市川團子インタビュー 猿之助に胸借り挑む『連獅子』の意気込み、父・中車への思いとは 『壽 初春大歌舞伎』

インタビュー
舞台
2019.12.19
市川團子

市川團子

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歌舞伎俳優の市川團子が、1月2日(木)開幕の『壽 初春大歌舞伎』(会場:歌舞伎座)にて、「澤瀉十種の内『連獅子』」に出演する。

2012年に新橋演舞場『ヤマトタケル』のワカタケル役で初舞台、2016年より4年連続『八月納涼歌舞伎』「東海道中膝栗毛(以下、弥次喜多)」では同世代の市川染五郎とのコンビで、存在感を発揮してきた團子だが、本格的な古典演目において、中心的な役を勤めるのはこれが初めてのこと。

狂言師右近/後に親獅子の精を勤めるのは、四代目市川猿之助。その胸を借り、團子は狂言師左近/後に仔獅子の精に挑む。公演に向けての思いを聞いた。

連獅子は、やっぱり本当にかっこいい

ーー團子さんにとって、久しぶりの古典ですね。

古典は『土蜘蛛』の太刀持(2016年8月)以来です。古典をたくさん学びたい、基本に忠実に学びたいという気持ちがあるので、嬉しいです。

ーー役が決まった時の気持ちをお聞かせください。

九月に、父の出ていた京都南座の『東海道四谷怪談』を観に行った際に聞きました。高揚と緊張の混ざったような感じだったと思います。それから改めて『連獅子』の映像を観るうちに、だんだん楽しみになりました。

おじいさま(猿翁)と猿之助さんの映像などを観たのですが、やっぱり本当に格好いいんですね。稽古が始まる前は「ここが格好良いな!」みたいな気持ちで見ていましたが、いざお稽古がはじまると、体の使い方など技術的なところに目が向くようになりました。

ひいひいおじいさま(二代目猿之助)とひいおじいさま(三代目段四郎)の映像もみました。獅子が、本当の動物のようでした。首の動きとかが、振りという感じではなく、本物の動物みたい。これはとっても難しいことだと分かっていますが、あの雰囲気を目標にもつことが大事かなと思っています。

ーー扮装写真も、大変素敵です。撮影はいかがでしたか?

撮影は、キツかったです! お稽古用の衣裳では平気だったんです。重いことには変わりませんが、動いているし、遠心力もある。衣裳や鬘が体の一部になったような感じもあるので。撮影は、ジッとしていないといけないのが大変で、気分が悪くなってしまって……。この写真、大変そうにみえませんか? 大丈夫でしょうか?(笑)それでもやっぱり、とても嬉しかったです。がんばろうという気持ちがたくさん湧いてきました。

『連獅子』仔獅子の精=市川團子 (C)松竹

『連獅子』仔獅子の精=市川團子 (C)松竹

稽古を通して変わる、連獅子のイメージ

ーーお稽古についてお聞かせください。

猿之助さんに教えていただきながら、弘太郎さんにも見ていただいています。​

ーー稽古の中で印象に残っている言葉はありますか?

弘太郎さんからは、おじいさまの言葉を教えていただきました。獅子が登場する前に、長唄で「(虎豹に劣らぬ連獅子の)戯れ遊ぶ石の橋」という歌詞があります。そこでは「獅子のキリっとしたところにもじゃれあう心がある」とお聞きしました。

ーー猿之助さんからは?

猿之助さんは、はじめに形と振りの意味、心情を教えていただきました。印象的だったのは、手獅子が必ず親獅子の方を向いておくようにということです。獅子と獅子の目が必ず合っているように、と。

猿之助さんは憧れの方。お稽古をしてくださる時の教え方が的確で、難しい感情も、僕がスッと受けとれる最善の形というのでしょうか。ポイントをみつけて、教えてくださるんです。たとえば花道で仔獅子が、川に崖の上の父親が映っているのを見つけた時の目の動き。なぜ一度(頭を後ろに回し)抉るのかの理由から感情をつけて、動きを教えてくださいました。

あと僕は、真剣になると顔が恐くなってしまうので、「子ども(の役)なんだから爽やかに」とも。

(一同、笑)

ーーお稽古を重ねて、『連獅子』に対するイメージにも変化があったのではないでしょうか。

毛をふる後シテ(後半)のイメージが強かったのですが、実際にやってみると、前シテ(前半)の踊りのイメージが膨らみます。お能からとった儀式的なところ、一人で踊る爽やかさ、狂言師としての表現と後の(獅子の精の)表現を分けるところなどは展開が立体的だな、と。心情とか感情も、崖を戻っていく時の純粋な愛や、崖から這い上がってきた時、親獅子が差し伸べてくれた手を「そんなのいらないよ」みたいにする振り。風景や意味、振りの心情などを教えていただき、考えながらお稽古をさせていただいています。

学業と歌舞伎の両立は?

