ACIDMAN・大木伸夫 新作を通して明かされる18年目の想い
ACIDMAN・大木伸夫
先月・11月にアルバム『Secondline & Acoustic collection Ⅱ』をリリースしたACIDMAN。アコースティックや打ち込み、さらには弾き語りと言った様々な手法で表現される名曲達は如何にして生まれたのか。この作品を引っさげておこなうツアーについて、そして3月11日に福島でライブをやるということの意味は。結成20年も見えてきたいま、何を感じ、何を思うのか バンドのフロントマン・大木伸夫が語る。
――やっぱりいいですね、この(Second line)シリーズ。何も考えずに心地よく聴ける……という言い方は語弊があるかもしれないけれど。
「俺も大好きなんですよ。ある意味、自分自身も気楽に聴けるというか、リラックスして聴ける。オリジナルとして一度発売しているので、そこで説明責任は果たしてるから(笑)。遊べてる感覚というか、すごく自由にアレンジもできているので、曲が生き生きしてるなと思いますね」
――もともと“Second line”シリーズって、2人(佐藤雅俊、浦山一悟)にアレンジを任せるということで始まったんですよね。
「そうです。自分が曲を作ってる間に、アレンジしてみてくれと伝えて。でもやり方とかテクニックは俺から話して、たとえばこの曲はレゲエ調にするとこうなるじゃん?とか。で、やってもらったものを選んだのがパート1(『Second line&Acoustic collection』/2011年)。でも今回は、ちょっと自分も色々やりたいことが増えてきましたからね」
――スタンスが変わってきた。
「そうです。うまくやれるようになってきましたね。やり方が」
――そのへんをもう少し詳しく。前回と今回の違いというと?
「そうだな……たとえば打ち込みは、二人は技術的なレベルも上がってきていて、曲のアイデアを持ってくる時にリズムを打ち込んできてくれるんですよ。たとえば「HUM」がそうなんですけど」
――ああ、「HUM」のリズムは、ほんとカッコいい。
「カッコいいですよね。二人とも、似たような感じだけどそれぞれ違うアプローチでトラックを作ってきてくれたので。どっちも良かったのでどっちも採用して、まとめたという感じですね。あと「イコール」は、俺がこうしたいんだって口で説明したリズムを、一悟くんがちゃんと打ち込んできてくれた。普段のバンドと違うのは、生音にこだわる必要はまったくない。どんどん自由にやってくれということなんで、このシリーズは」
――最初の頃はジャズとかボサノヴァっぽい感じが多かった気がするんだけど、最近は打ち込みも増えて、エレクトロっぽい感覚の曲もあったりして。それはそういう趣味に変わってきてるのかな?と。
「趣味というよりは、楽曲の雰囲気かな。それが一番合う楽曲が集まったんだと思いますけど。このアルバムに向けて作ってるわけではないので、“Second line”シリーズは。シングルのカップリングで、たまったから出そうというものなので、気づけばそうなってる感じです」
――注目の新録音は2曲。ホリエさんのやつ(「リピートfeat.ホリエアツシ(ストレイテナー)」)は、前にやっていたんでしたっけ。
「そう、『JAPAN JAM』というイベントで一度やりました。あのイベントの初年度(2010年)は、バンドがゲストを入れてやるというスタイルだったんですよ。それを俺らは、Candle JUNEさんと、Dragon AshのATSUSHIと、ホリエくんをゲストに迎えてやったんですね。そのライブがすごい良くて、キャンドルの中で俺とホリエくんが歌っているという画も。もう一回やりたいなと思っていて、今回実現しました」
――これはほんとに素晴らしいアレンジ。ピアノはホリエさんですよね。
「そう。それによって生まれ変わったと言ってもいいぐらい、すごく良くなっています」
――一小節聴けば彼だととわかる、あの独特の音色。ほんとすごいと思う。
「すごいと思う。間奏とリフレインのメロディは、俺が作ったんですよ。そこもちゃんと採用してくれて、それだけじゃなくて、自分のメロディもちゃんと作ってくれて。素晴らしい仕事をしてくれたなと思いますね」
――もう一つの新録音は、最後に入ってる「季節の灯」。
