今まさに世界へ羽ばたいていかんとするヴァイオリニスト二瓶真悠とピアニスト黒岩航紀のデュオを聴く
黒岩航紀(ピアノ)、二瓶真悠(ヴァイオリン)
「一緒に演奏する人のなかで一番長い付き合い」二瓶真悠&黒岩航紀 “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.6.25. ライブレポート
「クラシック音楽を、もっと身近に。」をモットーに、一流アーティストの生演奏を気軽に楽しんでもらおうと毎週日曜の午後に開催されている『サンデー・ブランチ・クラシック』。6月25日は、まだ20代半ばのヴァイオリニスト二瓶真悠とピアニスト黒岩航紀のデュオが登場し、ヴァイオリン名曲集ともいうべき小品を並べたプログラムで客席を沸かせた。
お食事を楽しみながらクラシックを
最初にドヴォルザーク作曲の『4つのロマンティックな小品』より「第1曲アレグロ・モデラート」が演奏された。楽譜上の指示は決して遅くはないのだが、それに比べるとかなり遅めのテンポであったことも驚かされた。でも、それ以上に意外だったのは、黒岩が伴奏といえども、かなりしっかりと明確なリズムを刻んでいくのだ。たおやかな雰囲気を壊してしまうのではないかという危惧も一瞬いだいたが、それは杞憂に過ぎず、終始明確にリズムが奏されることによって楽曲全体をよりまとまったものとして聴かせることが出来るのだ。その上に二瓶のやわらかでありながらも、芯のしっかりとした音色で息の長い旋律線が紡がれることにより、小品でありながらもスケールの大きな音楽が立ち上っていた。
二瓶真悠(ヴァイオリン)
黒岩航紀(ピアノ)
明快さは、続くガーシュウィン作曲(ハイフェッツ編曲)「3つのプレリュード」でも健在だ。ひとつひとつのフレーズにきっちりと性格付けをしているので、音楽が立体的に浮かび上がってくる。テンポの早い両端楽章は当然として、ゆったりとしたブルース的な第2曲においても、キャラクター立ちしたフレーズがクリアに組み合わされていく。
緻密なアンサンブルを聴かせる2人の出会いは、高校1年の頃にさかのぼるのだという。両名とも、東京藝術大学附属高等学校に入学したのだが、二瓶は福島県郡山市、黒岩は栃木県宇都宮市から新幹線通学をした仲とのこと。デュオを組んで活動しているわけではないが、「一緒に演奏する人のなかで一番長い付き合い」というだけあって、気心知れており、互いに遠慮なく音楽づくりをしているであろうことが伝わってきた。
黒岩航紀(ピアノ)
今度は黒岩のピアノソロで1曲、黒岩が今年の4月に発売したデビューCDからドビュッシー作曲の「亜麻色の髪の乙女」が演奏された。こちらのソロでも黒岩の立体的な音楽づくりは十二分にはっきされており、 豊かな音色のパレットを駆使しつつ、美しさだけにフォーカスするのでもなく、楽曲が内包する詩情を香り立たせる。
二瓶真悠(ヴァイオリン)
再び二瓶が戻り、続けて演奏されたのはラフマニノフ作曲「ヴォカリーズ」。1曲目のドヴォルザークで聴かせたような芯のしっかりとした音色はそのままに、そこに悲哀の色味を載せてみせる二瓶。そこに黒岩がドラマを積極的に演出していくからたまらない。盛り上がりの前触れを内声部で巧みに表出していくことで、これまた小品でありながらも音楽を構築していくセンスが十二分に発揮された演奏であった。
お食事を楽しみながらクラシックを
プログラムの最後は、ヴァイオリンの超絶技巧を堪能できる定番作品、サラサーテ作曲『カルメン幻想曲』から「序奏」「第3曲」「第4曲(終曲)」を抜粋して取り上げる。二瓶のソリストとしての美質が十二分に発揮されたのは言うまでもないのだが、黒岩はそこに伴奏として控えめに加わるでもなく、存在感のある伴奏を聴かせたことが特に印象に残った。音楽として大事なパートをしっかりと聴かせることで、二瓶が良い意味で煽られていくのだ。当然、会場からは大きな拍手が鳴り響く。
黒岩航紀(ピアノ)、二瓶真悠(ヴァイオリン)
アンコールには、ドビュッシー作曲の「美しい夕べ」がたっぷりとしたテンポで奏でられた。普通なら音楽の流れが途切れてしまうような遅さであるのだが、そこを両者は巧みに息の長い音楽を紡いでしまうから最後まで気が抜けない。
このふたりがどのように音楽づくりをしているのか等、終演後にたっぷりと話をうかがった。
インタビュー中の様子
――本日は素晴らしい演奏を有難う御座いました。おふたりの出会いは高校1年生とのことでしたが出会った当初の印象はどんな感じでしたか?