ーー今日のお召しものは、スーツではなく制服だそうですね。現在、高校1年生とのこと。学業との両立はいかがですか?

1月の公演は、学校が終わってそのまま歌舞伎座にくれば間にあうので大丈夫です。でも今年の8月は大変でした。納涼歌舞伎で、4回目の『弥次喜多』に出させていただきましたが、去年までの3回とは異なり、今年は盗人の雲助役もやらせていただきました。そういう役には感情がたくさんあり、お稽古でとても悩みました。

とても悩み、舞台に専念していた分、公演が終わってから残りの日数で、宿題を全部終わらせました。その時は大変でした。

ーートークイベントでは「公演前に宿題は終わらせる」とおっしゃっていた気が……。

あれは無理でした!(笑)

ーー團子さんは2012年に、8歳で歌舞伎の世界に入られました。いつ頃から、歌舞伎を意識されていたのでしょうか。

小学校一年生の頃から日本舞踊をやっていましたし、小学校に入るか入らないかの頃から、父と歌舞伎を観ていました。演目は覚えていませんが、たくさんの人が出てきて、大詰で主役の二人や三人の見得が同時に決まるところは、やっぱりかっこいいなと感じたことを覚えています。

ーーとはいえ、いざこの世界に入るとなった時は驚かれたのでは?

自分のおじいさまが歌舞伎俳優であることは知っていました。皆は代々継ぐけれど、うちはちょっと特殊なんだなと思うこともありました。自分がやると知った時は、もちろんビックリしましたが、「やった! 自分ができるんだ!」という気持ちの方が強かったです。

ーー以前、宇宙飛行士になりたいとコメントされていたこともありました。迷いはありませんでしたか?

昔、宇宙で歌舞伎とか言っていましたね(笑)。小学生だったので、進路とか複雑なことは考えませんでした。おかげでスッと気持ちがはいれたのかもしれません。前から習っていた踊りが楽しかったので、「えー!(困り顔)」みたいなことはありませんでした(笑)。

それと、僕はやりたいことはひとつに絞らず、全部一緒にやってしまおうと考えるタイプなんです。今も絵や美術も好きで、だったら歌舞伎の絵を描こうと。(中車と團子の)会の皆さま宛の年賀状に、干支の子年にちなんだ絵を描きました。最近はプログラミング言語を学ぶのも楽しいです。映像を編集して、歌舞伎のかっこいい場面を集めたりもしています。

ーー多才ですね! その動画、ぜひ公開を!

ちょっと権利関係が、難しくて……。

(一同、笑)

色々やりたいことをお話したら、大口を叩いたようになってしまいましたが(笑)、映像やプログラミングの知識は、これからの世界でも大事なのかなと思っています。

ーーその知識を活用し、歌舞伎のPRに貢献したいというお気持ちがあるのですね。

気持ちは当然ありますがまだこの年なので……。貢献したいだなんて大きなことを言ってはいけないと思います!

(一同、ふたたび笑)

父・中車は努力の人

ーー中車さんとは、『連獅子』についてどのようなお話をされましたか?

今回だけではないのですが、僕が「これくらいで大丈夫かな?」と、心配をよく口にするので、父から「目安は決めず、ただ上達できることを考えろ」と言われました。

ーー中車さんは、どんな方ですか?

努力の人です。移動中の車でも家でも、ずっと歌舞伎の映像を見ているか台詞を覚えているか、お稽古をしています。父は大学受験の勉強を、中学3年の時から計画を立ててやっていたと聞いて、「ずっと努力をしてきた人なんだな」と思いました。その結論として「大学は行かなくていい」と言っている人でもあって(笑)。進学を否定しているわけではなく、僕も大学には行こうと考えてはいますが、「何でも、学ぼうと思えば学べる」という意味だと思います。

ーー中車さんは、香川照之さんとして、ドラマや映画などでも第一線でご活躍をされています。團子さんも、いずれは歌舞伎と映像の両方を目指されるのでしょうか。

今はそれは考えていません。歌舞伎をできるだけたくさんやりたいです。

ーー先ほど「やりたいことはひとつに絞らずに」とのお話もありましが、歌舞伎は……。

別です。プログラミングも動画編集も、プロを目指しているわけではなく、プロの方々に、やりたいことを伝えられて、話ができるくらいの知識があればいいなと思い、やっています。でも歌舞伎は、自分の中の一番太いところです。まずは皆さんに教えていただいたことを、自分でできるように修業していきたいです。

ーー歌舞伎俳優として、どのような演目や役に関心がありますか?