「弾き語りです。これはレコーディングの当日まで、バンドセットでやろうと言ってたんですけど、1回通して演奏したものを聴いてみると、原曲とほとんど変わらなかった。だから入れるのをやめようと思ったんだけど、ディレクターとマネージャーが「弾き語りでやってみよう」って言い出して。「馬鹿言うんじゃないよ、やったことないんだから」って言ったんだけど、だんだん、これは試されてる気がするなと(笑)。ここでやってみる価値ありだなと思って、やってみたら、大正解でしたね」
――これもほんと、素晴らしいです。逆に言うとこのシリーズで、弾き語りが今までなかったというのも不思議な話で。
「やっぱり恥ずかしい面もあるんですよね。でももうこの年齢を経て、長い音楽人生を経ると、やれる感じになってきましたね」
――そんなものですか。
「自信がついたとかじゃないんですよ。恥ずかしくてもいいや、恥をかいてもいいやという感じ(笑)」
――人間性が、開けてきたんですかね。それともただ単に開き直ったか(笑)。
「どうなんですかね。わかんない(笑)」
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――あらためて、アルバムの中でお気に入りアレンジの曲というと?
「やっぱり、俺は「リピート」かな。ホリエくんへのオファーの仕方もけっこう大雑把で、「昔やったみたいにちょっと弾いてよ」と言ったぐらいで。あの時はストリングス・アレンジをやってくれたんだけど、「今回はピアノ1本でやってほしいんだ」と言っただけなのに、音が入って来る場所とか、こういうメロディがいいなという漠然としたものが、全部伝わってた。予想以上のものをレコーディングしてくれたので、さすがだなと。あらためてホリエくんの声と俺の声が合うということが、このレコーディングでわかりましたね」
――そういう意味では、VERBALの声も、ものすごく合うなと思った。「±0」の、ラップと歌のハーモニー。
「この曲の企画だけは俺ら発信じゃなくて、ドコモさんの発信(docomo「スゴ得コンテンツ」)で。お会いしたことなかったんだけど、VERBALさんだったら是非と思って、ちょうどこの楽曲を録ってる時だったので、これに入ってくれたら絶対合うだろうなと。そしたらピタッとハマりましたね」
――彼がこれだけ低いトーンでラップするのは珍しいですよ。それも新鮮だった。
「ね。オシャレですよね。腰低いし(笑)」
――ですね(笑)。そして前回に続き、ジャズ・ピアニストの板橋文夫さんも再び参加。
「板橋さんは相変わらず、弾けてるんだか弾けてないんだかわかんないような(笑)。天才はこうなんだなと。素晴らしいです」
――前回、渋谷公会堂でのライブの時も、来て、1曲弾いて、すぐ去っていったという(笑)。
「そうそう。俺らが終わったら、もう楽屋にいない(笑)。“ありがとう”と書いた置手紙だけで、もういない。……カッコいい(笑)。ワーっと来てワーッと弾いて、パッと帰る。すごいです」
――今回も、アレンジについて特にリクエストは言わずに。
「全然言わなかったです。全部お任せしますって。でも一か所だけ、ほんのちょっと、誰でもできるようなことをオーダーしたら、そこが全然できなかったんですよ」
――どういうこと?(笑)
「わかんない(笑)。ものすごく簡単なリズムをやってくださいと言ったら、「ああ~、わかんない!」とか言って。「え、どういうこと?」って。不思議ですね、すごいダンスが踊れるんだけど、まっすぐ歩けない人みたいな(一同笑)。そんな感じ」
――天才は違いますね(笑)。またぜひライブにも呼んでください。ということで、1月末から始まるアルバム・ツアーは、どんなイメージでやりますか。
「前回もそうだったけど、基本的には座りながら、ちょっと大人っぽい雰囲気でやりたくて。今回は打ち込み系もあるから、それをあえて生でやるのか、それともPCを使うのもカッコいいかなと思いつつ、なるべくシンプルなやり方でやりたいなと思ってますね」
――ツアーは8本。前はこんなに多くなかったですよね。
「前は3本ですね。プラス福島で。前回やった時に、ぜひいろんなところに来てほしいという話もあったし、あまりにも少なかったのがもったいなくて。好評だったし、これはちゃんとした一つの柱になるなと思ったんで。とはいえまだ少ないですけどね。もっと広げていけたらいいなと思います。だんだん増やしていく感じで」
――そういう意欲がある?
