加藤和樹インタビュー 主演舞台『罠』7年ぶりの再演
加藤和樹 (撮影:岩間辰徳)
フランスの劇作家ロベール・トマの書いた傑作サスペンス劇『罠』が2017年7~8月に上演される。加藤和樹主演『罠』は、2009年に初演、翌2010年には全国ツアーで再演されて話題を呼んだ。過去2回主演を務め、今回、7年ぶりに主演に就く加藤和樹に話を聞くことができた。
【あらすじ】
とある山荘での出来事。新婚3ヶ月のカップルがバカンスのために訪れていたが、些細な夫婦喧嘩から妻のエリザベート(白石美帆)が行方不明になってしまう。夫のダニエル(加藤和樹)がカンタン警部(筒井道隆)に捜査を依頼するが、なかなか見つからない。そこへマクシマン神父(渡部秀)に付き添われてエリザベートが戻ってきたが、全くの別人だった! ダニエルは激しく抵抗し、妻ではないと主張するが、状況証拠はどれもこれも現れた彼女が妻に違いないというものばかり。証人として絵描きや看護婦も登場し、騒動の渦は大きくなるが、ついに殺人事件にまで発展してしまう。誰が正しいのか、誰が嘘をついているのか、そしてエリザベートは一体どうなってしまったのか、やがて、思わぬ事態から意外な真実があきらかになる......(公式ホームページより)
大人の魅力を見せていきたい
――再演から7年ぶりの『罠』ですが、率直にいかがですか?
そうですね、初演・再演の時はまだ20代半ばぐらいでした。今は30を超えて、また一味も二味も違ったものが作れるんじゃないかという楽しみがすごくありますね。
――今年に入ってからも『フランケンシュタイン』、『ハムレット』とお忙しいと思うのですが、これまでの舞台での経験がより出せると?
それもありますが、やはりメンバーが変わるので……。初演の時と同じようにエリザベート役を白石美帆さんが務めて下さいますし、再演の時のベルトン役・初風緑さんも出演されますし、カンタン警部役には筒井道隆さんなど、素敵な俳優さんをお迎えして、また新たなチームで臨むということで、それだけでもまた違ったものになると思います。
演出の深作健太さんも7年前にやった『罠』が初めての舞台の演出だったんです。そこから深作さんも、もちろん自分もそうですけど、色々経験を重ねて、色んな見方ができると思うんですね。この『罠』という作品で。
――2009年の初演『罠』は加藤さんにとって初の主演舞台でした。やはり思い入れは強いですか?
初演の時はとにかくがむしゃらでしたし、自分ができないことの方が多くて、すごく悔しい思いもしましたが、だからこそ自分にとって絶対に忘れられない作品になるって思っていました。最初に読んだ時からとにかく本が素晴らしく面白くて印象に残っています。自分も「罠」にまんまと引っ掛かりました(笑)。
その本を読んだ衝撃を自分なりに芝居で体現できたら、と思います。いろんな表現の仕方がありますけど、今回は経験を積んできたし、それにやっぱり年齢的にももう若くはないですから、その辺の違いっていうのも見せられればいいなと思います。
――32歳。年齢を重ねた上での深みもあると。
初演や再演当時を思い返すと、若さゆえの勢いが(笑)。芝居の深みだったり、声のトーンだったり、若いだけじゃない、勢いだけじゃない、いい意味で大人の魅力みたいなのを見せたいですね。押すだけじゃなくて、差し引くところも上手く見せられたらなと思います。
――登場人物が6人というのは濃密な舞台になりそうです。
常に僕だけ舞台上に必ずいるんですけど、6人全員が一緒に出るっていうことはないんです。詳しくは言えないんですけど(笑)。皆さんが入れ代わり立ち代り、ダニエル(※加藤が演じる役)の前に現れるだけなんですよ。もう自分としては、誰を信用していいんだろう?って、精神錯乱になるぐらいの勢いで追い詰められていくわけですけれども。でもね、なんかそれすらも楽しめるんじゃないかなって。
――それも、大人になったからこそ。
そう、もっと余裕ができるはずだろうと自分では思うんですよね。分からないから狼狽えるだけがダニエルじゃない、みたいな。もっと冷静に頭を働かせて……っていう感じの役づくりが考えではあるんですが、それは深作さんと話し合ってどういう役作りをしていくかっていうことでまた大きく変わっていくことなんですけど。
――深作さんの演出はどう見てらっしゃいますか?
再演の時に初めてだったんですけど、その後に『里見八犬伝』でご一緒して、深作さんとは今回3度目。当時は、舞台を映像の画角で見ていたりしていました。『罠』はすごく大きい劇場でやるお芝居ではないので、周りの使い方っていうのを、その当時はまだ……すごく失礼な話ですけど、僕らみんなで助け合って作っていったという感じだったんです。
でも逆にそれがこのカンパニーで、この芝居を作る上ではすごく良かった。一人ひとりにスポットを当てて、それぞれの登場人物たちが何を考えてダニエルの元にやってくるのか。深作さんは役者と一緒になって考えてくれる演出家なので、そこは多分変わっていないと思いますし、だからこそ色んな経験を積まれて、じゃあ今度はどういう罠をみんなでお客さんに向けて仕掛けるかを考えるのは楽しみですね。
やっている方としては大変なんですけど(笑)、どう作っていくかっていうのはすごく楽しみです。また新たなメンバーですし。
――白石さんとは久しぶりですね。
はい、お芝居するのは初演ぶりです。もうちょっとね、自分の大人になった姿を見せたい(笑)。初演当時、まだ24とか25ぐらいで、白石さんは僕の中でお姉さんのイメージなんです。あんまり夫婦ではない(笑)。もちろんね、偽物ではあるけれども、その釣り合いというかがね......今度はちゃんと立って、先導していきたいと思っています。まぁそういうシーンはないんですけど(笑)。もうちょっと、大人のせめぎ合いみたいなのを見せられればと思います。
気分転換は料理
――舞台の出演が続いていますが、疲れはないんでしょうか?
