ叙事詩「原故郷のスラヴ民族」》 1912年 610×810cm テンペラ、油彩/カンヴァス プラハ市立美術館

《スラヴ叙事詩「原故郷のスラヴ民族」》 1912年 610×810cm テンペラ、油彩/カンヴァス プラハ市立美術館

多くの々がミュシャ作品の印象として抱いているのは、《ジスモンダ》のような女性を主題としたポスターアートだろう。ところが、本展の最初の展示室に足を踏み入れた瞬間、そこで目の当たりにする絵画の大きさと作風に思わず息を飲むはずだ。ここで展示室を囲むように配置された巨大な作品群こそが、チェコに戻った晩年のミュシャが約16年の歳月をかけて描いた全20点の連作《スラヴ叙事詩》なのである。

グラフィックデザイナーとして大成したミュシャが、画家としての成功を求めて描いた本作。大きなものは縦6メートル、横8メートルを越える。どれも作品の前から20歩くらい下がって観ないと、全体像を掴むことができないほどだ。そしてそこには、我々がよく知るミュシャが描く柔和な女性の姿はなく、スラヴの民衆や王様、司祭、戦士、あるいは娼婦らの姿が描かれている。本展の監修者で美術評論家のヴラスタ・チハーコヴァー氏は以下のように解説する。

『ミュシャ展』監修者で美術評論家のヴラスタ・チハーコヴァー氏

『ミュシャ展』監修者で美術評論家のヴラスタ・チハーコヴァー氏

「《スラヴ叙事詩》の20点は、その半分ずつがチェコの歴史とスラヴの諸民族の歴史に捧げられています。それぞれのキャンバスにはメッセージがあり、絵の下の部分は題名にまつわる歴史的なエピソードが、上の部分には象徴主義的でシンボリックなものが描かれています。後年の作品はバロック芸術の影響を受けて螺旋的な構図になっていますが、どの作品でも歴史的な部分と象徴的な部分を見分けることができます」

確かに、特に第1作「原故郷のスラヴ民族」から第3作「スラヴ式典礼の導入」にかけては、上下で描かれているものがはっきりと分かれ、現実的な場面と空想的な場面が同じ一枚の中にまとまっている。こうした場面構成はそれまでに前例の無い斬新なものだったという。

 

《スラヴ叙事詩》に描かれた、平和と民族の誇り

《スラヴ叙事詩》の展示風景

《スラヴ叙事詩》の展示風景

もうひとつチハーコヴァー氏が付け加えたのは、ミュシャの平和主義者としての側面だ。

「ミュシャはフリーメイソンの精神の持ち主でした。それゆえに平和主義の意向が強く、血が流れている姿や人間の戦う姿のような戦争の場面をなるべく見せたくなかったのです。20点の中に『ヴィートコフ山の戦いの後』という一作がありますが、この作品には戦いが終わった後が描かれています。人々は既に武器を降ろしていて、『戦争が二度と起きないように』というような表情をしている指導者の姿も。そこにはミュシャ自身の平和への希望が込められているように思えます」

《スラヴ叙事詩「ヴィートコフ山の戦いの後」》 1923年 405×480cm テンペラ、油彩/カンヴァス プラハ市立美術館 ©Prague City Gallery

《スラヴ叙事詩「ヴィートコフ山の戦いの後」》 1923年 405×480cm テンペラ、油彩/カンヴァス プラハ市立美術館 ©Prague City Gallery

本作が描かれ始めた1910年代前半は、チェコがまだ国家として独立する以前の時代である。独立への思いが強かったミュシャは、中世の強かった時代のチェコの歴史から、チェコ人、ひいてはスラヴ民族としての誇りを描きたかったのだろう。

 

ミュシャの作家人生を辿る展示構成
アール・ヌーヴォー時代の代表作も

「2章・世紀末の祝祭」の展示風景

「2章・世紀末の祝祭」の展示風景

《スラヴ叙事詩》を日本で揃って展示することは、国立新美術館にとって開館以来の宿願だったという。本展の日本側の監修者で国立新美術館・主任研究員の本橋弥生氏は、「これまで日本で行われたミュシャ展でも最後は必ず『ミュシャはスラヴ叙事詩を描いた』という話で終わっていたんですが、その実物を日本でまとめて見られることは無かった。ポスター画家としてだけ評価されるのはミュシャに対して申し訳ないと思いがあり、画家・ミュシャをしっかり紹介したいと考えていました」と語る。

《1900年パリ万国博覧会 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ館壁画の下絵》 1899-1900年 墨/紙 137.3×312.2cm 堺市

《1900年パリ万国博覧会 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ館壁画の下絵》 1899-1900年 墨/紙 137.3×312.2cm 堺市

本展は「1章・ミュシャとアールヌーヴォー」「2章・世紀末の祝祭」「3章・独立のための戦い」「4章・習作と出版物」と時代順の4つのセクションで展示されており、ミュシャが《スラヴ叙事詩》を描くに至った足跡が辿れるような構成となっている。会場では、《スラヴ叙事詩》以前に描かれたミュシャの代表作《ジスモンダ》《ヒヤシンス姫》などもたっぷりと観ることが可能だ。

手前《ヒヤシンス姫》1911年 リトグラフ/紙 125.5×85cm 堺市

手前《ヒヤシンス姫》1911年 リトグラフ/紙 125.5×85cm 堺市

 

壇れいの音声ガイドや、クルテクとのコラボグッズも

本展では女優の壇れいがガイドの声を担当している。内覧会に先立って来館した壇は「ミュシャというとアールヌーヴォーの美しい女性たちを描いた作品を誰もが思い浮かべると思いますが、《スラヴ叙事詩》からはミュシャの違った一面を感じ取れると思います。ミュシャが晩年の約16年をかけて、魂を込めて描いたこの作品を一人でも多くの方に観ていただきたい」とコメント。また、ショップでは本展とチェコの人気アニメキャラ「クルテク」がコラボしたオリジナルグッズ(企画・販売:NHKプロモーション)も販売されている。

《スラヴ叙事詩》が一斉に揃ったのは、チェコ国内でも過去に2度しかない。そしてチェコ国外では今回の展覧会が世界初というまたとない機会だ。巨大なキャンバスに描かれた壮大な物語からは、まさしく画家・ミュシャの魂そのものと彼の祖国への愛を感じられることだろう。

イベント情報
国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業 
ミュシャ展


会期:2017年3月8日(水)〜6月5日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)   開館時間:午前10時〜午後6時(毎週金曜日、4/29~5/7は午後8時まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日(ただし、5/2は開館)
観覧料(当日):一般1600円、大学生1200円、高校生800円
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト:http://www.mucha2017.jp

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