ジョン・ウー監督インタビュー「アクションのためのアクションではない」映画『マンハント』日本での撮影に込めた想いとは

2018.2.7
インタビュー
映画

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高倉健主演の『君よ憤怒の河を渉れ』(きみよふんどのかわをわたれ)の原作小説を、約40年ぶりに再映画化した『マンハント』が2月9日(金)から公開される。中国から『戦場のレクイエム』のチャン・ハンユーと、日本から福山雅治を迎えたW主演作でメガホンをとるのは、『男たちの挽歌』や『レッドクリフ』などで知られる香港フィルムノワールの伝説的存在、ジョン・ウー監督だ。

劇中では、2016年の日本・大阪を舞台に、無実の罪を着せられた弁護士ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)と、孤高の刑事・矢村聡(福山雅治)が、追いつ追われつ巨大な陰謀に立ち向かう姿が描かれる。ウー監督は、原作や日本映画へのリスペクトを払いつつ、壮大なスケールのアクションを全編日本での撮影で作り上げている。今回のインタビューでは、ウー監督自身に、日本、中国、韓国など多国籍のキャスト・スタッフと作品を作る意義、アクション映画そのものへの想いまで語ってもらった。

長年の夢は「日本で映画を撮りたい」

(C)2017 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved.

――『君よ憤怒の河を渉れ』は40年前に高倉健さん主演で映画化され、中国では文化大革命後に公開された初の日本作品としてヒットしました。なぜ今回同じ原作を再映画化しようと思われたんでしょうか?

高倉健さんは非常に尊敬している俳優さんで、一度はご一緒したいと思っていたのですが、残念ながらその夢は実現することなく、お亡くなりになってしまわれました。高倉健さんへのオマージュとして、(主演作を)リメイクしたいという想いもありました。『駅 STATION​』が好きだったので「撮れたらいいな」と思っていたのですが、いい脚本がなかったんです。そんな時に、今回の作品の権利元であるメディア・アジア(寰亞集団/香港の大手映画会社)から打診があったので、もう一度『君よ憤怒の河を渉れ』を観直して、撮ることにしました。

――再映画化にあたって、全編日本で撮影された理由を教えてください。

もちろん、中国、韓国、インド、どこで撮ることもできたんですが、私はもともと日本映画が大好きだったので、日本で映画を撮りたい、もしくは日本映画を撮りたいという夢を持っていたんです。最初は香港や韓国、マレーシアでロケを行う案もあったんですが、そういったアイデアも消えて、最終的に日本で撮ることになりました。自分の長年の夢が叶う形になったんです。

――本作には、日本、中国、韓国の俳優陣が参加されていますね。ご一緒された感想を聞かせてください。

私はもともと国際的なプロジェクト、国際色豊かな仕事が好きです。それは、一緒に仕事をすることで、お互いの文化やそれぞれの長所、仕事のスタイルなどを吸収し合うことが出来ると思っているからです。今回のチームには、俳優では日本、中国、韓国の方々が参加されていて、制作では台湾や香港の方々も参加しています。中でも日本の方々はプロ意識が高くて、仕事に対して一生懸命に取り組まれる姿がとても勉強になりました。昔、私はアメリカ人とも仕事をしましたが、それと同じくらいハイレベルな仕事をされていることがわかりました。ひとつのファミリーの中でいい仕事ができるように、という姿勢にも感銘を受けました。このような大きなチームの中で仕事が出来て、本当に良かったと思います。

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――主演のひとり、福山雅治さんの魅力を教えてください。

福山さんは本当に親しみやすくて、私たちにとっても、友達のような、身近な雰囲気を持った方です。彼の歌の中にも、チームとか社会とか、愛に関するメッセージがたくさんあります。今回の矢村警部役は、原作の冷たく感じられるキャラクターとは違い、温かみがあって、人間味豊かで、しかもカッコいい人物として演じてもらいました。彼にオファーを出したら脚本を読む前にOKをくださったので、本当にうれしかったです。

――友情出演された國村隼さんとは、久々にお仕事をご一緒されたのでは?

國村さんはもう25年来の友人で、1992年の『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』に友情出演していただきました。日本で作品を撮ることになって、古い友人としてもう一度(自分の映画に)出演してもらえるということで、感無量でした。彼は現在、日本で非常に存在感のある役者ですし、出演してくれて本当に感謝しています。

 

“ジョン・ウー流アクション”を日本で撮るということ

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――今回の作品では、鳩や二丁拳銃、そしてジャズなど、監督がかつて『男たちの挽歌』などで多用されていた演出が多数登場しますね。なぜ、再びこういった映像を撮ろうと思われたんでしょうか?

