千聖(PENICILLIN,Crack 6)ソロ20周年で振り返る20年間の四方山
千聖
こんな楽しい音が聴けるとは、長生きはするものだ。PENICILLINのギタリスト、Crack 6のボーカル&ギターとして活躍する千聖が、ソロ活動をスタートしたのは1996年9月のこと。しかしながら実質的にはわずか3年の間にリリースした9枚のシングル、2枚のアルバム、1枚のミニアルバムの中から代表曲をピックアップし、全曲新録音を試みたのが、20周年記念ベスト『Can you rock?!』。当時を知るミュージシャンを含め、豪華メンバーが集結した充実の内容は、まさにメモリアルな金字塔。しみじみ、ワクワク、聴いてほしい。
時代を感じたり古臭さを感じなかった。むしろ“良くできてるな”と思うことのほうが多かったので、やることを一生懸命やった証の一つだと思います。
――お久しぶりでございます。お元気そうで何より。
懐かしいですね。取材とか、マジ久々じゃないですか?
――というか、初じゃないですかね。PENICILLINのデビュー当時は、僕はスタッフ側にいましたから。それはさておき、ソロデビュー20周年ということで、久々に徳間ジャパンに帰還したのはうれしい驚きでしたよ。ちなみに当時のスタッフって、何人か残ってました?
僕が存じ上げてる方は、ほとんどいらっしゃらないですね。別のレコード会社や別な業態で再会した方はいたりしますけど。面白いですね。長くやってるといろんなことがあります。
――今回のベストアルバムに寄せた千聖くんのコメントに、“あれからいろいろありましたが”っていうフレーズがあって。簡単に言ってるけど、“あれからいろいろありましたが”の中に、本当にいろいろあったよなあとか思ったり。
だって、簡単に言わないと、長くなりすぎちゃうから(笑)。箇条書きにしたって、100項目以上はありますよ。いろいろありすぎて、とにかくその中で……今回のベストアルバムは僕の20代のバイブルみたいなもので、25歳から29歳ぐらいまでのソロプロジェクトだったんで。音楽的な部分ではPENICILLINも強いですけど、こっちはパーソナルな部分がすごく強いし、しかも外部との接触の多い、今でいうコラボレーションの企画が強いソロプロジェクトだったんですよね。
――そうでしたね。
96年の3月にPENICILLINがデビューして、9月にソロデビューするんですよ。要は、アーティストの展開としては、訳がわかんないんですよね。
――あはは。自分で言う。
バンドやってて、ソロでもやって、よくわかんないって当時言われてましたから。そもそも徳間ジャパンさんが「千聖くんをやりたい」と手を挙げてくれて、だったらやってみようということだったんですけど、PENICILLINとは違うものをやってほしいという意向が僕よりも強かったんで、それは面白いなと。バンドというスタイルよりも、いろんな人とコラボレーションして、ハードなロック畑のプロデューサーだった重盛(美晴)さんだけじゃなくて、T2yaっていう、今でいうデジロックのプロデューサーをくっつけたりして、ジャングルビートに僕のギターを乗っけちゃうとか、こんなことできるの?っていうことをたくさんやって。
――やってましたねえ。
今なら簡単にできますけど、当時は珍しすぎて、パソコンで全部作るの?っていうノリだったんですよ。
――早かったですよね。
最初、理解されなかったですもん。「ロックっぽくない」とか言われて、「え? ギター、ガンガン入れてますけど?」みたいな。ファンというよりは、業界の人によく言われましたね。ライターさんとか。「もっとバンドを大切にしろ」とか言われたり(笑)。逆に面白がってくれる人もいたし、いろんな人にいろんなことを言われましたね。そもそも、ソロで何をするんだろう?というのがあったみたいで。
――ですよね。
歌もちゃんと歌ったことなかったし。とりあえずやってみようという感じでしたね。結果、ジャンルが全然違う人同士でやると面白いものができるということが、よくわかったんで。いい勉強になりましたね。バンドになると、良い意味でもメンバー同士の呼吸だけだから、当たり前だけど当たり前じゃない、ということが当人達はよくわかってなかったり。いるのが当たり前的な。
――ああ~。
だから、ソロはバンドとは全然違う。PENICILLINは少人数制のアプローチが多いんですけど、千聖のソロはハードなデジロックを基本にいろんな人が関わってるビッグバンドみたいな、コーラスの女性がいたり、キーボードがいたり、ベースがいたりドラムがいたり、いろんな人がいる楽しみがあったので。面白かったですね。
――ちょっと前だと、hideさんとか、もう少し前だと布袋寅泰さんとか。バンドから離れて、ソロで活躍するギタリストの先輩というのは、少数ながらもいましたよね。
