宝塚歌劇月組公演 珠城りょう&愛希れいか『カンパニー』『BADDY 悪党は月からやって来る』ゲネプロレポート
ショー・テント・タカラヅカ『BADDY 悪党は月からやって来る』(撮影/森好弘) (c)宝塚歌劇団
2月初旬、宝塚大劇場にて宝塚歌劇 月組公演ミュージカル・プレイ『カンパニー -努力、情熱、そして仲間たち-』、ショー・テント・タカラヅカ『BADDY -悪党は月からやって来る-』が開幕した。SPICEでは初日に行われたゲネプロの模様をお届けする。
■ミュージカル・プレイ『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』<原作/伊吹有喜『カンパニー』(新潮社刊)、脚本・演出/石田昌也>
●仲間がいるから困難も乗り越えられる、ハートウォーミングな成長譚
月組トップスターの珠城りょうが、日本の現代劇で持ち味を発揮している。真面目な気性から、時に優等生過ぎるとも映る珠城だが、それも「大」が付くほどに極めれば武器になるのだと証明して見せる。誠実な人柄が、不器用に正義を貫く主人公の役柄にマッチするのだ。その上で、劇中には「やって後悔することも芸の肥やし」など、殻を破れと言わんばかりに主人公らを鼓舞するような台詞もあり、まるで今の珠城と月組のために書き下ろされたような心温まる成長譚だ。
(c)宝塚歌劇団
原作は、伊吹有喜の同名小説。2年前に妻を亡くして以来、どこか淡々と生きてきた製薬会社の総務課長・青柳誠二(珠城りょう)が、突然バレエ団への出向を命じられ、新たな仲間と社運を賭けた協賛公演『新解釈・白鳥の湖』を成功させるため、奮起する物語。ただし、脚本・演出の石田昌也が原作を「原案」と言うように、今作では主人公の名前が誠一から「誠二」に変わるなど、細やかな改訂が加えられた。観劇後は、原作と読み比べるのも一興だろう。
(c)宝塚歌劇団
冒頭、スーツにリュックを背負った通勤スタイルで登場する珠城りょう。爽やかに弾ける笑顔を観た瞬間、青柳誠二という主人公が、誠実で心優しい好青年であることが伝わってくる。トップ娘役の愛希れいかは、誠二をサポートするバレエ団のダンサー、高崎美波。自身も優れた踊り手である愛希は、しなやかな肢体と踊りで役に説得力を与える。世界的プリンシパル・高野悠には美弥るりか。誠二とは互いに良い影響を与え合う同志であり、劇中では妖艶な黒鳥として舞う姿も披露する。月城かなとは、誠二の会社のCMソングを担当する人気ヴォーカル&ダンス・ユニット「バーバリアン」のメンバー、水上那由多。そして、昨年の大劇場月組公演『All for One』でポルトス役を好演した暁千星も、バレエ団のアイドル的存在としてチャーミングな魅力を発揮している。
(c)宝塚歌劇団
リストラ、残業、グラビアアイドルとの密会、オリンピックまで、作中には今どきの時事ネタが次々に飛び出す。加えて、エンターテインメント業界の内情を描いたバック・ステージ・ミュージカルとしても、ワンシーンごとにドラマがある。果たして、正直者が損をするような今の世の風潮にあって、<努力・情熱・仲間>を合言葉に掲げる今作は、どんな結末を描くのか。劇中、幾度となく歌われる主題歌「カンパニー」(作詞/石田昌也、作曲/手島恭子)の歌詞とメロディが、月組へ向けられたエールのようにも感じられ、何度も爽やかな感動へと誘われた。
■ショー・テント・タカラヅカ『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』<作・演出/上田久美子>
●超ヘビースモーカーの大悪党が地球の平和を乱す、前代未聞の痛快ショー
1幕のミュージカル・プレイ『カンパニー』では「やって後悔することも芸の肥やし」と、さらなる伸びしろを予感させた月組の、可能性という名の鉱脈を早々に堀当てたのが、2幕を手掛けた作・演出の上田久美子だ。本作は上田にとって初のショー作品となる。
上田と言えば、これまで『星逢一夜』『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜』など、重厚な大人のドラマを手掛けてきた“正当派”の印象があったが、今作でそのイメージをガラリと反転させる。ショー・テント・タカラヅカ『BADDY -悪党は月からやって来る-』はタイトルからして、正当とは対極に位置する。上田は、珠城を筆頭に月組メンバーのみならず、自らの隠された魅力にも光を当てた、悪逆非道な痛快ショーを完成させた。
(c)宝塚歌劇団
舞台は、悪が排除されたピースフルプラネット地球の首都・TAKARAZUKA-CITY。そこへ、惑星資金を強奪するため主人公の大悪党バッディ(珠城りょう)が、右腕のスイートハート(美弥るりか)ら一味を連れて月から舞い降りる。この日を境に、地球の平和を守る万能の女捜査官グッディ(愛希れいか)と相棒ポッキー巡査(月城かなと)との決死の戦いが始まる……。と、ここから先は、見てのお楽しみ。上田の発想力とそれを具現化するスタッフ陣の技術力、そして架空のキャラクターを見事に我が物にする月組メンバーの技量と勇姿に、感嘆することになるだろう。主題歌「BADDY」(作詞/上田久美子、作詞/青木朝子)は1幕同様、終演後もリフレインすること間違いなしのインパクトだ。
(c)宝塚歌劇団
ストーリーものとは言え、本作はれっきとしたショー作品であり、ほぼすべての場面が歌とダンスで構成される。近未来的な電子音楽をベースに、悠々とタバコをくゆらせ群れ踊る、珠城りょう率いるバッディ軍団のカッコよさは、これまでにない興奮を与えてくれる。対するグッディ捜査官らは、変装も辞さないコミカルさで場面を盛り上げる。グッディ役の愛希れいかは人一倍正義感が強く、そのくせピュアで単純という、ちょっぴり隙のあるキュートなヒロイン像が良く似合う。また、ダンサーとしても多彩な見せ場が用意され、中でも娘役を従えてセンターで踊る姿は、とびきりエネルギッシュで印象に残った。
どのシーンも捻りが効いていて、最後の最後までびっくりするような仕掛けが満載。予測不可能な展開にグイグイ引き込まれる。そんな、宝塚の常識に豪快なまでに風穴を開けた力作には、当然賛否の声があがるだろう。自分はどんな感想を抱くのか。まずは、話題作に出合える幸せを、存分に味わってみてはいかがだろうか。
取材・文=石橋法子 撮影=森好弘
■脚本・演出:石田昌也
■作・演出:上田 久美子
2018年2月9日(金)~ 3月12日(月)
2018年3月30日(金)~ 5月6日(日)
※【提示特典】各ご観劇当日に限り、「歌劇の殿堂」入場料金250円(通常500円)で入場頂けます