立川志の八×志の春×志の太郎インタビュー、立川志の輔一門『弟子ダケ寄席in深川』 落語会の見どころ、兄弟会で目指すもの
(左から)立川志の太郎、立川志の八、立川志の春。立川志の輔一門の落語会『弟子ダケ寄席』インタビュー
立川志の輔一門の真打と二ツ目7人による落語会『弟子ダケ寄席in深川』が、2019年11月13日(水)、深川江戸資料館小劇場で開催される。
この落語会は2017年にはじまり、過去3回はいずれもソールドアウトした。4回目への期待が高まる中、二番弟子で真打の立川志の八、三番弟子で二ツ目(※)の立川志の春、六番弟子で二ツ目の立川志の太郎に、落語会の見どころ聞きどころ、そして兄弟弟子の印象や、師匠志の輔への思いを聞く。
※東京の落語界には身分制度があります。見習いを経て、前座→二つ目→真打ちと上がる。
こんなに違う、志の輔一門会と弟子ダケ寄席
ーー『弟子ダケ寄席』は本当にお弟子さんだけのご出演で、志の輔師匠がサプライズで登場することはないのですね。
志の八:本当に、弟子ダケです。だから、会の名前をつける時は皆でよく考えました。お客さんに「師匠も出る?」と期待させてはいけない。しかし志の輔一門であることは強調したい。その結果、シンプルに志の輔一門の「弟子ダケ寄席」となりました。
志の春:これは角がたつかも、と気がついたのは後になってのことですね。
ーー角とは、誰に対して?
志の太郎:師匠、志の輔に対して。
志の八:「俺をハブりやがった」とか。
志の春:「師匠はいりません、みたいに取られないか?」とか。
ーーなるほど(笑)。そのような意図は……。
三人:ありません!
ーー今回の兄弟会「弟子ダケ寄席」とは別に、志の輔師匠がトリをとる一門会もあります。皆さんの気持ちに、違いはありますか?
志の八:あります。師匠がいる一門会は、師匠を意識しながら落語をする緊張感がありつつも、最後は師匠がトリをとって会をまとめてくれる安心感があります。弟子ダケの場合、僕らで責任をとらなくてはいけない。そのプレッシャーはあります。
志の春:とはいえ僕ら一門は、(寄席には出ず)独演会が活動の中心です。二ツ目でも自分で責任をとる会が多いですから、一門会と「弟子ダケ寄席」の一番の違いは、我々のウキウキ度合いです。
志の八:せっかく言葉を選んで答えたのに……。
志の太郎:(笑)
ーーウキウキは演じるネタ選びなどに影響するのでしょうか。それとも楽屋の話ですか?
志の春:うーん、たとえば2017年の第1回の打ち合わせの時、皆でオープニングの演出を話し合ったんです。すると当時、TVドラマで流行った「恋ダンス」で登場しようと言いだしたんです。よりにもよって、総領弟子の晴の輔兄さんが!
志の八:あの瞬間の、皆が「え?」っという反応といったら(笑)。
志の春:弟弟子全員で、全力で止めました!
ーーよく分かりました(笑)。
志の八:4度目の今回も、やはりウキウキはします。けれど僕個人としては『弟子ダケ寄席』を、イベント感覚の落語会にしたくないという思いもあるんです。
志の太郎:ファン感謝祭とは違う、という意味ですね。
志の春:同じ師匠の修行を経て、これだけ芸風がバラバラになるんだよって。「この一門が好きだ」と思ってもらえるような会になればうれしいですね。
志の八:そのためにも、この会を定着させたいんですよね。イベント感覚でお客さんを集めるのではなく、いつもの会というのかな、より骨太い何かに。そこから志の輔一門のイメージを確立していけたらと思います。
師匠は同じでも七人七色
ーー志の輔師匠には八名のお弟子さんがいて、『弟子ダケ』には、前座の志の大さん以外の7名が出演されます。キャラクターはバラバラでも、それぞれ師匠から受け継がれたものがあるかと思いますが……それを含めて、出演される方々を簡単にご紹介いただけますか?
志の春:一番弟子の晴の輔兄さんは、師匠のポップなところを受け継いでます。二番弟子の志の八兄さんは、師匠のロングなところ。
志の八:ロングって(笑)。三番弟子の志の春は意地が悪い。学歴を遺憾なく発揮して(※)、人がつつかれたくないところを、的確に攻めてくる。
志の春:兄さん言っときますけど、それ師匠が意地悪ってことになってますよ。
志の太郎:もう(受け継いだという話は)止めましょう(笑)。
※志の春さんは、イェール大学卒。三井物産に入社後、社会人3年目に志の輔師匠の落語に出会いました。
志のぽんがデザインしたフライヤー。
志の太郎:四番弟子の志のぽん兄さんは勉強家です。あと手先が器用。
志の春:落研。
志の八:落語博士。
志の春:五番弟子が志の彦。子どもからおじいちゃんにまで好かれる親しみやすさがある。
志の八:芸が明るいから、志の彦の後は高座に上がりやすい。 七番目が志の麿。自分では二の線だと思ってます(笑)。
志の春:本当は朴訥な、……人の良さがにじみ出ています!
