上海歌舞団「舞劇『朱鷺』-toki-」主役の朱潔静(ジュ・ジエジン)にインタビュー

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2017.6.14
朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱潔静(ジュ・ジエジン)



'15年の初演以来、幾多の魅力で観る者を惹きつける上海歌舞団「舞劇『朱鷺』-toki-」。中でも主役のジエ役・静(ジュ・ジエジン)とジュン役・王佳俊(ワン・ジヤジュン)は、自身の名前の一部が役名となったオリジナルキャストであり、歌舞団が誇るゴールデンコンビだ。麗しき朱鷺の精ジエを演じる朱に話を聞いた。

朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱潔静(ジュ・ジエジン)

軽やかな飛翔、しなやかに伸びる四肢、情感あふれる佇まい……。高貴な朱鷺の精そのもののような朱静の踊りは、私達を一瞬のうちに、朱鷺の神秘的な世界へと連れて行ってくれる。本人も「この作品を踊れば踊るほど、朱鷺を演じているのではなく、自分が朱鷺なのだと思うようになっていき、踊りを愛する気持ちも益々深まっています」と語るほど入れ込んでいる役だ。初演に際して、彼女は動物園や朱鷺の生息地に何度も足を運び、その生態を研究したという。

「朱鷺は優雅で気高い、特別な鳥。人が近づくとすぐ飛び去ってしまう、とても敏感な生き物でもあります。1幕には7羽の朱鷺達が憩う場面があるのですが、そこで羽を舐めたり、首で喜びを表したりする動きは、実際の動きを取り入れたものなんですよ。舞踊化という行為は、いわば現実を少し大げさに表現することだけれど、それでも根っこにリアルなものがなければ、お客様は感動しないと思ったのです」

上海での『朱鷺』の公演の合間を縫ってインタビューに応えてくれた朱。

上海での『朱鷺』の公演の合間を縫ってインタビューに応えてくれた朱。

研究の末、鳥独特の動きを身につけた朱。その踊りは人間離れしている一方、人の心に響く繊細で豊かな感情を伝えてくれるのも特長だ。だからこそ観客は、牧歌的な古代の情景を描く1幕での朱鷺の生き生きとした姿に魅せられ、また、環境破壊が進んだ現代を表す2幕では朱鷺の苦しみに胸が張り裂けそうになる。

「朱鷺を観察するうち、私は朱鷺と通じ合っていくように感じたんです。'15年の日本公演の折、新潟の佐渡で、最後の日本産朱鷺だったキンちゃんの剥製と対面した私は、言葉もなくただ見つめ続けました。とても感動したし、使命感が増しましたね。私と朱鷺との間には、偶然と必然の両方の結びつきがあります。私の身体が朱鷺に近いのは偶然だけれど、魂の交流ができたのは必然でしょう。私の名字が朱鷺の『朱』であることには運命を感じます」

朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱潔静(ジュ・ジエジン)

目を輝かせ、熱い口調で語る彼女は、根っからの芸術家といった風情。次の訪日時に行きたい場所を訊ねても「野生の朱鷺が見てみたい」と、その頭を占めているのはどこまでも『朱鷺』の世界。

「今は朱鷺が生きられる自然環境ではないけれど、先日、中国で運良く野生の朱鷺を目にすることができて。でも実は前回の日本公演でも、バスで移動中に野生の朱鷺を見かけた気がするんです。その時ははっきりとはわからなかったけれど、人に話したら『それは朱鷺だ』と言われたんですよ!」

朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱にとって本作は、他作品とは比べられないほど特別な作品なのだ。

「私は『朱鷺』を、『白鳥の湖』のように、百年以上伝承され、色々な集団、色々な演者が手がけるものになってほしいと考えています。この作品が、そして朱鷺という鳥が、世界中でより多くの人達に知られるようになること。それが私の目標なのです」

身振りも交えながら朱鷺の動きについて語る朱。その手足の長さも生かし、洗練された朱鷺の精を演じる姿はまさに朱鷺そのもののよう

身振りも交えながら朱鷺の動きについて語る朱。その手足の長さも生かし、洗練された朱鷺の精を演じる姿はまさに朱鷺そのもののよう

現在33歳。3年前に成熟した高度な表現が求められるジエ役と出会ったことを、「30歳のプレゼント」と表する。

「この3年間で、200回近く踊っています。同じ演目を繰り返すと飽きてしまう場合もあるでしょうが、この作品は毎回、新鮮な気持ちで踊ることができます。そして、踊るほどに自由になっていく。それでも私が満足することはなく、いつも新たな問いをみつけ、改善しています。なぜなら私にとって、芸術とは、“終わり”という記号ではなく、常に“続く”の記号であるべきだから。昨日の自分を覆し、今日の自分を磨いて、明日にはもっと良い自分になるというのが、私のモットーです」

美しき求道者の究極の踊り、見逃すわけにはいかない。

朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱潔静(ジュ・ジエジン)

朱潔静(ジュ・ジエジン)

取材・文=高橋彩子

朱潔静 (ジュ・ジエジン)/上海歌舞団プリンシパル。国家一級演員※。
 
1985年、浙江省嘉興市生まれ。95年(10歳の時)、上海バレエ学校入学。中国舞踊(中国伝統舞踊・中国民族舞踊ほか)をはじめ、クラシック、モダン・バレエほか様々な舞踊表現を学ぶ。2000年、上海東方青春舞踊団に入団。03年『覇王別姫(はおうべっき)』の虞美人役に抜擢され、本作品で中国全国規模の“蓮花賞*”全国舞踊コンクールで優秀女性主演賞を受賞し、2005年のオーチャードホール公演にも出演。 『朱鷺』では可憐な容姿と手足の長さをいかしたしなやかな表現で、朱鷺の精”ジエ"を演じる。  
 
※国家一級演員:中国で、映画・テレビドラマ・舞台・オペラ・演芸などの分野で活躍と貢献が認められ、最高レベルとされる人だけに贈られる称号。
※蓮花賞:中国国内の舞踏分野における最高賞として、映画の金鶏賞、戯曲の梅花賞などと並ぶ国家クラスの芸術大賞に数えられている賞。
 
公演情報
舞劇『朱鷺』-toki-

■日程・会場:
<東京公演>
2017年8月29日(火) - 8月30日(水) Bunkamura オーチャードホール
2017年9月6日(水) - 9月10日(日) 東京国際フォーラム ホールC
<名古屋公演>
2017年9月2日(土) - 9月3日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
<大阪公演>
2017年9月13日(水) - 9月14日(木) オリックス劇場
■出演:
上海歌舞団 
メインダンサー:朱潔静(ジュ・ジエジン)〈プリンシパル〉/王佳俊(ワン・ジヤジュン)〈プリンシパル〉
■公式サイト:http://toki2017.jp/
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