ワイルドアームズの世界を音楽で楽しむ至福の時間 『Score Re;fire #1 WILDARMS Vocal song Concert』レポート
2018.12.15(Sat)『Score Re;fire #1 WILDARMS Vocal song Concert』 関内ホール
2018年12月15日(土)、神奈川県横浜市にある関内ホールにて、名作RPG『ワイルドアームズ』シリーズのボーカル曲が楽しめるホールコンサート、『Score Re;fire WILD ARMS』が開催された。
『ワイルドアームズ』シリーズは、1996年にプレイステーションで発売された第1作から、22年間にわたって、シリーズを重ね続けているRPG。マカロニウェスタン風の世界観にSF要素が加わった異色の設定で多くのプレイヤーを魅了した。2007年にPSPで発売された『ワイルドアームズ クロスファイア』から11年の時を経て、今年の秋からは新たにスマートフォン向けのソーシャルゲームとして新作がサービスを開始している。
シリーズの共通のテーマであるマカロニウェスタンの世界観を、ユーザーに想起させるのが、そのサウンドである。シリーズに深く関わっている作曲家のなるけみちこ氏が制作した楽曲の数々は、荒涼とした世界観を表現しつつ、懐かしさを感じ、時に切なく、時に情熱的なウェスタンの雰囲気を見事に演出している。
今回は、シリーズを彩ってきたボーカル曲をリアレンジし、バンドサウンドに、ブラス、ストリングスを含めた贅沢なバンド演奏に、2人のボーカリストとコーラスを含めた「渡り鳥バンド」による昼夜2回のコンサートが行われた。
ここでは、昼の回に行われたコンサートの模様をお届けする。
管弦セクションが加わった豪華なバンドサウンドと、圧倒的なボーカルが会場を震わせる
拍手喝さいの中、バンドメンバーが登場。世界観に合わせて、全員がレザーのベストにスカーフ、ポンチョを巻いて、カウボーイハットやバンダナといったウェスタンスタイルで統一している。
バンドメンバーによるオーバーチュアが演奏される中、ボーカルの麻生かほ里、織田かおりとコーラスのSAK.が登場、マイク前に並ぶと再び会場は拍手に包まれる。
そのまま、1曲目の「Resistance Line」へ。原曲のアグレッシブな雰囲気をパーカッションやギターカッティングを生かしたソリッドなラテンサウンドに仕立て直したアレンジと、メインボーカルの麻生がノリノリのステップで歌う姿に会場から、さっそく手拍子が上がる。
続く、「Windward Birds」では原曲よりも、荘厳なイメージのストリングスから始まり、メインではブラスは参加せずにバンドサウンドで進行。途中の間奏でブラスが一斉に参加、わずかな間奏の間に一気に音が重なり重厚感も演出。後半のラスサビ前で、再びブラスが参加し、アレンジャーの穴沢氏によって加えられた原曲にはない英語詞によるコーラスワークと共に曲終わりまでさらなる盛り上がりを見せる。アウトロでは音が一斉に止み、ストリングスだけが鳴り響くところも幻想的だ。
ここで、MCとして作曲家のなるけみちこが登場。「渡り鳥」と呼称されるワイルドアームズファンに向かって「渡り鳥のみなさん、おかえりなさい!」と声をかけ、メインボーカルの麻生と、織田、そしてSAK.を紹介し、風の音と共に再びライブパートへ。
3曲目の「Wings」は、ピアノとハイハットがメインで、比較的音数の少ないメロから、サビでは一気にバンドサウンドで盛り上げる。織田とSAK.による間奏の雄々しいコーラスも印象的。ここでも麻生が華麗なステップや、ダンスを披露。曲を通してバックでなり続けるリズミカルなハイハットが曲の疾走感を演出する。
続いての「葬列」、前曲とは打って変わって切なげな印象のバラード。3曲続けて、ステップや、ダンスのような軽快な動きを見せていた麻生も、歌詞を噛みしめるように歌い上げる。
続いてのMCでは、メインボーカルの麻生から今回のコンサートに開催にあたっての感想等が語られる。
「私が携わらせていただいてから22年も経った『ワイルドアームズ』。数カ月前に同シリーズの曲だけを歌うというコンサートを開催した際に、久しぶりに歌った曲もありました。こんなに素敵な心に響く曲を、もっと歌える機会があればと思っていたら、早くもその機会が訪れて、しかもこんな豪華なバンドサウンドで本当にうれしいです。中には、親子で聞いてくれているファンもいて、ありがたいです。(一部抜粋)」
自身のキャリアの中で、多くの楽曲に参加し、また声優としてアニメ『ワイルドアームズ トワイライトヴェノム』にも参加していたことから、同作品への思い入れの強さを感じた。
5曲目はダンサブルなナンバー「Zephyrs's」で、雰囲気が一転。原曲と同じくブラスセクションが小気味よくサウンドを引き締め、軽やかなリズムに合わせてステップを踏む麻生も心地よさげに歌っていた。アウトロの口笛に合わせて観客も一緒に吹いていたのは微笑ましい光景であった
続く、「as time goes by~僕等は忘れない~」は、ワイルドアームズには珍しくミドルテンポなシャッフルナンバー。曲中のコーラスによるハミングがムーディーな雰囲気を演出する。
「Advanced Wind」は、ウエスタンミュージックらしくかき鳴らすギターの演奏が疾走感を演出。途中から響くストリングスのメロディに続いてブラスとコンガも重なり、最後のサビでは麻生が英語詞バージョンの歌も披露。途中、麻生が腰に巻いているガンベルトから模造銃を抜いて、高く掲げる演出も見せる。
再びMCでは、作曲家のなるけが登場し、バンドメンバーを紹介。
