柚希礼音に加藤和樹がキュンキュンしっぱなし?!~ミュージカル『マタ・ハリ』インタビュー
柚希礼音・加藤和樹(撮影:鈴木久美子)
2016年に韓国で世界初演となったミュージカル『マタ・ハリ』が、日本語版として2018年1〜2月に上演されることになった。総製作費250億ウォン、約4年の準備期間を経た『マタ・ハリ』は、『ジキル&ハイド』や『スカーレット・ピンパーネル』などの作曲家として知られるフランク・ワイルドホーンを中心に、ブロードウェイで大作を手掛けたクリエイティブチームを揃えて製作された注目作品だ。日本での初演は、気鋭の石丸さち子による演出で、柚希礼音がタイトルロールのマタ・ハリを演じ、加藤和樹がラドゥーとアルマンの一人二役キャストに挑む。作品について、柚希と加藤に話を聞いた。
1917年、第一次世界大戦の暗雲たれこめるヨーロッパ。オリエンタルな魅力と力強く美しいダンスで、パリ市民の心をとらえて放さないダンサーがいた。名は、マタ・ハリ。彼女の人気はヨーロッパ中におよび、戦時下であっても国境を越えて活動する自由を、手にしていた。その稀有な存在に目をつけたフランス諜報局のラドゥー大佐は、彼女にフランスのスパイになることを要求する。もし断れば、人生をかけて隠してきた秘密を暴くことになる、そう、ほのめかしながら……。自らの過去に戻ることを恐れ、怯えるマタ。同じ頃、彼女は、偶然の出来事から運命の恋人に出会う。戦闘パイロットのアルマンは、彼女の孤独な心を揺らし、二人は、ともに、美しい夜明けのパリを眺め、人生を語り合う。一方ラドゥーの執拗な要求は続き、一度だけスパイをつとめる決心をしたマタ。彼女の世話を続けてきた衣装係のアンナの祈りの中、公演旅行でベルリンへ向かい、ドイツ将校ヴォン・ビッシング宅で、任務を無事遂行する。しかし、謀略はすでにマタ・ハリの想像を超えて進み、アルマンへの愛に目覚めた彼女の運命を、大きく歪めようとしていた……。(HPより抜粋)
--柚希さんと加藤さんは初共演です。まず、お互いの印象を教えてください。
柚希 加藤さんが出演していた『1789』は拝見しましたが、『ロミオ&ジュリエット』のティボルトは観られなかったんですよね。それから、先日ストレートプレイの『罠』も拝見しました。男性でこんなにも長身で、ロングコートが似合ってる、かっこいい方と組めるのがとても楽しみです。そして、喋るとギャップ萌えを感じます(笑)。かわいいところや面白いところを知ることができました。ラドゥーの日も、アルマンの日も、稽古をしながら、これからもっと色々な部分を知りつつ、どんどん知っていけるのが楽しみですね。
--「ギャップ」があったんですね。
柚希 はい。イメージとしては「月」というか、とても神秘的な感じだったんです。でも普段はそういう感じじゃないのかも、と思って(笑)。
加藤 はい、「月」ではなく、そこら辺に転がっている「石」です(笑)。
柚希 だから、「わぁ加藤和樹さんだ!」と意識しすぎたら、逆にやりづらいだろうなぁって。
加藤 うん、がっかりしますよ(笑)。
柚希 自分もイメージと違うとよく言われるんですが、加藤さんもギャップがあるからこそ、逆にすごくやりやすそうだなぁ、素敵だなぁと思います。人間味を感じたので、親しみやすいですね(笑)。
加藤 そっくりそのまま、そのセリフを柚希さんにお返しします(笑)。僕は『ミュージカル バイオハザート~ヴォイス・オブ・ガイア~』を拝見して、歌える、動ける、そして芝居ができる、本当に素敵な役者さんだなと思っていました。それで『マタ・ハリ』のヴィジュアル撮影の時にご挨拶させていただきました。やはり大スターですから、「よろしくお願いします」と僕が言ったら、「よろしくっ!」と言われるだけなんだろうなと想像していたんです。でも、実際の柚希さんは本当に明るくて気さくな方でした。「なんてお呼びしたらいいですか?」と聞いたら「ちえちゃん」って(笑)。もう、そのギャップがずるいなぁ。そして先日『ビリー・エリオット』を拝見して、そしたらまた全然違う大人の先生を演じていて、こういう一面もあるんだと驚いたんですね。でも楽屋でお会いすると、とても可愛らしい女の子で、キュンキュンしっぱなしですよ(笑)。