『黒塚』、それから『三人吉三』が好きです。おじいさん(猿翁)と段四郎さんの『二人三番叟』も感動しました。格好良くてキレがあって、キレの中に滑らかさがあって。(『四の切』は? の声に)もちろん憧れます……が、どの役もいつかやらせていただけるかも分かりませんし、いただいた役を一生懸命やります。

毛、ふりまくるから!

ーーあらためて1月歌舞伎座の『壽 初春大歌舞伎』についてお聞きします。「澤瀉十種『連獅子』」は、オーソドックスな『連獅子』とは異なる演出が入るそうですね。

澤瀉屋の『連獅子』は、とにかく振りが多く動きが多いです。前シテでは、通常のような海老反りや、蹴られて転がったりもしますし、側転もあります。

ーーアクロバティックですね! 学校でも『連獅子』ならば、興味を持たれる方が多いのではないでしょうか。

『土蜘蛛』の太刀持と言ってもなかなか伝わりませんが(笑)、『連獅子』なら、「毛を振るやつだよ」と言えば「あれね!」と分かってくれます。友達や先輩も観にきてくれる予定です。

ーーではせっかくなので、最後に、学校のお友だちや、同年代の方とお話するイメージで、お誘いの言葉をいただけますか?

「毛! ふりまくるからきて! 側転もマジやるから!」です(笑)。毎日全力でやらせていただきます。よろしくお願いします。

令和二年『壽 初春大歌舞伎』は、1月2日(木)~26日(日)まで、歌舞伎座での開催。

※澤瀉の「瀉」のつくりは正しくは"わかんむり"です。

昆虫への関心を問われると「ありません! 家じゅうケージだらけなんですよ! 玄関入ったらケージ! 靴箱の中もケージ!」と團子。

昆虫への関心を問われると「ありません! 家じゅうケージだらけなんですよ! 玄関入ったらケージ! 靴箱の中もケージ!」と團子。

公演情報

『壽 初春大歌舞伎』
日程:2020年1月2日(木)~26日(日)
会場:歌舞伎座

<昼の部>

中内蝶二 作
今井豊茂 脚本
一、醍醐の花見(だいごのはなみ)
 
豊臣秀吉:梅玉
淀殿:福助
石田三成:勘九郎
智仁親王北の方:七之助
曽呂利新左衛門:種之助
大野治房:鷹之資
智仁親王:芝翫
北の政所:魁春
 
二、奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)
袖萩祭文

安倍貞任:芝翫
安倍宗任:勘九郎
八幡太郎義家:七之助
浜夕:笑三郎
平傔仗直方:東蔵
袖萩:雀右衛門
 
福地桜痴 作
三、新歌舞伎十八番の内 素襖落(すおうおとし)

太郎冠者:吉右衛門
大名某:又五郎
太刀持鈍太郎:種之助
次郎冠者:鷹之資
三郎吾:吉之丞
姫御寮:雀右衛門
 
河竹黙阿弥 作
天衣紛上野初花
四、河内山(こうちやま)
松江邸広間より玄関先まで
 
河内山宗俊:白鸚
松江出雲守:芝翫
宮崎数馬:高麗蔵
腰元浪路:笑也
北村大膳:錦吾
高木小左衛門:歌六
 
<夜の部>

一、義経腰越状(よしつねこしごえじょう)
五斗三番叟

五斗兵衛盛次:白鸚
九郎判官義経:芝翫
亀井六郎:猿之助
伊達次郎:男女蔵
錦戸太郎:錦吾
泉三郎忠衡:歌六
 
河竹黙阿弥 作
二、澤瀉十種の内 連獅子(れんじし)

狂言師右近後に親獅子の精:猿之助
狂言師左近後に仔獅子の精:團子
僧蓮念:福之助
僧遍念:男女蔵
 
三島由紀夫 作
二世藤間勘祖 演出・振付
三、鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)

鰯賣猿源氏:勘九郎
傾城蛍火実は丹鶴城の姫:七之助
博労六郎左衛門:男女蔵
庭男実は藪熊次郎太:種之助
禿:勘太郎(偶数日) / 長三郎(奇数日)
傾城春雨:笑三郎
傾城薄雲:笑也
亭主:門之助
海老名なあみだぶつ:東蔵

※澤瀉の「瀉」のつくりは正しくは"わかんむり"です。
 
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