反田恭平インタビュー 天才ピアニストの「今」を切り取る

インタビュー
クラシック
2017.8.1
反田恭平(ピアノ)

反田恭平(ピアノ)

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今、もっとも勢いのあるピアニスト 反田恭平(そりた きょうへい)。7月初旬、取材陣は反田史上初となる全国縦断リサイタルツアー初日の会場・ミューザ川崎でのリハーサル現場に居た。

照りつける太陽の光が眩しい初夏、一歩、ホールに足を踏み入れるとそこは別世界であった。どこか優しくて、それでいて切ない響きで演奏されるドビュッシー「月の光」。寂静とした夜の空気がホールを満たす。深い陰影を湛えた巧みな音の運びの冒頭部に続き、心地よく揺れる上行音型の伴奏とデリケートなタッチで奏でられた旋律とが絡まり、立体的な響きが浮かび上がる。最後の一音にまで、研ぎ澄まされた感覚が通う。これまでリストやラフマニノフの演奏で華麗な超絶技巧を披露してきた反田だが、繊細で色彩感溢れる演奏は新たな一面を感じさせた。

次に演奏されたのは、リストへ捧げられた全12曲からなるショパンの練習曲作品10。「別れの曲」や「黒鍵」、「革命」といった有名曲を含む難曲揃いの曲集を、反田は間断なく易々と弾いてみせた。弾きこなすことさえ難しい一曲一曲の特質を正確に掴み、剛柔自在の表現でピアノを操る。演奏中にみせる彼の表情も雄弁で、作品の深みや面白みも伝わってきた。

観客の熱い視線を集め、益々の飛躍が期待されている若き天才ピアニストには、華々しいイメージがある。しかし、多くの公演を抱える中で、最良のパフォーマンスを見せ続けることは、精神的にも肉体的にも過酷であることは間違いない。去る2月に留学先のロシアから帰国したばかりの彼は、今、何を思うのか。輝かしい経歴の陰に隠された、たゆまぬ努力と音楽に賭ける情熱に迫るべく、リハーサルを終えたばかりの反田に話を訊いた。

リハーサル中の反田

リハーサル中の反田


最高の演奏をするために

――長いロシアでの留学生活を終え、日本に帰国されました。生活面で大きな変化があったと思いますが、いかがですか。

ロシア留学を終え、帰国したのが2月下旬。早いもので、もう4か月経ってしまいました。物資が少なく、街灯も少なかったので暗かった。今年の1、2月は特別寒く、マイナス30度というのも初めて体験しました。とても厳しい環境でしたが、今はやっぱり恋しいですね。

――今日は、徹夜で練習と伺いました。いつもそうですか?

夜型なんです。夜の方がどうしても気持ちが乗る。窓から月を眺めながら演奏に集中します。普段の練習は深夜2時から早朝7時くらいまでですが、ツアーを控えていますので、最近は夜9時から朝5時ごろまで練習していますね。練習漬けの毎日です。

――あまり睡眠をとらないということですか?

いえ、僕はロングスリーパーで、ベストコンディションを保つには11時間20分がちょうどいい。11時間20分寝ると、いつでもぱっと目覚めるんです。これが11時間30分になると、ちょっと長い。明後日からツアーに備えて、今日、明日はしっかり睡眠をとって体力の回復を図り、皆様に万全の状態で最高の演奏を披露したいと思っています。

――ロングランのツアーではコンディションを維持するのは大変なことですよね。最高の演奏をするために日々の健康管理にも気を遣っていますか。

僕は、大きなコンサートが終わると必ず熱を出します。そのくらいエネルギーを注ぐ。普段から、ジムに通って身体を鍛えています。何事も、日々の体力維持のための努力は重要ですね。お客さまに演奏をお届けするために、体調もベストで臨めるようにと心掛けています。

――食事への気遣いはいかがですか。

演奏には、気力、体力共に充実していることが必要ですから、エネルギー源が特に大切。つい先日も、本番二日前の食べ物が本番に影響するというのを本で読みました。鶏肉やチーズを食べて、タンパク質と鉄分を取るとそのエネルギーが二日後に出てくるそうなので、今日からでも好きなものを食べようかなと思っています。ただ、あまり寝ていないので食欲はないのですが……(笑)

――ご自身で料理を作ったりするのですか。

ええ。作るのが好きで、何でも作りますよ。一昨日は、ブリヌイというロシアの家庭料理を作りました。クレープみたいな薄い生地で、色々なものを乗せて食べます。

ロシアに留学した時が初めての1人暮らしでした。最初に住んだ寮には色々な国の人々が住んでいたため、様々な料理に出会いました。パスタはもちろんのこと、スペインの友人がパエリアを、トルコの友人が甘いメレンゲ菓子をプレゼントしてくれたこともありました。今は、日本に帰ってきましたから日本食を作ろうかなぁと思っています。実は魚をさばけるので、魚を焼いてみたいかな。小学校の自由研究で、アニサキスなどの寄生虫の標本を作りました。その時、目黒の寄生虫博物館で魚のさばき方を一通り身につけました。

――普段心がけているリラックス法がありますか。

最近、「ハンドスピナー」にハマっています! リラックスしたり、集中力を高めたりするためのおもちゃで、今、アメリカで大流行。最近、日本にも入ってきてやっと手に入れました。結構重たいですが、3~4分間回り続けます。回すと遠心力で重力に逆らう感じがとても面白い。ブーンという回転音も落ち着く音で良いですね。
 

