男肉 du Soleilが『リア王』に挑戦! 団長・池浦さだ夢にインタビュー

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2017.7.15
池浦さだ夢(男肉 du Soleil)。バックは今回がラスト公演となる元・立誠小学校。 [撮影]吉永美和子

池浦さだ夢(男肉 du Soleil)。バックは今回がラスト公演となる元・立誠小学校。 [撮影]吉永美和子


「歌って踊って生き返る『駅伝リア王』を観てほしいです」

普段は冴えない男たちが、パラレルワールドの中で歌って踊って地球を救うという、デタラメかつ飛びきり愉快な舞台を作り続けている、京都のダンスカンパニー・男肉 du Soleil(おにく・ど・それいゆ)。そんな彼らが何を血迷ったのか、演劇の聖典とも言えるウィリアム・シェイクスピアの作品、しかも四大悲劇の中でも最もヘヴィな『リア王』を上演する。完全に冗談としか思えないだろうが、実は男肉たちは大学で演劇&ダンスをみっちり学んだエリート集団でもある。ということは、これまでとは真逆のシリアスな舞台を見せる可能性があるのか? それとも大誤読して、結局いつもの男肉ワールドにしてしまうのか?「大学ではシェイクスピアではなく、チェーホフをやってたんですけどね」と、さりげなくインテリ風を吹かせる団長の池浦さだ夢に、今回の舞台について直撃してきた。

大長編男肉 du Soleil『リア王』宣伝チラシ。 [illustration]森本萌黄

大長編男肉 du Soleil『リア王』宣伝チラシ。 [illustration]森本萌黄

■「丘シェイクスピア」な僕らが、マニアックな奴をやったらヤバイと。

──なぜ今回シェイクスピアをやろうと?

男肉って「これを伝えたい」とかない集団で、ただただオモロイもんがやりたいというリビドーしかないんですよ。でも僕らも大学の時は、いろんな海外の戯曲を勉強してたし、そういうのを今やってみたらどうなるかな? という、単純な好奇心から始まりました。とは言っても大長編の着想は、いつも何かから得てるんですけど。

──いつも何かから、話をパクってますよね。

パクるっていうか、神々へのオマージュとして、愛のあるパクリを(笑)。映画とかマンガとかの世界から何かしら毎回パクってますけど、それを今回は海外の本……しかもゴリゴリ昔の奴でやってみようという。それで団員たちに「家にある昔の海外戯曲を持ってこい!」って言いました。みんな真面目やから、大学の時に買ってたのをまだ持ってるんですよ。

──どんな作品が集まりました?

『オイディプス王』から『欲望という名の電車』まで、いろいろですね。でもどうせなら朗々と独白するような長台詞が多くて、読むのがしんどい奴をやろうぜって。それでギリシャ悲劇とシェイクスピアに絞ったんですけど、ギリシャ悲劇って宇宙に行くし神々は出てくるし、コロスとかいっぱい使ってるしと、地味に僕らと似てるんです(笑)。それとうちのお客さんって、あまり演劇知らん人が多いから、みんな名前ぐらいは聞いたことがあるシェイクスピアの、しかも四大悲劇ぐらい有名な作品にしようということになりました。

──『ハムレット』『マクベス』『リア王』『オセロー』ですね。

もっとマイナーな作品でも良かったんですけど、僕らいわゆる丘サーファー的なことで言うたら、丘シェイクスピアですやん?(笑)そこでいきなりマニアックな作品出したらヤバいやろって。でもやっぱり天邪鬼でもあるから「有名すぎるのもなあ……」というのもあって。

──上から三番目ぐらいがちょうどいいと。

そう! 『ハムレット』と『マクベス』は余所の劇団もよくやってるし、僕らも結構内容知ってるけど、かといって『オセロー』まで行くと全然知らなさ過ぎる。「四大悲劇を順番に言って」って言われたら「あと1本何だっけ?」ってなる奴じゃないですか? でも『リア王』は「名前は良く聞くけど、そういえばちゃんと読んでないなあ」ぐらいの知名度だし、名前に「王」って付いてるのが、雄々しくていいなあと。

