井上芳雄×成河『黒蜥蜴』インタビュー「ソウルメイトのように感じてるんです」
『黒蜥蜴』成河×井上芳雄
ミュージカル界の第一線で活躍し続ける井上芳雄と、小劇場からはじまり今やミュージカルの主役も務める成河。そんな二人が2018年1月9日、日生劇場で幕を開ける『黒蜥蜴』で共演することが決まった。主演は中谷美紀、演出は井上が絶大な信頼を寄せる世界的な演出家デヴィッド・ルヴォーだ。出自は違うふたりだが、公私ともにとても仲が良く互いを「特別な人」「大好きです」と公言する。その信頼はどこから生まれたのか、そして『黒蜥蜴』共演はふたりにとってどんな意味を持つのかなどを聞いた。ルヴォー演出への期待と、芝居への思いを熱く語るふたり。時にはふざけ合ったり、お互いの魅力を熱弁したりと、賑やかなインタビューとなった。
井上芳雄、成河
一度は出演を断ったんですよ(成河)
――井上さんにとってはずっと熱望されていたルヴォーさんとの舞台ですね。
井上:やっと実現できました! スケジュールが難しかったけれど「どうしてもやりたい」と無理をいって実現したので、とにかく嬉しいです。しかも蓋を開けてみたら成河も一緒でしたからね。『黒蜥蜴』は、美輪明宏さん主演の映画と宝塚を観たことがあります。宝塚は原作からだいぶ変わっていたらしいんですが、観終わって原作を買って読んだくらい面白かったですね。だからやりたい要素ばかりで、ありがたいです。
井上芳雄
――成河さんはルヴォーさんとは初めてのお仕事ですね。一度は出演を辞退されたと聞きましたが?
成河:ルヴォーさんは、誰よりも長く日本で……いや“日本と”創作をしてきた方という印象があります。もしもルヴォーさんとご一緒できるのなら小さな濃密な空間でやりたいという欲があったんです。また、“雨宮”という役がもう少し若くてフレッシュなエネルギーを持った俳優の方が作品に合うのでは、という思いもあり、一度出演をお断りました。するとルヴォーさんが「直接会ってお話をしたい」と言ってくださったんです。正直に話したら、意気投合して盛り上がったんですよ! なかでも『黒蜥蜴』について「とてもフィジカル(肉体的)な作品にしたい。“雨宮”という役に対して抱くイメージは分かるけれども、成河なら同じクリエイターとしてフィジカルな作品を創る助けになれるんじゃないか」という話がすごく響きました。ルヴォーさんが創ろうとしているフィジカルな演劇にはどういう可能性があるのか、そのために自分が今まで蓄えてきたものが助けになれたらすごく面白そうだなと思って引き受けました。
成河
――お二人がそれほど惹かれるルヴォーさんの魅力、いったいどんなところですか?
井上:ルヴォーは“人たらし”。素晴らしい言葉を僕たちにくれ、ものすごく皆を魅了する人なんです。すごく印象的だったのは、『ルドルフ ザ・ラスト・キス』の初日が開けてルヴォーが日本を発つ前の日にみんなで飲んだ時のこと。ルヴォーのテーブルにアンサンブルの人まで全員が順番に話しかけに行ったんですが、それぞれ2~3分ほどしゃべって戻ってきたらみんな泣いてるんですよ。
成河:ええっ!(笑)
井上:「何言われたの!?」って聞いたら「あんた達には分からないわよ!」と言われて、教えてもくれないの。
成河:怖~(笑)。
井上:でもどうやら、「君はいつも稽古場の隅でバナナを食べていたよね」とか「君にはこういう所があるよね」ということを言ってる。アンサンブル一人ひとり全員にいたるまでちゃんと見てるんだよね。それでみんなが感動する。魔法を使っているみたい。稽古中からそんな感じなんです。役者をすごく大切にしているから、傷つけたり無理を強いたりしないんです。僕も本当に惚れましたもん。