二瓶:私が最初に黒岩君に会ったときは、とにかく「ソリスト」っていう感じのピアニストでした。教室内にグランドピアノが置かれているんですけど、昼休みと放課後にずっと弾いていたよね。占領してました(笑)。
黒岩:それは語弊があると思うんだけどな(笑)。どっちかといえば僕は高校の時の方がソリストっぽいイメージが合ったんじゃいかな。最近になってアンサンブルの大切さというのが本当に日に日に大切だなと思えるようになってきたので、高校入ったときはソリストっていうイメージの方が強かったかもしれないですね。
――黒岩さんだけじゃなく二瓶さんも、これまでのキャリアを拝見するとソロが中心にあるようにお見受けするのですが、室内楽の演奏に取り組むことでどのような気付きがありますか?
黒岩:ヴァイオリンのフレーズの作り方って、ピアノがなかなか気がつけないことが多かったりするんですよ。ピアノっていうのは、いうならば幾つも音が弾けるわけなんで、ひとつのメロディーラインだったり、ベースラインだったりを紡いでいく作業が意外とおろそかになりがちなんです。音がたくさん弾けるのをいいことに気がつけない部分とか、大事にしなきゃいけない部分ができなかったりとか。弦楽器と演奏すると、明らかにピアノの方がひとつのフレーズを歌うことに関しては劣っていると思うんです。
僕の考えなんですけど、アンサンブルというのは持ちつ持たれつなところがあって、やっぱりソロで自分で考えられる力っていうのは、ソロを弾くときよりも確実に必要なので、ただ伴奏で「どうですか?」「どうやりますか?」って聴いただけだと、変な言い方だけど相手にメリットがない。合わせるだけでは、ただのロボットなので自分はこうやりたい、こう歌いたい。だけど弦楽器的にはこうだから……っていうのが、やっぱり自分のソロを勉強しているときに還元できるものがありますね。例えば、ピアノ五重奏をやったときに、弦楽器4人のハーモニーのバランスを、そのままフーガに持っていこうと考えたりとか。
黒岩航紀
――リハーサルでどのように音楽づくりをなさるのでしょうか? 例えば、1曲目に演奏された『ロマンティックな小品』は通常演奏されるようも遅めのテンポ設定に驚かされたのですが、どのような経緯でこのようになったのですか?
二瓶:この曲に関しては、私が決めていますね。
黒岩:僕が最初にもっていったテンポはもうちょっと早かったんです。
二瓶:『ロマンティックな小品』と、アンコールの「美しき夕べ」は、どちらもゆっくり弾きたいなと思って。やっぱりメロディーラインがすごく綺麗ですし、黒岩君のピアノの音色をもっとじっくり楽しんでいただきたいと思ったんです。
黒岩:僕がビックリしたのは、ドビュッシー「美しき夕べ」ですね。この曲は有名な曲なので、何回も弾いたことがあるのですが、僕は最初のリハーサルのとき、ぎりぎりメロディーラインを歌えるだろうという遅いテンポ設定でにもっていったんですが、二瓶さんはそれ以上に遅いテンポで最後まで一息で歌っていたんです。テンポが遅い曲を更に遅くするとき、メロディーが最後まで続かなくなり、歌いきれなくなるリスクがありますよね。でも、うまければ、うまいほど遅く弾けるんですよ。
二瓶:今日、どうしたの?(笑)
――二瓶さんにとって、今回のリハーサルはいかがでしたか?
