スターダンサーズ・バレエ団 古典からコンテンポラリーまで盛りだくさんの「サマーミックスプログラム」~稽古場で安藤洋子に聞く
日本初演となる『Flowers of the Forest』 ©Roy Smiljanic
8月5、6日にスターダンサーズ・バレエ団「サマー ミックス プログラム」が上演される。
演目は古典からコンテンポラリーまで幅広く、ゲストダンサーも日本の至宝・吉田都、英国ロイヤルバレエ団のプリンシパル、フェデリコ・ボネッリ、パリ・オペラ座バレエ団のプリンシパル、ユーゴ・マルシャンにプルミエール・ダンスーズのオニール八菜と実に豪華な顔ぶれだ。
吉田 都 ⒸS.Masakawa
フェデリコ・ボネッリ(英国ロイヤルバレエ団プリンシパル) ⒸNinaLarge
吉田はボネッリ、スターダンサーズ・バレエ団とともに『Flowers of the Forest』を踊る。バーミンガム・ロイヤル・バレエ団芸術監督デビッド・ビントレー監督作品で日本初演だ。またオニール八菜は2016年ブノワ賞受賞でさらなる注目を浴びているダンサー。そして先頃のパリ・オペラ座日本公演でエトワールに昇格したマルシャンとともに、ヌレエフ版『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥを披露する。
オニール八菜(パリ・オペラ座バレエ団 プルミエール・ダンスーズ) ⒸIk Aubert
ユーゴ・マルシャン(パリ・オペラ座バレエ団 エトワール) ⒸJames Bort
さらに同バレエ団では幾度となく踊られ、より練り込まれたジョージ・バランシン作品『ワルプルギスの夜』、そして春の公演で日本バレエ団初演となったフォーサイスの『N.N.N.N.』が早くも再演となる。古典から20世紀初めの作品、さらに近年のコンテンポラリーと、幅広い作品が並び、出演ダンサーともども見応えと期待を抱かずにはいられない公演だ。
今回は春公演に続いて再演となる『N.N.N.N.』のリハーサル現場にお邪魔した。振付指導を行っているのは、フォーサイスバレエ団の中心メンバーとして15年、その作品と仕事を間近に見続けてきた、ダンサーの安藤洋子。リハーサルの合間にお話を伺った。
『N.N.N.N.』 ⒸDominik Mentzos
■前回とはまた違う、不思議な男性4人の世界
――前回の春の公演に引き続いての指導ですが、いかがでしょう。
今回は1人ニューメンバーですので、また違った色合いになりますかね。演奏者が変われば同じバッハでも全然違うように。
――では春に観た人は、まったく違う作品を見ることになるわけですね。この『N.N.N.N.』は男性4人によって踊られる特に音楽があるわけでもない、体の動きで表現するような不思議な作品ですが、安藤さん自身はフォーサイス・カンパニーに在籍されていたときに、この作品をご覧になっていると思います。その時の印象はいかがでしたか。
シンプルだけと複雑だなぁと。この作品のクリエイション最中に「Yokoも入りなよ」と誘われたのですが、他の作品のリハーサルが大変だったので断わりました。まぁ再演の時には踊ったんですけどね(笑)。
――安藤さんも踊られたんですか! 男性4人の作品と思っていましたが、女性が1人入ったわけですね。そういうバージョンもありでしょうか?
