明日海りお、萩尾望都の傑作少女漫画の主人公に ~宝塚花組ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』ゲネプロレポート

レポート
舞台
2018.1.20
『ポーの一族』(撮影/森好弘) (c)宝塚歌劇団

『ポーの一族』(撮影/森好弘) (c)宝塚歌劇団

2018年元旦、宝塚大劇場にて花組公演ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』が開幕した。年末に行われたゲネプロの模様をお届けする。

■ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』(原作/萩尾望都、脚本・演出/小池修一郎)

(c)宝塚歌劇団

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連載開始から約40年を経て、伝説的“バンパネラ”少女漫画が待望の初舞台化!

宝塚歌劇団を代表する演出家のひとりで、『華麗なるギャツビー』、『エリザベート』、『モーツァルト!』など劇団内外でヒット作を量産する小池修一郎が、入団当初から上演を夢見ていた萩尾望都の傑作少女漫画『ポーの一族』。原作との出合いから約40年を経た2018年、ついに夢の初舞台化を実現した。人間でありながら、バンパネラ(吸血鬼)になることを宿命付けれた少年エドガーの悲哀を描いた物語。少年エドガーの恐れ、葛藤、そして拭いされない愛への渇望を通し、生きるとは、幸せとは何かを問いかける。哀しいほどに美しい、深淵なる愛のドラマだ。作曲・編曲は太田健。小池とは月組公演『ALL FOR ONE 〜ダルタニアンと太陽王〜』でタッグを組み、快活な音楽で冒険活劇を盛り上げたが、本作では原作に散りばめられた詩の数々を歌詞として引用、哀しき愛のメロディを紡いでいる。

(c)宝塚歌劇団

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観客が、宝塚歌劇団に求める要素のひとつに“美しさ”があるとすれば、本作は打ってつけの作品だろう。栗色の巻き毛に吸い込まれそうなブルーの瞳、雪のように白い肌と赤く映える唇。明日海りおは、人間ならざる妖艶さで描かれる主人公エドガーを、原作から抜け出たような“冷たい美貌”で見事に体現。声のトーンや所作、視線に強弱をつけながら、エドガーの内面までも繊細に演じ分ける。確かな演技力や歌声も光っていた。また、人間の生き血を吸うバンパネラも、日頃はバラの花をジャムやスープにして食す。そのため、脈もなく鏡にも映らないその身体からは、バラの芳香が匂い立つよう。セットにもふんだんにバラのモチーフが使われている。

(c)宝塚歌劇団

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エドガー(明日海りお)と妹メリーベル(華優希)が拾われたバンパネラ一族、ポーツネル家の人々より、仙名彩世が演じるシーラは、愛や優しさの象徴のよう。エドガー同様、妖艶な雰囲気を醸し出し、物語を運ぶ重要な役割も担っている。その夫、ポーツネル男爵役の瀬戸かずやは、家長としての威厳を湛え、重厚な演技で魅せる。エドガーの妹メリーベル役の華優希も原作から抜け出たような可愛らしさ。終始、かれんで儚げなオーラをまとい、役の心情をうまく表現していた。

(c)宝塚歌劇団

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そして、アラン役の柚香光だ。明日海りおとの並びは絶品で、このツーショットを拝めただけで満足という人も少なくないはず。柚香はバンパネラと疑いつつもエドガーに惹かれてていく様を、説得力のある演技で表現していた。やがて、長い旅路の果てに描かれるラストシーン。彼らにとっては未だ旅の途中であることを思えば、思わず自らの周囲を見回したくなる。もしかして、この町にも彼らがいるのでは…。だとすれば、宝塚歌劇団ほど“隠れ蓑”にしやすい場所はないのかもしれない。そんな妄想もふくらむほど、目の前の光景に酔わされる。深い余韻に満ちた舞台だ。

(c)宝塚歌劇団

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■フィナーレはショーも付いて、見ごたえ満点!

一本ものの大作だが、芝居終わりにはショーもあるのが嬉しい。芝居では少年役だった明日海りお柚香光たち男役の面々が群れとなり、思う存分本領を発揮する。

(c)宝塚歌劇団

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明日海を中心に、優れたダンサーでもある柚香らが、長い手足を生かした躍動感のある振付と挑発的な視線で観客の心をとらえ、むせかえるほどの色香と情熱をスパークさせる。やっぱり、宝塚はショーがあってこそ!と思わせる圧巻のパフォーマンスだ。

(c)宝塚歌劇団

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明日海と仙名彩世は情熱のデュエットダンスでも息のあったステップを刻む。限られたナンバーだが、それゆえに濃密な構成で魅せる。充実の二時間半が楽しめるはずだ。

取材・文=石橋法子 撮影=森好弘

イベント情報
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』
■原作:萩尾望都「ポーの一族」(小学舘フラワーコミックス)
■脚本・演出:小池修一郎
■出演:明日海りお、仙名彩世、柚香光ほか
<宝塚大劇場>
2018年1月1日(月)~ 2月5日(月)
 
<東京宝塚劇場>
2018年2月16日(金)~3月25日(日)
 

 

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