面白いものしか見たくない! ~フエルサブルータについてのあれこれ~
フエルサ ブルータ「WA!」
今、これをとある喫茶店で書いているのだが、隣のおばさま、もとい素敵なマダム2人のうちの1人の手元を見て驚いた。部分ウィッグ(パッチン止めで頭に装着するソレ)を手に、ほくほく顔でもう1人のマダムにその良さを語っているのだ。コーヒーと部分ウィッグ。なんとも言えぬコラボレーションティータイム。
しばらくそのウィッグの良さを知るべく聞き耳を立てていたのだが、そのウィッグマダムは立ち上がるとおもむろにそのウィッグを着ていた白シャツの胸ポケットにしまいこんだ。すると、お友達のマダムが「スカーフみたい。うふふ」と言ったのだ。「そうでしょう、うふふ」と返し颯爽とお手洗いに行ったマダムの背中を見ながら私は思った。
そうか……私は胸ポケットに入っていたのがウィッグと知っていたから、違和感を覚えたのだ。もしウィッグと知らずにいたら、最先端スカーフとして認識していたのかもしれない。まぁ多少の疑問は抱いたにしろ。
たしかに目の前のモノをどう捉えるかはその人の自由だ。ただ年齢を重ねるに従って余計な固定概念に支配されて自由な発想が浮かばなくなってくるのも事実。でも楽しむ為には固定観念とか意味とかを捨てたほうがいい時もある。
なんの話かというと、この『フエルサ ブルータ』がまさにそれなのだ。というよりも、どちらかというと「エンタメとはなんぞや」という問いに、スラスラ答えを導きだせるような人は、そんなのを一回はぎとられてしまうかもしれない。
たとえばお芝居を観に行く時、「これはどういうストーリーで、このセリフの意味はこうでしょ、ほら。私ったらなんて感性が豊か」なんて思うこともエンタメ通のみなさんなら一度はあるはず。また、ある程度いろいろなものを見聞きしてくると、見ているものに対してその後の展開をある程度予想するようになる。それが当たるとまた、「ほらね、私ったら」というような心持ちになってくるのだ。
そういう人ほどはじめは入り込み辛いかもしれない。なにせ、『フエルサ ブルータ』にはストーリーが存在しない。セリフもない。
じゃあ「何をヒントにこれを受け止めればいいの」と思うかもしれない。もう目の前で繰り広げられるパフォーマンスに頭を真っ白にして素直に飛び込むしかない。
とにかく『フエルサ ブルータ』のパフォーマンスは展開が早い。次から次へと見たこともないようなものが襲ってくる。そう、どちらかと言うといろんな事を考える暇がないのだ。
前回公演
男がいる。
白いスーツの男。
男ははじめ姿勢を正しく歩いているが、徐々にスピードを上げ走りだす。
走る先には様々な物が彼の行く手を阻んでいく。すれ違うものすべてが障害だ。
イス、人、壁、風。
よけて、ぶつかって、破壊される。しかし男は走り続ける。
幾枚もの壁にぶつかって、破壊された壁からは大量の紙吹雪が舞い散る。
ど迫力の紙の爆発。
観客は思わずうわ!!っと声を上げる。
これに意味を見出せるか。少なくとも私は何の意味も見い出せなかった。ただ、すごい。としか。
壁を天女のように這う人。空中浮遊のように壁をぴょーん、ぴょーんと弾き歩く。あはは、うふふと波打ちぎわを走る男女は見たことあるが、壁をあはは、うふふと軽やかに歩いている男女を私は見たことがない。
有名なプールのパフォーマンスも然り。人生においてプールが頭上に存在していたことがあるだろうか。しかも何人もの美しき女性がその頭上30㎝ぐらいのプールで泳いでいるのだ。たまに下界の我々に手さえ振ってくれる。ここはどこだ。天国かな。
前回公演
手を伸ばし、そのプールの感覚を確かめる。ぶにぶにとした以前から知っている触感なのに、なぜか不思議な感覚を覚える。バチンと体がプールにぶつかる音が静まり返った会場内に響く。その天上界のような美しい光景に思わず息を飲んでしまうのだ。かと思えば、海外の音楽フェスさながら、激しいリズムで踊り狂う場面もある。
その頃には、凝り固まった感覚はすべて持って行かれ、なすがまま、されるがまま、そのエンタメの波につつまれ、あまつさえ気持ちいいとまで思ってしまうのだ。
数年前、テレビ番組でその頃にニューヨークのオフブロードウェイで上演していた『フエルサ ブルータ』の特集をしていたことがある。その時は『フエルサ ブルータ』というよりも、その前身であるビーシャ・ビーシャの特集だったのだが。当然ながらショーの全貌は見せてくれないまでも、その断片的な映像に私は虜になった。
「なんてすごいモノがニューヨークにはあるんだ!」
その時、そう思って、携帯にショーの内容をメモったことを覚えている。いつかニューヨークに行ったら必ずこれを観ようと思っていた。
前回公演
2014年に『フエルサ ブルータ』が初来日した際、予告動画を見て、あっ!と思った。これだ!と。まさか、あの時携帯にメモした衝撃的なショーが日本で観られるとは。
しかしその時同時に思ったことがある。日本人であのノリが再現できるか?