二瓶:私が留学中なこともあり、ちょっと久々の共演だったので、大丈夫かなと思っていたんですけど……、ごめんね、内心(笑)。
一同:(笑)
二瓶:でも、合わせをしたときにばっちりだし、何も言うことないし、黒岩君にゆだねていいなと思ったんです。
黒岩:長い付き合いだからっていうのもあると思いますね。一緒に演奏するような人のなかで一番長い付き合いだったりするので。
――話は変わりまして、二瓶さんは現在ベルリンに留学中で、黒岩さんはこのあと留学されるんですよね。どちらに行かれるのでしょうか?
黒岩:ハンガリーのリスト音楽院です。
――リスト音楽院を選ばれた理由は?
黒岩:僕は日本でも先生という意味ではすごく恵まれた環境にありますし、良い共演者もいますし、日本にいても沢山勉強できることはあるんです。きっかけは沢山あったんですけれど、実をいうとヨーロッパのどこでもよかったんです。どこにいても本場の空気感を感じられるし、主要な国に行けばそこで生まれた作曲家って沢山いると思うので。どこでも良かったんですけども、最近リストをすごく勉強するようになって、ハンガリーに行ってみたいと思うようになったという、ちょっとしたきっかけですね。
どちらかというと、その地に行ってみたいという気持ちがあります。ヨーロッパにいれば他の国とも近いので、とにかく色んなところに行って、色んな人に会いたいと思っています。この前も特に用事もなく、フランスとイタリアに10日ぐらい、ひょっこり行って、別に何をするわけでもなかったんです。そこで感じる空気感とかを味わいたいんです。
――留学の先輩である、二瓶さんはどのように留学先を決められたんですか?
二瓶:普通だったら「先生がいるから、ここに行く」というのが多いんですけど、私もドイツじゃなくてどこでも良かったというのがあります。ソロや室内楽だけじゃなく、オーケストラに興味があって、だったらベルリンフィルに行きたいなぁ……と思ったんです。ベルリンで調べたら、ふたつ音楽学校があったのでどちらかを受けようと思ったんですが、どうやったらいいか分からなかったので、ふらふら~っとベルリンに行って、「先生の部屋どこですか?」って聴いたんです。先生のいらっしゃるところでドアを「コンコン」として、「私の演奏を聴いてください」ってお願いしたんです。そしたら、ひとりの先生がとってくださるということになり、その学校を受験しました。
二瓶真悠
――人づての紹介ではなかったんですね!? そういう点でも、おふたりのメンタリティは近いのかもしれませんね。
黒岩:そうですね、さっきの話を聴いていて近いなと思いました。
二瓶:確かに、先生が先じゃないですね。でもベルリンに行って良かったと思っています。
――最後に、留学後のおふたりの展望をお聴かせいただけますか?
二瓶:ベルリンでは、ベルリンフィルをはじめ、一流オーケストラが毎日のように演奏会をやっているという環境にいます。私もオーケストラにエキストラとかで乗っていたり、室内楽やソロの本番があったりと、ドイツでも割と演奏会があるので、このままいければ日本とドイツを行き来しながら活動を続けていきたいです。そして日本に帰る時は、ドイツで得たことを日本に生徒さんとか周りの方々に還元できたらいいなって思っていますね。
黒岩:僕も拠点という意味では、日本のみならずワールドワイドに活動していきたいなと思うんです。ピアニストにとっては、室内楽でいくのかピアノソロで行くのかという選択に迫られるのですが、いまの段階でいえば両方ともやりたいという欲張りな気持ちがあります。僕の場合は、アンサンブルとソロの比率が綺麗に半々ぐらい。それって意外と珍しいというか、そういうあり方ってなかなか無いんですね。なので、僕はいまの段階ではその路線でずっといたいなと思っています。
僕はピアノソロで行き詰ったときに、アンサンブルにヒントを得たり、逆に行き詰まっている人にこっちから何かを還元したりとか、そういうので救われてきた人生でもあったんです。共演者に恵まれ続きてきた人生なので、そういう気持ちは出来るだけ忘れないようにしたいですね。
――今日は本当に有難う御座いました!
黒岩航紀(ピアノ)、二瓶真悠(ヴァイオリン)
音楽界の将来を担う若手の一流演奏家を間近で、しかも気軽に体感できる“サンデー・ブランチ・クラシック”は毎週日曜13:00から。是非あなたも一度訪れてみてはいかがだろうか。
米津真浩/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
8月13日
海瀬京子/ピアノ&小島光博/トランペット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
8月20日
西村悟/テノール
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
8月27日
青木智哉/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
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