村上虹郎が石原さとみを見守る“おじいさん”役に 鄭義信演出『密やかな結晶』に向けて今の村上虹郎が語る“演劇”
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村上虹郎
昨日まで存在していたものが今日は記憶とともに消滅している。そんな失われゆく世界に生きる人々を描いた小川洋子原作の『密やかな結晶』。「あらゆるものを表層的に消化していくことが当たり前になった今だからこそ、演劇として上演する意義がこの作品にはある」。そう語る鄭義信によって舞台化される本作で、若い姿のまま、主人公の「私」を長年見守り続ける「おじいさん」役を演じる村上虹郎に話を聞いた。
初舞台から2年、演劇への思い
――2015年の初舞台から、コンスタントに舞台に立たれていますね。村上さんの中で舞台はどういった位置づけでしょうか? 他のお仕事との違いがありましたら教えてください。
舞台は、今やらなければいけないこと、やりたいことを、今観てもらいたいってことなのかなと捉えています。作り手と受け手が同時に同じ空間を共有しているっていうだけで全然違うと思います。
――演者として舞台に立つおもしろさややりがいは?
観てくれている人たちの目には、2~3時間ずっと全身が映っているじゃないですか。掻い摘んで「目」とか「足先」とかではなく。それだけでも、挑み方やっぱり違いますよね。また、映像だと特殊メイクやCGを使わない限り難しいことも、舞台なら表現できたりもする。もちろん限界はありますが、CGも加工もないっていうおもしろさと、ある意味での自由があると思います。
今回のように僕がおじいちゃん役を演じるのもその一つなのかなって。この話を初めて聞いた時は「すごいテーマがキター!」と思いました(笑)。舞台、楽しいです。でも、お芝居はすごく大変です。底もゴールもないですし、結果的に人を魅了するという意味でのさじ加減も難しい。だけど、楽しいんです。
――役柄へのアプローチなど、舞台に立つ上で村上さんが大切にしているのはどういったことでしょう?
「生身の人間がそこにいる」という感覚ですね。骨の髄から肉体が芝居していてほしいって思うんです。結果、そこにいろんな感情が渦巻いていて、いろいろな事柄が起きて、人間模様が描かれていく。観に来てくれている人が、果たして何を見ているのか。それは僕たちにはわからない。お芝居のセリフを聞いているのか、単純に原作が好きで物語を味わいに観に来たのか、僕たちがここに立っている意味を観に来ているのか、今回だったら石原さとみさんを観に来ているのか。舞台を観る理由としてはどれでもいいんです。そういうもの全部ひっくるめて、一心で受け入れるという感覚を大切にしています。
鄭義信作品で挑む新たな役どころ
――今回の作品で鄭義信さんとご一緒するにあたってはどうですか?
確かこのお話をいただいた時、まず鄭さんが演出をされるという情報が入ってきたんです。鄭さんの舞台『パーマ屋スミレ』には親父(村上淳)が出ていたのでお話をもらう前に観に行っていました。在日コリアン家族のお話だったのですが、そういったテーマに今まで舞台で触れたことがなかったこともあり、熱量に圧倒されました。最新作の『すべての四月のために』も拝見したのですが、これもまた家族のお話でした。見る角度によっては、誰が主役かわからないし、全員が主役に見えるのがいいなと思いました。
『密やかな結晶』の稽古はこれからなので、鄭さんとはまだゆっくりお話ができていませんが、作品を観たり、いろんな人から聞いているだけでも、舞台への熱や役者に対する熱をすごく感じる方です。
――若い姿のまま、主人公の“私”を幼い頃から見守り続けているおじいさんという役。今回演じるこの役柄を聞いた時の印象はどうでしたか?
僕が演じてきた役は、過去の3つの舞台では、跳ねているようなイメージだったんです。地に足が付いていない、宙に浮いているような。だから、必然的に目に止めてもらえる位置にいたんです。でも、今回はまったく違うので楽しみです。アプローチの道もいろいろあるんじゃないかなと。
――たしかに、今までは自ずと視線を集めるような役柄でしたね。
そうなんです。でも、おもしろいのは、毎回僕が演じる役柄は「死」に関係しているんです。「殺す」ことであったり、友達や身近な人の死がそばにあったり……。人はいつか死ぬものだし、それは自然で何も悪いことじゃない。そういう考え方が、役を引き寄せているのかなと、時々思います。
「消滅」という運命に思いを馳せる
――人はいつか死ぬもの、忘れてしまうもの。「消滅していく世界」を描いた今回の作品にも通じている気がします。今回の物語を読んでみて、全体のおもしろさや魅力をどう感じられましたか?