ここ十数年ほど、こういったわたし流のものをとらなかったので、よくファンの方に聞かれたんです。「ああいう映画をいつ撮るんですか?」と(笑)。そう聞かれるので、私も懐かしく思いながら、リクエストに応えるつもりで撮りました。

――アクション振付は園村健介さんが担当されています。印象を聞かせていただけますか?

園村さんは、非常に勤勉で頭がよくて、努力家。しかも、非常にクリエイティブな方だと思います。おそらく彼は、中国や香港のアクションについて学んできたんじゃないでしょうか。色んな長所を融合しながら、自分なりのアクション振付をしてくれる方だと思います。

――具体的には、どんなやりとりをしながらアクションシーンを作られたのでしょう?

園村さんのチームは色んなアイデアを出してくれるんですが、ときにはアイデアがありすぎて、むしろこちらが「もういいよ!」と言うこともありました(笑)。例えば、コップを蹴り飛ばすシーンでも、ただ蹴るだけでいいのに、コップがひっくり返って飛んでくる、とか、必要以上のものを出してくれる。それから、作ってくれたアクションに対して、「もう少し調整してほしい」とお願いすればすぐに対応して、また一生懸命やってくれる。とても素晴らしいチームだと思います。私はこの作品のアクションがすごく好きなので、気に入っていただけると嬉しいですね。
 

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――全編日本で撮影されたということに驚きました。日本での大規模なアクション映画の撮影には制限があると思いますが、大変ではなかったですか?

交通量が多く、人の行き来が激しいところでは撮影できないというところは大変でした。カーチェイスや爆発、銃撃シーンには、許可が下りないということがわかりました。ただ、大阪と岡山の自治体は非常に強力なサポートをしてくださいました。そのうえで、色々と臨機応変に変更も行っています。例えば、水上スキーのシーンは、もともとはカーチェイスの予定だったんですが、許可が下りた川での撮影に変更しています。あとは、冒頭の料亭で二人の殺し屋(ハ・ジウォン、アンジェルス・ウー)がヤクザと戦うシーンは、もともとは道路で追いかけながら殺していくはずだったんです。この二つのシーンは、変更によって逆に面白いものになったんじゃないかと思います。

――なるほど。

ほかにも、規制があったから逆に良くなった点がいくつかあるんですよ。例えば、銃について調べていくうちに、日本では5発しか弾丸を装填してはいけない、全部撃ち終わったら弾を詰め替えてはいけない、という規定があることがわかりました。だからこの映画では、他人の銃を取って撃ったり、このポスターにあるように二人でひとつの銃を撃っている。それに、私のよく使う二丁拳銃のシーンも実現できました。
 

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――『マンハント』には、サスペンスの要素もありますね。一番にこころがけたことはなんですか?

ストーリー展開は非常に大切だと思います。観客を巻き込んでいくということが大事だと思いますし、ストーリーを追っていくうちに、どんどん真相が究明されていって、最終的にエンディングでスカッとした気持ちになる。ということで、演出も編集も重要な作業になります。私は今回のストーリーを作る際に、ヒッチコックのスタイルに近いものを撮りたいと思っていました。濡れ衣を着せられた人が、自分の無実を晴らすために困難を乗り越えて、最終的に問題を解決して、固い友情で二人が結ばれる、というものです。

――最後に、監督がアクション映画にこだわる理由を教えていただけますか?

アクションを通して色んな物語を表現できますし、人間性も表現できます。ロマンチックなことや、色んな感情を表すことが出来るんです。それと、アクションはミュージカルのように美しく描くことが出来ると思っています。“アクションのためのアクション”ではなく、アクションを観ることで、人生や友情といった、色んな意味を考えてもらいたいと思っています。そして、わたしはアクションを実際にやる俳優さん、そしてスタントマンの皆さんは、非常に素晴らしいといつも思っていまし、バレエダンサーに対するそれと同じくらいの敬意を持っています。

映画『マンハント』は2018年 2月9日(金) TOHOシネマズ新宿他 全国ロードショー。

インタビュー・文=藤本洋輔

作品情報
映画『マンハント』

主演:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン
友情出演:國村隼
特別出演:竹中直人、倉田保昭、斎藤工
共演:アンジェルス・ウー、桜庭ななみ、池内博之、TAO、トクナガクニハル、矢島健一、田中圭、ジョーナカムラ、吉沢悠
監督:ジョン・ウー
撮影監督:石坂拓郎『るろうに剣心』
美術監督:種田陽平『三度目の殺人』
音楽:岩代太郎『レッドクリフ』
アクション振付:園村健介『GANTZ』
衣装デザイン:小川久美子『キル・ビル』
原作:西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』/徳間書店刊 および 株式会社KADOKAWAの同名映画
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manhunt/
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