劇団☆新感線がTBS赤坂ACTシアターに帰ってきた 古田新太主演舞台『けむりの軍団』開幕!

レポート
舞台
2019.7.17
撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

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2019年7月15日(月・祝)、東京・TBS赤坂ACTシアターにて劇団☆新感線「いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』」が初日を迎えた。本作の脚本を務めるのは3年前の『乱鶯』で筆を執った倉持裕。そして演出はいのうえひでのりが務める。頭の切れる軍配士・真中十兵衛(古田新太)と、ある目的のもと、十兵衛とバディを組むずる賢い謎の浪人・美山輝親(池田成志)を中心とした王道の人情時代劇だ。
この初日の模様をレポートしよう。なお、あらすじとキャストのコメントは【こちら】からお楽しみいただきたい。

オープニングから、そして場面の合間合間に幾度となく迫力満点の映像と音楽が挟み込まれる。それらはまさに黒澤明作品へのオマージュたっぷり! と同時に、劇団☆新感線がイカした“大人の”劇団になった事を伝えてくるようでもあった。躍動感あふれる映像の動きは、時に昨年までお世話になった豊洲の“ぐるぐる劇場”こと、IHIステージアラウンド東京で2年間見続けたあの体感を感じさせるかのよう。ステージを所せましと駆け巡る雑兵たちの動きも相まってここは本当に赤坂なのか、と思わせた。

十兵衛役の古田は、これまでの製作発表会見やインタビューなどで何度となく口にしていた「何とかして台詞や出番を減らしたい」との想いを見事に覆すくらい(笑)、ステージ上を激しく動きまわる。池田演じる輝親に何度もグーでツッコミ、そして鋭さと重厚さを持つチャンバラを見せてくれた。本人の胸の内はいざ知らず、その出番の多さに古田ファンは思わず顔がほころんでしまうことだろう。

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

そして十兵衛の“相方”輝親役の池田も存分にその持ち味を見せつけていた。その場しのぎの口八丁ぶりはもはやよくできた落語を聴かされているかのようで、その一言一言が観客の笑いを誘う。ここは古田との日替わりアドリブだろうと思わせる場面もあって、常に何を仕掛けてくるか楽しみでたまらない。一方で、予告通り誰よりも殴られ、吹っ飛ばされる回数が多く、どうぞ大楽日までご無事を、と祈るばかりだ。これまでになかった「実はいい人」設定も見どころだ。

莉左衛門役の早乙女太一は、珍しく笑いを呼ぶ役どころ。舞台上で本当に人を斬っているのでは、と思うくらい今回も凄まじい殺陣を見せるが、ひとたび口を開けば何を言いたいのかまるで伝わらないくらいの口下手な男。このギャップある設定が見事にハマっており、どこか可愛らしさすら感じさせる。莉左衛門はやがて人間の悲哀を背負う事となるが、その役どころに思わず胸が締め付けられるようだった。

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

清野菜名が演じる紗々姫は新感線の歴代作品で3本の指に入るだろう「戦う姫様」だった。思いたったら即行動。源七はじめ家来に守られているようで、誰よりも先陣を切って敵を倒していた。また、清野のよく通る美しい声は十兵衛や輝親の心を動かす力を感じさせるものだった。

そして源七役の須賀健太だが、誰かに殴られている回数は輝親の次くらいだろうか、というくらい右に左に吹っ飛ばされ、腕が立たないキャラを存分に発揮。だが、何としてでも姫を守りたい、という気力ひとつで、全力を尽くす姿は微笑ましい。

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

劇団員も皆ハマり役だ。高田聖子が演じる嵐蔵院はどこまでもお家のために邪魔者は一人残らず消し去る狂気に満ちた気迫を見せ、また、残照役の粟根まことは二心抱える生臭坊主役が適任。途中で見せたなぎなたでの殺陣は若き日に見せた美しい姿に深みが増したようだった。個人的には、嵐蔵院の息子にして目良家の殿・則治役の河野まさとの存在に目を奪われた。周りのキャラは皆理解力が高く、ずんずんと話を進めて行くなか、付いていけずに右往左往するバカ殿・則治は、この登場人物の中で数少ない“普通の人間”。嵐蔵院とのやり取りで笑わせながらも、この物語が語るテーマの一端を担っているように感じさせていた。

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

撮影:田中亜紀 (C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線

物語は実に無駄がなく緻密に描かれていた。一つひとつの台詞や動作が、時に説明台詞の役割を果たしながらもそう感じさせない自然なものとなっており、また、後の場面の布石になるよう組み立てられていた。それでいて、娯楽の部分も忘れず、おおいに笑い盛り上がる展開。倉持裕の脚本力に拍手を贈りたい。

終盤であるキャラクターが口にする台詞が胸に突き刺さる。今の時代にも通じる人間の悲しさ、哀れさとそれを乗り越えていく希望の力を見せてくれた。こんな濃密な時代物を3時間数分というほどよい長さで見せてくれる『けむりの軍団』。誰にでも勧められる魅力的な作品だった。

取材・文=こむらさき

公演情報

2019年 劇団☆新感線 39興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎《亞》alternative
『けむりの軍団』
 
■作:倉持 裕 
■演出:いのうえひでのり 
■出演:古田新太 / 早乙女太一 清野菜名 須賀健太 高田聖子 粟根まこと / 池田成志 ほか

■日時・会場: 
【東京公演】2019年7月15日(月・祝)~8月24日(土) TBS赤坂ACTシアター
【福岡公演】2019年9月6日(金)~23日(月・祝) 博多座
【大阪公演】2019年10月8日(火)~21日(月) フェスティバルホール
 
■公式サイト:http://www.vi-shinkansen.co.jp/kemurinogundan/
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