成河:イギリスの演出家さんは魔法使いですよね。同世代のイギリスの演出家であるジョン・ケアードやサイモン・マクバーニーも役者の操り方が上手いし、ものすごく勉強されている。ルヴォーさんも少しお話ししただけで、『黒蜥蜴』や三島由紀夫さんの戯曲について、日本人でも太刀打ちできないほど勉強されていることがわかりました。さらにルヴォーさんは、上演した先のことまで考えている。『黒蜥蜴』の上演にあたって、日本での演劇には今後どういう可能性があるのかまで射程に入れていたり、『黒蜥蜴』を現代人がどう受け取るかすごく意識をしていたり……彼にとって日本で演劇を創ることが切実で大切だと伝わりました。この人と一緒に舞台を創ると面白いだろうなという気がしています。
成河×井上芳雄
ミュージカルの20年後30年後のために激論を交わす仲
――お二人は『黒蜥蜴』で1年半ぶりの共演ですね。
井上:うーん、僕も成河が雨宮役なのは意外だったんですよね。雨宮は美青年だから「(成河は)美青年か?」と思ったんですけど、よく考えたら違……。
成河:(笑)。
井上:いやいや、僕、成河の顔が好きなんです! 盲目的に好きだから美青年かどうかはわからないんですよ! でもついに成河の顔を活かす役柄がきたなと思ったけど、もしかしたら活かさないかもしれないよね、フィジカルな舞台ってことは顔関係ないし(笑)。
成河:あははははは!!
井上:でもとにかく楽しみですね。成河もルヴォーも想像通りにはやらないだろうし、どうやって役を創っていくのかを一緒に共有していけるのはすごく楽しみです。演劇って、稽古期間はぎゅっと近くにいるけど終わるとすぐに会わなくなるという変な距離感がたまらないです。今日会ったのだって数ヶ月ぶりだもん。稽古中はしょっちゅうご飯食べに行って喋ってるのにね。
井上芳雄
成河:以前、2作品で共演もしているけど、今回の舞台では見たことがないお互いの部分が見えてくるんじゃないかな。僕にとって彼は特別な存在なんです。僕は小劇場出身だから、初めてミュージカルに出演する時(ミュージカル『ハムレット』)にちょっと警戒していたんですよ。でも、こんなに歌が素晴らしい人が「ただ歌が上手いだけだと嫌なんだよ俺は!」と、真剣に“お芝居”に向き合って葛藤していました。今振り返ると、出会った頃の彼は大事な時期だったのかな。僕にもいろいろ悩みを打ち明けてくれましたね。しかもハムレットとホレイショーという親友同士の役だったので、よけいにリンクしてすごく愛おしい存在になりました。小劇場の仲間ともいろんな話をするけれど、彼にしか話せないこともある。いちばん話すのはミュージカルについてだよね?
井上:そうだね。最近観たミュージカルの文句とか。
成河:言い方!(笑) 文句っていうか、感想も意見も言うよ! 僕はね、「20年30年先の日本でミュージカルがもっともっと深くまで根づくとしたら、あなた(井上)はそれをきちっと背負う責任があるんですよ」という話をしてるんですよ!? そんなに簡単な道のりではないから、作品を観て「面白いね」「素敵だったね」だけじゃすまされない。だから文句は言いますよ。僕はミュージカルを小さい頃から観ていて好きですから、ミュージカルが日本人の誰にでも親しまれるものになるためにこれから20年30年を費やすんです。そのために頑張ろうよ、頑張ってよ、俺になにができるかなあ、という話をするわけ。それをね、「文句」なんて言うの大っ嫌い!!
井上:熱いねぇ(笑)。
成河:こんな恰好つけてるけど実はすごく真剣に悩んで考えているんですよ! あんまりそういう話しないかもしれないけど!
井上:してるしてる。
成河:してけしてけ! していこう! ……という話をよくしているのでソウルメイトのように感じてるんです。芳雄はそういう真剣な話ができる相手なんですよ!(小声で)しゃべりすぎた~。
井上:なんで反省するんだよ、ウワーッと喋っといて(笑)。
成河
お互いにとって“特別な人”です(井上)
――とても仲の良いお二人ですが、舞台上ではどんな役者さんですか?
