声優・諏訪部順一インタビュー 展覧会『ロマンティック・ロシア』のガイドボイスで見つけた、ロシア美術の美しさと神秘性

インタビュー
アート
2018.11.23
撮影=古川裕也

撮影=古川裕也

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2018年11月23日(金・祝)〜2019年1月27日(日)まで、Bunkamura ザ・ミュージアムで『国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア』が開催される。

この展覧会のオーディオガイドを務めるのは、声優の諏訪部順一。日本ではあまり馴染みのないロシア美術だが、諏訪部はその作品の数々に「親しみやすさを感じた」と語る。ガイド・ナレーションの収録を終えた諏訪部に、本展の見どころを聞いた。

ともすれば、その温度や香りまで

撮影=古川裕也

撮影=古川裕也

ーー収録を終え、『ロマンティック・ロシア』で紹介されるロシア美術に、どのようなイメージを持たれましたか? ロシア美術と聞いても、ピンとくる方は多くないように思えます。

実は私も、ロシア美術については造詣が深くないもので。今回のガイド音声収録は、いろいろと学ぶことができるとても良い機会でした。言い馴染みのない画家名が次々登場するのでいささか苦労しましたが、紹介する作品はどれも素晴らしく。思っていた以上に親しみやすいものが多かったように思います。

何が描かれているのかを理解することが難しい抽象画などではなく、誰が観ても「美しい」と感じるような作品が多いことがその理由として挙げられます。『ロマンティック・ロシア』は、美術のリテラシーがなくとも楽しむことができる、敷居の高くない美術展ではないでしょうか。

ワシーリー・バクシェーエフ 《樹氷》 1900年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

ワシーリー・バクシェーエフ 《樹氷》 1900年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

ーー音声ガイドでは、どのような作品についてナレーションをされましたか?

自然をモチーフとした作品が多くありました。温度や湿度、さらには香りさえも感じられるような。ロシアの風景を実際に見た経験がなくとも、誰もがその様に感動したり、心安らいだりする作品たちです。プリミティヴな感覚で享受できる、共感性の高い美しさだと思いました。

しかし、そういった普遍的な側面を持ちつつも、作品ごと、手掛けた画家の意図やアーティスト性などがしっかりと感じられるのがとても面白いですよね。

ウラジーミル・マコフスキー 《ジャム作り》 1876年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

ウラジーミル・マコフスキー 《ジャム作り》 1876年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

ーー特に興味を惹かれた作品をご紹介いただけますか?

非常に悩ましいのですが……(資料をめくり「飾れるものなら全部飾りたいですよ」「そんなに壁はありませんが(笑)」と、しばし悩む諏訪部さん)。

たとえばウラジーミル・マコフスキーの《ジャム作り》。長年連れ添ってきたであろう老夫婦の日常を切り取ったような作品ですが、とてもあたたかみを感じる作品です。非常に安定感のある構図が、円満な夫婦関係をも表現しているような気がしますね(笑)。

舞台のワンシーンのような美しさと神秘性

イワン・クラムスコイ 《忘れえぬ女(ひと)》 1883年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

イワン・クラムスコイ 《忘れえぬ女(ひと)》 1883年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

ーー日本で人気の《忘れえぬ人(ひと)》も出展されますよね。

この女性、なんとも言えない表情ですよね。写実的で、思わず目を惹きつけられる美しさがあります。彼女は果たしてどのようなことを考えながら座しているのか? そのバックボーンが気になって仕方がないです。ある種のフェチの方にはたまらないものがあるのではないでしょうか。

ーー諏訪部さんも、たまらないものを感じましたか?

私にはその気質はないので、残念ながらそういった楽しみ方はできません(一同、笑)。

同じクラムスコイでも、私の場合は《月明かりの夜》の方が心の琴線に触れるものがあります。レンブラントやフェルメールなどの作品にも感じるのですが、光と影、闇が美しく表現されている作品は好きですね。この絵からは物語性を感じるというか。まるで舞台や映画のワンシーンのようです。この女性は何を思っているのだろうか、背後の深い闇の奥に何があるのだろうか……など、想像が膨らみます。この1枚の絵をもとに物語が1本書けそうです。

ーー現物はとても大きい作品なのだそうです。作品を前に想像を巡らせるのは、鑑賞の楽しみのひとつになりますね。

絵画には、作家が込めた意図がもちろんあると思います。クラムスコイも何かしらの思いを込め、これらの作品を描いたのでしょう。しかし、そうした情報がない中で作品と向き合った時、鑑賞者がどのようなことを感じ取るかは人それぞれ。たとえそれが作者の狙いからはずれたものだったとしても、私はアリだと思うんです。自分にとっては、自分がそこから感じとったものが正解。学術的に研究するのでなければ、そういう楽しみ方でいいのではないかと。

作者の意図以上に深く想像をめぐらせてしまい、「え、その程度の意味だったの? めちゃくちゃディープなこと感じとっちゃったよ!」ということもありますが(笑)

イワン・クラムスコイ 《月明かりの夜》 1880 年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Galler

イワン・クラムスコイ 《月明かりの夜》 1880 年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Galler

ーー諏訪部さんは、プライベートでも美術鑑賞がお好きなのですね。過去にインスピレーションを与えてくれた画家はいますか?

最近は忙しく、頻繁には足を運べていませんが、展覧会などで美術品を観るのは好きです。幼少期に観て特に刺激を受けたのは、ダリやエルンスト、マグリットなどのシュルレアリスム作品、鮮やかな色使いや大胆なタッチが魅力のゴッホの作品などですね。それらは今でもフェイバリットです。​

ーー諏訪部さんの『ロマンティック・ロシア』オーディオ・ガイドを楽しみにされている方々に向けて、最後に一言お願いします。

もともとご存知の方はもちろんのこと、未知の方にとっても、ロシア美術を身近なものとしてお楽しみいただける素敵な展覧会だと思います。展示作品の魅力をより深く知っていただけるよう、丁寧に音声ガイドナレーションを読ませていただきました。サブテキストのような感じでご活用いただけますと幸いです。

撮影=古川裕也

撮影=古川裕也

『国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア』は、2018年11月23日(金・祝)より2019年1月27日(日)までの開催。Bunkamura ザ・ミュージアムで音声ガイドを聞きながら、諏訪部順一と視線を重ね、ロシア美術の魅力に触れてみてほしい。
 

(取材・文=塚田史香)

イベント情報

国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア
会期:2018年11月23日(金・祝)~2019年1月27日(日)
2018年11月27日(火)、12月18日(火)、2019年1月1日(火・祝)は休館
開館時間:10:00~18:00 金・土曜日は10:00~21:00(入館は各閉館の30分前まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
公式サイト:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_russia/

プロフィール

諏訪部順一
1995年から声優、ナレーター、ラジオパーソナリティとして数多くの番組、作品に出演。声優としての主な出演作は「テニスの王子様」(跡部景吾役)、「Fate/stay night」(アーチャー役)、「うたの☆プリンスさまっ♪」(神宮寺レン役)、「ユーリ!!! on ICE」(ヴィクトル・ニキフォロフ役)、「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」(レオーネ・アバッキオ役)など。2012年度と2017年度の声優アワードにて助演男優賞を受賞。
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