日本のバレエ団ではここだけ!主要役を踊る3人が語る新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』
(左から)井澤駿 木村優里 福岡雄大 (撮影:西原朋未)
2019年10月19日、新国立劇場バレエ団2019/20シーズンが始まる。開幕を飾る演目はケネス・マクミラン振付の『ロメオとジュリエット』だ。1965年に英国ロイヤルバレエ団が初演し、世界の名だたるバレエ団がレパートリーとする傑作を、新国立劇場バレエ団では2001年に初演。再演を重ねる人気作品となっている。
3年振りの上演となる今回の公演では、ロメオ役に井澤駿と渡邊峻郁が、ジュリエット役に木村優里が初主演。さらにティボルト役に福岡雄大がロメオとの2役でキャスティングされている。今回は井澤・木村・福岡に話を聞いた。(文章中敬称略)
■初役への意気込み。「登場人物全てがお客様を引き込む」
――ロメオの井澤さん、ジュリエットの木村さんは初役、福岡さんはロメオと初役となるティボルトですね。まずご自身の役についての思いからお話を伺いたいと思います。井澤さんは3年前はケガで降板し、今回はリベンジとなりますね。
井澤 3年前はケガで踊れなかったのがとても残念でした。ロメオは昔からいつか踊りたいと思っていた憧れの役で、役をもらった時はすごくうれしかったのですが、あの頃はついていくことだけに必死でした。今回は身心整えて挑んでいこうと思っています。
撮影:鹿摩隆司
――木村さん、ジュリエットは非常に思い入れのある役だと聞いています。
木村 原作のシェイクスピアの台本では、台詞の言葉の使い方が印象的だと思いました。恋人たちの台詞は星や月など美しい表現が多用されているのに、ほかのキャラクターは砕けた感じで、こうした言葉の選び方の違いが生むコントラストによって、この物語の本質的なことが描かれているということに気付き、本当に素晴らしいなと思いました。マクミラン版のバレエでは愛し合う2人の物語が展開していく一方で、敵同士の両家の憎しみの様相が同時進行で描かれています。台本とは違うコントラストがバレエに出ているのが素敵だなと思っていました。
そういった作品を、今回自分が踊るにあたり、ジュリエットは14歳……というよりは13.5歳くらいですよね。最初は人形で遊んでいるあどけない少女がロメオに出逢うことで、5日間くらいで急速に大人の女性に成長していく、その成長の、とくに気持ちをどう出していこうか、リハーサルを重ねながら模索中です。
撮影:鹿摩隆司
――木村さんは、3年前はロザラインで出演していますが、その時に気づいたことや勉強になったことなどはありますか。
木村 ロザラインの時は作品全体の「世界」を見ていました。お客様を物語の世界に引き込むために登場人物全てが、その時代の人たちが生きて会話をしているような世界をつくらなくてはいけないなということを、その時に強く思いました。
撮影:鹿摩隆司
――福岡さんは何度もロメオを踊っていますが、今回はそれに加えてティボルト役も踊られる。ティボルト役のお話をいただいたときの感想は。
福岡 大原監督からお話があり、興味深くて惹かれる役なので喜んでお受けしました。実は以前、別の公演でティボルトをやったことがあるのですが、舞台という広大な空間で、ティボルトは踊りがほとんどなく、演技だけでその役柄を表現しなければならない重要な役です。それがとてもチャレンジングで楽しかったんです。
ですから今回は2役と、大役ではあるのですが、自分の違った一面をお見せできるのではと思います。知人の何人かに「ロメオじゃなくてティボルトの日が見たい」と言われて、「ロメオも見て!」と思うんですが(笑)。僕はロメオ役も大好きなので(笑)。
■「無駄な手はするな」。映像よりも先輩の姿を
