大衆演劇の入り口から[其之五]・前編 ギューッと心を抱きしめる!劇団都の芝居が観たい!11月公演に大注目

レポート
舞台
2015.10.28
前・藤乃かな座長 後・都京弥座長(2015/9/21) 筆者撮影 

前・藤乃かな座長 後・都京弥座長(2015/9/21) 筆者撮影 

大衆演劇は時代にピッタリ寄り添って

「正直、大衆演劇ってもっと昔ながらというか、ふるーい感覚なのかと思ってたの。お芝居、面白かった!」

大衆演劇初体験の友人を劇場に連れていくと、こんな感想を口にしてくれることがある。テレビや雑誌などの影響だろうか。白塗りの役者さんたちが、ポツポツと座っているお年寄り客を前に、お涙ちょうだいの決まりきった芝居をする―そんな湿っぽいイメージが一人歩きしているようだ。観に行ったところで、サッパリ共感できない芝居なのでは…?SPICE読者の中には、そんな風に思って敬遠している方もいるだろう。

心配は無用!大衆演劇は、“今、目の前のお客さんを絶対に楽しませる”ことを徹底しているエンターテイメントだ。お芝居も時代に合わせて、いくらだって変化する。現代の感覚を鋭くキャッチし、お客さんの心にピッタリ寄り添うお芝居を、各劇団が日々生み出している。

“同じ世界で今そこにいる人たちを見てる”

筆者などは感情移入のあまり、客席で鼻が真っ赤になるまで泣くことがある。最近赤っ鼻をさらしたのは、「劇団都」のオリジナル芝居『丸山哀歌』。藤乃かな座長、渾身の一作だ。

藤乃かな座長 左・立ち役(男役)(2015/9/21) 右・女形(2015/8/28) 筆者撮影 

藤乃かな座長 左・立ち役(男役)(2015/9/21) 右・女形(2015/8/28) 筆者撮影 

「もっとお話を聞かせてください。もっといろんな国のお話をしてください!」

遊女・結(藤乃かな座長)は15年間、丸山遊郭に閉じ込められている。あるときから藩士・桂木清之助(都京弥座長)が客として通って来るようになる。清之助は結に、異国に渡る夢を語る。

「結さん、知っていますか。エゲレスという国には蒸気機関車というのがあって、江戸から京までの距離を半日で行くそうです。それからメリケンという国では、ワシントンという百姓が一国の将軍にまでなったんです!」

結は聞いているうちに興奮して身を乗り出す。輝く瞳が、観ている側の心に語りかけてくるようだ。

―ねえ、エゲレスって、メリケンってどんな所だろう?

―あの人の話を聞いていると、心は遊郭の高い壁も飛び越して、見たことのない異国の空まで羽ばたいていく!

「大きな夢を持った、その人の話を聞いとると、うちまで一緒に夢を見られるような気がした!」

哀しいラスト近くの場面。結は最後まで笑顔を浮かべる。15年間、同じ部屋の天井を見つめながらも、たしかに夢見た。心はたしかに自由だった!客席で涙しながら、結という女性を、もう長いこと友人として見守ってきたような気持ちになっている。

「“共感”してもらいたいってことは、すごく思ってやってます」

と語る藤乃かな座長。旅役者の家系に生まれ、4歳から舞台に立ち続けている。お日様のような笑顔がトレードマークだ。

そして都京弥座長。中学校卒業前に劇団に入り、15歳で旅役者になった。かな座長の夫でもある。

都京弥座長 左・立ち役(男役)(2015/10/11) 右・女形(2015/9/21) 筆者撮影 

都京弥座長 左・立ち役(男役)(2015/10/11) 右・女形(2015/9/21) 筆者撮影 

大らかな笑顔。女形はマシュマロみたいにほんわり甘い。でも芝居『喧嘩屋五郎兵衛』では、ウ、ウ、ウウ…と京弥座長の泣き声が舞台に響く。顔の半分が火傷でただれた、やくざの五郎兵衛親分。その身をよじる苦しみと狂気を演じる。

「おめえの顔は人間が三で化け物が七、人三化七、化け物顔だ!」

と世間は五郎兵衛の顔を罵る。一瞬の春めいた縁談話は、祝言当日に破談になった。姉・お吉(かな座長)にすがる五郎兵衛の体の底から、絶望のうめきがほとばしる。つ、つ、と落ちる涙が観客の胸を引きちぎり、思わず客席から手を伸べたくなってしまう。観劇後、こんな感想を述べる人もいた。

「都のお芝居って“同じ世界で、今そこにいる人たちを見てる”って感覚があるけど、今作はそれが強烈。救えなくてごめんね、ってみんなに言いたくなるような気持ちに」

ラストシーンはすさまじい!腹に刀を突き刺し、命絶えようとする中。五郎兵衛の両目はらんらんと見開かれ、暗い火が燃えている。あのほのぼのとした京弥座長と同じ人とは信じがたい。『喧嘩屋五郎兵衛』については、後編のインタビューで京弥座長・かな座長が語ってくれているので、ぜひお読みください。

11月公演は岐阜の大劇場

さて、東海地方にお住まいの方!11月はチャンスだ。劇団都の公演先は、ぎふ葵劇場(岐阜県岐阜市)。JR岐阜駅から徒歩 10分のドンキホーテの8階にある。広々としたホールのようなきれいな劇場で、大衆演劇は初めてという方にも入りやすい。名古屋駅から岐阜駅は東海道本線新快速で20分なので、近郊の方はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。心の奥の奥までずい、ずぃーっと入って来る劇団都の芝居を体験できるはずだ。

後編は藤乃かな座長・都京弥座長インタビュー!

妖しい雰囲気の舞踊ショー。左から司春香さん(ゲスト)・華乃せりなさん・都京弥座長・星乃ななみさん(2015/9/21) 筆者撮影

妖しい雰囲気の舞踊ショー。左から司春香さん(ゲスト)・華乃せりなさん・都京弥座長・星乃ななみさん(2015/9/21) 筆者撮影

元気な劇団都の座員さんたち。左から華乃せりなさん・光乃みなさん・京乃健次郎さん・星乃ななみさん(2015/10/12) 筆者撮影

元気な劇団都の座員さんたち。左から華乃せりなさん・光乃みなさん・京乃健次郎さん・星乃ななみさん(2015/10/12) 筆者撮影

 
公演情報
劇団都11月公演 ぎふ葵劇場
会場:ぎふ葵劇場 Facebookページ
期間:11/1(日)~11/29(日) 
休演日:11/13(金)
公演時間:昼の部12:30~15:30  夜の部:17:30~20:30
料金:大人1900円 小人1200円
電話予約料金:300円
※予約なしにフラッと行っても観られるのが大衆演劇の魅力の一つ。だが前方の席で観たい・友人と並んで席を取りたいという場合には予約しておくと確実だ。
 
問い合わせ先:058-213-7244
〒500-8879 岐阜県岐阜市徹明通1-15 ドン・キホーテ8階
●JR東海道本線「岐阜駅」より徒歩10分
●名鉄「岐阜駅」より徒歩5分
●東海北陸自動車道「岐阜各務原IC」より15分
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