それがあったから、できたんだと思います。その人たちがいなかったら、本当に理解されなかったと思う。しか自分の場合は、hideさんや布袋さんと違って、PENICILLIN自体が、まだ全国区になってなかったと思うし。だからよく雑誌で“ex. PENICILLIN”って書かれたりとか。
――あはは。辞めてないって。
たぶんhideさんだけなんですよ。バンドをやりながらソロをやっていたというのは。布袋さんは、基本BOφWYがなくなってたからだったと思うし。僕のあとぐらいから、バンドをやりながらソロもやるというスタンスがけっこう増えると思うんですけど、ボーカルじゃない人が。
――実質、3年ぐらいですよね。千聖のソロ名義としては。
そうですね。96年にシングル3枚とアルバムを出して、そこから半年〜1年あいて「VENUS」「LOVE~lost in the pain~」、98年に「KICK!」を出すんですけど、実はそこまでは一気に作っていて。「VENUS」と「KICK!」のどっちを先に出すか、迷ったぐらいなんですけど、その時期にPENICILLINの「ロマンス」が売れて全国区になり……そこで活動を止めたんですよ。99年に出す「CYBER ROSE」も「WAKE UP!」もほとんど作り上げてたんですが、一回PENICILLIN に専念させてもらって、途中で一度休止。それもあって2ndアルバムができるまでに2年近くかかってるんですね。その次のミニアルバム『SURF SIDE ATTACK!』は、武道館をやるためにも別な新しい展開が欲しくて作った作品です。そのあと、2000年のラスベガス公演で実質上のソロ活動はほとんどやってないと思います。
千聖
――ソロ活動は期間限定と、決めてたんですか。
いや、なんとなく、バンドに専念しないといけないなと思った時期だったんですよ。あとソロのほうも、ガンガンやるのは良いけど、闇雲にやると方向を見失い始めるから、そういうことは避けたいなと思ったので。1stアルバム、2ndアルバムは、いいものができたという実感が自分の中であって、1stは誰でも目新しく聴いてくれると思うんですけど、2ndに対するプレッシャーと、新しいことをしなきゃいけないという気負いがあって、2年間もかけて作っちゃったから、おいそれと次は出せないし。体調も、2ndを作る時にちょっと崩しちゃったこともあって、精神的にも肉体的にも疲れたんでしょうね。そのあと頑張って『SURF SIDE ATTACK!』を作ったんですけど、しばらく休みたかったのは確かかもしれない。それと、もう一回バンドやソロを客観的に見つめ直したいということもあったので。
――はい。なるほど。
そのあと、2003年6月からCrack 6という別のソロプロジェクトも始まったので、ソロもそっちにシフトチェンジして、もう15年ぐらい経つんですけど。それで今回ソロデビュー20周年の話があって、あらためて見直してみようかなと思って、全曲録り直しました。それなら面白いからやりますって。当時のアルバムに参加してくれた人たちも、何人か入っているし、そのあとに知り合った人たちとも一緒にやっているし、いろんなコラボレーションができてよかったと思います。
――それこそ、コーラスの岡本真夜さんとか、20年ぶりでしょう。
岡本真夜さんは当時、徳間ジャパンのトップアーティストで。「falling over you」というバラードを1stアルバムのための作った曲だったんですけど、レコード会社が非常に気に入ってくれて、3rdシングルとして出しましょうということになって、岡本真夜さんにコーラスを入れてもらおうと思うんだけど、どう?って聞かれて(笑)。そんな贅沢なことをしてくれるんだったら、ぜひお願いしますということで。真夜さんに歌ってもらい、ご本人も曲を気に入っていただいて、それはすごくうれしかったですね。で、今回も真夜さんに連絡を取って、「録り直すんで、やってもらえますか?」と言ったら、やってくれることになって。
――うれしいですねえ。
ほかにも、30代になってから知り合ったBULL ZEICHEN 88という、SIAM SHADEのドラムの淳士くんのバンドのベーシストのIKUOくんに「666」という曲で超絶のスラップを弾いてもらったりとか。「666」の間奏の英語のナレーションは鮎貝(健)くんですね。あと、La'cryma ChristiのLEVINちゃんにも、2曲叩いてもらってます。O-JIROくんも、ソロの時にはあんまり関わってなかったんですけど、今回はドラムだけじゃなくプロデューサーとしても一緒にいてくれたし。10代、20代、30代、40代で知り合った人が、全部つながった感じです。それと昨日、ちょうど新曲の「Can you rock?!」のミュージックビデオを撮ったんですけど、インラインスケートのプロライダーたちと久々に共演したんですよね。99年に出した「電撃ミサイル2000」というシングルの時に、ミュージックビデオと、そのあとやった武道館の時に、ハーフパイプを作って、インラインスケートのプロライダーたちに跳んでもらったんですよ。その時の選手の中に世界チャンピオンだった伊藤千秋くんもいたんですが、今回は彼に連絡を直接取って、千秋くんと、後輩のライダーに頼んで跳んでもらった映像が撮れました。そういう、当時の人たちを呼んで、新曲に参加してもらうというコラボレーションができたのも、きれいな流れだなと思いますね。過去と未来とのコラボというか、長くやってるとこういうことができるというのが、面白いところですね。
