エレファントカシマシ 47都道府県/48公演を戦い抜いた男たちが迎えた万感のフィナーレ、富山公演をレポート
エレファントカシマシ 撮影=岡田貴之
エレファントカシマシ 30th ANNIVERSARY TOUR 2017 “THE FIGHTING MAN”
2017.12.9 富山オーバード・ホール
立山連峰の冠雪の白と青空の対比が鮮やかだ。3月20日の大阪城ホールで始まりが宣言され、4月8日の北とぴあさくらホールからスタートしたエレファントカシマシの47都道府県ツアーも春、夏、秋と季節を越えて、初冬の富山オーバード・ホールでファイナルを迎えることになった。
ここまでくまなく全国各地を回ってきたことは会場内の様子からもうかがえた。各会場限定で発売された、都道府県名の入ったご当地Tシャツを着た観客やスタッフの姿が目立つ。バンド、スタッフ、観客、関わってきた人々すべての思いが引き継がれてきたツアー。ここまで積み重ねてきた成果が実ったステージであり、感動的な夜となったのだが、“完結”という言葉だけでは収まりきらないバンドの底知れなさも感じた。日本各地での観客との出会いによる化学変化がエレファントカシマシにさらなる活力を与えていたのではないだろうか。集大成のステージであると同時に、日々生まれ変わり続けている今の瞬間をそのまま音楽に変換していくリアルさ、真っ直ぐさに揺さぶられたファイナルとなった。
宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、高緑成治(B)、冨永義之(Dr)に加えて、サポート・メンバーのヒラマミキオ(G)、SUNNY(Key)が登場すると、割れんばかりの拍手と歓声が起こった。彼らのライブはいつもそうじゃないかと言われそうだが、明らかに音量も熱量も通常よりも何割か増している。演奏する側、聴く側、双方にとって、特別な夜だ。
「こんばんは。富山でコンサートをやるのは初めてなんで、ドンと行きますんで、よろしく」という宮本の言葉にさらに大きな歓声。デビュー30年で初の富山。古くからの富山のファンはこの日をずっと待っていたのではないだろうか。2018年3月にさいたまスーパーアリーナでの『30th ANNIVERSARY TOUR ”THE FIGHTING MAN” FINAL』が決定しているので、まだ先はあるのだが、この夜が大きな節目であるのは間違いない。気合いや気迫はもちろん、ここまで全国各地を回ってきた感慨も含め、様々な感情が渦巻く中で演奏することによって、どの曲も特別な輝きを放っていた。
1曲目の「歴史」は森鴎外の生涯がモチーフとなった歌だが、メンバーそれぞれの生き方ともシンクロしていくような演奏がボディブロウのようにじわじわ効いてくる。それぞれの胸の奥底にある思い、覚悟や決意みたいなものがにじみ出るようなプレイなのだ。メンバーのシルエットが後ろに映し出された照明の演出も象徴的だ。<死に場所を見つけることが僕らの未来>といったフレーズが深く響いてくる。「今は富山オーバード・ホールがど真ん中」と歌われた「今はここが真ん中さ」、「行こうぜ、どこへ? 決まってるじゃないか。この世で一番素敵な場所へ」という言葉で始まった「新しい季節へキミと」などなど、この瞬間の思いが詰まった歌がダイレクトに届いてくる。「ハロー人生!!」では宮本が石森をグイッと引き寄せて、顔をくっつけながらシャウト。冨永と高緑がただならないグルーヴを生み出し、闘志みなぎる演奏が観客の胸に火をともしていく。
「メンバー4人が51歳なので、1年近いツアーを続けられるかなと心配してたんですが、ツアーをやりながら、みんなとコミュニケーションを取れている気がしました。エレファントカシマシを贔屓にしてくれてる思いもたくさん届いてきて、楽しい1年になりました」と宮本。さらに「61でも71でもやってると思うので、いつでも遊びに来てくれ!」という言葉に喜びの歓声が起こった。「97年の曲なんですが、まさかこんなたくさんの人の前で歌うとは思ってなかったので、本当にうれしいです」という言葉に続いて歌われた「悲しみの果て」ではハプニングが起こった。宮本が感極まって、歌えなくなったのだ。目をつぶって、上を向いても、涙は止まらない。過去のライブでも感極まる場面には何度も遭遇しているが、ここまで歌えなくなったのは初めてなのではないだろうか。だが、歌が途切れた部分も含めて、この日のこの瞬間にしかない「悲しみの果て」。演奏が終わった瞬間、もらい泣きする観客がたくさんいた。「プロなのに、ごめん。歌えるかな」と言いながら、次の曲「今宵の月のように」へ。流れる涙をタオルでぬぐう場面もあったのだが、再び歌が途切れることはない。宮本の涙をきっかけとして、会場内の一体感がさらに増した。バンドも一丸となって渾身の演奏を展開。戦い続けてきた者が流す涙だからこそ、人の胸に炎を灯すスイッチになりうるのだろう。
闘志あふれる「戦う男」、旅の途中で歌われることでさらに趣が深くなる「風に吹かれて」、賛美歌を歌うような敬虔さを備えた歌声と無常観すらもエネルギーへと変換していく白熱の演奏に息を飲んだ「翳りゆく部屋」などなど。ハイライトが何度も訪れるようなすさまじいライブだった。宮本がアコギの弾き語りで「いつか見た夢を」を1コーラス歌い、さらに即興フォークソングといった風情で、“昨日、歴史博物館に行きました。少しだけ富山のことを知ることができました”と歌い、そのまま「3210」、「RAINBOW」へと入っていった流れもこの夜のハイライトのひとつ。喜怒哀楽、すべての感情を凝縮して、加速させていくような歌と演奏はエモーショナルではあるが、感情に流されるのとは違う。制御したり抑制したりする技術と強い意志とがあるからこそ、感情のエネルギーを自在に開放していける。バンドが進化し続けているからこその演奏なのだ。曲が終わった瞬間から拍手が鳴り止まなかったのだが、その拍手をかき消すようにして、「ガストロンジャー」へ。ファイナルを祝福する温かな空気と凄味、すさまじさとがミックスされて形容しがたい空気が醸し出されていく。やはりエレファントカシマシは底知れないバンドだ。
