主演・加藤和樹が兵庫で語る、サスペンス会話劇『罠』の”怖さ”~人間不信になること間違いなし…!? 

インタビュー
舞台
2017.6.23
『罠』合同取材会にて(撮影/石橋法子)

『罠』合同取材会にて(撮影/石橋法子)


新婚まもなく失踪した妻が、全くの別人となって帰って来たーーー。物語が進むほどにじわじわと恐怖が押し寄せる、男女6人の傑作サスペンス劇『罠』が上演される。1960年にフランスの劇作家ロベール・トマが書き下ろした本作で加藤和樹が、09年、翌10年に引き続き7年ぶり3度目の主演を務める。「ここまで全身全霊で挑める役柄はない!」と、兵庫県立芸術文化センターで行われた合同取材会で思いを語った。

「って、ことは…と全部の”罠”を知った上で、また観返したくなる作品です

ーー妻の失踪事件の真相に迫る夫ダニエル役を演じた2009年上演の『罠』が、加藤さんにとって初の主演舞台でした。

加藤和樹

加藤和樹

やはり自分のなかで特別な作品になっています。ドラマがぎゅっと濃縮された2時間ノンストップのサスペンス劇で、僕が演じるダニエルはほぼ出ずっぱり。台詞量も膨大で精神的に追い詰められる役どころだったので、最後は本当に人間不信になってしまいました(笑)。そもそも役者は自分ではない誰かを演じている時点でひとつの”嘘”をついている。騙し合いの稽古を進めていくうちに、もう何が真実で何が嘘なのかよく分からなくなってきちゃって。そういう精神状態に陥ったときに、「これがダニエルの心情なのかな」と思いました。それほど自分と役との境がなくなるような役だったので、またあの境地にまでいけたら新たに見えてくるものもあるのかなと思います。

加藤和樹

加藤和樹

ーー公演を終えた直後は、いろいろと”弊害”があったようですね。

周囲から言われることが全部嘘なんじゃないかと、あまり人の目を見れなくなった瞬間がありました。「きっと心のなかでは別のことを思っているんだろうな」とか、完全に被害妄想なんですけど(笑)。道を歩いていても人が信じられなくなるほどふさぎ込んだり。結構普段から人を騙すよりは騙されるタイプで、友人からのサプライズも何で気づかないんだ!っていうくらい毎回驚かされる。こうしなさいと言われたら「はい」と素直に従う性格なので、素直といえばそうだけど、学習しない(笑)。

加藤和樹

加藤和樹

ーー初めて台本を読まれたときは”罠”にはまった感覚はありましたか?

うわ!やられた、ってなりました。読み物としてすごくおもしろい。個人的にサスペンスやミステリーが好きで、若いときから結構本は読んでいる方なんですけど。最後に蓋を開けた瞬間に思わず息を飲んでしまうような展開が待っている。「…って、ことは?」と全部を知った上でまた観返したくなる作品なので、それほど衝撃的でした。今回はいかに新鮮な気持ちでリアクションできるかが課題。集中力と緊張感を途切らせることなく騙し合いたいですね。

ーーその衝撃とは、どのようなものでしたか。

やはり人間って怖いなっていうことですよね。どうしてその言動に出たのかという”目的”が分かったときに、「なるほどね」「そうだったの!?」と、お客さんの中にも色んな感情が沸き上がってくると思うんです。みんながみんな同じ方向性で騙し合っているわけではないので。そこがね今思い出すだけでも、苦しいというか…。この人が言っていることは真実だろうかと、考えている間に次々と新たな問題や謎が生まれていく。同時に色んなヒントが端々に散りばめられているんです。

加藤和樹

加藤和樹

ーー騙し合いの中にも真実はあるのでしょうか?

あります。でも「みんな嘘をついているのでは…」とお客さんが思うようにダニエルも感じているので、お客さんが一番シンクロしやすい役だと思います。一緒に謎解き感覚でついてきてもらえれば、最後は自然と観ている人も騙されることになると思います。

加藤和樹

加藤和樹

上質なお芝居もあるんだと発信していくのが、僕ら2.5次元演劇世代の使命だと思う

ーー初演と再演で共演された白石美帆さん、初風緑さん以外は、『罠』には初参加の面々ですね。

筒井道隆さんとは初めてご一緒させていただきます。筒井さん演じるカンタン警部とダニエルは一番やり取りが多いので、そこの関係性をうまく作っていければ、また深みが出てくるのかなと思います。渡部秀くんとは舞台『里見八犬伝』で共演しています。彼が演じるマクシマン神父は一番若さが求められる役ですね。若さゆえのという部分もあるでしょうし。山口馬木也さんとは共演作も多く、先日も舞台『ハムレット』でご一緒しました。馬木也さんが演じる絵描きのメルルーシュとの場面はある意味、お客さんが一番ほっとできる場面かもしれません。そういう意味で、メルルーシュは一番のキーマンなのかな。馬木也さんにも「メルルーシュにかかっています」とお伝えしました。

加藤和樹

加藤和樹

ーーちなみに、前回はメルルーシュ(松田賢二)が劇中で描くダニエルの肖像画が、日替わりだったことも話題でした。

前回は松田賢二さんが絵を描くのがお得意だったので、今回はどうなるんでしょうね。馬木也さんもそこは「どうなるんだろう?」と気にされていたので、僕からはひとこと「期待しています」と(笑)。

加藤和樹

加藤和樹

ーー加藤さんは再演までの7年間、ずっとご活躍が続いています。当初は「演劇がまだ分かっていない」という発言も見られましたが、今でも?

ずっと分からないと思います。答えなんて出ないだろうし、でも表現し続けることに意味があると思っています。以前、演出家の白井晃さんに言われた言葉がすごく印象的で。僕ら世代の若い俳優が、ある意味演劇をぶち壊した部分があって、それを建て直していくのもお前ら世代の責任だぞと、”使命”みたいなものをいただいたので。2.5次元演劇だけじゃなくて、こういう会話だけの上質なお芝居もあるんだと、僕らがもっともっとお客さんに発信していかなければいけないなという思いはありますね。

加藤和樹

加藤和樹

ーー最後に改めてお誘いのメッセージを。

再演から7年が経ち、今年で33歳になります。僕が演じるダニエルは、彼について「あなたは2分も黙っていられないんですか」という台詞があるぐらい、何かあるとすぐに反応するエネルギッシュな役です。彼の本質がそこにあるのかは分からないですが、人間って追いこまれたときにそういう状態になってしまうのかなと。2時間出ずっぱりで、水を飲む暇もないぐらいにしゃべりっぱなし。これほど全身全霊を尽くして体当たりできる役もそうないと思うので、30歳を越えた自分がどう演じられるのか、自分でも楽しみです。おとなの余裕がだせたら…って余裕なんてない役なんですが(笑)。新たな共演者も加わり、また違った魅力の詰まった『罠』をお届けできると確信しています。

『罠』合同取材会にて

『罠』合同取材会にて

取材・文・撮影=石橋法子

公演情報
『罠』

【原作】 ロベール・トマ
【翻訳】 平田綾子
【演出】 深作健太
【出演】 加藤和樹、白石美帆、渡部 秀、初風 緑、山口馬木也、筒井道隆
【公演日程】 
◇亀有公演 7月13日(木) 【かめありリリオホール】、
◇兵庫公演 7月15日(土)・16日(日) 【兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール】
◇東京公演 8月8日(火)~15日(火) 【サンシャイン劇場】
【一般発売(亀有・兵庫・東京)】 4月22日(土)
【企画・製作】 日本テレビ
【公式サイト】 http://wana2017.jp/

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