また、今回のコンサートの楽曲アレンジャーで、数多くのゲームの楽曲を手掛けている岩垂徳行氏と、穴沢弘慶氏が登壇、なるけが丸太の椅子に着席を促す。よく見るとステージの端には、焚火をイメージしたセットと照明、丸太の椅子が用意されており、ここでもウェスタンの雰囲気を演出している。
3人の緩い会話は、ややコントじみたなるけの物販紹介が混じり、会場の笑いを誘った。
焚火を囲んだ子守歌や、新曲披露など、バラエティな演出となった後半戦
再びライブパートへ戻ると、ここからは織田かおりにメインボーカルが交代し、「誰がために」を演奏。多くのユーザーにとってはやるせないラストシーンが脳裏に浮かぶであろう寂しげなバラードだが、コーラスによる思わず唸ってしまう綺麗なハモもかなり多い印象の楽曲だった。
続く「本気の嘘」も、イントロはピアノとボーカルのみの静かな始まりから一気にアップテンポでパワフルな展開へ。後半に向かってどんどん楽器が増えて、最後で一気に盛り上げる構成。織田の真骨頂である、観る者を圧倒する迫力たっぷりの歌声とパフォーマンスはこの日も健在だった。
ここで再びMCパート。
なるけに進められて、麻生、織田、SAK.の3人が焚火のセットに集ると、バンドマスターの伊丹雅博もアコースティックギターを持って火のそばへ。焚火を囲んで3人が歌うという演出で「Lullaby」を披露する。アカペラに程近い合唱曲をアコースティックギター一本だけの静かな伴奏で歌うには相当な歌唱力が必要だが、この3人にとっては難なく楽しいひとときのようだった。キャンプファイアのような雰囲気の中、ゲーム中の演出とはまた違う楽曲の別の一面を見せてくれた。
10曲目となる「milestone」は、2019年2月に発売されるアルバム『milestone~ワイルドアームズ・ヴォーカルコレクション2』の表題曲で、初披露となる新曲。この曲は基本的に麻生と織田のツインボーカルという構成である。フォークソング調の寂しげな前半パートから、力強い3人のボーカルで始まる後半パートはラストまで一気に駆け上がっていくような怒涛の展開。曲中の前半と後半で、かなり印象が変わる曲だ。
続いては、「空を見上げる君がいるから」。静かなイントロから、ブラスセクションがカッコよさを演出するポップスサウンド。激しいダンスを取り入れながらも、音圧のあるやや低めのトーンから、サビのハイトーンボイスまで力強い麻生のボーカルが印象的だ。ラスサビ前の、スパニッシュギターによる情熱的なバッキングが楽曲を盛り上げる。
MCのなるけの挨拶を挟んで、締めの1曲となったのは、シリーズでも認知度が高い名曲、「どんなときでもひとりじゃない」。バンドサウンドをメインに、ブラス、ストリングスもバランスよく合わさり、どのパートにも見せ場を作るラストに相応しい演奏。ボーカルの3人も力強いボーカルとハーモニーを利かせ、曲を盛り上げた。
メンバーが全員退場し、長く続く拍手からアンコールタイムへ。
アンコール1曲目は、「alone the world」。イントロは、コーラスのハミングに合わせて、ボーカルの歌声でスタートする静かな印象。麻生、織田、SAK.の3人が観客と一緒になって手振りをする場面があり、会場は一体感を包まれる。終盤のクライマックスでは原曲にもある銃声に合わせて麻生がガンアクションを見せ、印象的なワンシーンを演じる。
MCでなるけが再び登場。まもなく23年目に突入する『ワイルドアームズ』シリーズを見守ってくれるファンに感謝を述べた後、「渡り鳥のみなさん、いってらっしゃい」と言い残し、最後の曲のイントロが流れるのを待つ。
そして、本当のラストを飾ったのは、「足跡」。イントロでは優しいアコースティックギターの伴奏に合わせ、しっとりと聞かせる麻生の歌声に心が洗われるようだ。ストリングスにややスローなバンドサウンド、ブラスも重なり、エンディングに相応しいやさしくも楽し気なミドルバラード。途中から、なるけ自身もボーカルとして参加し、最後を盛り上げ、ライブは終了した。
思わず体を動かしたくなるようなノリノリの楽曲から、涙を誘うような切なくやさしいミュージックとバラエティに富んだセットリストで、知らない曲でも聞き入ってしまう充実した内容だった。
昨今、往年のゲームがソーシャルゲームとして新作を発表し、過去作にも注目が集まるといったことがある。根強いファンは、ゲーム性もさることながら、サウンドについての評価も高い。今後、自分が好きだった過去のゲームをピックアップしたコンサートが行われるかも、と期待感も持たせてくれるライブだった。
取材・文:東響希
セットリスト
M2:Windward Birds
M3:Wings
M4:葬列
M5:Zephyrs's
M6:as time goes by~僕ら僕等は忘れない~
M7:Advanced Wind
M8:誰がために
M9:本気の嘘
M10:Lullaby
M11:milestone
M12:空を見上げる君がいるから
M13:どんなときでもひとりじゃない
EN1:alone the world
EN2:足跡
麻生かほ里(Vocal)
織田かおり(Vocal)
なるけみちこ(作曲)
<渡り鳥バンド>
伊丹雅博(Guitar・Bandmaster)
太田光宏(Guitar)
藪野遥佳(Piano&Keyboard)
蓮池真治(Bass)
宮本“ブータン”知聡(Drums)
福岡高次(Percussion)
野口勇介(Trumpet)
馬場桜佑(Trombone)
原田知斉(Sax)
皆川真里奈(Violin)
SAK.(Chorus)
坂 知学(Manipulator)