スターダンサーズ・バレエ団「バランシンからフォーサイスへ」/世界の潮流を「見たまま」感じる公演

インタビュー
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2017.3.22
バランシン「ウェスタン・シンフォニー」  ⒸTakeshi Shioya〈A.I〉

バランシン「ウェスタン・シンフォニー」 ⒸTakeshi Shioya〈A.I〉


3月25日(土)・26日(日)にスターダンサーズ・バレエ団公演「バランシンからフォーサイスへ 近代・現代バレエ傑作集」が上演される。演目はジョージ・バランシン「セレナーデ」と「ウェスタン・シンフォニー」、そして日本のバレエ団としては初演となるウィリアム・フォーサイスの「N.N.N.N.」の3作品だ。

公演を控えたバレエ団の稽古場の様子と、今回のトリプルビル上演に当たりスターダンサーズ・バレエ団小山久美総監督に公演の見どころを聞いた。

■緊張感あふれるリハーサル現場

当日訪れた稽古場ではバランシン・トラストから派遣された指導者ベン・ヒューズ氏による「ウェスタン・シンフォニー」のリハーサルの真っ最中。音楽に合わせてダンサー達が踊るなか、ヒューズ氏の「もっと頭を上げて!」「顔の向きに注意!」などの声が響く。時には自ら立ち上がり振りを見せたり、男性ダンサーにリフトの際の女性の身体に手を添える位置など、細かい動きを修正していく。出番を待つダンサー達の中にはヒューズ氏の動きや言葉に耳を傾けながら、自分の振りを確認する者もおり、数々の瞬間の積み重ねが舞台をつくっていくのだと改めて思わされる。稽古場に漲る空気は真剣で緊張感が漲り、カメラのシャッターの音を響かせるのもはばかられるほどだ。

そしてその様子を、ヒューズ氏のうしろから見つめる小山総監督は、一言も発することなくじっと見守る。その視線には、ヒューズ氏や現場スタッフへの信頼が感じられるし、総監督としての厳しくも温かみのある眼差しが感じられる。

「ウェスタン・シンフォニー」リハーサル 撮影:西原朋未

「ウェスタン・シンフォニー」リハーサル  撮影:西原朋未

■衝撃の「N.N.N.N.」を10数年越しで上演

この「ウェスタン・シンフォニー」のリハーサルの前には、日本のバレエ団としては初演となる「N.N.N.N.」のリハーサルも行われていた。元ザ・フォーサイス・カンパニーのダンサーとして活躍された安藤洋子氏と島地保武氏による男性ダンサー4人への指導は「実際にこの作品を踊っていたダンサーの視線からの指導なので、言われることがとてもわかりやすい」と小山総監督は話す。

このフォーサイスの「N.N.N.N.」を総監督が上演したいと思ったのは2004年、ザ・フォーサイス・カンパニーの前身となるフランクフルトバレエ団のメンバーによる来日公演でこの作品を見たときだ。「とにかく衝撃的。ぜひこの作品をスターダンサーズ・バレエ団でも上演したいと、申し入れた」が、当時は叶わなかった。フォーサイス氏が、この作品は自分のカンパニーだけにとどめておきたいと考えていたためだ。しかし2015年、ザ・フォーサイス・カンパニーの解散を経て、再び打診したところ許可を得られたという。いわば10数年越しの念願がかなっての上演だ。

小山久美総監督

小山久美総監督

■コンテンポラリーを踊ることで古典の表現の幅も広がる

そもそもスターダンサーズ・バレエ団の立ち上げには近代や現代の作品が大きくかかわっている。1965年、前代表の太刀川瑠璃氏がニューヨークの現代振付家、アントニー・チューダー氏を招き「スターダンサーズによるチューダー・バレエ特別公演」を行ったことがきっかけだ。これを機にスターダンサーズ・バレエ団が結成され、以後バレエ団は現代の新しい作品を取り入れること、ダンサーを育成し、新しいバレエを創り出す振付家を育てることを柱として、現代作品と古典作品の双方を幅広く取り入れながら、活動を続けてきた。

