「ドッグファイト」中河内雅貴×矢崎広にインタビュー 「いちばん大変な場面は舞台上での着換えのシーン!」
中河内雅貴、矢崎広「ドッグファイト」
若くしてこの世を去った天才、リバー・フェニックス(「スタンド・バイ・ミー」ほか)が主演した数少ない映画としても知られる「ドッグファイト」。2012年にオフ・ブロードウェイでミュージカル化された作品が、この冬ついに日本初上陸する。
最高に刺激的でノリのいい音楽と、それに乗せて繰り広げられる圧巻のダンスシーンも見どころ。青春の純粋さと残酷さが織りなす物語に、エネルギー溢れるキャスト陣が体当たりで挑む!
屋良朝幸、ラフルアー宮澤エマらと共に本作に出演する、中河内雅貴と矢崎広に今回話を伺ってきた。
――お二人は今回初共演ですよね?以前ミュージカル「テニスの王子様」に出演されていらっしゃいましたが、すれ違いだったんですよね?
矢崎:そうなんです。DREAM LIVEで同じステージには立っているんですが、芝居では絡んでなくて。ただ、そもそもあの作品は人数が多すぎて会わない子もいるんです。
中河内:そうだね。確かに。
――今回、ご自身の役作りをどのようにされているか教えてください。
矢崎:じゃ僕から。やはり台本を読んで読み取れる部分をいっぱい探しながら取り掛かっているんですけど、役作り的にはやはりベトナム戦争というものがあるので。出兵するその前夜ということで、僕だったらどうするか…家で「明日、死ぬかもしれない」っていうことをちゃんと考えながら家族と過ごしたりするんでしょうけど、彼ら(海兵隊)は、ドンチャンやっているんで、まずそういう人たちなんだなってことを理解しようと思っています。また、そういうことができるってことは、「絶対負けると思っていない」ってことなんだろうと。アメリカという国の時代背景も考えながら演じていますね。そういう背景の中でこの3人はどういう人物なんだろうって考えています。
またこの3人(エディ・ボーランド・バーンスタイン)の中でも「こういう場合は誰が先に行くか(行かないか)」とか、3人の性格の違いも考えています。
矢崎広「ドッグファイト」
――日本の軍人と国民性があまりに違いますよね。最後の日はしんみりご飯を食べるとか…
矢崎:今だったら焼肉とか、好きなもの食べていくのかなあ。ましてや「ドッグファイト」なんてしないよなあ。
中河内:そうだよね。だいたいそんな日にハメはずさないよね。
僕も矢崎さんと同じで、とにかくヤラっちさん(エディ役:屋良朝幸)と矢崎さんと僕の“スリービーズ”がこの作品の中で特に重要で、このトライアングルの関係性で物語が動いていくんです。その中でヤラっちさんの役はリーダーシップが強い役だけど、いちばん賢く頭のいいお兄さん役は僕の役なんで、俯瞰で二人のことを観たり…与えられているセリフの中や、ちょっとした動きの中などでいろいろそれが伝わるような役作りをしています。
まあ、なんといっても彼らは若く、やっとチェリーボーイを捨てられる夜、それが戦争に行く前夜で、「絶対俺らが勝つんだ」「そうだ。負けるわけがないんだ。だからハメ外そうぜ!楽しもうぜ!」という最後の夜…僕の役はすでにチェリーボーイは卒業しているんじゃないかな、って役どころなので、そういう風に役作りをしていますね。
――今、気が付いたんですが、屋良さんを「ヤラっちさん」って呼んでいるんですね。
中河内:俺はね!「さん」づけしないで、って言われたんだけど、無理!先輩だから!