音楽に賭ける飽くなき情熱 
目指すは、「日本にコンセルヴァトワールを創る」

リハーサル中の様子

リハーサル中の様子

――どんな子供時代だったのでしょうか。

今の僕からは想像つかないかもしれないけれど……。一発ギャグとか、コントをやったりしていました。運動会ではハチマキ巻いて、応援団長もやったんですよ。「フレー! フレー!」ってね。結局、僕のいた白組は負けちゃいましたけど(笑)。

――活発なお子さんだったんですね。

音楽家で運動する人は、あまり多くないと思いますが、僕はサッカーをやっていましたし、高校の頃は50メートル走で6秒6の記録をもっていました。学年で二番。一番はオリンピックの強化選手でした。僕は候補生でしたが、音楽への情熱が勝って、結局はピアノを選びました。今になって思うのは、音楽と運動の関わりです。跳躍にしろ、反射神経、運動神経にしろ、演奏に活きていると感じています。

――小さい頃に、お母さまがエレクトーンをよく弾かれていたことが音楽との出逢いと伺っています。

ええ。通っていたミュージックスクールの教本を母が弾いてくれました。音当てクイズも楽しかったですね。また、始めて習ったピアノの先生はとても優しくて、好きな曲を好きなように弾かせてくれました。母とその先生から僕は音楽の楽しさを教えてもらいました。

――今回のツアー中、河口湖音楽祭で小さなお子さんを対象としたコンサートを行われるそうですね。

キッズ・コンサートは初めての試みです! 座席に縛られず、ピアノの下にもぐったり……。自由でカジュアルに音楽を楽しめるオープンなコンサートにしたいですね。音楽の楽しさや魅力を感じてもらえたら、これ以上の喜びはありません。僕がいた小学校には6年生が1年生のお世話をするというシステムがあって、1年生に懐かれたのを今でもよく覚えています。僕自身、子どもが大好きですから今から楽しみにしています。

―― 一方で、お父様は音楽の道に進むのを反対されていたそうですね。お父様からの影響はありますか。

小さい頃、週に1回、父の靴を磨くというのが日課でした。当時は、あまり気乗りしなかった。でも、実は靴磨きというのは奥が深いんです。今朝も靴を磨いてきましたが、黒い靴にはまず汚れを落とすクレンジングを付けて、タオルで拭き、ブラシをかけて……、また、茶色い靴ならインクを薄く塗って……という具合に全然違う。靴は大切ですからね。ちょっとしたことかもしれませんが、父からは地道に続けることの大切さを学びました。そういうところに感謝しています。

――なるほど。一つひとつのことに手を抜かない心を、お父様の背中から感じ取ったということでしょうか。最後に、今後の展望をお聞かせください。

僕には、30年後に、日本にコンセルヴァトワール(音楽、舞踊、演劇などを教える学校)を作るという夢があります。その夢を実現するには沢山のステップがあり、一つずつこなしていかなくてはいけません。音楽家にとって、ステージの上は、やはり得るものの大きな場所だと思います。ご縁があれば、コンクールを受けたいし、色々な国で弾いてみたいと思っています。そういう点で沢山の目標があります。1つひとつクリアして、最終的な目標に向けて地道に取り組んでいきたいですね。



インタビュー・文=大野はな恵 動画撮影=大野要介 写真撮影=大野陽平
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公演情報
反田恭平 ピアノ・リサイタル2017

■日程・会場
7月15日(土) 愛知:愛知県芸術劇場 コンサートホール 完売
7月21日(金) 新潟:長岡リリックホール・コンサートホール 完売
7月28日 (金) 富山:富山県教育文化会館 完売

8月3日(木) 北海道:札幌コンサートホールKitara大ホール 完売
8月4日(金)北海道:函館市芸術ホール 完売
8月6日 (日) 福岡:福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)完売
8月17日 (木)  岩手:岩手県民会館 中ホール 完売
8月20日 (日) 福島:福島市音楽堂 完売
8月26日 (土) 兵庫:兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール 完売
8月31日 (木) 秋田:秋田アトリオン音楽ホール 完売
9月1日 (金) 東京:東京オペラシティ コンサートホール 完売
※当日券につきましては各会場へお問い合わせください

■特設サイト:http://soritakyohei.com/tour2017/

 

プロフィール
反田恭平
1994年生まれ。
2012年 高校在学中に、第81回日本音楽コンクール第1位入賞(高校生での優勝は11年ぶり、併せて聴衆賞を受賞)、毎日新聞社主催による全国ツアーで好評を博す。2013年、桐朋学園大学音楽学部に入学するも、同年9月M.ヴォスクレセンスキー氏の推薦によりロシアへ留学。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。
2015年5月「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。同年7月、デビューアルバム「リスト」を日本コロムビアより発売。9月には、東京フィルハーモニー交響楽団定期への異例の大抜擢を受け、ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 を熱演し、満員の会場で大きな反響を呼んだ。12月には「ロシア国際音楽祭」にてマリインスキー劇場管弦楽団とのコンチェルトと、リサイタルでマリインスキー劇場デビューを果たす。
2016年1月のデビュー・リサイタルは、サントリーホール2000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。7月にはトリノで、Aバッティストーニ指揮RAI国立交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のセッション録音を行い、11月に発売の予定。8月の3夜連続コンサートをすべて違うプログラムで行い、各日コンサートの前半部分をライブ収録しその日のうちに持ちかえるというCD付きプログラムも話題になる。 また、このチケットは、一般発売当日に完売し、3日間の追加公演を行うなど、もっとも勢いのあるピアニストとして注目されている。
現在、M.ヴォスクレセンスキー、S.・クドリャコフ、A.ガマレイ各氏に師事し、 ロシアを拠点にし、国内外にて演奏活動を意欲的に行っている。

オフィシャルサイト:http://soritakyohei.com/
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