『ピカソとシャガール 愛と平和の讃歌』展レポート 「実現不可能」といわれた奇跡の展覧会が開幕

レポート
アート
2017.3.27
『ピカソとシャガール 愛と平和の讃歌』展 入口

『ピカソとシャガール 愛と平和の讃歌』展 入口

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2017年3月18日(土)から9月24日(日)まで、神奈川・箱根のポーラ美術館で『ピカソとシャガール 愛と平和の讃歌』展が開催されている。意外にもピカソとシャガールの関係性をテーマにした企画展はこれが世界初の試み。西洋近代絵画を中心とする約1万点のコレクションで箱根のアートシーンを盛り上げてきたポーラ美術館が、開館15周年を記念して企画した本展の見どころをいち早く紹介しよう。

2002年に開館したポーラ美術館。美術館の周囲には一周20分ほどの「森の遊歩道」が敷かれ、自然散策も楽しめる

2002年に開館したポーラ美術館。美術館の周囲には一周20分ほどの「森の遊歩道」が敷かれ、自然散策も楽しめる

 

「実現不可能」といわれた奇跡の展覧会

最初の展示室へのアプローチ。「PICASSO」と「CHAGALL」の文字が白い壁に映える

最初の展示室へのアプローチ。「PICASSO」と「CHAGALL」の文字が白い壁に映える

スペインに生まれたパブロ・ピカソ(1881-1973)と現在のベラルーシに生まれたマルク・シャガール(1887-1985)。両者はともに20世紀前半の前衛美術を代表するアーティストでありながら、その作風は対照的とされる。しかし、20世紀初頭のパリでともに頭角を表した二人には、思想や境遇において通じる点もみられる。それを対話させてみよう、というのが本展開催のきっかけだったという。

パリ時代に何度か顔を合わせ、晩年にも交流を重ねた二人だが、時には互いを批判し合うライバル関係でもあった。ポーラ美術館の木島俊介館長は開幕式の挨拶で「昨年4月にシャガールの孫娘のメレット・メイヤーさんにお会いして、この展覧会への協力を求めたところ『そんなことできっこない』って仰られたんです」と裏話を語った。「今思えば、おそらく反対されていたんでしょうね」と振り返った木島館長だが、それでも実現した本展の開幕に対して万感の表情を浮かべていた。

 

「対決壁」で観るピカソとシャガールの共通点

第1章の展示風景。右に見えるのが「対決壁」で、ひとつの面に段差などをつけながら両者の作品を対比させている

第1章の展示風景。右に見えるのが「対決壁」で、ひとつの面に段差などをつけながら両者の作品を対比させている

約80点が展示された本展は、ピカソとシャガールの生涯を対比しながら、主に時代ごとに分けた5章構成で展開されている。そして、本展ならではのユニークな試みが「対決壁」と名付けられた展示方法だ。基本的に両者の作品は別々の壁に展示されているが、各章ひとつの面には両者の作品を並べて展示し、二人の違いと共通点を解りやすく解説している。

第1章の「故郷 バルセロナとヴィテブスク」で観られるのは、二人がパリで暮らし始めた頃までの作品だ。若き日のピカソの作品には親友を失った影響による陰鬱な色彩が目立つ。対するシャガールの作品には、キュビズムやフォービズムといった当時の最新技法の影響が見られる。ここで学芸員の今井敬子氏が解説してくれたのは、二人の故郷への愛だ。この章の対決壁にかかるのは、ピカソが描いた「海辺の母子像」とシャガールが描いた「私と村」。いずれもパリを訪れた二人が故郷の姿を描いた作品である。シャガールは生涯にわたって故郷愛を描き続け、肖像画が多かったピカソにとっても故郷への思いは創造の源であり続けたのだという。

第2章の展示風景

第2章の展示風景

第2章では、パリでの活躍を彩った作品を鑑賞。ここでは両者がキュビズムをどのように捉えたかが考察されている。続いて、第3章の「愛しいものたち 変容する絵画」では、互いに妻を得た両者が最も満たされた生活を送った1920年代周辺の作品が観られる。ここで対比されているのはそれぞれの愛の表現だ。