「はい。ありますね」
――今回も福島でやりますね。しかも3月11日。
「毎年やらせてもらってますね。今年も行ったんですけど、毎年ライブの前の日か次の日に、原発に近づけるギリギリのところまで行くんですよ、線量計を持って」
――大事なことですね。忘れないということは。
「忘れないというか、自分に対する反省の意味が込められてるんですよ。(事故があるまで)東京の電力が福島で作られてるなんて、一切知らないまま生活してたんで。それにも関わらず、まだ避難生活をしている人がたくさんいる。というところに、1年に1回だけでもいいからせめてその現状を見て、知って、それを伝えていきたいと思ってます。報道されていることとあまりにもギャップがあることに、毎回ビックリしてますね。あまりにも怖くて」
ACIDMAN・大木伸夫
――ミュージシャンと、そういう活動を結びつけるのは、なかなか難しい面もあるとは思いますけど。
「自分はあくまでミュージシャンなので、ミュージシャンのまま参加したいなと思ってます。デモに行かなきゃとか、そういうのはあんまりないんですよ。自分が思う正しいことだけをしたいから、政治的な発言もしたくない。ミュージシャンだから、ミュージシャンが偉ぶらない程度に、おかしいことは「おかしい」と言い続けることは、これからもやっていきます」
――そういう活動の中で、音楽の力を感じるということですか。
「音楽の力を感じるということもあるけど、やっぱり人間の……変な話になっちゃうけど、俺は死後の世界を信じてるから。昔で言う、天国と地獄みたいな発想で生きてるんですけど、その力を感じますね。うまく言えないけど、「バチがあたるよ」とか、そういう感じ。天国と地獄が本当にあるならば、バレなきゃいいというわけじゃない。悪いことをこっそりしてたら、誰かが絶対に見ているという、その力をいつも感じるようになってきてますね。だから、陰で悪いことをしてはいけない。悪いことをするならとことんやって、ある程度の火あぶりは覚悟してやる(笑)。そういう風な考え方です」
――なるほど(笑)。
「正しいことを正しくやるのは、決して間違ったことじゃないということは思いますね。音楽とは違う話になっちゃうかもしれないけど」
――興味深いです。それと最近は、対バンが多かったり、しかも若いバンドに呼ばれたり、そういうことがすごく多いですよね。そういう流れを自分ではどういうふうに見てますか。
「それはね、ありがたいですね。若いバンドがどんどん出てきて、ほとんどのバンドが「コピーしてました」と言ってくれる現状があるので。まぁ、受け入れきれずにいるんですけど(笑)。そんなに時間がたったことを、せつなさと共に、受け入れなきゃいけないですね。でも呼んでくれるのは嬉しいから出て行って……今ここが次のステージなんだなという感じです。良いか悪いかわかんないけど、今はいろんな経験をして吸収する時間なんだろうなと思ってます。決して熟したわけでもないし、年齢が38ではあるけれど、まだまだやりきれてないことだらけなので、そのためのエネルギーをためる時間なんだろうなと思うので。なるべくいろんなことを積極的に経験して、出て行って、いろんな人と出会って話をして、ってやってますね」
――その、ACIDMANをコピーしてたという若い世代の音楽って、聴いて、どう思いますか。
「いや、もう素晴らしいですよ。いろんな解釈をしてくれてるし。ゲスの極み乙女。のメンバーに「コピーしてました」って、「一番コピーしてたぐらいです」って言われたんですけど、(ACIDMANの)影響ゼロじゃないですか(笑)。ゲスの極み乙女。を聴いてると」
――ゼロとは思わないけれど(笑)。音楽的にはかなり違いますね。
「だから、いろんな意味で捉えてくれてるんだろうし。影響を、違う風に与えることができたんだろうなと思います。俺らもヘヴィメタルを聴いてきて、今やってるわけだから」
――それこそ影響ゼロですよ(笑)。
