白鸚、猿之助、勘九郎&七之助が新年を華やかに! 歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』夜の部レポート

レポート
舞台
2020.1.15

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2020年1月2日(木)、歌舞伎座で『壽 初春大歌舞伎』が開幕した。令和最初のお正月を寿ぐ興行のうち、夜の部「義経腰越状(よしつねこしごえじょう)五斗三番叟」、「澤瀉十種の内『連獅子』」、そして「鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)」をレポートする。

一、五斗三番叟

義経の軍師候補、お酒にのまれる

力強い附け打ちとともに幕が開き、亀井六郎(猿之助)と雀踊りの奴たちの登場。三味線と奴たちの掛け声に、亀井を中心とした舞うような立廻りが折り重なり、はやくもクライマックスのような盛り上がり。猿之助に向けられた大きな拍手で、夜の部は始まった。

時代は、源平の世。主人公の五斗兵衛(ごとうびょうえ)は、豊臣秀吉に仕えた戦国武将、後藤又兵衛をモデルにしており、名前の「五斗」は「5斗の酒」(1斗=18リットル)に由来する。有能な軍師だったが、今は、刀の目貫師をしている。義経の重臣である泉三郎忠衡(歌六)の取り計らいで、五斗兵衛は、義経(芝翫)に謁見することとなる。

これを邪魔するのが、頼朝方と内通する錦戸太郎(錦吾)と伊達次郎(男女蔵)だ。二人は、五斗兵衛に酒を進め、義経の御前でしくじらせようという魂胆がある。五斗兵衛は、大の酒好きだが、飲んだら飲んだで酔っぱらうのだ。五斗兵衛は、義経に会うまで酒は飲まない、と最初こそ丁寧に断るのだが……。

『五斗三番叟』左より、伊達次郎=市川男女蔵、泉三郎忠衡=中村歌六、五斗兵衛盛次=松本白鸚、九郎判官義経=中村芝翫、錦戸太郎=松本錦吾

『五斗三番叟』左より、伊達次郎=市川男女蔵、泉三郎忠衡=中村歌六、五斗兵衛盛次=松本白鸚、九郎判官義経=中村芝翫、錦戸太郎=松本錦吾

白鸚の芸が醸し出す、大らかな笑い

本作における義経は、頼朝と不仲で鎌倉に入ることができず、太郎と次郎にたぶらかされ、遊興にふけって過ごしている。これに諫言しに訪れたのが、冒頭の亀井だった。亀井の言葉に機嫌を損ねるふてぶてしい義経を、芝翫が、怒りっぽく、しかし格調高く演じた。

錦吾の太郎は敵役、男女蔵の次郎は赤っ面だが、どちらも憎めない魅力があり、本作の明るさを底上げしていた。歌六は忠衡のキャラクターを、知性と貫禄で立ち上げ、義経の現状や、五斗兵衛のしくじりをすぐさま理解する話の展開に、説得力を持たせていた。

五斗兵衛を演じるのは白鸚。77歳にして初役だ。しらふならば謙虚であり、同時に愛すべき人となりを、一挙手一投足で体現しながら登場。酒を断る時の「嫌で候」「無理で候」という台詞は、文字で読むだけだと面白さは感じられない。しかし、白鸚の台詞となりその口から語られると、間合い、目の配り方、声色、眉の動きなど、あらゆる要素の組み合わせにより、笑いが生まれ、おふざけではなく喜劇になっていく。下座音楽が、五斗兵衛の酔いと同調すると、いよいよ、観ている側もゆらぐような感覚に襲われ、ふと芳醇なお酒の匂いさえ感じられた気がした。

酒に酔っていても、ベースが有能であることをちらりとみせつつ、終盤は捕手たちを相手に、お正月らしい趣向を凝らした立廻り、さらにタイトルの由来となった三番叟を披露。円熟の芸が醸し出す、大らかなおかしみがいっぱいの一幕だった。

二、澤瀉十種の内『連獅子』

厳かに華やかに舞い描く

二幕目は、猿之助と團子による「澤瀉十種の内『連獅子』」。「連獅子」は、間狂言「宗論」をはさみ、前半(前シテ)と後半(後シテ)に分けることができ、前シテは、猿之助が狂言師の右近、團子が狂言師の左近として登場する。

能舞台を模して、正面には、大きく枝を伸ばした老松が描かれている。五色の幕が上がると、二人が登場。紅白の手獅子(パペットのように扱う片手サイズの獅子舞)で、中国の霊獣、獅子にまつわる「獅子の仔落とし」の伝説を舞い描く。手獅子からのびる錣のような長い布は、松葉のように鮮やかな緑色で、松羽目の舞台によく映えていた。

