宮澤エマ、F・ワイルドホーンの名作ミュージカル初挑戦 ~『ジキル&ハイド』への意気込みを語る

インタビュー
舞台
2018.3.12
宮澤エマ『ジキル&ハイド』取材会にて(撮影/石橋法子)

宮澤エマ『ジキル&ハイド』取材会にて(撮影/石橋法子)

2001年の日本初演以来、愛され続けるフランク・ワイルドホーン作曲のミュージカル『ジキル&ハイド』が新バージョンとして今春、上演される。人間の感情を善悪で分離し、この世から悪を排除しようと危険な研究に挑む主人公ヘンリー・ジキルを石丸幹二が演じる。誰もが抱える心の闇に光を当てる、スリリングな人間ドラマだ。主人公に翻弄される2人のヒロインから娼婦ルーシーを笹本玲奈、ジキルの婚約者エマを宮澤エマがそれぞれ初役で演じる。歴史ある作品に初参加する宮澤エマが、大阪の合同取材会で意気込みを語った。

「ジキルを信じ続けるエマの存在は、お客様にとっても救いになると思う」

ーー今作から笹本玲奈さんに替わり、ヒロインのエマ役を宮澤さんが務められます。

出演が決まり過去公演の資料を拝見しました。階級社会のイギリスが舞台なので、エマが上流階級の生まれであるという設定は、演じる上で重要なポイントになると思います。他人にどう見られているかが大事な社会の中で、上に上り詰めたい思いとか、生まれもって変えられない運命とか。余談ですが役名と本名が同じなので、稽古場では今までにない役とのシンクロ率を感じると思います。

宮澤エマ

宮澤エマ

ーーエマはどういう女性だとお感じですか。

以前共演したことがある方からエマ役は私にぴったりだけど、「難しい役でもあると思う」と言われました。確かに台本を読んでいると「上流階級の娘」という一面的にもなりがちな役をどう立体的な生身の人間として作り上げればいいのか、そこに難しさを感じます。設定だけでは表せない芯の強さや、愛を信じるピュアさなど。例えば、自分の婚約者と連絡がとれなくてというシーンで、お客様としては「大変なことが起きている」と分かっているのに、エマは花束を片手にお見舞いにやってくるお嬢様ならでは呑気さがある。彼女もすごく未熟で、悩みながら成長している部分もあって。献身的に支え続けるという一面だけに引っ張られず、もしかしたら物語を通して強い大人になっていくのかもしれない。そういうものを見せられたらいいのかな。

ーー劇中に出てくるキャラクターには皆、それぞれ葛藤や歪みを感じるそうですね。

そうですね。ただその歪みが、エマだけはあまり表に現れないように思います。この時代の女性は、結婚して家を出ないことには一人前として認められないため、エマはジキルと結婚することで、自由への切符を手に入れる側面を持っていると思います。父親の愛も歪んでいるとまでは言わなくても、彼女を縛る要因のひとつになっているので。そこから解放されて「本当の自分として生きたい!」という葛藤を持った女性なのかなと。

ーージキルに対するエマの一途な愛も印象的です。

観客としては、ジキルがハイドになる過程を目にしているので、なかなか理解しづらいかもしれません。エマは良くも悪くも無知な部分があって、長いことジキルがハイドになるところを目にしませんが、ハイドと知ってからも彼と一緒に居続ける。そういう意味で、エマというのは「人間の善の部分をずっと信じている」役なのかなと。すごくよくできた人間だからジキルを愛し続けたという解釈もありますが、私は彼と一緒にいるときの自分が好きなのだろうと感じています。愛の中にも色んな感情の動きがあり、そこにリアリティをもたらすことで、余計に物語の悲しさみたいなものが伝わってくる。ジキルのことを信じ続けるひとがこの舞台上にいることは、お客様にとっても救いになると思います。

ーーすでに色々なプランがありそうですね。

全然です。お稽古に入ったら今言ったことは、「全部忘れてください!」となっているかもしれません(笑)。色んな方が演じて来られた役ですし、お客様にとっても思い入れの強い作品だと思うので。私なりの何かを考えるというよりは、これはどういう作品でなぜ愛されるのか、エマは作品においてどういう役割なんだろうとか、作品の良さ深みを知れば知るほど、おのずと私がやるべきことが見えてくると思います。今はまだ、読み解けていないことの方が多いので、早くお稽古を通して肌で感じたいです。


