GLIM SPANKYとロックの聖地・日比谷野音の"初顔合わせ"は、やはりベストマッチだった
GLIM SPANKY Photo by HAJIME KAMIIISAKA
GLIM SPANKY 野音ライブ 2017 2017.6.4 日比谷野外大音楽堂
これまで数多くのロックの伝説、名演を見届けてきた聖地・日比谷野音のコンクリートのステージには、花や草木を象った装飾が添えられた大小さまざまな照明機材が据えられ、ステージ上部からはカラフルな三角形のフラッグが吊られている。いつものようにバンドの(特に松尾レミの)美学に則った空間だ。開演前のフロアに照りつけていた西日が木立の陰に隠れた頃、いつものSEが流れ出すと、総立ちとなる観客たち。まずバンドメンバーが、次いで亀本寛貴、そして松尾レミの順に登場。2017年6月4日、快晴。GLIM SPANKY初の野音ライブが幕を開けた。
大阪城音楽堂でのライブも控えているため、具体的な記述はなるべく控えるが、やはり予想通り……いや予想以上にGLIM SPANKYと野音はベストマッチであった。セットリスト上に関していえば、「そこは外せないだろう」という定番曲はもちろん押さえつつも、普段より若干アグレッシヴな面は控えめだっただろうか。松尾がアコースティックギターに持ち替えて届ける曲もいくつかあったり、曲によってはギターを持たずにマイクスタンドに向かうシーンもあった。「褒めろよ」のようなアッパーな楽曲が大きな盛り上がりを生むのは当然として、それと同じくらいグリムの魅力を語る上で外せないカントリーやフォーク調の楽曲群では、屋外という環境も相まってか松尾の歌声がどこか牧歌的なニュアンスで優しく響く。
GLIM SPANKY Photo by HAJIME KAMIIISAKA
考えてみれば、マインドの部分に関してもグリムと野音は相性がいい。その理由は「思い思いに楽しむ」という点。MC中に亀本が「みんなそれぞれ自分の好きなバンドのTシャツを着てきているのがかっこいいし、嬉しい」という趣旨の発言をして、それに松尾が「ロックのライブはめちゃくちゃカッコつけて来ていい場所」と続ける一幕もあったが、オーディエンスの一人ひとりがそれぞれの信じる音やカルチャーを楽しみ、各々に表現する(着ていくバンドTの選択も立派な表現のひとつだ)ことは、これまでずっとグリムが標榜しているテーマであり、グリムのライブはそれが公然と行われていい場所として存在する。そして、野音という環境もまた、ギュウギュウの人口密度になるライブハウスでも、おとなしく座っていなきゃいけない雰囲気のホールでもなく、背後の売店で売っている缶ビールやおつまみを楽しみながら観られるような、かなり自由の利く――要するに音楽の楽しみ方に対する制約の少ないハコだ。そもそも野外なので特有の開放感もある。だからか、ステージ上も客席もいつも以上にみな肩の力が抜けているようで、ノリ方ひとつとってもその場で揺れる人、手を挙げる人、歓声を上げる人、缶ビール片手の人……良い意味で好き勝手に、画一的な盛り上がりとは正反対の自由が存在していた。
GLIM SPANKY・松尾レミ Photo by HAJIME KAMIIISAKA
開放感や抜けの良さは演奏にも出ていて、亀本のギタープレイで言うならば、いつものように強烈なソロやリフで魅せまくる華のあるスタイルに加えて、一歩引く余裕も見て取れた。ストーンズでいうところのキースとロニーを一人でこなしているみたいだな、という瞬間が何度もあって、ガンガン前に出てくるよりも却って目を引く演奏だ。松尾の歌声が過去最多の曲数のセットリスト(「大丈夫かな」と思っていたそう)をものともせず、後半に進むにつれてどんどん伸びやかになっていったのも、野音のリラックスした雰囲気がプラスに作用していたからではないだろうか。特に丁寧にメロディをなぞりながら聴かせる中・低音域の豊かさは素晴らしかった。
演奏面に関する点をもうひとつ挙げるなら、楽曲がもつ世界観をしっかりとした説得力を持って演奏できていたことだろう。この時期の野外はかなり日が長いため、まだ明るいうちに夜の曲、もしくは夜の情景を想起させる曲を披露することとなったにもかかわらず、きっちりとその音で持って夜の静謐さや重厚さを描ききれていたし、むしろ環境を逆手にとって、"明るいのに夜"というここでしか味わえない不思議な演出効果をもたらしていた気さえする。野音の明るさを想定して導入したという、前述の照明機材たちも効果的に作用しており、そこは作戦通りといったところか。
GLIM SPANKY・亀本寛貴 Photo by HAJIME KAMIIISAKA
また、4月にリリースしたミニアルバム『I STAND ALONE』の収録曲たちをじっくり聴くことのできる初めての機会でもあったのがこの野音ライブ。2人が「やりたいことをやりたいようにやった」という作品であり、初めて音源を聞いた時点では「攻めたなぁ」という感想を抱かされた同作だが、既存曲と並べて演奏されると個々のカラーは出つつも意外なほどすんなりと収まっており、あくまでちゃんとグリムの音として鳴っていた。とりわけ、涼やかな風の吹き抜ける中を「美しい棘」のゆったりとしたテンポとスケールの大きなメロディが、まるで最初から野外で歌われることを想定していたかのように心地よく響いたことは、ライブ全体を通してみてもハイライトのひとつだろう。大阪城音楽堂や夏フェス会場、そして今後のツアーにおいて『I STAND ALONE』の楽曲がどのように披露されていくのかにも注目したい。
GLIM SPANKY Photo by HAJIME KAMIIISAKA
アンコールでは代表曲かつ、グリムの意思を象徴するアンセムを連続投下して大きな熱狂を生み出し、早くも次なるアルバムを制作中であるという嬉しい報せでも会場を大いに沸かせてくれた2人。日本だけじゃなく世界の中で語られる存在になるようにこれからも進んでいくのだという、実にグリムらしく頼もしい発言をもって、初めて立つ聖地でのワンマンライブを締めくくった。
シンプルなセットで観るロックンロールなグリムも、キネマ倶楽部ワンマンのときのようなコンセプチュアルなグリムも最高だが、初夏の折、吹き抜ける風とともに野外で聴くグリムもまた格別だった。これは是非、そう遠くないうちにまた、できれば恒例行事としてやってほしい。
取材・文=風間大洋
GLIM SPANKY Photo by HAJIME KAMIIISAKA