柚希さんも仰っていましたが、自分とちょっと似ているところがあるなと、勝手に感じています。だからこそ、きっといい関係を築けるなと思っています。見た目で判断されがちだけど中身は……いや、俺と一緒と言ったら失礼に当たりますけど(笑)……たしかにギャップがあるんです。可愛らしい部分がこれからどんどん出てくると思うので、どんどん引き出していきたいですね。まだまだ距離感がありますけど、稽古に入ったらゼロになると思います。
柚希 本当に、ドキマギしちゃいますよね。どんな顔したらいいか(笑)。
加藤 いま女の子の顔してますよ!(笑)
柚希 あらまぁ(照)。
加藤 目が印象的ですよね。キラキラしていて、吸い込まれそうになる。芝居で向き合った時に、また違った印象を受けるだろうなぁと思います。あぁ、またキュンキュンしちゃう(笑)。
--お二人のいい雰囲気が伝わってきます。さて、お二人は韓国版の『マタ・ハリ』をすでにご覧になっているそうですね。作品の印象を教えてください。
柚希 昨年、オク・ジュヒョンさん主演の『マタ・ハリ』をたまたま観ていたんです。本当に素晴らしい作品で、とても感動して帰ってきたんです。その後に『マタ・ハリ』への出演が決まりまして。最初に観た時は、宝塚を退団し、1年程経った頃だったので、まさか自分がマタ・ハリをやるなんて想像すらしていませんでした。でも、その後、いろいろな作品を経験して、今だったらぜひ挑戦してみたいと思いました。そして、出演させていただくことが決まってから、もう一度韓国に観に行ったのですが、自分が演じるという前提で観ると印象がだいぶ違いましたね。初めて観た時よりも2回目の方が感情移入が大きかった。マタ・ハリをどんどん追っていってすごく泣いてしまいました。出演が決まった時は、「どうしよう」という思いもいっぱいありましたが、とにかく作品が素晴らしかったので「やってみたいけど……できるかなぁ……でもやってみたい……」という感じでしたね。
加藤 僕は作品の出演が決まってから、韓国版を観に行かせていただきました。マタ・ハリという実在した人物に焦点を当てている作品なので、マタ・ハリの存在感が強く印象に残っています。戦時中という激動の時代をダンサーとして、そしてスパイとして強く生き抜いた女性という印象です。その中で、ラドゥーの要求に葛藤する姿や、アルマンとの出会いで本来の姿というとか、彼女の奥底にある女性としての歓び、いろいろな男性と愛を育んできた中で失っていたピュアな部分を取り戻していく姿がとても印象的でした。
--加藤さんはそのラドゥーとアルマンを一人で二役に挑みます。話を聞いた時はどんなお気持ちでしたか?
加藤 それこそ、「どうしよう」と思いましたよ(笑)。大変だけど、挑戦だなと思いました。演じ分けという意味では、ラドゥーとアルマンは両極的な役なので、作り込むのはさほど難しいことではないんですけど、役としてみた時に、いくらそれぞれWキャストであるとはいえ、毎日あるので、自分が混乱しないかなぁと。楽曲が2パートになるわけですよ。しかも3人で歌うところがあるんですね。ちゃんと「今日はラドゥー!」「今日はアルマン!」としないと、違うパート歌っちゃいそうで、心配です(笑)。
以前、僕がティボルトをやっていた『ロミオ&ジュリエット』では、城田優さんがロミオとティボルトの2役をやっていて、相当苦労をしていたんです。力を合わせて作り上げていかないとできなかった。だから今回、Wキャストの佐藤隆紀さんと東啓介さんにはすごく迷惑をかけてしまうかもしれませんが、だからこそ作り上げられる像もあると思うので、3人で一緒に作り上げていって、その結果として別々のラドゥーとアルマンの魅力がうまく出せればいいなと思っています。
アルマンの気持ちは、ある程度の年齢を重ねないと作れないと思うんですね。なのに今、このタイミングでできるというのは、だからこそ乗り越えるべき壁であり、とても有難いと思っています。アルマンは自分自身で引き出さないといけない。そこを、ちえちゃん(笑)と一緒に作りたいです!
