GLIM SPANKYが初の日本武道館に打ち立てた孤高と自由の旗印

レポート
音楽
2018.5.13
GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

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GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館  2018.5.12  日本武道館

2018年5月12日、GLIM SPANKYが初めて日本武道館のステージに立った。赤いカーペットが敷き詰められたステージには音響/照明機材があるのみで、背後にも緞帳のような白い幕が張られているほかにはセットやビジョンの類も一切なし。各楽器間の距離感が近くて花道などもないため、ステージ上だけを見れば新木場コーストあたりとほとんど変わらない。ついでにタイトルも超シンプル。なんとも彼女たちらしいじゃないか。

GLIM SPANKY・松尾レミ 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY・松尾レミ 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

後のMCでも言及された通り、何かトラブルがあったそうで開演が25分ほど遅れたのだが、場内の熱気に影響はなし。暗転してSEが流れ出すと歓声、口笛、拍手と思い思いのリアクションで観客たちが出迎える。まずサポートメンバーの3人が定位置についたあと、両手を掲げて亀本寛貴(Gt)が、静かな佇まいで松尾レミ(Vo/Gt)が登場。1曲目は「アイスタンドアローン」だったが、この選曲は予想通り、というかコレしかないだろう。深く歪んだギターが奏でるイントロと同時にステージが真っ赤に染まり、次の瞬間には放射状に客席側を照らす照明が広範囲に光線を放つ。自らの精神と音楽性を記した孤高の旗が8角形の天井に翻る。「こんにちは、GLIM SPANKYです!」少し上気したようにも聞こえる松尾の声がライブの始まりを告げた。

GLIM SPANKY・亀本寛貴 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY・亀本寛貴 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

「焦燥」、さらには「褒めろよ」と、メジャーデビュー期にその存在を世に知らしめたナンバーを続けた立ち上がり。「アイスタンドアローン」で歌われるように「孤高であれ」という意識を常に持ち続け、シーンに迎合することなく歩んできた彼女たちではあるが、決してそこに背を向けて「分かるヤツだけ分かればいい」というスタンスをとってきたわけではなく、むしろ「どうすれば自分たちの信じるロックを大衆に響かせることができるか?」というテーマと向き合い続けたのがデビューから今に至る4年間であり、そのためにメディアにも積極的に露出してきたし様々なタイアップソングも作り、アウェー上等なスタンスでイベントやフェスにも出演してきた。ロックの多様性を理解し愛しながらも、デビュー当時にはストレートでオールドスクールな面を強く打ち出していたのもそのためだ。そうやってGLIM SPANKYが武道館を埋めるほどの同志たちと出会ってきたという事実を、初期2曲を聴きながら噛みしめる。

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

浮遊するオリエンタルなサウンドが幽玄な響きを生み、砂漠や篝火に照らされたようなキャラバンのシルエットなど背後に投射される映像も効果的に作用していた「MIDNIGHT CIRCUS」や、60~70’sサイケへの憧憬を隠さない視覚効果とサウンドとで織りなす曼荼羅模様で場内を倒錯させた「BIZARRE CARNIVAL」と「The Trip」、そして亀本の爪弾くアコギとともに松尾が牧歌的に歌う「お月様の歌」。最初のブロックで演奏された8曲で、一気にGLIM SPANKYの音世界の深層まで到達する。一方、MCになるとゆるい調子なのはいつも通りで、「すげーデカい」「嬉しいよねー」「(頭上の日の丸について)背負ってやる感じがいいですね」とはしゃいだり、「こんなにロックが好きな友達たちが集まったからさ、ロックを楽しむ夜にしましょうよ」(松尾)と親しげに語りかけたり。このあたりですっかり肩の力も抜けたようで、ライブはより加速していく。

「ダミーロックとブルース」「ミュージック・フリーク」あたりは、音色もフレーズも多彩な亀本のギターを筆頭に、原理的なロックの醍醐味を肌で感じることができた。松尾がこういう曲でみせる吐き捨てるような歌い回しも堪らない。観るたび聴くたびに怪しげなグルーヴが威力を増している気がする「いざメキシコへ」で散々場内を揺らした後は、一際キャッチーでアッパーな「怒りをくれよ」へとなだれ込んでいく。特に客席を煽ったりはしないのだが、勝手に生まれていく一体感。松尾が珍しく歌詞を飛ばすも(曰く「武道館にはマモノがいましたね(笑)」とのこと)、むしろ「うおおおおー!」と猛り立つオーディエンスたちがなんとも頼もしい。

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

ビートルズやボブ・ディラン、ツェッペリンなど偉大な先人たちが歴史を作ってきたのが武道館のステージであるとした上で、「ロックキッズとしては感慨深いです」(松尾)、「そこまで思い入れはなかったけど、今やっと嬉しい気持ちをしみじみ感じています」(亀本)とそれぞれが“らしい”言い回しで感想を述べた後、「吹き抜く風のように」「美しい棘」と、ポップスとしての高い強度とメロディの美しさが際立つ2曲を並べた流れも良かった。ハードなGLIM SPANKYやディープなGLIM SPANKYももちろん最高だが、フォークやポップスもしっかりルーツとして持つ松尾のソングライティングのセンスは、こういう曲でこそ輝きを増す。加えて、先日リリースされたばかりの「All Of Us」では大きなスケール感までも感じさせてくれた。だからこそ、直後のMCで語られた「優しさ、静かなもの、ヘンテコなものも全てロックで。そういういろんなロックの引き出しを作って、日本のロックシーンに感じる“狭さ”を開拓したいと思います。一緒に台風の目を大きくしていきましょう」という松尾の言葉を、僕はこれまで以上に現実感のあるものとして受け止めることができた。ついでに、もっと大きなところを目指すために「変な風になる」ことはない、と武道館で断言できる2人のキャラクターにも賛辞を送りたい。

