ジャンルレスな能? 現代能『「陰陽師 安倍晴明」〜晴明 隠された謎…〜』取材会レポート

レポート
舞台
2018.12.18
(左から)野村萬斎、梅若実玄祥

(左から)野村萬斎、梅若実玄祥

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2018年9月に上演された、野村萬斎演出の現代能『「陰陽師 安倍晴明」~晴明 隠された謎…~』。翌1月に行われる追加公演に先駆けて、都内で取材会が行われた。

2001年の初演以降、現代劇や映画的手法、イリュージョンなどの仕掛けを演出に取り入れ、国内外で上演されてきた現代能『安倍晴明』。今年9月に、日本舞踊の大家・藤間勘十郎の補綴、狂言のみならず演劇界をも牽引する野村萬斎の新演出でさらにパワーアップした同作が、主要キャストはそのままに再上演される。時は平安、朱雀帝は宮中に陰陽師の安倍晴明(野村萬斎)と葦屋道満(梅若実玄祥)を呼び出し、術比べの催しを行い……。

二人の陰陽師を演じる、観世流シテ方能楽師で人間国宝の梅若実玄祥と、野村萬斎が公演にかける意気込みを語った。

■梅若実玄祥

実は十二指腸潰瘍を患い、1ヶ月前にやっと退院したというところでして。12月9日の襲名の会(四世梅若実を襲名)もなんとか務めさせていただきました。

今回なかなか実現できなかった僕の念願が叶って、“晴明役者”とも言える萬斎さんに、演出から何から全部やっていただきました。萬斎さんが芝居と能の中間を実にうまく表現してくださっていて、お客様に楽しんでいただける作品になっているかと。9月に上演した際も「面白かった」という感想を多くいただき、飽きることのない作品だと感じています。

晴明の母・葛葉姫と、非業の死を遂げた女性・榊の前役の大空ゆうひさんは、宝塚歌劇団時代からファンで、以前からご一緒したいと思っていました。性別を超えた表現をされてきた方なので、いわゆる女優さんとはまた別の感覚で演技していらっしゃるのかもしれません。そういった面で能と近しいところを感じますし、共演していてとても面白いです。

今までは、能、狂言、歌舞伎、宝塚歌劇……のように、それぞれ分かれているところがありましたけど、最近ではジャンルを超えたエンターテイナーが集まって何か一つのものをつくるという時代になってきていると思うんです。この作品ももっともっと広がりを持つようになればいいですね。さらに将来的には海外に持って行って、現地の役者とやっても面白いでしょう。本作が、日本の文化を世界に広げる一助になれば、と考えています。

■野村萬斎

9月公演のご好評を受け、さっそく年明けに追加公演が決定しました。お正月ですし和のものに触れていただきたいです。

現代能と銘打っていますが、能、狂言、宝塚歌劇、日本舞踊、イリュージョン、プロジェクションマッピングなど、さまざまな表現手法を用いた絵巻物のようなエンターテインメント作品です。能や狂言というと身構えてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、“能や狂言の入り口”になるような作品だと思います。

能では“龍”など、実在しないものが存在するかのように演じるのですが、この作品ではそういったものを可視化していて。能というのはこうやって観ればいいんだな、と感じていただけるかと思います。また、古典の技術とデジタルアートは、意外とマッチするとご理解いただけるのではないでしょうか。

前回は語り部役で(上方落語家の)桂南光さんにご出演いただいておりましたが、今回はご都合がつきませんでした。お笑いの要素は減るかもしれませんが、その分、安倍晴明の世界がより濃くなるかなという気がしますし、新しいお笑い的な部分をこれから入れていきたいですね。

現代の日本では、能や狂言、歌舞伎などは、特殊な芸能として区別化されていますが、一つの作品に皆で取り組むことで、そういった垣根がなくなっていくと考えております。この作品は新しい時代に向かっていく象徴的なものなのかもしれません。

萬斎と言えば、2020年に迫る東京オリンピック・パラリンピック開閉会式の演出総合統括にも注目が集まる。

本取材会でも「ジャンルの超越や、古典とハイテクノロジーの融合など、ステージ演出と被っていることはあります。いろいろな実験や試演ということにもなりますので、今回いい機会を与えていただいたなと思っております」と、笑顔で答えた。

今作での蓄積も、きっと未来の糧となることだろう。

取材・文・撮影=永瀬夏海

公演情報

現代能「『陰陽師 安倍晴明』~晴明 隠された謎…~」
 
■会場:中野サンプラザ ホール
■日程:2019年1月9日(水)・10日(木)
1月09日(水) 開場:13:15 開演:14:00
1月10日(木) 開場 17:45 開演:18:30

 
■原作:吉田喜重
■脚本補綴・振付:藤間勘十郎
■演出:野村萬斎
■監修:梅若実玄祥
■出演
葦屋道満:梅若実玄祥
安倍晴明:野村萬斎
葛葉姫 / 榊の前:大空ゆうひ
舎人:高野和憲、月崎晴夫
晴明の武神:初姫さあや、琴音和葉、花柳まり草、花陽みく、西尾萌 ほか

 
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