--『マタ・ハリ』の魅力の一つはフランク・ワイルドホーンさんによる楽曲です。印象をお聞かせください。
柚希 『スカーレット・ピンパーネル』初演の時、ワイルドホーンさんがいらっしゃる前に譜面で稽古をしていたんです。でも譜面だけ見るのとは全く違って、歌うとすごく難しかった。繰り返しや転調によって、どんどんドラマティックになっていく曲ばかりでした。そして、ワイルドホーンさんがいらっしゃると、すごい色付けをしてくださったんです。当時は若かったこともあり、譜面だけ見ていては分からなかったのですが、こういう風に作っていくのかと思いましたね。経験はあるものの、今回の『マタ・ハリ』は、自分の今までのキーとはちょっと違う新しいキーになりますし、とても大きな挑戦だと思っています。でも楽曲はとにかく素晴らしいし、信じられる楽曲があるのは有難いなと思っています。思い切り稽古をして、本番までにマタ・ハリが生んだようなメロディーにしたいと思います。
加藤 僕はワイルドホーンさんの作品が初めてなのですが、聴いた時に思うのは、メロディーラインがとても綺麗だということです。かつ、歌い上げるナンバーが多い。聴いている方はすごく引き込まれるなぁと思いました。ただ、歌う方は大変だなぁとも思いました。美しさの中にちゃんと計算されたメロディーラインがある。三重奏のところもそうですが、それぞれがきちんと際立って聴こえるんです。男二人のところは微妙な違いのメロディーラインなので難しいのですが、だからこそ歌い甲斐があると思います。今回は、日本語ですから歌詞がどう乗せられるかも楽しみですね。しっかりと歌声と言葉のセットを持たせないと、音楽に負けちゃうなという印象があります。
--演出は石丸さち子さん。お二人とも初めてだそうですね。
柚希 私は宝塚を退団してから、男性の演出家ばかりでしたから、女性で、しかも今をときめく石丸さち子さんとご一緒できるなんて、本当に有難いと思っています。女性の心情をとても細やかに作ってくださる方で、きっと相談にもたくさん乗ってくださるんじゃないかなと楽しみにしています。
加藤 僕も石丸さんとは初めてですが、僕の友達が仲が良くて、話はいろいろ聞いていました。とても芝居に熱くて、役者のことをすごく考えてくれる、と。そして、先日の『マタ・ハリ』のヴィジュアル撮影の時に少しだけお話しさせていただいたのですが、今回2役やる上での注意点や、こう作っていきたいというお互いの意思疎通をさせていただきまして。本当に一緒になって作品を作り上げていける方、信頼がおける方だなと、思いました。
--加藤さんにとって理想の演出家像とは?
加藤 そうですね、理想としてはお互いに意見を出し合いながら、一緒に作っていける方がいいんです。でも、演出家は料理人であり、僕らは食材に過ぎないのでね。料理人に調理してもらう過程で、新たな自分の魅力に気づくこともあるんです。僕はどちらかというと調理されるのを待っているタイプの役者なのですが、もちろんそれだけではダメだと思うので、自分の意思表示をしていかなくてはいけないと思っています。大事なのは、バランスなんですよね。お互いの持つ意見を出し合って作っていくのが理想ですが、それは演出家だけではなくて、役者同士の関係性においてもそうです。皆さんとどんどんディスカッションしていきたいですね。
--『マタ・ハリ』と聞くと、柚希さんの衣装が特に気になります。相当セクシーなものになるのでしょうか?