その当時、私はカンパニーの中でも特殊な存在だったので。
――女性が入るのもありなら、ぜひ観てみたい気もします。日本のバレエ団がこの作品を上演することについてはどう思いましたか。
素晴らしいことですし、フォーサイス作品を色々なバレエ団、若手ダンサーに踊ってもらいたいです。その時はまた携われたら幸せだなぁ。15年間フォーサイスやカンパニーのダンサーからたくさんの事を学び研究してきたので、その情報を若い人達にお伝えし共有したいと切に願っています。
ただ本当にそれぞれが体得するには時間をかけなければならない。例えばこの作品のリハーサルも先の春の公演では6週間かけてやりました。さらに半年くらい前からワークショップを行い、動きの質や作品の方向性を少しずつ教えてきました。振りを覚えるのはそんなに難しいことではないと思うのですが、その先が長い道のりなので。
『N.N.N.N.』リハーサル風景 撮影:西原朋未
■動きの「型」を壊し再構築することで広がる表現の幅
――ただ踊るだけではダメと。
ええ、当たり前のことですが。まず「自分」を出さないとならない。
そもそもの文化や環境の違いもありますが、外国人は基本的に自尊心と自立心を強く持っている。
日本人は調和に長けていて協調性が先にくる性質です。それは最終的にはとても良いことですが、西洋の表現を再現する場合は自然体で自分というものを持っていないとならない。意思を持つということですかね。新しい価値観に出会うためにも自分を持っていないとちゃんと出会えない。
また動きの面ではクラッシックバレエのフォルム、型を一度崩して再構築する楽しさと出会う。
身につけた型をバラしてから動きを作るバレエダンサーと、何も型のないコンテンポラリーを踊る人とはそこが違うんですよね。クラシックの型が身についているバレエダンサーの場合は一度そうした型を更地にしたうえで、再構築しなければならないわけです。でもそれはとても意義のある事だと思います。それにより動きに対する「発見」があるし、表現の幅が広がるのです。バレエダンサーがコンテンポラリーを踊ると美しいですよ、ホントに。
――ダンサーにも作品自体にも、新しい可能性が生まれてくるわけですね。
■ダンサーは身体を使う最たる存在。その五感で表現される『N.N.N.N.』
『N.N.N.N.』リハーサル風景 撮影:西原朋未
――再演の『N.N.N.N.』ですが、観客としてはどのようなところを観ればいいでしょう。
ストーリーがないので、それを探す必要はありません。
純粋にダンサーから生み出されてくる動き、瞬間のフォルムや重さを楽しんでもらえれば。
バレエはある意味重さを消す芸術です。重力から離れることを目指した芸術です。
でも、この『N.N.N.N.』は重さを使わないと表現できない作品なんです。フォーサイスのこの作品は「バレエ」を壊した先の延長線上にあるものなのです。フォーサイスはバレエを心から愛しているからこそ、バレエの先にある身体が生み出す音楽や言葉、思考、在り様など、常に新しい表現を探し続けた。その結果彼の作品の動きや構成はどんどん複雑になっていきました。
その中でもこの『N.N.N.N.』はとてもシンプルです。複雑に見えるけれどとてもシンプルで、一つひとつの動きが全て振付でアドリブも入っていない。ただ、カウントが入っていないので、時間の流れやタイミングは踊る4人に委ねられている。そこを遊べて、まるで即興のように見えるようになることを目指しています。
――そのためにはやはりリハーサルを重ねて行くしかないのでしょうか?
ただ単調に振りのリハーサルを繰り返してもダメです。やりすぎると新鮮味がなくなってしまうし、予定調和になってしまってはいけない。毎回工夫しながら疑問を持ちながら稽古することが大切です。例えば毎日歩く同じ道でも、必ず同じではないですよね。何かが違うし、違うことが起こっていること時に敏感になる、そういうところに五感を置いておかないとスリリングにならないんです。身体を使う際たる存在がダンサーです。ダンサーが五感をフルに使って表現しないと生きた舞台にはならない。だからこそダンサーはいろいろなものを日々実感しながら生きていかなければならない。これは大事なことだと思います。
――ありがとうございました。
『N.N.N.N.』リハーサル風景 撮影:西原朋未
「自分」を表現し、なおかつ個々の4人が五感を研ぎ澄ませて表現する『N.N.N.N.』。レッスン室では今回踊る4人のダンサーが安藤の指導のもと、リハーサルを行っている。飛んだり跳ねたりといった、いつも見る動きはそこにはなく、組み合った者同士が倒れたり、片方の「重さ」でまた次の動きが始まったりと、確かにバレエの型とは全く違う動きがそこにはある。
美しい型を身に着けることを是として日々クラスレッスンを重ねるダンサーにとって、「型を崩す」というのはどれほどの挑戦なのだろうと安藤の指導のもと、リハーサルをするダンサー達を見ながら思う。そして「再構築」された先にどのような新しい表現が見えるのか。今回ゲストで出演するボネッリ、オニール、マルシャンらは所属カンパニーで「型を崩し」「再構築する」ことを幾度となく経験しているはずだ。そして吉田も今なお新しい表現に挑戦し続けている。
バレエの可能性、挑戦の形など、この夏の公演は実に様々な角度で楽しめそうだ。当日はスターダンサーズ・バレエ団おなじみの、小山久美総監督のプレトークも行われる。こちらもぜひ聞いていただきたい。
(文章中敬称略)
2017年8月5日(土)17:00~/プレトーク 16:40より
2017年8月6日(日)15:00~/プレトーク 14:40より
■会場:新国立劇場 オペラパレス
N.N.N.N.:友杉洋之、川島 治、愛澤佑樹、石川聖人
ワルプルギスの夜:喜入依里(5日)、渡辺恭子、池田武志、金子紗也(6日)、久保田小百合、西原友衣菜 ほか
『眠れる森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥ:オニール八菜、ユーゴ・マルシャン
Flowers of the Forest(日本初演)吉田都、フェデリコ・ボネッリ ほか