そうした歴史と伝統を持つバレエ団だからこそ、コンテンポラリーと古典の双方の上演は、「バレエ団として当たり前のこと」という。確かに日本の観客には全幕物のバレエが好まれる傾向にはあるが、「ダンサーにとっては古典やコンテンポラリーなど、いろいろな作品を踊ることでレベルが上がる。バレエの技術は、あくまでもそれを使って表現するためにある。現代作品を踊ることで新しい表現にふれ、その結果古典の表現の幅も広がる」という。

また2015年9月創立50周年公演「オール・チューダー・プログラム」を上演した際、観客の反応も変わってきたという。「50年前は観客動員にとても苦労したが、2015年公演はおかげさまで好評を得た。『以前はわからなかったが、今回は人生経験に重ねて観られた』という感想をいただき、大事なのは続けることだと手応えを感じた」と話す。

バランシン「セレナーデ」 ⒸYukino Okazaki〈A.I Co.,Ltd〉

バランシン「セレナーデ」 ⒸYukino Okazaki〈A.I Co.,Ltd〉

■バランシンの2作品は「美しさ」と「陽気な楽しさ」

今回のトリプリビルではジョージ・バランシンの作品「セレナ―デ」(1935年)、「ウェスタン・シンフォニー」(1954年)という、年代とタイプの違った2作品も上演される。バレエ団では「セレナーデ」は2008年、「ウェスタン・シンフォニー」は2012年に上演しているが「メンバーが半分くらい変わっている。フレッシュなメンバーでお届けすることになる」そうだ。

まず「セレナ―デ」(1935年)はチャイコフスキーの音楽に乗せて踊られる作品で、「クラシックバレエに近いバランシンの初期作で、身体の動きや表現、曲の美しい世界を感じてほしい」。

一方「ウェスタン・シンフォニー」(1954年)はアメリカ西部をテーマとした、カウボーイとカウガールたちが繰り広げる明るい作品。アメリカに移りニューヨークシティバレエを立ち上げたバランシンの、「アメリカへの愛情があふれている。陽気で楽しい世界を楽しんで」。

ウェスタン・シンフォニー 撮影:西原朋未

ウェスタン・シンフォニー 撮影:西原朋未

■見たままを楽しみたい「N.N.N.N.」

また「N.N.N.N.」はバランシン作品とはがらりと雰囲気が違い、「なにこれ?どうなっているの?」という世界が繰り広げられる……らしい。「見たまま、新しい世界に触れる心地よさを楽しんでほしい」。日本人は根が生真面目なのか、つい理解しよう、わかろうとしがちだが、「舞台を見ているときはそういう堅苦しさから解き放たれてください」とも。自由に、気楽に見たままを楽しんでいいのである。ホッとする言葉だ。

小山総監督は「これからも世界の潮流を見据え、現代作と古典やお客様の好み、バレエ団の目指す方向など、バランスを取りながら、その流れに乗り損ねることなく、舞台を上演していきたい」と話す。公演は25日・26日の2日間。各公演前のプレトークでは作品についての解説が行われるので、こちらも聞いておくとより楽しめるだろう。バリエーション豊かな3作品の世界に、気楽に、触れてみたい。

フォーサイス「N.N.N.N.」 日本のバレエ団初演 ⒸDominik Mentzos

フォーサイス「N.N.N.N.」 日本のバレエ団初演 ⒸDominik Mentzos

公演情報
スターダンサーズ・バレエ団「バランシンからフォーサイスへ」
 
■日時:
3月25日(土)18:00~/プレトーク:17:40~
3月26日(日)15:00~/プレトーク:14:40~
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
 
出演:スターダンサーズ・バレエ団
 
「セレナーデ」
3月25日:渡辺恭子、金子紗也、久保田小百合
3月26日:林ゆりえ、渡辺恭子、喜入依里
大野大輔、宮司知英 ほか
「N.N.N.N」
友杉洋之、川島治、吉瀬智弘、愛澤佑樹

 
「ウェスタン・シンフォニー」
第1楽章:25日 林ゆりえ、吉瀬智弘/26日 渡辺恭子、加地暢文
第2楽章:25日 渡辺恭子、加藤大和/26日 林ゆりえ、吉瀬智弘
第3楽章:25日 鈴木就子、関口 啓/26日 池尻奈央、安西健塁
第4楽章:25日 喜入依里、安西健塁/26日 西原友衣菜、加藤大和 ほか

■公式サイト:http://www.sdballet.com/performance/1703_modern.html

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