──そんなどうでもいい理由で。

何かね、ライトに決めたかったんですよ。「さあ、古典やるぜ!」って頑張る雰囲気じゃなくて、軽~く決めた奴でみんなで戦うってことがしたくて。男肉っていつも僕の頭の中だけで作ってるけど、僕も良く知らん素材があれば、みんなでワイワイ言いながら作れるんじゃないかと思いました。あと僕、学生の時にどこかの劇場で『リア王』観たことがあったんですよ。その時にコーディリア役の人が、死ぬ前になぜか大量のローションをかぶってて、そのシーンで「ああ、好き!」ってなったんです。そんな謎のイメージも、プラスになりました。ただそこしか印象に残ってないし、今考えるとそれって『リア王』じゃなかったかもしれないですけど(笑)。

前々回公演『LAきょうとピラミッド』より。 [撮影]吉永美和子

前々回公演『LAきょうとピラミッド』より。 [撮影]吉永美和子

■『リア王』もやりつつ、『リア王』に挑戦する俺たちも見せたい。

──で、実際にやってみていかがですか?

タイムマシーンでその話し合いの時に戻って、自分をぶん殴ってやりたい(笑)。「気楽な気持ちで既成戯曲をやるなー!」って。やっぱり演出家を生業にしてる人ってヤバイ、化け物ですよ。作・演出家なんて、変な話やりたい放題ですやん? でも演出家って、いつもこんな風に戯曲を分析したり書き直したり……しかもシェイクスピアみたいな前例だらけの奴で、今までやった奴よりもオモロイもん出さなあかんなんて、クレイジーですよ。今(杉原)邦生KUNIO君とか、リスペクトすごいっすよ。

──どこに難しさを感じてますか?

『リア王』の話自体は、すげえ単純なんです。ただ言い回しがとにかく遠回しだし、言い方変えながら同じことを何回も言うし、普段絶対使わないような言葉も出てくるし。「逗留(とうりゅう)」なんて「お前んち泊まらせて」でええやん!(笑)あと実際に演じてみると、登場人物の感情がどこに向いてるのか、わからんくなってくるんですよ。

──たとえばどんな所が?

リア王が神々に向かって長々と演説してると思ったら、フッと一瞬だけ横にいる人に向かって話しかける所とか。誰に向けてしゃべるという会話のベクトルが、一つの台詞の中でもあっちこっちに飛びまくってるんです。あと「この人は何を考えて、あの人にこんなこと言うんや?」というのが謎な台詞も多くって。最初に読み合わせをした時は「ゴネリルのこの台詞、リア王じゃなくて実はリーガンに言ってない?」「リア王がどんな感情で、ケントにこんなことを言ってるのかわからん」とか、もうクッチャクチャでした。

──確かにト書きを見ても、具体的な指示はそれほど書かれてないですよね。

だからこれってすごく、演技力を問われる作品なんやなあと。会話のベクトルや感情とかを、ちゃんと使い分けてしゃべるようにしないと「え、今それ誰に言ってんの?」ってなってしまう。僕ら普段は叫ぶだけ叫んで踊るだけやのに、急にベクトルを意識しろとか、感情を込めろとか言っても「そんなん言われましても……」の連続ですよ(笑)。もうね、『リア王』よりここを見せたい。「『リア王』に挑戦する俺たち」の舞台裏の方を見せたいと思ったので、冒頭の一時間は「『リア王』やりたくない」コントをやります。

──前振りで一時間も(笑)。

やっぱりいきなり『リア王』始めるのは怖いので、保険をかけたくて(笑)。コントから始めて、しっかり歌って踊って空間を男肉にしてから『リア王』を見せる……それも一時間ぐらいに収めたいなあと。台詞を削ったり、落語とかラップで一気に進めたりするけども、シーンとしては一個も削らない。一応「『リア王』観た」と言えるものにはしようと思ってます。

──リア王は誰がやるんですか?

一人でやるのは大変なんで、「リア王」と書かれたタスキを一幕ごとに、駅伝みたいに回すシステムにしました。「一幕はお前が走れ!」「二幕はお前だ!」って、山の神みたいな感じで(笑)。普通にやっても、エドガーとかエドマンドとかの外国の名前がいっぱい出てきて、誰が何を演じているのかパニックになると思うんです。だからタスキで判断してもらって、ストーリーだけは何とかわかるようにしてもらおうと。もう全員総出の戦いなんで、駅伝システムです。(劇団☆新感線の)『メタルマクベス』ならぬ『駅伝リア王』です(笑)。