「宗論」は、偶然出会い、旅を共にすることにした二人の旅の僧(男女蔵、福之助)が、お互いに異なる宗派だと知るや、「疎ましいものと道連れになった!」と喧嘩をはじめる間狂言。緊張感あふれる「連獅子」の前後をつなぐ、箸休め的な時間となる。中村福之助は、法華経の僧をお堅く、男女蔵は、浄土宗の僧を一癖ある男として演じ、息の合ったコミカルな喧嘩で楽しませた。

『連獅子』左から、狂言師左近=市川團子、狂言師右近=市川猿之助

『連獅子』左から、狂言師左近=市川團子、狂言師右近=市川猿之助

狂言師から親子獅子へ

そして「連獅子」の後シテへ。舞台上には、3台の二畳台が運び込まれる。まずは通常どおり2台を左右に置き、その真ん中に、ピラミッド状に重ねて3台目をのせると準備完了。

猿之助も團子も、後シテは、狂言師としてではなく獅子の精となり、背丈よりも長い紅白の毛の、獅子の頭で登場する。澤瀉屋の「連獅子」は、畳台を3台使う。さらにオーソドックスな連獅子と比べ、振りや動きも多いことも特徴なのだそう。ダイナミックな毛振りはもちろん、細かく刻むような毛の使い方も興味深く、舞台にいるのは人ではなく「獣」であるかのような瞬間を生み出していた。

1月16日に16歳となる團子は、これが初めての古典舞踊。緊張やプレッシャーは計り知れないが、猿之助の胸をかり奮闘。冒頭の、扇をつかった舞では、大向こうから「澤瀉屋!」の声がかかり、花道では、客席がどよめくほどの高さの跳躍をみせた。

猿之助は、親獅子の雄々しさだけでなく、優美さも纏う。仔獅子と同じリズムを刻みながらも、時間の流れが違うかのような、ゆったりと広がる舞に、威厳を感じた。前シテの、谷に仔獅子を落とした後の祈るような眼差しは、はやくも観客の涙を誘っていた。後シテの毛振りは、白く長い毛の先にまで神経が行き渡っていた。伝統の型、踊りの美しさはもちろん、その中に内包して受け継がれてきた、親獅子と仔獅子のドラマや情感に触れるドラマチックな「連獅子」だ。

途切れることのない構成で、二人同時の毛ぶりもたっぷり披露。場内の興奮を1秒も冷ますことなく盛り上げ続け、最後は、台の高さを生かした見得で、大向こうの掛け声と歌舞伎座いっぱいの拍手を浴びた。

三、鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)

勘九郎、七之助兄弟によるお家の演目

夜の部のラストを飾るのは、三島由紀夫が手掛けた『鰯賣戀曳網』。桶にイワシを入れ、天秤で担いで売り歩く猿源氏(勘九郎)のシンデレラストーリーだ。

本作は、初演では十七世勘三郎と六世歌右衛門が、その後は十八世勘三郎と玉三郎が演じ、人気を博してきた。平成26年以降は、勘九郎と七之助により、上演が重ねられている、中村屋に縁の深い作品だ。さらに禿役で、勘九郎の長男・勘太郎(偶数日)と次男の長三郎(奇数日)が、交互出演していることも話題となっている。

猿源氏の恋わずらいに、ご隠居の粋な計らい

ご機嫌な三味線音楽で幕が開くと、そこは京都の五條橋。

本来ならば、「鰯かうえい」と威勢よく売り声をあげ、売り歩かなければならない鰯売りの猿源氏が、いまにも倒れそうな覇気のなさ。父のなあみだぶつ(東蔵)が事情を聞き出すと、一目惚れによる恋わずらいだと分かる。相手は、傾城蛍火(七之助)。蛍火は、大名クラスの客しか相手をしない、トップ・オブ・トップの遊女だ。お金を積んだだけでは会えない雲の上の存在の蛍火と、息子・猿源氏をひき会わせるべく、なあみだぶつは、猿源氏に大名のふりをさせる計画を立てるのだった。

なあみだぶつは、今でこそ遁世者だが、揚屋の主人(門之助)とも顔見知りの様子。かつてはやんちゃしたのであろうことが推察される。そんな父親を、東蔵が、小粋に、愛嬌たっぷりに演じる。

身分を偽り蛍火に近づくという作戦は、冷静に考えたら詐欺まがいの行為だ。しかし、なあみだぶつも、猿源氏も、拗ねたところのない、無邪気で気持ちの良いキャラクター。彼らの一喜一憂に、素直に共感できてしまう。

