『スター・ウォーズ』『ニュー・シネマ・パラダイス』シネマ・コンサート発案者に聞く!「映像と生演奏の不思議なマッチングを五感で味わってほしい」

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2018.8.1
(左から)飯島則充(株式会社プロマックス)、岩崎井織(東京フィルハーモニー交響楽団) (撮影:こむらさき)

(左から)飯島則充(株式会社プロマックス)、岩崎井織(東京フィルハーモニー交響楽団) (撮影:こむらさき)

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2018年7月29日(日)から東京で始まり、8月以降、大阪、名古屋、浜松、札幌、仙台、福岡を巡演する『スター・ウォーズ』のシネマ・コンサート。さらに9月、東京と大阪にて開催される『二ュー・シネマ・パラダイス』シネマ・コンサート。

この二つのコンサートの特徴は、映画の音声、台詞、効果音はそのままに、劇中に流れる音楽をフルオーケストラが映像にあわせて生演奏するというもの。映画の一場面だけを切り取ってその場面の楽曲を生演奏する、という形式に誤解されがちだが、あくまでも映画を全編上映する中で、音楽の部分だけをフルオーケストラが担当、生演奏するという、新しい映画体験となる。

© 2018 & TM LUCASFILM LTD. ALL RIGHTS RESERVED © DISNEY.

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演奏を務めるのは国内屈指の名門オーケストラ・東京フィルハーモニー交響楽団(以下、東京フィル)。そしてシネマ・コンサート界の人気コンダクター=ニコラス・バックが来日してタクトを振る。

昨今、このような新たなスタイルのコンサートが徐々に増え、人気を博しているが、その感動体験を生み出している中心人物が、株式会社プロマックスの飯島則充プロデューサーと、東京フィルの企画制作課・岩崎井織だ。この夏秋に開催される公演について話を伺ってきた。

――まずはこの企画を立ち上げる事になった経緯から教えてください。

飯島 僕の仕事はコンサートをプロデュースする仕事なのですが、自分に近しい存在であるオーケストラを使って、どんな事ができるだろう、と常々考えていたんです。ある時、映画『ゴッドファーザー』のコンサートがアメリカ・シカゴである、と知って観に行ったんです。アメリカの5大メジャーオーケストラの一つであるシカゴ交響楽団が演奏していたんですが、その臨場感や迫力がものすごく良かったので、自分たちもやりたい、日本で広めたいと強く思うようになったんです。

飯島則充 (撮影:こむらさき)

飯島則充 (撮影:こむらさき)

――実際飯島さんご自身が体験した事がベースになっていたんですね。日本でこの企画を手掛ける際に東京フィルと組もうと決めたのには何か理由があったのでしょうか?

飯島 東京フィルの岩崎さんとは、シネマ・コンサートを企画する前から、いろいろなコンサートを一緒にやってきたので、そもそもの親交もあったんです。

岩崎 私自身は元々吹奏楽でトランペットを吹いており、音楽家という職業にはなりませんでしたが、オーケストラと一般の方々との橋渡しが出来たら素敵だな、という考えから東京フィルで企画制作という仕事に携わることになったんです。

飯島さんが提案された「オーケストラの演奏を聴きながら何かを観る」という企画は過去なかった訳ではないんです。それこそ「オペラ」という、生演奏の中、芝居を見せる一つのジャンルがあるくらいですから。映画についてもこういった企画が古くからありましたが、映像から音楽だけを抜くという技術はかなり大変な作業だったんです。さらに著作権の問題もあるので、なかなか日本に入ってこなかったんです。ところが最近はデジタル化され、技術も向上してきた事もあって『ゴッドファーザー』で試しにやってみたところ、非常に評判が良かったんです。それならば名作映画をこの形式で上演してみようか、と模索し始め、この企画が動き出したという訳です。

――スタンダードなクラシックコンサートをやり続けてきた東京フィル、もしくは岩崎さん個人として、このような企画に対する「抵抗感」のようなものはあったのでしょうか?

岩崎 私自身、スタンダードな交響曲を聴いてオーケストラを楽しむよりは、こういう親しみのある楽曲をオーケストラで演奏して、一般の方々との距離を縮めていく事に興味があったんです。クラシック音楽になじみがないお客様が「あの映画の音楽をやるならちょっと聴いてみようか」と思っていただける、とてもいい機会かな、と思ったんです。ただ、演奏する側としては、こういう形で演奏するという、システム的な部分に慣れる必要はありましたけど、今はもう大丈夫。演奏者たちも次はどんな作品をやるのか、また「この作品に出たい!」と手を挙げる奏者もいます。皆楽しみにしているようですし、いい経験になっていると思います。

岩崎井織 (撮影:こむらさき)

岩崎井織 (撮影:こむらさき)

――基本的な質問ですが、シネマ・コンサートはどうやって作られるのでしょうか?