――マクミラン『ロメオとジュリエット』は、様々なダンサーが遣り甲斐と同時に難物であるとも語っています。経験者の福岡さん、踊り手としてのマクミラン作品の醍醐味はどこにあるのでしょう。
福岡 一言で言うと演劇的な要素がとても多い……というよりは、もう演劇ですね。指導の先生にはロメオもジュリエットも、2人でよく話し合うようにと言われたんです。互いの気持ちがわからなかったら、そのつど止めてしっかり確認し合うようにと。また「無駄な手はするな」ともよく言われます。いわゆるバレエ的なマイムではなく、心で、言葉を話しているかのような自然な振りと踊りをするようにと言われたのが、最初はすごく衝撃的でした。
またマクミランや、ビントレー元芸術監督もそうなんですが、イギリスの振付家の作品というのは演劇的要素が巧みに使われていて、表現がとてもtheatrical、演劇的なんですよね。
この『ロメオとジュリエット』はそういった演劇的な醍醐味もあるし、プロコフィエフの音楽も物語そのものと同様、美しく、聴く人の心を強く揺さぶります。衣裳や舞台装置なども全てが素晴らしくマッチしていて、バレエという総合芸術の醍醐味を味わっていただける作品だと思います。
撮影:鹿摩隆司
――井澤さん、木村さんはリハーサルを通して、今まで踊ってきた作品とマクミランの違い、独特さは実感として感じられたことはありますか。
井澤 振りにならないようにするのがすごく難しいと、改めて思います。手を掴んで3歩歩いて……というのを形にするのは簡単だけれど、形だけで終わってはいけない。振付全てに意味があるので、2人で話し合ってつくっていこうと思っています。映像は好きでよく見ます。ただ、映像の通りやっても、それはほかのダンサーの真似にしかならない。リハーサルを重ねることで、ロメオの感情が自分自身の心情として湧き上がってくるのではないかと思います。
木村 福岡さんのお話を聞いて、「無駄な手」、目的のない動きというのはやはりいけないんだな、と思いました。マクミラン作品のような振付そのものが、その人物の心情をそのまま表現するような非常に演劇的なバレエでは、その場その場で生まれてくる感情を大事にしなければならない。だから相手の動きによって湧いた感情から生まれる表現を考えた方が、自分の幅も広がって勉強になると気づきました。井澤さんは前回公演時に指導者のもとでリハーサルを重ねていらっしゃり、ロメオという人物を深く理解していると思うので、彼の演じるロメオへの想いに気持ちを委ねることで生まれる感情を表現していけたらと思います。
――映像が先にいろいろ見られるのは現代ならではですね。
福岡 でも木村さんがすごく幸運だと思うのは、バレエ団に小野絢子さん、米沢唯さんというジュリエット経験者が2人もいることなんです。2人の経験者のやり方を遠慮せずに参考にすればいいと思う。僕も以前、指導の先生から教わったことは、井澤駿君や渡邊峻郁君にも伝えています。例えば「ジュリエットから絶対に目を逸らしてはダメ」とか。人って目線を合わせ続けることは、実は訓練して意識し続けないとできないんですよ。
今メディアとかネットなどで映像がいろいろ見られる時代ですが、そのために万一違った入り方をしてしまうと、直前に指導の先生が来た時に修正するのが却って厄介になったりする。指導の先生が来るまで、そうしたズレはなるべく少ない方がいいんです。僕もそういう意味では先輩のやり方を穴があくほど見てきました。
――木村さん、ジュリエット経験者の小野さん、米沢さんとは話を聞いたりとかすることは。
木村 はい。リハーサル中はいろいろ教えていただき、自分が踊っていないときは、お2人の踊りを一生懸命見ています。オフバランスの加減とか、テクニック的にもすごく大変だなと思いました。
撮影:鹿摩隆司
■ソードファイトはまるでパ・ド・ドゥ。熱くなり過ぎは危険!?