――まさに。楽曲そのものは、今聴くと、やっぱり若い感じがしますか。
昔の曲を今録り直して聴くぶんには、何も抵抗はないけど、1stアルバムの曲は、やっぱり歌が気になりますね。初めてだったし、自分はどんな歌が歌えるんだ?という模索から始まっているので。何年か経ったあとに、こうしておけばよかったなと思うことは確かにあったんですけど、今回歌い直してみて、あれはあれでよかったなと思うようにはなりました。すごく元気だし、楽しそうだし、ワクワク感が声ににじみ出ちゃってるから。今は慣れてるから“あれ?”って思って、最初に歌い直したものを聞き直して、さらにもう一回歌い直したんですよ。1stアルバムの中の作品は、そういう怖さがありますね。油断してると、歌声がハツラツとしてるから過去に負けちゃう。
――ああ~。
だからあえて元気よく歌ってる曲が多いです。で、ギターは格段に、今のほうがうまいですね。自分でもかっこいいなと思う(笑)。当時は表現しきれなかったことが全部できたんで、ギターは進化するんだなと。ボーカルも進化してるんですけど、ちょっと違うんですよね。1stはすごい元気で勢いがあって、2ndは2ndで技術的にも明らかに上手くなってるんで、それをどうやって超えればいいんだ?というのもあって。面白かったのは、「Millennium」という曲があるんですけど、オリジナルは今聴いてもかなりいいんですよ。ツイッターのファンの反応で、「千聖さん、これを超えられますかね?」って書かれた時に、「よく聴いてるなぁ〜ごまかせないなぁ〜」と思った(笑)。確かに難しいなと思ったけど、過去は過去で、今は今の良さを出すしかないから、変に勝とうとすると、逆に負けるんで。今の自分の良さを出すしかない。そうやって歌い直したものを並べて聴けるのは、すごく贅沢なことだと思います。
――演奏も、格段にブラッシュアップはしてるけど、アレンジは基本的に変えていないような。
印象はほぼ変わらないと思います。「LOVE」という曲以外は。ここはこっちのほうがいいだろうな、というところは少し変えてますけど。リアレンジしすぎると、ファンの人たちが望んでない音や展開が出てきて、それこそみんなが望むベストじゃなくなっちゃうのは避けたかったんですよ。まあでも声が違うので、特に1stアルバムの曲はかなり違って聴こえるかもしれない。
――では久々の千聖名義の新曲「Can you rock?!」について。曲の作り方そのものは、いつもと変わらないですか。
うん。ただアレンジを、いつもだと重盛さんやO-JIROくんたちと一緒に作るんですけど、今回は山田巧くんという人に、当時で言うT2yaのような役割をやってもらってます。最近知り合ったんですけど、そういう人が今の時代は増えたし、彼に振ったら面白いものが返ってきたから、これで行こうと。常に実験はしてるんですよ、未だに。いろんな人たちとコラボレーションをしている。
――そのスピリットは、今も受け継がれている。
面白くないと、やってる意味がないんで。過去の作品もそうですけど、「Can you rock?!」は完全にそうですね。今でも新曲を作る時はワクワクするし、昨日ミュージックビデオを撮ってる時も、自分でかっこいいな、すげえなと思ったし。生きてるとこんなにすごいことができるんだなって、自画自賛してましたね。自分がすごいなって。
――素晴らしい。でね、今日一番聞きたかったことは、いろんなことがありましたけど、ここまで続けてこれた理由や動機は何なのか?ということなんですけど。
正直な話、自分じゃ何もしてないですよ。
――そんなことはないけれど。
基本的には、曲を作って、こういう感じでやりたいと言ってるだけなんですけど。それに対して「それより、こういうのはどうだ?」とか言われたり、いろいろ揉まれた時期もあったし、こっちにもプレッシャーがあったし、スタッフにもプレッシャーがあったかもしれないし、いろんな場面を経て作品ができあがっていくんだなと。流れ作業で作れてしまう場合もあるんですけど、千聖ソロはそうじゃなくて、七転八倒して作っていることが多いので、それが面白かったのかな。
――七転八倒ですか。
イントロ8小節作るのに、6時間かけたりとか。相当面倒な奴だったと思いますよ、当時の自分は。
――あはは。そうなの?