テレビでビーシャ・ビーシャを観ていた時、観客のニューヨーカーたちは裸同然のタンクトップやビキニにも似た服を身につけていて、その外国人のノリみたいなモノでショーが盛り上がっていた感も否めなかったからだ。さすが外国だと、あの空間で一緒に楽しみたいと素直にそう思った。
だからこそ、慎ましやかで謙虚が売り、理想の異性の条件3位以内には必ず清潔感が入ってくるここ日本で、一張羅をびしゃびしゃにされて笑いながら踊り狂えるかどうか。だって舞台を身に行くときってわりといい服を着ていくでしょ? だから正直、日本で観る『フエルサ ブルータ』には少し抵抗があったのだ。
しかし、違った。
もう着ているものとか、歓声の大きさがどうとかが気にならなくなっていくのだ。国も人種も飛び越えて、その世界観に酔いしれた。あのテレビで見たタンクトップのニューヨーカーと同じように「ウォー―!!!!」と叫んで、はたと気づく。
どこへ行った! 日本人の羞恥心!
とにかく一張羅だとか、隣に好きな人がいるとか、その前に食べたニンニクの匂いが気になるとか、ぜひそんなのを忘れて楽しんでほしい。と、そんな事を言いつつ、今回の最新作『フエルサ ブルータ』には、個人的にムムムと思っていることがある。なにせテーマが“和”なのだという。
もちろん和ではあるのだが、正しくは「WA!」である。この「WA!」には、和はもちろん、輪など、様々な意味が含まれているそうだが、なんと日本にインスパイアされて今回のテーマを決めたそうだ。
前述でも示したとおり、和に象徴される日本は慎ましやかでおしとやかで……というのがイメージ。うつむきながら着物で床を音もなく擦り進む姿に昔から美を感じる。どちらかというと“静”のイメージがある。実際、能に代表される静の美しさを表現しているものが日本の伝統芸能だといわれているのだから、和は、タンクトップで「Wow!」とは対極にあると個人的には思っている。
リハーサル写真 Photo by Keiko Tanabe
『フエルサ ブルータ』の見どころの一つはその“動”の躍動感にある。肉体的で肉食系のガツガツとした動きに魅せられる場面が多くあるだけに、それで静の日本をどう表現するのか。
もちろん歌舞伎のように動で魅せるエンタメも数多く日本には存在するが、けして肉体的で肉食系ではない。やはりそこにはどこか慎ましさがあり、静の美を携えている。
だから、これだけ固定概念を捨てろと言っておきながら、今回はあえて和の固定概念ガチガチで行こうかと密かに企んでいる。和の良さは我ら日本人が一番知っているのだから。さぁ、来い。和のイメージを崩してみなさい!と鼻息も荒く「WA!」の世界に挑もうと思っている。
日本を舞台にした映画を外国人監督が撮った時にオヤ?と思ってしまう忍者の登場シーン同様、少しの違和感さえも見つけて楽しんでやろうと思っている。
観かたも自由。
それが『フエルサ ブルータ』だ。
リハーサル写真 Photo by Keiko Tanabe
前回の『フエルサ ブルータ』は観終わった後、あまりにもはじめての世界だったが為に一緒に行った友人と「なんかすごいね」としか言っていなかった記憶がある。
でも今回はたくさんの人に聞いてみたい。「WA!」はどうだった?と。これは和なのか、そうでないのか。など、色々意見を交わしたい。きっと今回の『フエルサ ブルータ』は、たくさんの日本人と共有したくなるはずだ。
そしてこの時代。それはいつしか口コミになって世界に広がるだろう_。
リハーサル写真 Photo by Keiko Tanabe
タモリさんが以前、かの有名な番組で言っていたセリフをご存知だろうか。『友達の友達はみな友達だ、世界に繋げよう友達の輪!』 その日のゲストが次の日のゲストを紹介するという芸能人友達数珠つなぎのコーナー。そのコーナー内のテーマの言葉がそれだ。
世界に先駆け日本で先行上演。間違いなく私たちは口コミ数珠つなぎの先端を担うことになる。
世界に繋げよう『フエルサ ブルータ』の「WA!」
芸術監督のディキ・ジェイムスが知ってか知らずか、わたしたちはまんまとその言葉よろしく、彼が仕掛ける輪の中で踊らされてしまうことだろう。
文=89
「Panasonic presents WA!-Wonder Japan Experience 」
■会場:品川・ステラボール 〒108-8611 東京都港区高輪4-10-30
■料金:前売り1Fスタンディング ¥7,600 / 当日1Fスタンディング ¥8,700(税込)
※2F指定席あり、詳細は後日発表 ※未就学児入場不可
■オフィシャルサイト:http://www.FBW.jp
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■主催:WA!日本公演製作委員会[アミューズ/キョードー東京/フジテレビジョン/イープラス/ぴあ/ローソン/パナソニック/TBSラジオ]
■特別協賛/テクニカルパートナー:パナソニック株式会社
■後援:アルゼンチン大使館
■企画制作:アミューズ
■招聘:キョードー東京
■問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799(平日11:00~18:00、土日祝10:00~18:00)
■一般発売中