――今度は男性のお話になりますが、ソードファイトがありますね。リハーサルはすでにやっているのですか。
福岡 やっていますがしんどいです、ロメオとティボルトの分でいつもの2倍なので(笑)。
井澤 僕はそもそも左利きなんですが、剣技は右手でやらなくてはいけないので、まず感覚が分からないんです。身体の入れ方や手の出し方が、全部逆ですから。だから今はすごくへなちょこなバトルになっているんじゃないかと(笑)。
福岡 意外と舞台で使う剣って重いんですよ。テレビで見るように軽々振れないし、神経を集中させないと本当に切れたりする。軌道を確認し、周りもちゃんと見ていないと、横にいる人に当たっちゃったりするんです。
撮影:鹿摩隆司
――本当に気を付けないと危険なんですね。しかも打ち合いは音楽に合わせなければいけない。
福岡 もちろんです。でも大体最初は合わないんですが(笑)。
――福岡さん、ティボルトはまたロメオとは別の振付になるわけですよね。
福岡 全然違います。ロメオは何回もやっているので身体に入っていますが、ティボルトになると混乱する。しかもティボルトは、1幕はベンヴォーリオと、2幕はマキューシオとロメオと、3人と戦わなくてはならない。このソードファイトもジュリエットの時同様、相手と会話しながらつくり上げていかなくてはならない要素がありますね。
――ある意味ソードファイトもパ・ド・ドゥ(笑)。
福岡 はい、まさに(笑)さらにファイトの後の絡みや、感情が乗った時に相手がどういうことをしてきそうかということなども繰り返し確認し、把握しておかないとならない。
――福岡さんが相手をするロメオ役の渡邊さんは非常に演技達者な方ですし、役に入り込んだときの化学反応が楽しみな気もします。
福岡 いや、実はソードのシーンは、あまり役に入りすぎると収拾がつかなくなってしまうんですよ。体験上思うんですが、どこか冷静でないといけない。怒りで我を忘れると振りも忘れてしまうし、軌道を外れると周りの人にも危険。僕は前回やった時、マキューシオが福田圭吾君(※同郷の昔からの親友)だったので、友人を殺された怒りの感情がなおさら入ってしまって我を無くてしまったところがあったので(笑)。
撮影:鹿摩隆司
――3年前の、福岡さんがロメオ、福田さんがマキューシオ、奥村康祐さんがベンヴォーリオの時ですね。関西3人組のリアルな仲の良さがそのまま舞台の3人組とぴったり合っていて、だからこそ後の悲劇が重かったです。
福岡 今回は同じメンバーで役がスイッチしています(笑)。ティボルトの時は京都人2人(木下嘉人、速水渉悟)と戦ってそのうち1人を殺して、最後は東北人(渡邊峻郁)に殺されます(笑)。
撮影:鹿摩隆司
■日本では新国立劇場バレエ団だけでしか見られない『ロメオとジュリエット』
――では最後にお客様にメッセージを。
木村 マクミラン版のジュリエットを踊るのが子どもの頃からの夢でした。舞台での一瞬一瞬を、湧き上がる感情を大切にしながら、ジュリエットを生きたいと思います。新国のマクミラン版『ロメオとジュリエット』として、再演を重ねながらつくり上げてきたものがあるので、それを一つひとつ吸収して自分の血肉とするのが近道だと考えています。先入観を持たず、私の心と身体を通してジュリエットそのものを表現していきたいなと思います。
井澤 昔からの憧れのロメオ役なので、様々な情報を払拭して心をニュートラルな状態に持って行き、心の中から湧き上がる感情を大事にして、演じていきたいと思います。
福岡 いい意味でお客様の期待を裏切りたいです。バレエ団にとってもマクミラン版の『ロメオとジュリエット』を上演できるのはすごく幸運なことです。指導の先生方もいらしてくださるので、また新たな発見のチャンスがいろいろあると思っています。作品を通して踊っていくうちに心も動いてくるし発見もある。マクミランの振付に忠実に、誠実に向き合って、自然に自分を出していけば、みんなで良い舞台を作れると思います。マクミラン版『ロメオとジュリエット』は、日本では新国立劇場バレエ団の公演でしか見ることができないので、ぜひ皆さん、見に来ていただいて、舞台上で起こるすべてを楽しんでいただきたいと思います。そして僕も客席で見たいです(笑)。
撮影:鹿摩隆司
取材・文=西原朋未
公演情報
【日程】2019年10月19日(土)~27日(日)
【会場】新国立劇場オペラパレス
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:ケネス・マクミラン
装置・衣裳:ポール・アンドリュース
照明:沢田祐二
指揮:マーティン・イェーツ
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
10月19日(土)14:00~ ジュリエット/小野絢子、ロメオ/福岡雄大
10月20日(日)13:00~ ジュリエット/米沢 唯、ロメオ/渡邊峻郁
10月20日(日)18:30~ ジュリエット/木村優里、ロメオ/井澤 駿
10月24日(木)13:00~ ジュリエット/小野絢子、ロメオ/福岡雄大
10月26日(土)13:00~ ジュリエット/木村優里、ロメオ/井澤 駿
10月26日(土)18:30~ ジュリエット/小野絢子、ロメオ/福岡雄大
10月27日(日)14:00~ ジュリエット/米沢 唯、ロメオ/渡邊峻郁
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