矢崎:僕、普通に「屋良くん」って呼んでた…(笑)。稽古が始まった頃、3人で飲みにいったんですよ。そこで屋良くんが「俺たち“スリービーズ”だし、敬語とかやめようぜ!」って言ってくれたんで、僕は「屋良くん」で。でもマサくん(中河内)はいろいろね…。
中河内:俺は無理っす!絶対無理っす!先輩関係が長すぎて。「道化の瞳」からだから。
――“スリービーズ”の結束、そしてもう3人の海兵隊の仲間たちともチームワークを作っているんですね。
矢崎:文ちゃん(浜中文一)、セイヤ(末澤誠也)、シュン(新井俊一)とね。
――今回この作品でいちばん大変なのは何ですか?歌、ダンス、芝居とすべての要素がある舞台だと思うのですが。
矢崎:舞台上の着替え!
中河内:アハハハハハ!!そう!着替えね!
矢崎:曲の中で、1分くらいで全身着替えなければいけないシーンがあるんです。歌いながら、途中にダンスも入りながら着替えているんで、そこが最難関ですね。うまくいくこともあるんですが、手順をひとつ間違えると…
中河内:間に合わない!!
矢崎:そう!ヤバイ!チャック全開で踊っていたこともあります。
――それ、ある意味ファンサービスになりませんか?(笑)
矢崎:それで喜んでくださったらいいのですが(笑)一応スマートにキメたいんです。
中河内:そう、スマートにね!でもやっぱ、歌いながら踊るのって大変だよね。結構楽曲が難しくて、結構高い音域のパートが多くて、歌うのも大変。
――「ドッグファイト」…パーティーに最もイケてない女子を連れてきた人が勝ち、というゲームですが、お二人にとって「イケてない女子」ってどんな女子ですか?
中河内:えー…だらしない人!
矢崎:お…答えるのね…(驚)
中河内:うん。答えちゃった!(あっけらかん)あと、言葉遣いとか態度とか、ご飯を食べるときにクチャクチャいう女子は絶対無理ですね。
矢崎:嫌な女子…なんだろう(小声で悩んでいる)
中河内:ヒゲが生えている女子?
矢崎:それは確かに嫌だ…あ、僕はサラダを…まあいいや。
中河内:え。今なんで止めたの?
矢崎:いや、なんか具体的な話しすぎるかなって。いや、僕は料理を取り分けてくれる女子がいいなって言いたかったんです。イケてる女子を先に考えちゃったんです。僕がどっちかというと昭和な男なのかもしれないですけど、料理は取り分けてもらいたいな、っていう。「私にチョーダイ!」みたいな人はちょっと…
――ということは、それをひっくり返すと矢崎さん的にイケてない女子になるということで…。
矢崎:まあそんなコはめったにいないと思います。
――この舞台で演じていていちばんおもしろい場面ってどこですか?お二人ともそれぞれ違いがありそうに思うのですが。
矢崎:さっき言った着替えとか大変なんですけど、俺、全部楽しいんですよ!
中河内:ワハハハハ。楽しそうだもんね!すっごい楽しそう。
――中河内さんからご覧になっていてもわかるくらい?
中河内:そうそう。めっちゃ楽しそうです。
矢崎:全部難しいんですよ。歌も…「ここの高音でなかったなあとかヨレちゃったなあとか、芝居が抜けた瞬間にすっごい反省するんですけど、やっている最中はすっごい楽しいんです。うん、全部楽しい!
中河内:僕が楽しい場面は2幕アタマのゲームセンターのシーン。あそこがすごい楽しいです。おのおのがすごいいろいろな不満を抱えているんだけど、結局3人がいるから丸く収まっていく感じがあって。
あとはタトゥーショップ。バーンスタインとボーランドの場面は結構好き。すごいいいシーンなんですよ。タトゥーを入れるよ、ってときにいつもおちゃらけているバーンスタインが、いい事、胸に刺さる言葉を発してくれるんで、そこが僕としては素敵で嬉しいシーンなんです。やっててすごく楽しい。
中河内雅貴「ドッグファイト」
――逆に難しいシーンってありますか?