志の八:ちょっと思うのが、志の麿と僕ら(晴の輔、志の八、志の春)は、年齢が離れています。皆でいても、麿が遠慮して自分を出せていないと思うんです。お客さんから漏れ聞くところによると、彼、面白いらしいんですよね。絶対に何か秘めているんです! ……弟子は以上です。
志の太郎:すみません。僕、まだです! (笑)。
志の春:志の太郎は師匠の寵愛を最も受けている。
(志の八、激しく頷き「いい子、いい子」と愛でるジェスチャー)
志の春:僕や志の八兄さんは、師匠と話す前は何度も深呼吸しますし、電話する時は留守電に備えてきっちり20秒で録音を残す練習をします。
志の八:僕はまず文字に起こし、それを紙ごと飲み込んでから(嘘)。
志の春:でも太郎は、親戚のおじさんぐらいの距離感でスッと行く。
志の太郎:それは、……ありますね。兄さん二人より、師匠と年齢が離れているせいじゃないでしょうか。父親と同じぐらい離れています。電話が繋がらない時はメールしますし、「蕎麦くうか?」「行きましょう」とか、「好きなもの食べていいぞ」と言われて師匠よりも高いものをいただいたり。
志の八:信じられない!
ーー年齢差の違いで、変わるものですね。
志の八:僕らが二ツ目になる頃までは、家元(立川談志)が健在だったことも関係しているかもしれません。
志の春:それもあるかもしれませんね。でも、それ以上の違いとして、志の太郎が甘え上手なんです。秒速で懐に入る!
志の八:そう、スーパー若旦那。「唐茄子屋政談」の若旦那のイメージです。
観客目線で探り当てる、会場ごとのベストな会
ーー個性が光る皆さんですが、兄弟弟子で似ているところ、共通する要素はありますか?
志の八:落語会や舞台の作り方です。皆、師匠にベタづきで志の輔の落語会作りをみてきました。
志の春:師匠の舞台作りは、徹底したお客さんファーストなんです。お客さんが落語に没頭でき、楽しみやすい環境になるよう、微妙な照明やスピーカーの音質にまでこだわって舞台作りをします。
志の太郎:落語って、とてもシンプルなものです。それだけにかなり繊細なものでもあるんですよね。
志の春:客席が明るい方がお客さんの表情が見える、という演者側の都合だけでなく、暗い方が想像力が掻き立てられたり、周りを気にせず笑いやすかったりする人もいるかもしれない。
志の八:そういう感覚や好みって個人差もあると思うんです。その中で、「これが一番」というところを見つける感覚が、師匠はズバ抜けているんです。一つのセオリーがあるのではなく、舞台チェックをするときに会場ごとで客席に座り、会場ごとのベストを探る。
ーー演劇の演出や音楽ライブのステージングのお話を聞いているようです。
志の八:前座の頃、運転する車の中で師匠がとある師匠とお話しされているのを聞いたことがあります。「普通は言葉で、お客さんの気持ちを掴んで引っ張ってこないといけない。けれど照明一つでお客さんを、ポンとこちらの世界に連れてこれることもあるんだ」って。これは落語家の会話を越えているなと思いました。
何か違う、と肌で感じた志の輔の落語会
ーーすると皆さんは、志の輔師匠の舞台の作り方に惹かれて入門されたのでしょうか。三人とも、落研出身ではないので、どういった経緯があったのか興味があります。
志の八:僕の場合、父親が落語会を主催する人なので、小さい頃からカセットテープでも生でも落語をよく聞いていました。色々聞いていたけれど、師匠の落語会は衝撃的だったんです。会場に入った瞬間、「あ、他と違う」と肌で感じた。落語が始まると、なおさら違っていた。終わっても余韻が凄くて。それから追っかけになりました。僕はもともと落語が好きで、その中で師匠に出会った感じです。
ーー志の太郎さんも、もともと落語を?
志の太郎:まったく(笑)。初めて聞いた落語が、師匠のCD「志の輔らくごのごらく1『はんどたおる』『死神』」でした。それまで音楽が好きだったんです。アルバイト先のそばにあったCDショップで、バイトの給料日のたびにロックのCDを3枚買うと決めていた時期があったのですが、ある時、売り場の配置転換でロックコーナーが演芸コーナーに変わっていた。「まあいいか」と、100枚単位で並ぶ中から「なんか顔面力あるな」くらいの感覚で手にとったのが、師匠のCDでした。
(「顔面力?」「まあいいか?」とザワつく志の八と志の春)
志の太郎:CDだけでめちゃくちゃ好きになり、なんとかパルコ劇場のをとり、初めての生の落語です。そこで先ほど話題になっていた演出。長唄ではじまり、だんだん暗転したかと思うと、カットインでバッと照明が入った。その瞬間、ブワァっと鳥肌が立ちました。出囃子が流れ、ゆっくりと着物の師匠が登場。もちろん噺もめちゃくちゃ面白く、トータルで素晴らしい経験をしたのが、入門のきっかけです。
ーー奇跡的な確率で出会ったのですね。志の春さんも会社員時代に、偶然、志の輔師匠の落語に出会ったそうですね。
志の春:餃子を食べに巣鴨へ行き、たまたま『立川志の輔独演会』の看板が出ていた。そこで受付で聞いてみると、奇跡的に当日券で入場できたんです。新作落語『はんどたおる』と古典落語『井戸の茶碗』を聞き、「すごい人だ」「天才だ」と思いました。
ーーそれで入門を決意し、一流企業を辞めた?