柚希 皆さんそこに関心があるようですね(笑)。ヴィジュアル撮影の時もどうなるんだろうと思っていたんですけど、日本版は韓国版からガラッと変わります。女性側から見ているからかもしれませんが、マタ・ハリ自身の輝きの方に色気を感じます。マタ・ハリとして成立していて、自分としても納得していることだったら、多分ちゃんと通ると思うので、マタ・ハリという役を通して、衣装などその辺りの兼ね合いを考えていきたいです。決してセクシーさだけが売りではないと思っています。
--柚希さんの中でのマタ・ハリ像とはどのようなものなのでしょうか?
柚希 自分の中で、映画版とミュージカル版だと印象が違います。映画版だと、いろいろな男性と上手に接して転がしていく、すごい方だなと思ったんですけど、ミュージカル版ではマタ・ハリが運命的な出会いをして「やはり自分は素朴でピュアな恋愛がしたかったんだ」と気づく、とても純粋な、少女のような恋愛をするところが中心に描かれているように感じました。もちろん映画版のようなところがあってのマタ・ハリではあるのですが、ミュージカル版では切り取っている部分がピュアなところが多いんです。もちろん、ずっとピュアな人であるはずもなく、ばらされたくない過去を背負い、戦時中に踊り子として生き抜いていくわけです。強さと儚さと……いろいろなものを感じています。強さだけでもないし、色気だけでもないし、複雑です。その複雑さがお客様に「分かるなぁ」と思っていただけるようなものにしたいですね。
加藤 魅せられるのは、マタ・ハリの人間そのものにだと思います。色気やセクシーさって「出す」ものというより、自然と「出る」ものじゃないですか。その人自身なんですよ。それまで生きてきたものが、オーラやまとっている雰囲気として出てくる。
柚希 本当にその通り。うん、それだわ!(笑)
--最後に一言お願いします。どんな方に観てほしい作品ですか。
加藤 マタ・ハリという女性がメインの話なので、もちろん女性の方には観ていただきたいですけど、当然その周りの男たちがいてこそ成り立っていく話なので、やはり男女問わず見てほしいですね。激動の時代を生き抜いたマタ・ハリという実在の人物の根底にある、人間らしさ、女性らしさに注目してください。
柚希 ミュージカルが好きな方もそうじゃない方も、楽しめると思います。ストーリーがしっかりしていて、楽曲も素晴らしいので、多くの方に観ていただたら、うれしいですね。中身がしっかり詰まったものに仕上げるように頑張ります。お客様の心が切なくなったり、苦しくなったり、幸せになったりして欲しいですね。
取材・文=五月女菜穂
写真撮影=鈴木久美子
ヘアメイク:CHIHARU
スタイリスト(柚希):仙波レナ
スタイリスト(加藤):立山功 JUHA(tel 03-6659-9915)、HARIM(STUDIO FABWORK tel 03-6438-9575)
■作曲:フランク・ワイルドホーン
■歌詞:ジャック・マーフィー
■オリジナル編曲・オーケストレーション:ジェイソン・ホーランド
■訳詞・翻訳・演出:石丸さち子
柚希礼音(マタ・ハリ)、加藤和樹(ラドゥー/アルマン)、
佐藤隆紀(ラドゥーWキャスト)、東啓介(アルマンWキャスト)、
西川大貴(ピエールWキャスト)、百名ヒロキ(ピエールWキャスト)
栗原英雄(パンルヴェ)、和音美桜(アンナ)、福井晶一(ヴォン・ビッシング)ほか
■会場:梅田芸術劇場メインホール
■日程:2018/1/21(日) ~ 2018/1/28(日)
■料金:S席 13,000円 A席 9,000円 B席 5,000円 (全席指定・税込)
■問い合わせ:梅田芸術劇場メインホール 06-6377-3800(10:00~18:00)
■会場:東京国際フォーラムホールC
■日程:2018/2/3(土) ~ 2018/2/18(日)
■料金:S席 13,000円 A席 9,000円 B席 5,000円 (全席指定・税込)
■問い合わせ:梅田芸術劇場 0570-077-039(10:00~18:00)