第4章の展示風景

第4章の展示風景

そして、それまでと雰囲気が一変するのが、第4章の「戦争 悲劇への抵抗」である。戦争が世界に暗い影を落とした1930~40年代、二人の祖国はともに戦禍に巻き込まれた。大戦時、ユダヤ人のシャガールはナチスの手から逃れてアメリカに亡命し、ピカソはナチス占領後のパリに住み続けた。「亡命という選択肢もあったピカソが敢えてパリに残ったのは、戦争という不条理に対する彼の抵抗だった」と学芸員の東海林洋氏は説く。つまり境遇は違えど、この時代の両者は平和を希求する思いで共通しているのである。そして、ここにはその影響を伺える作品が展示されている。

 

平和への願いが込められた2枚の巨大タペストリー

第4章は2階から1階の展示室へと続き、本展の目玉となる2枚の巨大なタペストリーに辿り着く。展示室に入って正面に観られる「ゲルニカ」(5月11日までの限定展示)は、スペイン内戦で空爆を受けた街を縦3.5m、横7.8mのカンバスに描いたピカソの超大作だ。一説には、作中の牛はピカソが自らを変身させて描いた自画像ともいわれる。実際の絵画はマドリードの美術館に所蔵されているが、それを模してこれまでに計3枚のタペストリーが制作された。3枚目にあたる本作はピカソ本人が生前に織糸の色を監修している。

それに対してシャガールのステンドグラスをもとに編み上げられた「平和」には、子供、花、動物などが華やかな色彩で描かれている。おそらくこれは故郷を追われたシャガールの考える平和な世界で、2枚のタペストリーは「愛と平和の讃歌」という本展の主題を最も強く訴えかけている。

第5章の展示風景。晩年のピカソが独自の芸術を追求したのに対して、神からの恩恵を大切にしたシャガールは大衆にも受け入れられる明るく華やかな作品を残した

第5章の展示風景。晩年のピカソが独自の芸術を追求したのに対して、神からの恩恵を大切にしたシャガールは大衆にも受け入れられる明るく華やかな作品を残した

第5章では、二人が南仏にそれぞれアトリエを構えた晩年の作品が展示されている。二人はこの時代にようやく邂逅するが、強烈な自意識を持つ両者の間には次第にライバル意識が芽生えていく。ここにはシャガールの「オペラ座の人々」が展示されている。本作に関連して木下館長は「あれだけの名声を得たピカソでも、同じ異邦人でありながらオペラ座の天井画を依頼され、フランスの文化に取り入れられたシャガールに嫉妬していた」と話す。確かに「物語と色彩の画家」と呼ばれるほど彩り豊かな作品で大衆に受け入れられたシャガールに比べ、「破壊と創造の画家」と呼ばれたピカソの独創性はやがて究極に辿り着き、両者の生涯は対照的な終末を迎えたのである。

メインディッシュの「仔牛のロティ オリーブとバジルのソースと共に」(写真)、「スペインのオードブルバリエ」「サワークリームのガトーとオレンジのタルト」が並ぶ特別メニュー「太陽の食卓」(2810円)。メインは「ブイヤベース ガーリックトースト添え」も選択可

メインディッシュの「仔牛のロティ オリーブとバジルのソースと共に」(写真)、「スペインのオードブルバリエ」「サワークリームのガトーとオレンジのタルト」が並ぶ特別メニュー「太陽の食卓」(2810円)。メインは「ブイヤベース ガーリックトースト添え」も選択可

展覧会オリジナルグッズも充実

展覧会オリジナルグッズも充実

イラストレーターSAYORI WADAが手がけたピカソ&シャガールのオリジナルロゴのスタンプ。手帳などに押して旅の思い出に

イラストレーターSAYORI WADAが手がけたピカソ&シャガールのオリジナルロゴのスタンプ。手帳などに押して旅の思い出に

本展は3月から9月まで約半年の長期にわたって開催されているので、展覧会目的で訪れるのはもちろん、ゴールデンウィークや夏休みなどの箱根旅行をきっかけにして訪れてみるのもいいだろう。期間中は館内のレストランで本展をイメージした特別メニューも提供されていて旅先のランチにもおすすめだ。ピカソとシャガールという過去にない切り口の展覧会は新しい発見も多いはず。ぜひ訪れてみてほしい。

イベント情報
ピカソとシャガール 愛と平和の讃歌

開催期間:2017年3月18日(土)〜9月24日(日)
開館時間:午前9時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
※会期中無休。ただし展示替えのため、5月12日(金)は一部休室。6月21日(水)は企画展示室のみ休室
会場:ポーラ美術館(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)
入場料:大人1800円、大学・高校生1300円、中学・小学生700円、シニア(65歳以上)1600円
問い合わせ:0460-84-2111
公式サイト:http://www.polamuseum.or.jp
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