「明確な答えがないことが、この物語がひとを惹き付ける要素だと思う」

ーーフランク・ワイルドホーンの楽曲を歌うのは初めてですね。

感情の起伏に合わせたメロディーラインが印象的で、とてもキャッチーでエモーショナル。感情移入しにくい部分でもちゃんとお客様がストーリーについていけるのは、音楽の力によるところも大きいと思います。エマはともすればお人形のようなお飾りの存在になりがちですが、歌を通して彼女の内面を表現したり、ジキルとのデュエットで「このふたりは互いのことが好きなんだな」と分かりやすく伝えられると思います。

宮澤エマ

宮澤エマ

ーーその難しさゆえ、俳優泣かせの楽曲とも言われます。

わー! どうしよう(笑)。ワイルドホーンさんの楽曲は、メロディはシンプルだけど、歌うと難しいのかな。そこにエマの人柄も表れてくると思うので、歌いこなすまでには千本ノックの時間が待っているのかなと思います。

ーー初共演となるジキル役の石丸幹二さんの印象は?

昨年NHKのラジオ番組「今日は一日”ミュージカル”三昧」でご一緒した際に、ご挨拶させていただきました。すごくチャーミングな方ですよね。大先輩にも関わらず、緊張している私を落ち着かせて下さいました。華々しい経歴をお持ちの方なので、畏れ多い部分もありますが、ジキルとエマの関係性をしっかり作っていければと思います。

ーー宮澤さんの中にも、ジキルやハイドはいますか?

人間の感情はグラデーションだと思っているので。良かれと思ってやったことが悪い結果を招いたり。すべての中に善があって悪がある。例えば、電話に出るときに自然と声色が変わるとか、自然なことですよね。誰の中にも本当の自分と「こう見られたい自分」というのがあると思います。私のことも、テレビのコメンテーターなどでよく知って下さっている方には真面目な印象だと思うのですが、稽古場などでお会いすると「エマちゃんてこんな感じだったんだ」とガッカリされることも多いです(笑)。そういう意味で、人間は色んな顔を持っているのかもしれないですね。

ーーもしも、他人の中にハイド的な部分を見てしまったら?

なるほど、そういう一面もあるのね、と記憶の引き出しに入れるかもしれません。でもそれがそのひとの本質なのかと言えばまたそれは別の話で、人は変わるとも思っています。自分でも自分がした過去の発言にビックリすることもあるので。特にお酒の席だと「あれは本意だったのかな?」と、自分でも思います(笑)。

ーー(笑)。改めて、宮澤さんが思う今作の魅力とは。

ひとの善悪を分けることは難しい。可能なのかなと、誰もがそこへ興味を抱くからこそ、現代のひとが観ても古く感じないし、意味があることなのだと思います。誰もが善悪の感情を持っている中で、それとどう向き合って生きていくのか。ジキルの父親みたいに悪を全否定して病院に隔離することが正しいことでもないでしょうし、でも解放することが果たして幸せにつながるのかと言えばそうとも言い切れなくて。明確な答えがないことこそが、この物語がひとを惹き付ける要素なのかなと。観るたびに違う答えが出てくるような、そんな作品だと今は感じています。

宮澤エマ

宮澤エマ

取材・文・撮影=石橋法子

イベント情報
ミュージカル『ジキル&ハイド』

■原作:R・L・スティーヴンソン
■音楽:フランク・ワイルドホーン
■脚本・詞:レスリー・ブリカッス
■演出:山田和也
■上演台本・詞:髙平哲郎
■出演:石丸幹二、笹本玲奈、宮澤エマ、田代万里生、畠中洋、花王おさむ、福井貴一ほか

<東京公演>
2018年3月3日(土)~18日(日)
■会場:東京国際フォーラム ホールC

<名古屋公演>
2018年3月24日(土)、25日(日)
■会場:愛知県芸術劇場 大ホール

<大阪公演>
2018年3月30日(金)~4月1日(日)
■会場:梅田芸術劇場 メインホール

 

 

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