秦 基博が念願の舞台・横浜スタジアムで歌い、鳴らした、“音楽”と“繋がり”

レポート
音楽
2017.5.16
秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

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HATA MOTOHIRO 10th Anniversary LIVE AT YOKOHAMA STADIUM 2017.5.4 横浜スタジアム

昨年11月8日にデビュー10周年を迎えた秦 基博のアニバーサリーライブ。終盤のMCでは「音楽を通して自分の想像以上の“繋がり”をもらった」と語っていたが、この日はまさにその二点――秦 基博というシンガーソングライターのミュージシャンシップと、“今ここに集まった人たちと幸福な時間を共有したい”という気持ち――がそのまま表れたようなライブだった。この日の会場は横浜スタジアム。途中のコーナーで小学生の頃、みなとみらいに遠足に行った際の写真を公開する場面もあったように、地元・横浜で育った秦。少年野球の開会式や野球部の応援などで度々訪れたことがあったり、アマチュア時代にはスタジアムの側を通って当時出演していたライブハウスに通ったりと、横浜スタジアムは「いつかここでライブがしてみたい」という思いを抱いていた特別な場所だった。そんな念願が叶って立つことになったステージだからこそ、そのような空間が生まれたのだろう。

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

さらにここ最近では、2007年にリリースしたミニアルバム『僕らをつなぐもの』収録曲の「青」が横浜DeNAベイスターズの2016シーズン球団公式ドキュメンタリー『FOR REAL-ベイスターズ、クライマックスへの真実。-』に選ばれ、今シーズンの本拠地開幕戦で披露するなど、ベイスターズとの関係性も深まっている秦。実際この日は物販でベイスターズとコラボしたグッズも販売されていて、それを身につけたファンも大勢いたわけだが、この日のオープニングもハマスタならではのユーモアが効いていた。定刻の17時になると、「All Stars Pieces、スターティングメンバーの発表です」とウグイス嬢がアナウンスし、バンドメンバー(あらきゆうこ(Dr)、鈴木正人(Ba)、弓木英梨乃(Gt)、皆川真人(Key))が、そして「四番・ピッチャー……失礼しました。ボーカル&ギター、秦 基博」というアナウンス後、秦が入場したのだ。第一部は「All Stars Pieces」と題したバンド編成。サポートメンバーは昨年の『青の光景』ツアー以降ライブを共にしてきたミュージシャンたちだが、秦含め、全員お揃いのユニフォーム姿である。セッションを経て、1曲目「今日もきっと」へ。夕方とはいえ季節はもう初夏。西から日光を直に浴びる客席を気遣いつつ、「日差しに気をつけながら最後までゆっくりと音楽に浸ってください」と呼びかけていた。

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

さて、ここから先は“音楽”と“繋がり”という観点で話を進めていきたい。まずは“繋がり”の話。<幾度も巡る>の部分を数回繰り返してからブレイクを挟んで次に進む、というアレンジに意表をつかれた「キミ、メグル、ボク」の間奏では秦がギターを置き、客席に向けてバズーカやガトリングガンを発射。サイン入りボール&Tシャツをプレゼントするサプライズがあった。そしてその後も“ファン感謝祭”的な演出が続く。まず、この日グッズとして販売されていたパンフレットの撮影時に自らが座ったシートを“ラッキーシート”とし、そこのチケットを持っていたオーディエンスに記念写真をプレゼント(スクリーンをフォトフレームに見立てその場で撮影。終演後本人がブースに受け取りに行く形式)。その際「このあとも不意に撮りますからね」と言っていた通り、「スプリングハズカム」の曲中で同じように客席の撮影が行われた。さらに「スミレ」では、ダンスのレクチャーをするべく、ベイスターズの公式キャラクター・DB.スターマン&DB.キララも登場。2万5千人が揃って振り付けを楽しむなか、「広くて向こうの方までチェックできないから、みんなの近くに行きます!」と秦はリリーフカー(ご丁寧にマイクスタンド設置済み)に乗ってグラウンドをぐるっと一周。スタンド席のファンが彼へ手を振る姿を見ていたら微笑ましい気持ちになったが、会場の奥の方まで見渡す秦もまた穏やかな笑顔を浮かべていた。

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

また、演奏面について触れておくと、6~8曲目で曲ごとにサポートメンバーの組み合わせを変えていたのが印象的だった。皆川のピアノと秦の歌のみという二重奏で届けられたのは「水彩の月 」。<光のプールに沈み込む>という表現に沿うように日が傾いていく情景が美しかった「プール」はそこに弓木も加わった三重奏で。「青」はこの曲のサウンドプロデューサーでもある鈴木のウッドベース、あらきのパーカッション、そして秦というレコーディング当時と同じ編成で演奏された。そして9曲目「Halation」以降は、追加メンバーとして、昨年のアリーナツアーでもサポートを務めた“All Stars Pieces Strings”(佐藤帆乃佳ストリングス)が登場。バンドにダブルカルテット(弦楽八重奏)を加えた計13名(秦含む)の大所帯編成となり、荘厳かつ贅沢なサウンドに変貌した。

