『万引き家族』是枝裕和監督が外国特派員協会で会見「ここ数年、“家族”を巡って起きている事件は元にしている」 作品が醸す“物議”に言及

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2018.6.7
是枝裕和監督

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6月6日(水)、映画『万引き家族』の是枝裕和監督が外国特派員協会にて記者会見を行った。

『万引き家族』は、『三度目の殺人』『海街diary』の是枝監督の最新作。万引きを重ねる一家がある事件をきっかけにバラバラになり、それぞれの抱える秘密や願いが明らかになっていく……というドラマ。息子とともに万引きを繰り返す父親・治をリリー・フランキー、初枝を樹木希林、信江を安藤サクラ、信江の妹・亜紀を松岡茉優が演じているほか、山田裕貴も出演。6月8日から全国で封切られる。同作は、第71回カンヌ国際映画祭・コンペティション部門にてパルムドール(最高賞)を受賞。6月2日(土)3日(日)には2日間限定、全国325館326スクリーンで先行公開され、動員数15万2,872人、興行収入1億93,70万9,400円の好成績をあげている。

是枝裕和監督

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是枝監督はパルムドール像を抱え会見場に登場し、多くの拍手で迎えられた。まずは映画委員会委員長のキャレン・セバンズ氏が、同作への批評や政治的な意見などが飛び交っている現状について質問。是枝監督は「僕自身、この映画ははじめから社会的、政治的なことを喚起してつくっているわけではない。なので、こんなリアクションが起きるとは思ってもいなかった。カンヌでの審査員たちの会話の中では、演出や役者やスタッフなど全ての調和がよかったといってくれたこと、審査員の女優たちがこぞって、この映画に出演する女優たちを褒めてくれたことが嬉しかった。2000年代に入って、海外の映画祭に出品するようになり、日本映画は社会性、政治性がないことについて批判が含んだ形で指摘された。でもそれは現実。なぜならば、そのような映画をつくっても、日本では興行に結び付かないからだ。そのことが、日本の幅を狭くしていることは自覚していた。2000年代以降は、ファミリードラマにこだわってつくっていた。しかし、ここ二年はファミリードラマに一度ピリオドを打ち、今回は現在が抱える社会問題に“家族”というものをおいて考えてみたいと思った。恐らく、21年ぶりのパルムドール受賞ということもあり、僕が思っている以上にメディアに取り上げられ、普段、映画はみないような方もこの映画を知っていただいていることから、物議を醸している状況のようだ。しかし、通常の枠を超えて多くの方にも届いていることについては前向きに捉えている」と回答。その後、協会員である記者たちからの質疑応答に応えている。

是枝裕和監督

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質疑応答の内容は以下のとおり。
 

是枝裕和監督

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――脚本を書くにあたってどんなリサーチをしたのか?

実在した事件を元にしたわけではないが、ここ数年、“家族”を巡って起きている事件は元にしている。<犯罪でしかつながれなかった家族>というフレーズが思い浮かんだとき、まずは「年金詐欺」をベースに、優しさで集まっているわけではなく、お金を目的として集まっている家族という設定にした。そこから、家族で万引きをしているという事件の裁判の記事の中で、「釣り竿だけお金を払わず家の中に置いてあった」という一文だけでまとめられているのが、とても気になった。釣り場屋さんには申し訳ない話だが、そのとき、きっとその盗んだ釣り竿で親子は釣りを楽しんだんだろうなというイメージが浮かんだ。一番印象に残っているのは、養護施設に訪れたとき、小学生の女の子がふとランドセルから絵本の『スイミー』(レオ・レオニ作)を取り出し、突然それを読み始めた。職員の方は、迷惑だからやめなさいと止めたが、その女の子は結局その絵本を最後まで読み切った。その姿に感動し、スタッフみんなで拍手をしたら、その女の子がとても嬉しそうに笑った。きっと、この子は本当の親に聴かせたいのだろうと思った。それが頭から離れなくて、映画の中でもこの出来事を反映したシーンを書き加えた。

――新しい企画が欧州で展開されると耳にしたが、言える範囲で構わないので教えてほしい。

まだ正式発表の前なのに、色々と漏れていて不思議だ(苦笑)。秋にフランスでフランスの役者と映画を撮ろうと思っている。6月からはパリに渡って準備を始める予定だ。まだ発表前なのに、なぜか役者のギャラまで情報が出回っている(会場笑い)。来月までには何かしらの形でお知らせできると思う。

――今回の映画は、政治を生業とする方が観衆にいると想定してつくられたのか?

その考えは全くありません。僕はTVをやっている時代から先輩に、母親でも友人でも誰でもいいから、誰かひとりの為に作品をつくれと言われてきた。それが、結果的に伝わると20代の頃に教えられた。今、その質問を受けてはっきりとわかったことがある。この作品は、『スイミー』を読んでくれたあの女の子の為につくっている。

――見えない花火を見上げるシーンが大好きなショットだ。是枝作品の多くは、ある意味“家”が主人公であると捉えているが、“家”についてのこだわりを教えてほしい。

花火のシーンは、審査員のひとりであった、チャンチェンも好きだと言ってくれた。審査員長だったケイト・ブランシェットがいっていた言葉を借りるならば、今回は「invisible people=見えない人々」の物語をつくっている。見えない、聞こえないものを観る側がどう捉えるかがモチーフにあった。花火のシーンは、そのモチーフの中心にあると思う。撮影で使った家が見つかったことは、成功に好転している。あの家は、実際にある家とその家の中はセットもつくっているが、ロケとセットの見分けがつかないくらい精密につくられており、作品をみると、正直どっちが本当かもわからないほどで、それほどあの家がこの作品の中に馴染んでいた。こちらの要望に応え、あの家を見つけてくれたスタッフとそれを精巧に再現してくれた美術スタッフには感謝の気持ちでいっぱいだ。あの“家“がこの映画において、もう一方の主役だったのは間違いないと思う。

――ご自身が現地でみたコンペティション作品の中で、賞を獲るべきだと思った作品はあったか?

公式上映後は、有難いことに多くの取材依頼があり、他の作品を観る時間が全くなかった。観た中でいえば、『万引き家族』が一番よかったかな(笑)。

会見の最後には、同日が是枝監督の誕生日ということで、協会からバースデーケーキがプレゼントされるサプライズも。お祝いムードに包まれる中、会見は終了している。

是枝裕和監督

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『万引き家族』は6月8日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。

作品情報

映画『万引き家族』
(2018年/日本)
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和      
音楽:細野晴臣(ビクターエンタテインメント)
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ / 松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ /
緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 ・ 柄本明 / 高良健吾 池脇千鶴 ・ 樹木希林
配給:ギャガ   
英題:shoplifters   
(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
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