意外とストレートな物語だと思いました。ただ、全部が抽象的なので、受け取り方も感じ方もそれぞれ見た人によって分かれるとお話だと思います。
――ちなみに、村上さんは存在していたものが消滅していくことをどう捉えていらっしゃいますか?
役柄を通してなのですが「おじいさん」は、この消滅する世界に対してどういう考えを持ってきたんだろう、風化に慣れるとはどういうことか、とか、そういうことは考えています。物事の概念が奪われていくって悲しいことじゃないですか? だけどこの世界ではそれが秩序。悲しむのは人間のエゴなのかなとも思うんです。おじいさんが辿ってきた道は想像するしかできない。今回は僕より年上の方がたくさんいるので、鄭さんや、ベンガルさんなど、歳の離れている方にお手をお借りした方がいいんじゃないかなと思っています。
村上虹郎
――この物語の島には、忘れゆく人と記憶保持者の2種類の人間がいますよね。選べるとしたら、村上さんはどちらの立場がいいですか?
僕は保持したい方ですね。単純にそういう執着はありますし、その方が豊かだと僕自身は思っています。だから、記憶を失っていくことを受け入れていく「おじいさん」とは違うかもしれない。でも、物事が変わっていくことや、なるようにしかならないなど、そういう精神も自分の中には一緒にあって……。
――運命のようなものですね。記憶が消滅する人、それを悲しむ人、慣れる人、記憶が残る人、それを摘発する人…物語にもいろんな人が出てきます。
いろんなことは起きるべくして起きている、人との出会いも同じで、出会うべくして出会ってる。そういう必然的なこともあると思うんです。あと、ここに出てくる人は、基本的にみんな孤独ですが、石原さん演じる「私」と「おじいさん」は、なんとなくセットなんです。今までは、もっと孤独な役が多かったので、逆に人と一緒にいるからこそ、そういう部分が活きるかもしれないですね。
――石原さんとのやり取りは重要になってきそうですね。
そうですね。どちらかというと僕は「受ける芝居」になるのかなと思っています。石原さんの映像作品はたくさん観ていますが、舞台での石原さんは観たことがないので楽しみです! 石原さんのイメージはキラキラした方。あんなキラキラした人っているのかなってくらい!(笑)
――観る側としても共演を楽しみにしています! 最後に公演に向けて意気込みをお願いします。
鄭さんの演出で、石原さとみさん、鈴木浩介さんをはじめ、素敵なキャストの方々。絶対におもしろくなると思っています。共演するのは初めての方ばかりなので、僕も今から楽しみです。抽象的ではありますが、難しくはないですし、普遍的なテーマのお話なので幅広い人に観てもらえたら嬉しいです。
ジャケット ¥88,000、シャツ ¥33,000、パンツ ¥72,000、シューズ 参考商品
以上全て 7x7(LAILA TOKIO 03-6427-6325)
その他 スタイリスト私物
styling 松田稜平(PERIMETRON)
ヘアメイク TAKAI
取材・文=杉田美粋、撮影=こむらさき
【東京公演】
2018年2月2日(金)~2月25日(日)
東京芸術劇場 プレイハウス
【富山公演】
2018年3月3日(土)・3月4日(日)
富山県民会館 ホール
【大阪公演】
2018年3月8日(木)~3月11日(日)
新歌舞伎座
【福岡公演】
2018年3月17日(土)・ 3月18日(日)
久留米シティプラザ ザ・グランドホール
■原作:小川洋子
■脚本・演出:鄭義信
■出演:石原さとみ 村上虹郎 鈴木浩介 藤原季節 山田ジェームス武 福山康平 風間由次郎 江戸川萬時 益山寛司 キキ花香 山村涼子/山内圭哉 ベンガル