志の春:あまりにも凄かったので、その経験だけなら「自分も目指そう」とは到底思えなかったと思います。でも「最初出たあの人もいたな」と思い出したのが、前座で上がったこの方(志の八兄さん)でした。
志の八:「この程度なら自分もできる」と思われたのでしょうね(笑)
志の春:いやいや。一目惚れのように「志の輔の弟子になりたい!」と思った。次に「あの人の下で弟弟子として修行したい」と思ったんです。
志の八:ウソつけ!(一同、笑)
ーーここでも感じているのですが、志の輔師匠の一門は、お弟子さん同士の仲が、特に良いようですね。
志の太郎:恵まれていると思います。何かあれば、全員がすぐに相談にのってくれますし。
志の春:業界内には「師匠は選べても兄弟子は選べない」という会話がしばしばなされます。そのくらい兄弟弟子は、そりが合わないことが多いのでしょうね。
ーー良い関係を築けているのはなぜだと思いますか。
志の八:総領弟子(一番弟子)の晴の輔兄さんが素晴らしい。一門のトップはもちろん師匠の志の輔です。ただ、その元で総領弟子である晴の輔兄さんの存在は大きいです。
志の太郎:面倒見が良い、大番頭です。
志の春:リーダーシップもある、THE総領弟子。一番弟子って、一門の文化を作る要なんです。一番さえしっかりしていれば、二番目なんてどうでもいいんですよ。
志の八:それが本音だな!(一同、笑)
すべての手柄は落語にある
ーー志の輔師匠のお弟子さんは、多ジャンルとのコラボや著書の執筆、ナレーションのお仕事など、真打、二つ目問わず、幅広い活動をされています。それは師匠の教えによるものなのでしょうか。
志の八:師匠は「何でもやった方がいい」とは言いますが、「やめろ」とは言わない人ですね。
志の太郎:落語以外の仕事、たとえば僕なら声の仕事や役者をやらせていただくと、師匠は喜んでくれます。けれども「落語が一番大切だぞ」と、いつも言います。師匠自身がそうなんですよね。どれだけたくさんのメディアの仕事をしていても、落語会で全国をまわり続けています。一番大事なのは落語。すべては落語のためなんです。
志の春:僕が英語で落語をやるか迷っていた時も「英語でできるんだから、やったほうがいい」と背中を押してくれました。その上で「英語落語ばかりを押し出すと『英語落語家』のラベルを貼られてしまうから、落語家としての幹を自ら細くしないよう、匙加減は注意した方がいい」と。
ーー幅広い活躍をしてきた志の輔師匠だからこそのエールですね。落語について、共通してかけている言葉があれば教えてください。
志の八:演出でも、入れごとや改作においても、「もとの落語を壊すくらいならやらない方がましだ」と言います。
志の春:古典落語を再構築する時、師匠はその落語にどんな魅力があるかを徹底的に考え、それを最大限に伝えるために味付けします。味付けした俺、すごいだろ? みたいなアピールは決してしません。手柄はすべて落語にあるんです。
志の八:「お前が面白いんじゃないんだ。落語が面白いんだ。お前の落語なんて何一つないんだよ」って。あくまで「落語の上に俺らがいる」という考えなんですよね。師匠からは多くのものをいただいていますが……落語に対する敬意も大事なことの一つだと教わりました。
ーー皆さんが師匠から受け継いでいるのは「落語愛」なんですね。
一同:そうなんです!(笑)
「志の輔一門7人の魅力が詰まった会です。ぜひ深川へお越しください」(志の八・中央)
志の輔が育てた7人の落語家が出演する、立川志の輔一門の落語会『弟子ダケ寄席in深川』は、2019年11月13日(水)の開催。
公演情報
会場:深川江戸資料館・小劇場
立川晴の輔、立川志の八、立川志の春、立川志のぽん、立川志の彦、立川志の太郎、立川志の麿
公演情報
公演情報
会場:四谷天窓
16日 立川志の太郎、立川寸志、入舟辰乃助
17日 立川志の太郎、立川晴の輔、立川こはる
会場:四谷天窓
20日 立川志の太郎、立川志ら乃、林家つる子
21日 立川志の太郎、立川志の麿、春風亭昇羊