エレファントカシマシ 『RAINBOW TOUR 2015』初日に観た、バンドの進化と揺るぎないもの
エレファントカシマシ
3年半ぶりとなる新作『RAINBOW』を引っさげて行われているエレファントカシマシの全国ツアー『RAINBOW TOUR 2015』。瑞々しさと激しさと、サイケデリックともいえるバンドにとって新鮮な要素が織り込まれた意欲作を、ライブでどのように表現するのか。注目を集めたツアー初日@豊洲PITの模様が到着した。
エレファントカシマシは本日・12月4日のサンポートホール高松からホールツアーをスタートさせる。舞台が大きくなることで、当然ライブのスケール感が増す上、12月のホール公演ではキーボードプレイヤーとしてSUNNY氏が加わる。また年明けの新春ライブには金原千恵子ストリングスの参加が決定しており、これ以降のツアーに参加する方、5日から一般発売となる新春ライブへの参加をする方は、本稿を読みながら、演奏される楽曲やそのパフォーマンスに想いを馳せ、期待を膨らませていただければ幸いである。
ツアー初日のステージはびっくり箱みたいなものだ。何が出てくるかわからない。そしてそれが最新アルバムのツアーだったりすると、さらにサプライズ度は増していく。初披露の新曲がどんな表情を見せていくのか。どう演奏されていくのか。エレファントカシマシの『RAINBOW TOUR 2015』の初日、11月19日の豊洲PITでのステージは、楽曲制作だけが創作なのではなく、ライブもまた創作であると言いたくなるようなクリエイティブなものとなった。リリースされたばかりのニューアルバム『RAINBOW』のツアーなのだが、この最新作はストリングスやホーンや打ち込みの音などが導入された作品であり、サウンド・コラージュによるオープニング、同じ曲をアレンジ違いで繰り返す構成など、アルバムならではの仕掛けがあちこちに施された作品でもあった。それらの要素をライブという場でどう反映させていくのかも初日の大きな見どころのひとつとなっていた。
「こういう新しい会場でみんなと会えて、初披露の曲もたくさんあって、硬いところもあるかもしれないけれど、精一杯歌うから、みんなも盛りあがってくれ」とのMCもあった。初日の緊張感と高ぶりを集中力に変えていくようなバンドの渾身の演奏を観客も全力で受けとめていた。演る側と聴く側が真剣かつ熱烈に対峙することで濃密な空間が出現していた。
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今回のツアー・メンバーは宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、高緑成治(B)、冨永義之(Dr)という4人に加えて、サポートで村山☆潤(Key)、ヒラマミキオ(G)が加わる6人編成。最新作のレコーディングに参加していた村山が、引き続きツアーにも参加していて、バンドに新風をもたらしていた。新曲を初披露することは着地点が見えないまま飛翔していくようなものでもあるだろう。どれだけ入念にリハーサルをやっても、本番はまた別物だ。演奏する側の気持ちも違うし、会場内の空気も違う。観客の反応に演奏が影響を受けることもありそうだ。メンバーのテンションが互いに作用しあうこともある。
この夜、宮本はオーケストラにおける指揮者のようにバンドを引っ張っていた。時には歌によって。時にはメンバーを振り返り全身でリズムを取ることによって。宮本がどんどんぶっちぎれていく曲もあった。フロントマンが振り切っていった時、メンバーは一緒に突っ走っていくのか、押しとどめるのか、支えるのか。それぞれのテンションが混ざりあったり、ぶつかりあったりする様がスリリングだった。これこそがバンドの醍醐味だ。メンバーのうねりがひとつになり、バンドの最新のグルーヴが形成されていく。バンドの進化がはっきりと見えてくるステージだった。疾走したり、炸裂したりするだけでなく、深く潜行しながら、人間の持っているパワーを表現していく術をバンドは獲得しつつあるのではないだろうか。遠心力のみならず、求心力も兼ね備えた演奏なのだ。淡々としているのに激しい。クールなのに熱い。そう感じる瞬間がたくさんあった。
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音源ではストリングスが担っていた要素をギター3本とベースの弦楽器としての能力を駆使することで表現したり、精緻なリズムを持った楽曲を人間的なグルーヴによって肉体化したり。最新作の世界観を“再現”するのではなくて“新たな表現”として成立させていた。宮本の歌の威力も圧倒的だった。ワンフレーズで瞬間的にあたりの空気を一変させるパワーを持っている。歌そのもので抱擁する。包容する。叱咤する。様々な角度から聴き手の内面に働きかけていく。ステージ上で印象的だったのは宮本が石森の前で両手を広げて、バスケットボールのガードのような動きを見せていたこと。ティーンエージャーが無邪気にはしゃいでいるのと変わらないような動作が微笑ましい。宮本の歌が圧倒的な説得力を持っているのは、10代、20代、30代、40代の頃の気持ちをすべて保持したまま、50代目前になっているからなのではないか。そんな仮説を立てたくなるようなパフォーマンスでもあった。
ライブは二部構成になっていて、『RAINBOW』収録曲以外では人生の様々なシーンや風景を喚起させてくれる曲が目立っていた。最新アルバムの構成もステージ上で見事に活かされており、そうきたかという驚きがあった。新曲に旧曲が挟まれることで、彼らが一環して表現してきたものも見えてきた気がした。逆説的な言い方になるが、彼らは進化し続けることで、揺るぎないものも示していたのではないだろうか。その揺るぎないものとは前に進む意志と呼ぶことも出来そうだ。デビューして28年目に突入した今もバンドは進化し続けている。ツアーの中で新曲はまだまだその姿を変えていくだろう。完成形があるのか、ゴールがあるのかすらもわからない。彼らは胸の中で渦巻く衝動を感じながら、走り続けている。虹の彼方はまだまだ先にある。
撮影=岡田貴之 文=長谷川誠
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