元々、秦 基博は、曲の中で強く主張をするのではなく、自身の想いをそこに滲ませることによって、聴き手の心を静かに揺らし続けてきたように思う。そういう性格によるところもあるのだろうか、第一部では、オーディエンスを楽しませるための演出やサポートメンバーの職人的なすごさを際立たせる場面が目立った。そして約25分に及ぶインターバル(その間にはファンからのメッセージがずっとスクリーンに映されていた)を経て、第二部は「GREEN MIND」へ。ここで改めて説明させていただくと、「GREEN MIND」とは彼の原点である弾き語りに根ざしたアコースティック形式でのライブのこと。2008年の初演以来シリーズ展開され、ファンからの人気も高いライブのスタイルであり、冒頭に書いたように秦にとってのライフワークといえるだろう。つまり、シンガーソングライター・秦 基博の真骨頂といっても差し支えないわけだが、そこでも彼は自己本位的な表現をすることはない。会場から手拍子の音が聞こえれば「見ての通りステージ上に一人ですから、そういうのありがたいです」と柔らかく笑うのだ。

そういう意味で象徴的だったのが、18曲目「嘘」のあとに放映された、設営スタッフやサポートメンバーなど彼を支える周囲の人の仕事にクローズアップし“秦 基博がこのステージに立つまで”を伝えたムービーと、その直後に披露された未発表曲だ。この日秦は「(ステージに)立たせてもらっている」や「みんなのおかげで」という言葉を頻繁に口にしていたが、そこにはやはり“音楽が繋がりをもたらした”という彼自身の実感があるように思える。それはライブにもそのまま表れていて、例えば、原曲よりキーとテンポを落とし、シンコペーションのリズムを活かした柔らかなテイスト(本人曰くボサノヴァバージョン)になったデビュー曲「シンクロ」。左手でエレキギターを、右手でフロアタムを鳴らし、ループマシンでそれらの音を重ねていった「嘘」。ストリングスを迎えた編成での「Dear Mr.Tomorrow」「風景」「グッバイ・アイザック」――とアコースティックと一口に言ってもその表現方法は多種多様。趣向を凝らしたアプローチからはミュージシャンとしての探究心を読み取ることができた。

日もすっかり落ちて肌寒くなり、頭上に広がる空はすっかり藍色に。一秒が永遠のように感じられるような聴き手にとっても至福の時間が続くなか、いよいよ本編も終盤に差し掛かり、「ここから一人で最後まで行くので一緒に楽しみましょう!」と「Q & A 」以降は再び一人きりでの演奏に戻った。彼がバラードを唄い始めるとオーディエンスが一気に静まり返るのは、その余白や休符、ブレスさえも聴き逃すまいという気持ちが自然と働くから。そうして10年間磨き続けてきた歌が最高の輝きを放つなかで届けられたのは、「朝が来る前に」、映像作家・島田大介によるひまわり畑のプロジェクションマッピングがバックスタンド席に映される中でオーディエンスと合唱した「ひまわりの約束」、そして「これから先もみんなの元に歌を届けにいきたい」という言葉のあとに届けられた「鱗(うろこ)」。つまりどれも、11年目以降の聴き手との“繋がり”を願う歌ばかり。10年間抱き続けてきた想いが滲み出たようなこのラスト3曲はとにかく素晴らしかった。

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

そしてアンコールでは、幼い頃は野球選手になるのが夢だったことを明かし、「本来は野球選手としてここに立つ予定だったんですけど(笑)、何の因果か、みんなのおかげでミュージシャンとして今日ここに立つことができました」と「月に向かって打て」を演奏。「音楽を通して自分の想像以上の繋がりをもらった」「ここにいるみんなの存在をもっともっと感じたい」とオーディエンスにスマホのライトを点けるよう促し、その光の中で「70億のピース」を唄い上げた。ここまで書いてきたように、秦 基博は「俺の音楽を聴いてくれ!」と声高にシャウトするようなタイプの人ではないし、言ってしまえば自分が主役のバースデーパーティーのような、記念すべきこの大舞台の上ですら自分以外の人のことを大切にするような人である。そんな彼が時代の流れや人の生活と向き合いながら紡ぎ出した音楽は、多くの人の人生に優しく寄り添うものとなった。そしてだからこそ、会場にいたみんながまるで彼にプレゼントを渡すように、ステージ上から絶景を見てもらうためにスマホのライトを灯したのだろう。ここ最近ではもう定番化してきた演出ではあるが、それでも感動的だったのは、互いに対する愛情がそこにあったからだろう。

ポテンヒットでもなく、場外ホームランでもない。横浜スタジアムの上空を悠々と羽ばたいた秦の歌声は、聴き手と彼を繋ぐように、そして10周年の現在地とこれから先の未来を繋ぐように、いくつもの放物線を描き続けた。


取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Kayoko Yamamoto

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

秦 基博 撮影=Kayoko Yamamoto

セットリスト
HATA MOTOHIRO 10th Anniversary LIVE AT YOKOHAMA STADIUM 2017.5.4  横浜スタジアム
第一部【All Stars Pieces】
1. 今日もきっと
2. SEA
3. キミ、メグル、ボク
4. Girl
5. 虹が消えた日
6. 水彩の月 
7. プール
8. 青
9. Halation
10. 花咲きポプラ 
11. スミレ
12. スプリングハズカム
13. 言ノ葉
14. 水無月
第二部【GREEN MIND】
15. アイ
16. シンクロ
17. Sally
18. 嘘
~Movie~ Theme of GREEN MIND
19. 未発表曲(タイトル未定)
20. Dear Mr.Tomorrow
21. 風景 
22. グッバイ・アイザック
23. Q & A 
24. 透明だった世界
25. 朝が来る前に
26. ひまわりの約束
27. 鱗(うろこ)
[ENCORE]
28. 月に向かって打て
29. 70億のピース
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