中河内:俺はやっぱ戦闘シーン。戦争を経験していないじゃないですか?だからやっている風はできますが、銃を構えて敵からも狙われていて、ヘリが飛んでいて爆弾を落とされて…そういう経験や体験をしていないので、映画で観たとかのイメージしかない。だから本当の恐怖感が出せない…以前、本物の日本刀を持たせていただいたことがあるんですが、もう鞘から出せないんですよ。怖すぎて。ちょっとでも刃に当たるとスパッと切れちゃうものだって。それが本物の銃だったら、どんな感情や感覚が芽生えるんだろうって。それが想像でしかわからないので、そこがいちばん難しい。
もちろんエンターテイメントな舞台ですけど、そこに演じる側がリアリティをもっていないと作品が深くなっていかない。戦争ものをやるといつもそう思うんです。
矢崎:ぼくは難しいというか、重視していきたいと思うことなんですけど、“スリービーズ”の連帯感があったうえでの“ラストシーン”。そこに至るまでに屋良くんにどれだけ楽しい思い出を作ってあげられるかが勝負だなと。
あと、屋良くんとエマちゃんとのシーンが意外と多くて、俺たち、下手したらお客さんたちに忘れられちゃうかも!って(笑)だから前半でいかにお客さんにも楽しい思い出を植え付けてあげられるかが勝負、ある意味エマちゃんとの勝負です(笑)
中河内:1対2みたいな状態ね(笑)
中河内雅貴、矢崎広「ドッグファイト」
――今回初共演、というお話が先に出ましたが、稽古が進むにつれ、お互いのイメージは変わりました?
矢崎:俺はすごい変わりました。マサくんってすごいクールな方かなって思っていたんですが、真逆で!
中河内:(笑)
矢崎:こんなに熱くてまっすぐだとは思いませんでした。見た目はスマートなんですが…車に例えていいですか?F1みたいな身体をしているのに中に積んでるのがトラックみたい!(笑)
中河内:(笑)ウケるなあ。そんなクールに見える?
矢崎:「男!」って感じ。過去の作品のイメージだと思いますが。
中河内:矢崎さんは芝居は上手って聞いていたんですが、それにプラスしてめっちゃおもしろいんですよ、彼。要所要所でおもしろい。飲んでいてもすごいギャグをいう訳じゃなくてふつうに面白いんですよ。存在がおもしろい。
矢崎:僕がずっと小ボケたいタイプなんですよ。大きくボケるじゃなくてずーっと小ボケていたいんですよ。
中河内:あと、えらいなって思うのは、疲れてきたり、ダルくなってくると、逆にずっと笑顔でいること。これ、えらいなーって。俺はすぐ顔や態度に出ちゃうんだけど、矢崎くんはこう、深呼吸を一回してからの笑顔(顔をマネる)…この大人感がいいんです。すばらしいなって思います。
――では、スリービーズのもう一人。屋良さんのイメージは?
矢崎:屋良くんは本当にマジメだなって思いますね。
中河内:そうだね、マジメだね。
矢崎:ストイックというか、マジメってこういうことをいうのかって思います。あと、いい人です!優しい嘘とかつくんだろうな、とか。この人と結婚したら幸せになりそうだな、とか。
中河内:(笑)
矢崎:やっぱ華やかだし、お芝居してダンスすると、またぐんと大きくなる。「ドッグファイト」の中でも自分がいちばんストイックでなきゃいけないと思っているのか、その気持ちがみんなを引っ張っていっていると思いますね。僕らの5倍くらい大変なんですこの舞台。休憩なしでずっと出っ放しなんです。その姿を見てこの前素で「屋良くん、すごいね」って声かけてしまった。
――体力だけの問題じゃない話ですね。
矢崎:気力の部分が大きいと思います。それをすごく感じます。
――二人のライバル(笑)、ラフルアー宮澤エマさんは?