「富山、素晴らしい時間が展開されてます。最初に出てきた時のしあわせ空間、みんなのオーラが我々に」との言葉もあった。宮本が弾き語りで「サラリ サラ サラリ」を歌い始め、途中からバンドも入ってきた。歌いたくなったから歌ったというような自然な展開とさりげない歌声がいい。現時点での最新シングル曲「今を歌え」はソウルフルな歌と演奏に聴き惚れた。つぶやき声のような歌で始まり、寄り添うようにキーボード、ベース、ドラム、ギターが入ってきて、メンバーそれぞれの鼓動や息づかいまでもが伝わってきそうだった。歌のタイトルそのままに、彼らはまさに今を歌い、奏でていた。ツアー中に作ったという「風と共に」も今の歌として響いてきた。<新しい私に出会う旅へ>というフレーズはそのままこのツアーにも当てはまるのではないだろうか。この「風と共に」で第1部終了。ベストアルバムと30周年を受けてのツアーなのだが、1曲1曲の鮮度の高さが際立っていたのは、彼らが日々、新しい自分と出会いながら、歌い、演奏していたからなのではないだろうか。
第2部で演奏された最新シングル曲「RESTART」では、ロックバンドとしてのエレファントカシマシが解き放たれていくかのようだった。高緑のベースの重低音がうなりをあげ、冨永のドラムが炸裂していく。まるでぬかるみの中を進んでいくような強靱な馬力と推進力を備えた屈強なバンドサウンドだ。とてつもなくタフでワイルドで自由。「一種のリトマス試験紙です。今日の俺が俺の証し。つまり全部出ちゃう」と宮本。第2部ラストの「ファイティングマン」では宮本がジャンプしているシルエットのバックドロップが下りてくる中での演奏。ブレイクの瞬間には熱烈な歓声が加わっていく。第2部が終了して、恒例となっているメンバー全員が肩を組んでの挨拶となったのだが、肩を組んだまま前に数歩出てきた。挨拶までもがグレードアップしているのがおかしかった。これもまた47都道府県ツアーの成果のひとつだろうか。
アンコールでは「友達がいるのさ」が演奏されて、宮本がメンバーひとりひとりに絡んでいく。この日のステージだけじゃなく、ツアー全体のねぎらいも兼ねた行為にも見える。続いては宮本の弾き語りで「涙」。“悲しい時には涙はでない”と歌われる歌だが、この日、宮本が見せた涙は究極のうれしい時の涙だろう。涙は笑顔の反対の反応ではなくて、笑顔の極地の形態としても成立しうるということだ。アンコール・ラストにして、ツアーの締めの曲は「待つ男」だった。焦燥感から希望まで、様々な感情が入り混じって混沌としたパワーがほとばしる曲でのフィニッシュというところがエレファントカシマシらしい。きれいにまとめるのではなくて、あえてまとめない。「これで心おきなく紅白で歌ってきます。素晴らしい最終日になりました。みんな、素晴らしいぜ。かっこいいぜ、そして時々かわいかったぜ」と挨拶して終幕。
ツアー・ファイナルは節目ではあるが、ゴールではないだろう。紅白やさいたまスーパーアリーナでの『30th ANNIVERSARY TOUR ”THE FIGHTING MAN” FINAL』も残っている。それに元来、“すごろく”における“あがり”のようなものはこのバンドには存在しない。ファイティングマンは戦い続けるからこそ、ファイティングマンなのだ。今回のツアーは30周年の集大成であると同時に、バンドが新たなるスタート地点を見い出すための期間にもなったのではないだろうか。感謝と挑戦とが同時にあるツアー。そしてエレファントカシマシがエレファントカシマシを探求するツアー。観客はバンドの鏡みたいなものだ。47都道府県、48種類の鏡によって、エレファントカシマシは自分たちを再発見したのではないだろうか。とするならば、そこで発見したものは次へと進んでいく手がかりのようなものになるはずだ。雪が解けて、植物の新芽が出てくるように、エレファントカシマシはすでに目に見えないところで、次なる季節へと向かっているに違いない。
取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之
2017.12.9 富山オーバード・ホール
[第1部]
1. 歴史
2. 今はここが真ん中さ!
3. 新しい季節へ君と
4. ハロー人生!!
5. デーデ
6. 悲しみの果て
7. 今宵の月のように
8. 戦う男
9. 風に吹かれて
10. 桜の花、舞い上がる道を
12. 笑顔の未来へ
13. いつか見た夢を~3210
14. RAINBOW
15. ガストロンジャー
16. サラリ サラ サラリ
17. 今を歌え
18. 四月の風
19. 俺たちの明日
20. 風と共に
[第2部]
21. ズレてる方がいい
22. 奴隷天国
23. コール アンド レスポンス
24. 生命讃歌
25. RESTART
26. 夢を追う旅人
27. ファイティングマン
[ENCORE]
28. 友達がいるのさ
29. 涙
30. 待つ男
2018年3月17日(土) 埼玉・さいたまスーパーアリーナ
OPEN 15:30 / START 17:00
Info.:ディスクガレージ 050-5533-0888(平日 12:00~19:00)
料金:指定席 6,900円(税込) ※3歳以上必要
一般発売日:12 月 10 日(日)