相当トンガってたし、重盛さんもT2yaも、あの当時の僕とやってて大変だったと思う。「これ違うよね?」とか言い出したら、けっこう大変でした。でもそれだけ必死だったんですよ。バンドのスタンスとは相当違ったと思います。それを両方経験しているのが、良かったのかもしれない。何も思い入れがなく作っちゃうと、いくら売れてもあんまり面白くなかったりするんですけど、ものすごい思い入れで作ったりすると、反応が良いと本当嬉しいし、悪いとものすごくがっかりしたり(笑)。共感してくれる人がいると、それは本当すごくうれしかったですね。当たり前といえば当たり前ですけど、精神的なものは影響を与えるんだなと思いますね。
――間違いないですね。
20年経って聴いてみて、時代を感じたり古臭さを感じなかったのは、そういうことかなと。むしろ“良くできてるな”と思うことのほうが多かったので、やることを一生懸命やった、証の一つだと思います。
取材・文=宮本英夫
2017年6月7日(水) 発売
【初回限定盤】CD+フォトブック TKCA-74513 ¥4.000+税
初回盤
通常盤
<収録曲>
1. Can you Rock?! (新曲)
2. VENUS ~XX ver.~
3. 電撃ミサイル2000 ~XX ver.~
4. CYBER ROSE ~XX ver.~
5. kissin' the moonlight ~XX ver.~
6. LOVE ~lost in the pain~ ~XX ver.~
7. Millennium ~XX ver.~
8. 666 ~XX ver.~
9. Shadow ~XX ver.~
10. falling over you ~XX ver.~
11. WAKE UP! ~XX ver.~
12. 電脳遊戯 ~XX ver.~
13. KICK! ~XX ver.~
14. DANCE WITH THE WILD THINGS ~XX ver.~
15. This Side Of Paradise ~XX ver.~
16. LAST TEARS ~XX ver.~(ボーナストラック/通常盤のみ収録)
千聖〜CHISATO〜 20th ANNIVERSARY BEST ALBUM リリースTOUR
& Crack6 ワンマンTOUR 2017「千聖 vs Crack6 TOUR 2017 Can you Rock?!」
17.6/18(日) SHIBUYA REX [??? DAY] <CLUB NEO 限定LIVE>
17.6/24(土) 名古屋 ell. FITS ALL [千聖 DAY]
17.6/25(日) 名古屋 ell SIZE [Crack6 DAY]
17.7/1(土) 江坂 MUSE [千聖 DAY]
17.7/2(日) 大阪 RUIDO [Crack6 DAY]
17.7/8(土) 新宿 ReNY [千聖 DAY] “TOUR FINAL”
17.7/9(日) 渋谷 TSUTAYA O-WEST [Crack6 DAY] “TOUR FINAL”
17.8/19(土) CLUB CITTA’川崎
OPEN 15:30 / START 16:00
【出演】
千聖(from PENICILLIN、Crack6) / ALvino / THE MICRO HEAD 4N’S /星野 卓也(司会)
ゲスト:森重樹一(ZIGGY)
【】
全指定席/前売券¥6,000(D別)
Crazy Monsters HALLOWEEN PARTY 2017