飯島 映画の権利を持っている会社が「この作品をシネマ・コンサートにしていいですよ」と許諾を出し、それをプロダクションが映像から音楽だけを抜き出す作業とシネマ・コンサート専用の楽譜を作る作業をするんです。厳密に言うと、劇中の音楽をそのまま100%再現している訳ではないんです。映画によってはオーケストラにはない音を使っているので、そういった音もフルオーケストラだけで作ります。シネマ・コンサート用に微妙にアレンジして演奏するので、だからこそ楽譜もいちから作らないとならないんです。そしてコンサート会場で演奏するにあたり、映像の中に残っている台詞や効果音が生演奏の音量で消えてしまわないように、現場の音響担当が音のバランスをものすごく考えて作っていくんです。

――ずばり、シネマ・コンサートの魅力はどういったところにありますか?

飯島 映画とそこについている劇中音楽の場合、映像、音楽共にFIXしているので、いつどのように上映してもまったく同じ映像と同じ音楽が再生されます。でもシネマ・コンサートの場合、劇中の楽曲ごとに頭とお尻が揃っていれば、その場面の中でどう演奏されるかは指揮者と演奏者に委ねられています。映像の中の場面の動きを踏まえて生演奏される音楽からは映画館やDVDなどで観た時とは違う感動が生まれます。実際、シネマ・コンサートを観たお客様の中には会場で涙を流しながら感動している方も多くいらっしゃるんです。映画そのものの感動はもちろんですが、聞こえてくる音楽が生であるからこその感動も感じているように思えます。

あと、『スター・ウォーズ』について言えば、オープニングの「STAR WARS」というタイトルロゴが出る場面で流れるメインテーマが生演奏で聞こえてくると会場中から思わず「おーっ!」って声や時には拍手も聞こえてきます。さらにその前に現れる20世紀FOXファンファーレも生演奏でやりますから、その段階から感動している方もいらっしゃいましたよ。

『スター・ウォーズ フォースの覚醒』コンサートより

『スター・ウォーズ フォースの覚醒』コンサートより

――その話を聞いているだけでもゾクゾクします!ところで、映像に対する音楽が占める割合は作品によって違うと思うのですが、過去やってきた作品を振り返ってみてその辺りはいかがですか?

飯島 そうですね。例えば『スター・ウォーズ』の場合は、音楽の量が結構多いんですが、以前上映した『ゴッドファーザー』は映像に対して音楽が40%強しかなくて、音楽が入る場面を奏者が待っている時間の方が長かった。逆に『スター・ウォーズ』は演奏している時間の方が圧倒的に長いので大変ですね。

映画音楽って元々レコーディングスタジオで収録されることを前提に作られていますから、作曲家はこれをまるまる演奏するつもりでは書いてはいないと思うんです。だから、映画の頭からぶっ通しで演奏するという行為はキツイと思うんです。ましてや90%以上音楽があるような作品だと相当キツイでしょうね。

岩崎 だから、映画ではありますが、途中、絶妙なタイミングで「休憩」が入ります。本来映画では上映中に休憩はありませんが、そこはクラシックのコンサートと同じなんです。奏者も休憩し、お客様もその時間を利用してお手洗いに行ったり、お茶をしたりして、また後半の上演を楽しみましょう、となる。そういった点でも映画とクラシックが見事に融合されているんです。

飯島則充、岩崎井織 (撮影:こむらさき)

飯島則充、岩崎井織 (撮影:こむらさき)

――今回、7月29日(日)の公演では11:00から21:40頃まで、「新たなる希望」「帝国の逆襲」「ジェダイの帰還」の3作品を一挙上映するという回がありますが、奏者の事を考えるととんでもない挑戦企画となりますね(笑)。

飯島 ええ、だからこそ「世界初」の試みですし、東京フィルじゃないとできないでしょうね(笑)。

――奏者の大変さを想像しつつも『スター・ウォーズ』に関して言えば、金管パートの方々は、さぞかし嬉しいんじゃないですか(笑)。

岩崎 そうですね。思いっきり吹けますからね(大笑)。それでなくとも『スター・ウォーズ』という作品そのものが好きな人もいますから、本当に喜んでいると思います。

『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』より © 2018 & TM LUCASFILM LTD. ALL RIGHTS RESERVED © DISNEY.