井上:感じたものを返したらまた何か返ってきて……とエンドレスな印象です。しかも成河は見てのとおり、お芝居が好きで熱いし、いろんなことを試すから、すごく刺激を受けますね。彼の芝居に乗っかることはすごく楽しいです。
成河:それぞれ小劇場とミュージカルで出身も違うので、リスペクトしている部分もあります。
井上:話したい、と思う存在ですね。「今どう思ってる?」「なにに興味があって、なにが楽しい?」って聞きたい。好きなんでしょうね。
成河:おもに顔がね(笑)。
井上:そうそう(笑)。でも特別ですね、本音を言いやすいのかな……成河自身が守っているものがないし、ないようにしているだろうから、こちらも自然とそうなっちゃうのかもしれない。成河は誰しもが持っている壁を無理やり取っ払うようなところがあります。僕だけでなく誰に対してもそうなんです。
成河:でも僕は意外だったよ。ちょっと泥臭い小劇場の出身だから「ミュージカルの人はなんてお行儀が良いんだろう」と思っていたら、彼とはすごく話が通じた。ものを創っている人は「これでいいんだろうか?」と考えているはずだろうけれど、彼は誰よりも「これでいいんだろうか?」という問題意識を持っていろんな話を聞こうとしていた。これだけ歌える人が、努力して積み上げてきたものを一度手放して周囲に耳を傾けるということはとても大変なこと! そんな彼にも聞いてみたい話がたくさんありました。でも舞台上より、稽古場で作品を一緒に創りたいね。自分の役を創るのは仕事のひとつ。それより、それぞれの持つカードを出し合ってどういう劇構造をどういうふうに表現するかをみんなで創るのが楽しみですね。
井上芳雄、成河
――「これでいいんだろうか?」という問題意識を持つおふたりは、『黒蜥蜴』という作品をどう演劇界に投げ掛けたいですか?
成河:一番興味があるのは、日本人が縛られている三島由紀夫の文体を変えることなく、三島由紀夫の言葉に触れること。ルヴォーさんとは「こんな触れ方があるんだ」というひとつの提示を創れそうな期待があります。
井上:ルヴォーが今の日本で『黒蜥蜴』をやろうとしていることに意味があると思います。演出家がどこの国の人かは関係ないんだろうな。国とは違うものさしで測れるような作品になったらいいですね。ルヴォーはきっと毎回「これで世の中を変えるんだ」と思っているし、もしかしたら「まだ変わらないな」と思っているかもしれない。けれど、実際に何が変わったかよりも、その思いを持ってやり続けていることはすごく魅力的。今回はこのカンパニーでそれをやることに喜びを感じます。しかもまだ結果が見えないということが良い。だいたいこんな感じの作品になってこんなふうに楽しいだろうな、と予測できることをやってもしょうがないですから。
「黒蜥蜴」成河×井上芳雄
ヘアメイク=高橋幸子
スタイリング=吉田ナオキ<井上芳雄>、市川みどり(ルミナス)<成河>
取材・文=河野桃子 撮影=荒川 潤
■原作:江戸川乱歩
■脚本:三島由紀夫
■演出:デヴィッド・ルヴォー
一倉千夏、内堀律子、岡本温子、加藤貴彦、ケイン鈴木、鈴木陽丈、滝沢花野、長尾哲平、萩原悠、藤田玲、松澤匠、真瀬はるか、三永武明、宮菜穂子、安福穀、山田由梨、吉田悟郎(50音順)
■公演日程:
東京公演:2018年1月9日(火)~ 28日(日)日生劇場
大阪公演:2018年2月1日(土)~ 5日(月)梅田芸術劇場メインホール
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■先着先行受付:2017年9月12日(火)12:00~9月27日(水)18:00
■一般発売:2017年9月30日(土)~
■料金:
東京公演 S席 12,500円 A席 9,000円(全席指定)
大阪公演 S席 12,500円 A席 9,000円 B席 5,000円(全席指定)
■企画・制作:梅田芸術劇場
■問い合わせ(10時~18時):梅田芸術劇場 0570-077-039[東京] 06-6377-3800[大阪]
■公式サイト:http://www.umegei.com/schedule/634/