「いろんなことを経験するうちの一部になってるわけで、そういうのはうれしいですね。あと[Alexandros]も、「聴いてました」と言ってくれて。彼らはロックのスタイルがあるから、そんなに意外ではないですけどね。意外なバンドもいろいろ、みんな聴いてくれてるんですよ。最近だと、04 Limited Sazabysとか、BLUE ENCOUNTとか、神聖かまってちゃんとか。嬉しいです、本当にそれは。知ってくれてるだけでも嬉しいのに、聴いてたというのはありがたいです」
――そんなACIDMAN、そろそろ結成20年ですよね。
「再来年ですね。もうすぐなんですよ。何かやろうとは思いつつ、何から始めたらいいだろうって、今からいろんなことをイメージしながらやっていきたいなと思います」
――20年やったら、ほんとにすごいですよ。
「信じられないですね。まだ18年だけど、……って今言っててもおかしいですもん。「18年もやってない、全然最近だよ」っていう気がする。最近デビューした感じですよ。もちろん、思い返してみればよく続けてきたなと思うし、ひどい時も山ほどあったし、いまだにいつどうなるかわからない船に乗ってるわけだから、本当に綱渡りの日々だと思うんですけど。それを楽しむことができてるので、今は。それを感謝と共に一つの喜びとしてやれてるので、この先も順調に進めばいいなと思いますね」
――最後に。今、バンドをやってる動機は?と聞かれたら、なんと答えますか。
「うわあ、難しい。でもいい質問だな……何も考えてねぇな(笑)。今バンドやってる動機って、全然違うんだろうな」
――昔と比べて?
「うん。もう当たり前になりすぎてて……仕事でもあるし、ファンのためでもあるんだけど、変な言い方かもしれないけど、自分の精神安定のためにやってるかもしれない。自分の欲望というよりも。欲望はもちろんあるんだけど、なんというか、不安を唯一抑えてくれるのは、バンドで動いてる時ですね。ライブやってて、曲作って、という時にやっと安定するので、精神的に。ほぼそれでやってるのかなって、今思いました。合ってるかどうかわかんないけど、今の答えはそれです」
撮影=大塚秀美 文=宮本英夫
ACIDMAN・大木伸夫
2016/01/30(sat) 大阪:オリックス劇場
open / start 17:45 / 18:30
2016/02/06(sat) 北海道:道新ホール
open / start 18:00 / 18:30
2016/02/14(sun) 宮城:仙台電力ホール
open / start 17:30 / 18:00
2016/02/21(sun) 東京:NHKホール
open / start 17:15 / 18:00
2016/02/26(fri) 広島:JMSアステールプラザ中ホール
open / start 18:30 / 19:00
2016/03/06(sun) 福岡:ももちパレス
open / start 17:30 / 18:00
2016/03/11(fri) 福島:いわき市文化センター
open / start 18:30 / 19:00
2016/03/20(sun) 愛知:愛知県芸術劇場大ホール
open / start 17:15 / 18:00
Secondline & Acoustic collection Ⅱ
初回生産限定盤 紙ジャケット仕様 TYCT-69089
通常盤 TYCT-60075
M1イコール (Second line)
M2 ±0 (Second line) feat.VERBAL *初収録
M3 type-A (Second line)
M4 I stand free (Acoustic)
M5 リピート (Second line) feat.ホリエアツシ*新録
M6 Under the rain(Acoustic)
M7 HUM(Second line)
M8 swayed(Second line)
M9 スロウレイン(Second line) feat.板橋文夫
M10 波、白く (Second line)
M11 Your Song (Acoustic)
M12 季節の灯(Acoustic) *新録