『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』より © 2018 & TM LUCASFILM LTD. ALL RIGHTS RESERVED © DISNEY.

――一つ気になるのですが、昔の映画は、今より気持ち遅めのテンポだと思うんです。指揮者含め、演奏される側は自分自身の気持ちのよいテンポがあると思うので、その辺りでちょっとしたストレスを感じることもあるのだろうか、と思うのですが。

岩崎 奏者からすると、やはり普段自分たちが思うテンポとは微妙に違うと感じていますね。でも観にいらっしゃるお客様は映画のほうのテンポ感を期待している。その点はちょっと辛いかもしれません。例えば『スター・ウォーズ』のオープニング曲は、指揮者によって皆さん全然違うテンポでこれまでやってきたかと思います。このシネマ・コンサートでは指揮者だけが観るテンポや入りのタイミングを確認する特別な映像でテンポをコントロールしていますが、演奏する側は指揮者のタクトを見て演奏しています。そこで生まれるかすかな「揺れ」は生演奏ならではの味であり、楽しみではないかな、と思います。

――気になる事がもう一つ。お客様から観たステージ上には大スクリーンがあり、その下にはフル・オーケストラが存在している状態だと思いますが、両方が視界に入っていると気が散ってしまう方もいるのではないですか?

飯島 おっしゃる通り、スクリーンとオーケストラが共に視界に入った状態でスタートします。映画が進むにつれ、いつしかお客様は映像の方に引き込まれているんです。でも無意識にオーケストラの音を聴いているからこそ、より一層映像に引き込まれているとも思うんです。これがとても不思議な感覚なんですよ。スクリーンの下の方で指揮者が動いているのに、全然邪魔だと感じないんです。

――ところで、今回のシネマ・コンサートで『スター・ウォーズ』と共に『ニュー・シネマ・パラダイス』を選んだ理由を伺いたいのですが。

飯島 僕は『ニュー・シネマ・パラダイス』の音楽を手掛けたエンニオ・モリコーネが大好きで、モリコーネを日本に呼ぼうと思っていたんです。モリコーネがアカデミー賞を受賞した2016年の頃ですが、それより前からモリコーネに会いに行き、一緒に食事もして「日本でコンサートをやってほしい」とお願いしていたんです。残念ながら、来日計画は白紙になってしまったんですが……。そういう過去がありましたので、今回のシネマ・コンサートで『ニュー・シネマ・パラダイス』を上映&上演できることは本当に長年の夢が叶ったという心境なんです。間違いなく泣けるコンサートになると思います。僕はヨーロッパではモリコーネが大好きで、アメリカは(『スター・ウォーズ』の)ジョン・ウィリアムズ、日本では坂本龍一が大好きなんです。僕の中の映画音楽のTOP3なんですよ(笑)。

『ニュー・シネマ・パラダイス』より (c)1989 CristaldiFilm

『ニュー・シネマ・パラダイス』より (c)1989 CristaldiFilm

――飯島さんの熱い想いが伝わってきます!一方、岩崎さんがシネマ・コンサートの形でやってみたい映画はありますか?

岩崎 ……難しい事を聞きますね(笑)。私は『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』にどハマりした世代の人間です。だからこそ、今やっている作品が、まさに今やりたい映画とイコールなんです。

このシネマ・コンサートは闇雲に名作を選べている訳ではないんです。「音楽がしっかりした作品」でないと、このコンサートは成り立たず、オーケストラを入れる意味がなくなってしまうんです。例えば『スター・ウォーズ』は楽曲の構成がものすごくしっかりしているんです。こういうメインテーマがあり、そのテーマは違う場面で流れる楽曲にも描かれているし、エンディングの楽曲にも含まれている。その構成はまさにクラシック音楽と一緒なんです。『スター・ウォーズ』はジョン・ウィリアムズという作曲家が本当にすばらしく、奏者の演奏意欲を掻き立てるんです。演奏効果が非常に高く、また難しく書かれた楽曲でもあるので、それをいかにして演奏するかが奏者の探求心にも繋がっているんです。

だからこそ、シネマ・コンサートでやりたい作品は、しっかりした作曲家が書いている作品であること、が最低条件。そういった楽曲の作品ならできるだけ多くやりたいと思っています。そしてこういったコンサートを継続して、より多くの方々にお届けしていきたいですね。