いや、僕も疲れますよ?(笑) でもあんまり人前で疲れたとかは言わないですねぇ。一人でいる時はゆったりしますけど。最近の息抜きは料理ですね。和食を作り始めようかなと思って出汁を使い始めたんです。今まで洋食しか作ってなかったんで。でね! びっくりしたのがうち、砂糖がなかったんですよ!(笑) 洋食って基本砂糖使わないじゃないですか。甘酢あんを作ろうと思ってパッて棚開けたら、「あぁ、俺んち砂糖なかったな」と思って。コーヒーとかも飲まないんで、基本的に家に砂糖が必要なかったんです。だからこないだ買ってきました。色んな料理のレパートリーを増やさないとなぁって思っています。スーパー行くのが楽しみです(笑)。
――料理が気分転換になっているんですね。
ええ、単純に料理のことしか考えなくて済むので。頭の中をスッカラカンにできるんですよ。家にいると、何かしら考えちゃったり、台本見なきゃとか、曲聴かなきゃとかありますけど、料理しているとそのことしか考えなくていいので。しかも、僕は作るという作業がすごく好きなので、気分転換になってるなと思います。
オンオフは切り替えていますが、楽しいことやっているんでね。本当に疲れたな〜っていうのは、肉体的な疲れはあるにせよ、精神的な疲れっていうのはないですね。
――『罠』はサスペンスですが……どうでしょう?
あ、これは疲れます、精神的に本当に(笑)。思い出すだけでちょっとね! それも今回は大人なんでいい感じに作っていけると思います。
もう一度観たくなる作品
――初めて『罠』をご覧になるファンの方もいらっしゃいます。
今回、稽古している『ハムレット』もそうなんですけど(※4月9日〜東京芸術劇場)、ストレートのお芝居なんです。しかも、ここまで少人数で2時間休憩なしのがっつりストレートっていうのは僕の中では久々なんです。凝縮された舞台上で繰り広げられる濃密な時間なので、観ている方も疲れると思うんですが、それぐらい本当にエネルギーのある作品ですし、観劇後にもう1回観たくなる作品だと思いますね。
――ミュージカルでのご活躍やミュージシャンとしての加藤さんを好きになったファンからするとギャップがあるということですか?
うーん、どうでしょう……。役が違えば色々な感情、心情を演じなくてはいけないんですけれども、今回演じるダニエルっていう人間は喜怒哀楽がすごく激しい役なので、観ていて面白いと思います。
――ダニエルとご自身の共通点はなにかありますか?
弱いところですかね、精神的に(笑)。僕、意外とビビリで肝っ魂小さいので。最近はそんなでもなくなってきましたけど、意外と人見知りだし……騙されるんだろうな、この人みたいな(笑)。いや、本当は優しいんだろうなって思うんですけど。
自分の演じた役だし、何かしらいいところ見つけようと思うんですけど、そうだなぁ、なんだろう(笑)。やっぱり、ちょっと弱いところですかね。僕は誰かに支えてもらわないとダメな感じがするんです。僕は周りに応援してくださる方がいて、スタッフさんたちもいて。なんかこれ以上言ったらネタバレになるんですけど(笑)、ダニエルもそういう人だなって思って。周りの支えがないと、ダメな人。
――最後にファンの皆さんへ一言お願いします。
7年ぶりですから、本当にワクワクしています。どんな感じになるのかな、セリフを覚えられるかなって(笑)。でもこれが出来た時に自分がまた成長できるんじゃないかっていう感覚はあるんです。それは深作さんにとっても同じだと思います。この『罠』という作品は僕にとっても深作さんにとっても、とても思い入れのある作品なので、深作さんを筆頭にこの作品をとことん作り上げていきたいです。
<衣装>
Bennu(Bennu TOKYO tel 03-6721-0183)
The Viridi-anne(The Viridi-anne tel 03-5447-2100)
S.O.S fp(S.O.S fp恵比寿本店 tel 03-3461-4875)
インタビュー・文=五月女菜穂 撮影=岩間辰徳
【原作】 ロベール・トマ
【翻訳】 平田綾子
【演出】 深作健太
【出演】 加藤和樹、白石美帆、渡部 秀、初風 緑、山口馬木也、筒井道隆
【公演日程】
◇亀有公演 7月13日(木) 【かめありリリオホール】、
◇兵庫公演 7月15日(土)・16日(日) 【兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール】
◇東京公演 8月8日(火)~15日(火) 【サンシャイン劇場】
【一般発売(亀有・兵庫・東京)】 4月22日(土)
【企画・製作】 日本テレビ
【公式サイト】 http://wana2017.jp/