GLIM SPANKY・松尾レミ 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY・松尾レミ 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

MC明けの和やかな空気をぶった切るダークなイントロ、「愚か者たち」からはいよいよクライマックス。ソリッドで音の隙間がたっぷり設けられているぶん亀本の奏でるロックギターのカッコよさを堪能できた「NEXT ONE」では、コーラス部を歌う観客も多くいた。また、「あれ、こんなにいい曲だっけ!」と驚かされたくらいにライブ映えしていた「END ROLL」が素晴らしい出来栄えで、ラテンパーカッションのコミカルなリズムと邪悪に歪みまくったサウンド、低く抑えたボーカルと時折火を噴くギターが、深いグルーヴを醸成する。シンセやパッドなどモダンな要素も大胆に取り入れた「In the air」の温度感低めなグルーヴとの対比も鮮やかで楽しい。

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

「少しでもみんなの曲になったら、と歌い続けています」そう言って本編を締めくくったのは、代表曲「大人になったら」だったのだが、冒頭と同様、なんとなくそんな気がしていたというか、そうだったら最高だなと思っていた曲。実際、最高の出来栄えで、松尾と亀本がしばし向かい合ってギターを弾くシーンや、亀本が名残を惜しむように哀愁を帯びた音色を響かせたアウトロでは胸が熱くなった。だが、個人的に最もヤラレてしまったのは、その1曲前。客席中を目一杯照らした中で歌われた「サンライズジャーニー」よりほかにない。

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

1stアルバムの表題曲であり、ライブで演奏されるのは多分相当久しぶりであろうこの曲について、松尾が語る。リリースしてすぐの頃に下北沢GARAGEでライブをしたとき、この曲の演奏中に仕事帰りのサラリーマン風の男性が入ってきて、盛り上がって聴いてくれたこと。その彼が<僕らの思い込みじゃない>という箇所で号泣していたことで、一緒に感動しあって魂を震わせることの美しさを感じたこと——。
様々な環境で今を生きる我々一人一人にとって、現状は納得できるものではないことの方が多いかもしれない。そういう雌伏の時を過ごす者へのアンセムとして、この曲をGLIM SPANKYが武道館で鳴らした意味はものすごく大きい。なぜならかつての彼女たちもそうだったからだ。以前のインタビューで、“バス”というのは東京へも名古屋へも何時間もかかる山奥で育った2人が外界とつながるための交通手段であったのだ、という話をしてくれたことがあったが、つまりこの曲で歌われるバスとは、「いつかは……」という思いを抱く全ての者にとってのキッカケや可能性そのものである。長野の片田舎で<ずっとバスを待っていた>少年少女は、やがて時代の真ん中へと打って出て、今日ついにロックの聖地で自らの音を歌い鳴らすに至ったのだ。

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

アンコールではじめに披露した「さよなら僕の町」もその流れの中で生まれた曲だろう。高校を卒業して地元を離れる前、最後に作った曲だという同曲を、松尾と亀本の2人だけでアコースティックギターとともにじっくりと届け、松尾の落ち着いたトーンの歌声に亀本の紡ぎ出すブルージーなフレーズが寄り添えば、あたたかな空間が広がる。再びバンドメンバーを呼び込み、およそ2時間半にわたるライブを締めくくったのは「リアル鬼ごっこ」と「Gypsy」という、痛快なロックンロールだった。場内を見渡すと、立ち上がる人、座ったままじっくり聴く人、拳をあげる人、タオルを掲げる人……自由に楽しむことを標榜するGLIM SPANKYのライブに相応しい光景が広がっていたが、珍しくシンガロングを促す松尾の姿も特別感があって良い。

バンド史上最多となる全25曲。個々の楽曲が生まれたタイミングごとのテーマや趣味嗜好、マイブームなどが反映されているものの、こうして新旧入り混じって演奏されると明確に一本筋が通っていて、自らの活動スタンスや魂の在りどころをハッキリ示し、同時にまだまだ先へと進んでいくのだという野心的な姿勢も打ち出した初武道館だった。そしてやはり、武道館のステージはGLIM SPANKYにとてもよく似合っていた。この先2人がどんな曲を生み出し、何処に旗を立てていくのかはまだ分からない。が、確かに言えることは、GLIM SPANKYがいる場所では時代を超越したロックミュージックが鳴り続けていくということ。それは僕らの思い込みじゃない。


取材・文=風間大洋  撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

GLIM SPANKY 撮影=HAJIME KAMIIISAKA

セットリスト

GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館  2018.5.12  日本武道館
1. アイスタンドアローン
2. 焦燥
3. 褒めろよ
4. MIDNIGHT CIRCUS
5. 闇に目を凝らせば
6. BIZARRE CARNIVAL
7. The Trip
8. お月様の歌
9. ダミーロックとブルース
10. ミュージック・フリーク
11. いざメキシコへ
12. 怒りをくれよ
13. 吹き抜く風のように
14. 美しい棘
15. The Flowers
16. All Of Us
17. 愚か者たち
18. NEXT ONE
19. END ROLL
20. In the air
21. サンライズジャーニー
22. 大人になったら
[ENCORE]
23. さよなら僕の町
24. リアル鬼ごっこ
25. Gypsy 
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