【全6回連載】“傷だらけの天才バッター”西岡剛が今だから話せる『過去・現在・そして僕の未来』《第4回》「僕の引退を翻意したもの」

インタビュー
スポーツ
2019.7.1
自分のため、と言いながらファンの声援の後押しが引退の2文字を心に閉まった西岡。そしてメジャーでプレーを楽しむことの必要性も学んだ

自分のため、と言いながらファンの声援の後押しが引退の2文字を心に閉まった西岡。そしてメジャーでプレーを楽しむことの必要性も学んだ

 

一度決めた「引退」。でも家族とファンの思いが自分を翻意されてくれた


―西岡さんには自分では辞められない、何か別の理由があったんじゃないかと…
「いやいや、自分のためだけですよ。でも…。2016年の巨人戦でアキレス腱を断裂しました。その時って、嫁と結婚した年だったんです。で、その時に僕は野球を『辞める』と決断しました。もういろいろな経験をして『もういいかな』となったんです」

―でも、翻意した
「僕の妻ってまったく野球知らないんですよ。『ああ、剛は野球選手だったのね』くらいの感覚。すでに結婚していたのですが、その入院時に『だいじょうぶぅ?』みたいな感じで笑いながら来たんですよ。こちらは(野球人生の中でも引退という一大決心の)すごく深刻になってるのに(笑)。でも、「だいじょうぶなのぉ?」みたいな感じで声かけてきたので、『大丈夫のわけないよ!』って返して、ちょっと笑ってしまったんです」

―手術はしなかったんでしたっけ?
「完全断裂なので、運ばれてきたその日に手術できることになったんですよ。アキレス腱って手術すると再断裂する可能性が低くなるんです。でも、手術しなくても治るケガでもあるんです。テニスの伊達公子さんも切れたのですが、彼女も手術をしていませんでした」

―やっぱり手術しなかった?
「いや、手術しないで治した場合は、再断裂の可能性が20%~30%くらいアップするんですよ。でも僕は『野球辞めるから(手術は)しない』って言って、球団も準備してくれたんですけれども、手術の予定を延ばしたんです。『(野球)辞めるからもういい』って。で3日くらい経った時に、妻が『野球するしないかかわらず、再断裂する可能性が高いんであれば、低いところでやるのが人生でベストじゃない?』と。『せやなぁ』『じゃあ、取り敢えず手術するわ』って言って手術したんです」

―それでなぜ、引退の気持ちが変わったのですか?
「手術して、ギブスして4日くらい入院したんかなぁ。アキレス腱は切れていたんですけど、足以外の部分は元気なんです。脳ももちろん正常なんです。で、部屋でずっと籠(こも)っていてもしんどいし、車いすで妻に押してもらって、隣の部屋にいてた高校の女子バレーボール選手のところに行ったんです。その子がバレーで前十字靭帯怪我をして手術していたんですが、僕のファンだと。サインを渡したら『西岡さん!また頑張ってください!』って言われたんです。でも『いや、いや、いや、いや』みたいに返したんですけど、そこで勇気を一つもらえたわけです」

小児がんと戦っている子を見て、俺「めちゃくちゃダサイな」と


―確か、小さな子どもたちとも会ったと聞いていますが…
「はい。阪大(大阪大学医学部附属)病院で手術したんですけれども、そこの医者に知り合いが何人かいてて、『ここにはどんな子がいてるの?』って聞いたら『小児科病棟に小児ガンだったりとかそういう子たちがいるよ』と。で、そういう苦しい思いをしている子たちのところに『俺、行っていい?』と言って、行ったら阪神ファンの子が3人くらいいたんです。結局10人くらい集まってきてサイン書いたら、ここでまた『絶対、復帰してくださいね!』って言われて…。僕より重たい病を患っている子が頑張っている。『この子たちって、なんて強い子たちなんだろう』って。と同時に『俺って、こんなところで諦めようとしていて、めちゃくちゃダッサイなぁ』と。そこで野球続けようってなったわけですよ」