前回公演『お祭りフェスティバルまつり』より。 [撮影]吉永美和子

前回公演『お祭りフェスティバルまつり』より。 [撮影]吉永美和子

■今は僕らが僕ら自身に、目新しさを求めている時期かもしれません。

──じゃあ『リア王』自体は、意外とちゃんと見せる感じになりそうな……。

そこは僕も、実はまだ迷ってるんです。今改訂中なんですけど「こんなん『リア王』じゃない! って言われるぐらいのことをやろうぜ」「いやいや、ちゃんと台詞を大切にせなあかんで」という、僕の中の天使と悪魔がズーッとせめぎ合ってる(笑)。でもその気持ちの、真ん中を通さないようにはしようと思ってるんです。その時のその感情のままシーンを作って全部ガッチャンコして、最後に観てから考えようと思います。「ここの俺、ふざけてるなあ」とか「ここ真面目やなあ」とか。

──でもリア王も感情の起伏が極端なキャラだし、案外それが正解かもしれません。

ですよね。ホンマに『リア王』読んでるから、こんなに心がクッチャクチャになってるのかもしれない。これが『ハムレット』だったら、もっと悩んでるかもしれないですねえ。あいつ軟弱者やから。でも『リア王』の、最後の方で突然戦争が起こって人がバンバン死ぬ怒涛の展開って、普段の男肉と一緒なんですよ。あと神々にすぐ話しかけたり、エセ壮大なことを言ったりするのも「うちっぽいなあ」って(笑)、勝手に親和性があると思ってます。うちと違うのは、最後に全員生き返らない。男肉には必殺技「人を生き返らせる」があるんで、今回地球は救わないけど、リア王たちは救います。「歌って踊って生き返るリア王を観てほしい!」って感じですね。

──あと、ホームグラウンドになっていた[元・立誠小学校]が、今夏でいったんクローズするので、これが今の立誠での最後の公演になりますね。

そうなんですよ。立誠がなくなったら京都でやれる所がなくて、来年の大長編はどこでやるのか悩んでる所です。でも劇団を10年以上やってると……途中で1ヶ月だけ解散した時期があったけど(笑)、何となく僕らが僕ら自身に目新しさが欲しくなるんですよ。今回『リア王』をやるのもそうだし。だから立誠がなくなるのは超哀しいけど、使い慣れた所を離れて、違う所にポンと行く刺激っていうのもあるじゃないですか? 何かそういう時期なのかなあと思っています。リア王も居場所がなくなって放浪しますしね。

──偶然にも、今の男肉の状況と『リア王』の世界がかぶる結果になったと。

でも実際こいちゃん(小石直輝)が「これ、男肉に当てはめたらしっくり来るんじゃない?」みたいに言ってたんですよ。それを聞いて「あ、俺がリア王? 俺って横柄で、みんなこの王政に不満持ってるの?」ってなって(笑)。まあ、当てはめだしたら何でも言えると思うけど、シェイクスピアの普遍性って奴がそこに出てるんかなあと思いました。何だかんだでちゃんと読んでみたら面白いし、やっぱり大したおっさんですよ、シェイクスピアって。


そして最後に、男肉取材恒例の宣伝ラップも披露してもらった。いろんな公演をディスってるような気がするけど、団長が日頃から言ってる「愛がなければディスれない」という言葉を念頭においた上で、どうかごらんいただきたい。

 
公演情報
大長編 男肉 du Soleil『リア王』
 
《京都公演》
■日時:2017年7月27日(木)~30日(日) 19:00~ ※29日=13:00~/17:00~、30日=13:00~ ※27、28、29日夜公演は、終演後に「おまけトークショー」あり。
■会場:
元・立誠小学校 音楽室

 
《東京公演》
■日時:2017年8月7日(月)・8日(火) 19:30~ ※7日は終演後に「おまけトークショー」あり。
■会場:
駅前劇場

 
■料金(2都市共通):一般=前売2,900円 当日3,300円、学生&男肉飛び散る席(最前列)=前売2,500円 当日2,800円、絶対安全席(最後列・このエリアには出演者は立ち入りません)=3,500円(前売・当日共)
■原作:ウィリアム・シェイクスピア
■団長:池浦さだ夢
■出演:江坂一平、小石直輝、城之内コゴロー、すみだ、チェン、ヤマモトエリコ、吉田みるく/新井聖美、稲森明日香(夕暮れ社 弱男ユニット)、岩田奈々、瀬戸沙門、平尾志帆
■特設サイト:http://oniku-du-soleil.boy.jp/project/liar/

 
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