――岩崎さんも飯島さんに負けないくらい熱かった!さて、そのシネマ・コンサートですが、クラシックのコンサートとしては珍しく、子ども(3歳以上小学生以下)料金を設定した“子ども”が導入されているんですね。

飯島 はい。『スター・ウォーズ』は二世代、三世代で大ファンというご家庭が多く、他のイベントをやっても親子、また祖父母とお孫さんで参加される方が多いんです。そういう経緯もあるので、それならばシネマ・コンサートでも子ども料金を作り、皆で一緒に観ることが出来るものにしようとしたんです。現時点でもこのを希望される方が多いので、やっぱりニーズがあったんだ、と実感していますよ。

岩崎 映画はデジタル化し、DVD化され自宅でも観ることができるようになりました。映画館は4DだIMAXだと環境が急速に整い進化を遂げています。そんな最先端のデジタル化された映画とは真逆とも言えるアナログなオーケストラが目の前で、生演奏している、映像と音楽の不思議なマッチングを世代を問わず、映画ファン、音楽ファンを問わず、多くの方に五感で味わい、楽しんでいただきたいですね。

取材・文=こむらさき

公演情報

『スター・ウォーズ in コンサート JAPAN TOUR 2018』
 
「新たなる希望(1978)」
■上演日時・会場:
8月4日(土) 大阪・フェスティバルホール 17:00開場/18:00開演
8月5日(日) 大阪・フェスティバルホール 13:00開場/14:00開演
8月8日(水) 名古屋国際会議場センチュリーホール 18:00開場/19:00開演
8月9日(木) 静岡・アクトシティ浜松 大ホール 17:30開場/18:30開演
8月12日(日) 昼夜2回公演・東京国際フォーラム ホールA
昼:12:00開場/13:00開演・夜:17:00開場/18:00開演
8月16日(木) 札幌・ニトリ文化ホール 18:00開場/19:00開演
8月19日(日) 仙台・東京エレクトロンホール宮城 大ホール 16:00開場/17:00開演
8月21日(火) 福岡サンパレス コンサートホール 18:00開場/19:00開演
9月1日(土) 昼夜2回公演・東京国際フォーラム ホールA
昼:12:00 開場/13:00 開演・夜:17:00開場/18:00開演
 
「帝国の逆襲(1980)」
■上演日時・会場:
9月2日(日) 東京国際フォーラム ホールA 12:00開場/13:00開演
 
「ジェダイの帰還(1983)」
■上演日時・会場:
9月2日(日) 東京国際フォーラム ホールA 17:00開場/18:00開演
 
■指揮:ニコラス・バック
■演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
 
■各公演・一般価格(税込):S席 9,800円/A席 7,800円 ※3歳未満入場不可
■子ども価格(税込):S席 4,800円/A席 3,800円 ※3歳以上小学生以下のお子さまが対象
■子ども発売日:6月17日(土)10:00~/イープラス ほかにて販売
※各映画上映は、英語上映・日本語字幕付きになります。
■親子で楽しめるロビー展開コンテンツも盛りだくさん!
会場では親子で参加できるロビーコンサートや、ワークショップ、夏の思い出写真を撮れるフォトスポットなど、この夏限定の特別な体験をぜひお楽しみください。
■既にをご購入済みの方へのキャッシュバックについて
※子ども販売前(6月15日以前)にお子様分のをご購入いただいている方へは、当日会場にて差額分のキャッシュバック致します。保険証、パスポート等にて年齢確認をさせていただきます。ご購入済みのと併せてご持参くださいますようお願い致します。
※7月29日(日)東京オペラシティでのプレミア特別公演は、キャッシュバック対象外となります。
 
■公式サイト:http://starwars-jp.com/concert/

公演情報

『ニュー・シネマ・パラダイス シネマ・コンサート』

■公演日時・会場:
2018年9月15日(土)東京国際フォーラム ホールA 16:00開場/17:00開演
2018年9月16日(日)東京国際フォーラム ホールA 12:00開場/13:00開演
2018年9月17日(月・祝)大阪・オリックス劇場 16:00開場/17:00開演
■券種・料金(税込):S席9,800円 /A席7,800円 ※3歳未満入場不可
■指揮:ティアゴ・ティベリオ
■演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
■公式サイト:http://www.promax.co.jp/ncp/
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