―大きなターニングポイントでもあった?
「そこで勇気もらったのは確かですね。そこから、とにかく1軍の舞台に立つことを目標にして、1年で立てたわけですよ。でも、すぐには結果出ないですよね。2年目もそんな感じでした。まあ、そこはプロの世界なので、僕自身も『当たり前だな』と。ただ、このアキレス腱切れてから結果は出てこなかったんですけれども、食事、睡眠、私生活を一から改めたんですよ」

―何か変化は起こりましたか?
「メンタルが変わってきたんですよ。熱とか風邪とか、そういうのはあんまり大したことないんです。ストレス、つまりメンタルが弱っているとダメージが大きいんです。本当に自律神経が病んでる時ってやる気が起こらないんです。このストレスって目に見えないものですが、これを抑えることが必要なんです。特に日本というのは『今しんどくて』って言おうものなら『なに弱音吐いているんだ!』って言われてしまう文化でしょ?」

―確かに、昭和時代のスポコンイメージはそんな雰囲気でした
「で、メジャー行った時…、向こうって週に1回カウンセリング来てくれるんですよ。多分、どのチームもそうだと思うんですけれども。そこで家族のこと、嫌なことなどをカウンセラーと話して『もっとこうすればいいよ』という、弱音を吐ける時間があるんです。でも日本は弱音を吐いたら『もっと強くなって生きろ!』と言われることもある文化。そこはアメリカに行って学んだところなんですよ」
 

メジャーに行って「ENJOY」する大切さを知った


―メジャーに行って感じたことはほかにありますか?
「メジャーと言っても僕は2年しか行っていなかったので…。でも野球の原点は『楽しむこと』『ENJOYすること』というのは分かりました。MLBってこのENJOYがあるから、やっていると思うんですよ。練習中は皆、集中しています。でも、試合では多分、楽しんでやってるのがメジャーだと思うんですよ」

―楽しむ…ですか?
「『楽しむ』って日本語ではいろんな使い方があるので、誤弊を生む時もあるんですけれども『集中の中に楽しむ』というのがないと、カラダって緊張してしまうと思います。緊張が一番カラダの動きが悪くなるんですよね。それを取り除くっていうのは、声を出したり、活気を出すとか、そういうところに繋がっていくんですよ」

―日本は違う?
「日本の教えって『おう、お前ら声出せー!』って言うから、なんも意味のない『おおー!』みたいな。そういう声の出し方って無駄なんですよ。この考え方を変えていくと、すごく変わってくると思いますね。でBCリーグも開幕して、若い子たちには『とにかく笑顔になるような声の出し方をしていけ』と。僕がエラーしたら『ヤジっていい』 と。とにかく盛り上げろと。活気が出たらチームが強くなると。そうしたら結果が出てきてるんで、すごく嬉しいですよね。これからもどんどん、そういうことを伝えていきたいですね」
 



「自分のため」と話した西岡だが、引退を引き留めた大きな要因に「家族」と「ファン」がいたことを明かした。そして、メジャーでプロスポーツ選手が一番パフォーマンスを出せる要素に「緊張しないこと」=「ENJOY」を挙げた。どちらも西岡に大きな影響を与え、それが引退を翻意させたのは間違いないだろう。インタビューを続けていくうちに感じる西岡の実直さ。次回は自身をどう見ているのか、そしてスイッチヒッターで成功した隠された経緯に迫る(第5回に続く、敬称略)

 

取材・文:青木秀道(SPICEスポーツ記者)

 

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■栃木ゴールデンブレーブス×読売ジャイアンツ(三軍)
2019.7.27(土)試合開始:13:00~
栃木市総合運動公園野球場 (栃木県)

■栃木ゴールデンブレーブス×読売ジャイアンツ(三軍)
2019.7.28(日)試合開始:13:00~
栃木市総合運動公園野球場 (栃木県)

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