『BONE MUSIC展 ~僕らはレコードを聴きたかった~』レポート 禁じられた音楽を聴くために、情熱を注いだ人々の物語

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2019.5.6

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アジア初の展覧会『BONE MUSIC展 ~僕らはレコードを聴きたかった~』が、2019年5月12日(日)まで、東京・渋谷のBA-TSU ART GALLERYにて開催中だ。本展は、キュレーターを務めるスティーヴン・コーツとポール・ハートフィールド両人のビンテージ・ボーン・レコードを中心に、貴重な録音機となるカッティングマシーンなどを展示。会場BGMにて、実際にボーン・レコードに録音された当時の音源も聴くことができる。開幕前日の内覧会には、両キュレーターが登壇し、本展の魅力を熱く解説した。

会場風景

会場風景

左から、ポール・ハートフィールド、スティーヴン・コーツ

左から、ポール・ハートフィールド、スティーヴン・コーツ

本展の開催は、作曲家兼音楽プロデューサーのスティーヴンと、その友人でカメラマンのポールが、ロシアへの旅行中にサンクトペテルブルグの蚤の市で1枚のボーン・レコード(ミュージック・トラック付きの骨盤のレントゲン写真)を見つけたことがきっかけとなった。そのビジュアルに衝撃を受けた2人は、「このレコードはどのような人が、なんのために、どのようにして作ったのか?」という疑問を抱き、インタビューなどから歴史背景の研究を進め、アーカイブ化させていった。

右:スティーヴンとポールが蚤の市で最初に見つけたボーン・レコード

右:スティーヴンとポールが蚤の市で最初に見つけたボーン・レコード

「本展は、ただの“展示”ではなく、“物語”になっています。その“物語”とは、『音楽とはいかに大切なものであるか』というものです」とスティーヴン。物語の舞台となるのは、1940年代から60年代の冷戦時代、ソビエトだ。現在のロシアに当たるこの国では、当時、音楽を含むすべてのカルチャーが国家によって検閲され、コントロールされていた。そのため、アメリカのジャズやロックンロール、一部のロシア音楽を聴くことも禁止されていたのだ。

当時のソ連政府は、アメリカ文化が好きな若者を皮肉るようなプロパガンダも行なっていた

当時のソ連政府は、アメリカ文化が好きな若者を皮肉るようなプロパガンダも行なっていた

そんな中で、どうしても好きな音楽を聴きたかった音楽ファンたちは、なんと病院で不要となったレントゲン写真に、自作のカッティング・マシーンを使って音楽を録音する「ボーン・レコード」を編み出した。当時のソ連では、通常のディスクを手に入れることができなかったため、ディスクの代用として、比較的手に入れやすいレントゲン写真が注目されたのだ。

こうして、当初はアンダーグラウンドで取引されていたボーン・レコードだったが、60年代頃には需要がさらに高まり、闇市で取引されるようになった。これらのレコードは、比較的安価で取引されていて音質も悪かったが、蓄音機では10〜15回程度の再生が可能だったという。

今回展示されているレコードは、スティーヴンとポールのコレクションの中でも、特に絵柄が美しいものをピックアップしたのだそう。スティーヴンは、「これらのレコードには、詩的な美しさがある。なぜなら、破損や痛み、苦しみといったものがそこに表現されているように見えるからです。でも、そこに刻まれているのは我々に希望を与えてくれる音楽です」と、レコードが持つ視覚的な部分以外での美しさについても言及した。

ボーン・レコード制作部屋の再現展示

ボーン・レコード制作部屋の再現展示

ボーン・レコード制作は秘密裏に行われていたものなので、ソ連の公式な文書などではほとんど記録が残っていない。そのため、当時渦中にいた人々からのインタビューでしか、情報を得ることができなかったという。

会場1階では、当時ボーン・レコードを作っていたルドルフ・フックスのインタビュー映像が上映されている。リスクを伴う行為から、一度は“刑務所行き”にもなったルドルフだが、ボーン・レコード制作について、「金のためにやったんじゃない。文化を大勢に届けることをしたかった。その気持ちは今も変わりません」とインタビュー中で振り返っている。

音楽もストリーミングサービスが浸透しつつあるデジタル時代に再発見されたボーン・レコードは、いったい私たちに何を伝えようとしているのだろうか。スティーヴンは以下のように語る。

「(現代を生きる我々も)ボーン・レコードで音楽を聞いた方がいい…というのは冗談で(笑)、音楽が我々にとって非常に貴重なもので、ここに展示されているボーン・レコードを聴いていた人にも、本当に大事なものだったということを伝えてくれています。簡単に音楽を聴くことができる今の時代において、人々は音楽の大切さを忘れがちですが、今でも音楽が検閲対象になっている国も存在しています。なので、ボーン・レコードでしか自分が聴きたい音楽を聞くことができなかった歴史を頭に入れておくことで、音楽の大切さを忘れずにいられるのではないでしょうか」

絵画作品などを鑑賞する通常の展覧会とは違い、物語の中に入り込んで歴史を追体験できる本展。デジタル時代に生きる音楽フリークスにこそ、ぜひ足を運んでみてほしい。

イベント情報

BONE MUSIC展 ~僕らはレコードを聴きたかった~
会期:2019年4月27日(土)〜5月12日(日)
開館時間:11:00〜20:00 (入館は30分前まで) 会期中無休
会場:BA-TSU ART GALLERY 150-0001 東京都渋谷区神宮前5-11-5
公式ホームページ:http://www.bonemusic.jp
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