そんな中、同じ揚屋の傾城薄雲(笑也)や傾城春雨(笑三郎)らは、ほっこりした作中のスパイスに。また禿役、長三郎は(観劇したのは奇数日)、猿源氏に手を払われた後も、スンとした表情で髪を直す芸達者ぶりを見せた。

『鰯賣戀曳網』左より、傾城蛍火=中村七之助、禿=中村長三郎、猿源氏=中村勘九郎

『鰯賣戀曳網』左より、傾城蛍火=中村七之助、禿=中村長三郎、猿源氏=中村勘九郎

蛍火の運命を握る、猿源氏の「鰯かうえい」

勘九郎の猿源氏は、花道の登場から観客を大いに笑わせた。蛍火を前に、緊張で盃をノンストップにあおってしまうくだりでは、老若男女、国籍問わず、誰もが爆笑。蛍火に、素性を怪しまれる場面でも、猿源氏の抜群の対応力を、勘九郎はさすがの身体能力でキレッキレに体現し、笑いと拍手を浴びた。終盤に聞かせる、気力に満ちた「鰯かうえい」は、聞く者の胸を幸せな気持ちで満たすだろう。

そして七之助が演じる、傾城蛍火。大きく立派な屋根の揚屋の座敷に、傾城が列座し、その中央から登場すると、ため息の出るような美しさ。貝合わせで遊ぶ際は、はんなりと可憐に。猿源氏の宴席では、品よく艶やかに。終盤は、その素性も納得の凛とした気高さと、揚屋で身につけたのであろう庶民的な愛らしさ、そして頼もしさ。七之助は、蛍火のさまざまな表情を、ブレることなく一人の人物にまとめ、抜群の美しさで舞台に立ちあげた。

幕外の二人を拍手喝采で見送った時の、温かい気持ちは、終演後の帰り道でも冷めることはないだろう。

お正月にふさわしい贅沢な配役で、華やかな気持ちに浸れる『壽 初春大歌舞伎』は、歌舞伎座で1月26日(日)までの上演。

※※鰯賣戀曳網の「鰯」のつくりは正しくは"弱"です。

公演情報

『壽 初春大歌舞伎』
日程:2020年1月2日(木)~26日(日)
会場:歌舞伎座

<昼の部>

中内蝶二 作
今井豊茂 脚本
一、醍醐の花見(だいごのはなみ)
 
豊臣秀吉:梅玉
淀殿:福助
石田三成:勘九郎
智仁親王北の方:七之助
曽呂利新左衛門:種之助
大野治房:鷹之資
智仁親王:芝翫
北の政所:魁春
 
二、奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)
袖萩祭文

安倍貞任:芝翫
安倍宗任:勘九郎
八幡太郎義家:七之助
浜夕:笑三郎
平傔仗直方:東蔵
袖萩:雀右衛門
 
福地桜痴 作
三、新歌舞伎十八番の内 素襖落(すおうおとし)

太郎冠者:吉右衛門
大名某:又五郎
太刀持鈍太郎:種之助
次郎冠者:鷹之資
三郎吾:吉之丞
姫御寮:雀右衛門
 
河竹黙阿弥 作
天衣紛上野初花
四、河内山(こうちやま)
松江邸広間より玄関先まで
 
河内山宗俊:白鸚
松江出雲守:芝翫
宮崎数馬:高麗蔵
腰元浪路:笑也
北村大膳:錦吾
高木小左衛門:歌六
 
<夜の部>

一、義経腰越状(よしつねこしごえじょう)
五斗三番叟

五斗兵衛盛次:白鸚
九郎判官義経:芝翫
亀井六郎:猿之助
伊達次郎:男女蔵
錦戸太郎:錦吾
泉三郎忠衡:歌六
 
河竹黙阿弥 作
二、澤瀉十種の内 連獅子(れんじし)

狂言師右近後に親獅子の精:猿之助
狂言師左近後に仔獅子の精:團子
僧蓮念:福之助
僧遍念:男女蔵
 
三島由紀夫 作
二世藤間勘祖 演出・振付
三、鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)

鰯賣猿源氏:勘九郎
傾城蛍火実は丹鶴城の姫:七之助
博労六郎左衛門:男女蔵
庭男実は藪熊次郎太:種之助
禿:勘太郎(偶数日) / 長三郎(奇数日)
傾城春雨:笑三郎
傾城薄雲:笑也
亭主:門之助
海老名なあみだぶつ:東蔵

※澤瀉の「瀉」のつくりは正しくは"わかんむり"です。
※鰯賣戀曳網の「鰯」のつくりは正しくは"弱"です。
 
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