中河内:とってもチャーミングですよ。かわいいからよくも悪くもこの作品に合ってない(笑)女性陣は本当は本当にブサイクな女子が出てないと成立しない話なんです。でもエマちゃんも、(保坂)知寿さんも、春風(ひとみ)姉さんも、まりゑさんも素敵な方じゃないですか。女優さんだから仕方がないけど、本当はもっと素敵じゃない方のほうがこの作品はもっと面白さとリアリティがでるんで…という意味で、ちょっとルックス的にかわいすぎますね(笑)しぐさもかわいいし歌もうまいし。でもそこは日本オリジナルの「ドッグファイト」になっていくんじゃないかな。
矢崎:エマちゃんは普通にすごいですよ。僕らが知らないところでエマちゃんの場面を作っていたんだと思うんですが、2、3回しか稽古をつけてないと思うのに、すでに出来上がってたからね。本当にすごくてさむいぼが立ったくらいびっくりしました。頭がいいんだろうなあ。
中河内:頭、絶対いいよ!
――山田和也さんの演出ですが、山田さんはどのような演出をされる方ですか?
矢崎:一回僕たちに芝居を作らせてもらって、それを活かしながら細かく芝居をつけてくれるような感じですね。山田さんに面白いって思ってもらえたら僕らが嬉しくなる…そんな演出家さんだと思います。
中河内:僕たち役者のことを考えて「このシーンはこういう内容だからこうしてみようか!」って。だから僕らからも「これやりたい、あれやってみたい」と提示しやすい方ですね。「こうしてみるんで、見てもらっていいですか?」って山田さんに言ってみたり。そこから練って作り上げていくので、細かいというよりは現場ではざっくりと大きな視野でみてくださっている演出家さんだなと思います。その上で「今日のあれ、よかった!」とか「もっとできるならやってくれていいよ」っておっしゃってくださる。
矢崎:シーンごとに入口と出口があって、そこを間違えてなければどんなルートを使って出てきてもいいんだよ、って言ってくれる方ですね。
中河内雅貴、矢崎広「ドッグファイト」
――中河内さんは踊り上手ということで、今回の現場で周りをリードしていくこともあるのですか?
中河内:いやいや、今回の踊りはどちらかというと得意なジャンルじゃないんです。ヤラっちさんや、セイヤのほうがこういうジャンルの踊りは得意なんじゃないかなあ。
矢崎:“こういうジャンルの踊り”がわからない僕からしたらそれがすごい!
中河内:アハハハハ
――今回の踊りってジャンル的にはどんな踊りになりますか?
中河内:ちょっとジャズヒップホップっていう感じかな。ジャズの要素が強いヒップホップ寄りの。
矢崎:そうか、ジャズヒップホップっていうのか・・・(小声)俺も一応歌と踊りはそれなりにやってきたんですが、…今回いちばん踊って歌っているかもしれない!そうか、ジャズ要素のあるヒップホップ寄りの…ダンス!(小声で復唱)
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――自分の人生を変えた大きな出来事ってなんでしたか?
矢崎:僕は作品毎に“最中”です。毎回毎回の現場で出会うことがどんどん僕を変えている。いろいろあるけど、またその現場で変わっているし、後々年をとって「人生を変えたのは20代です」って大きなくくりで言うかも。
中河内:僕の場合は15歳のときのダンスとの出会いですね。あそこで出会ってなかったらこうはなってなかったな。公務員だった親父みたいになりたくない、って思っててw
矢崎:俺の母さんも学校の先生。この世界に入るのもかなり反対された!(笑)
――矢崎さんは山形出身、中河内さんは広島出身で、それほど演劇やミュージカルが盛んな環境ではなかったと思いますが、そんな中、この世界に入ろう、と思ったきっかけって何だったのでしょうか?
矢崎:僕はTVドラマが好きだったんです。それと、たまに地元の小学校に来てくれる劇団の舞台を観て、すごい感動して…人形劇とかも好きだったんです。人形劇をやってみたい、というよりそれをやっている人たちに憧れがあったんだと思います。…上京してきたのは、たぶん「オラ東京へ出るだ…」的な気持ちです(笑)
中河内:僕は、やっぱりダンスに出会ったからかなあ?
矢崎:カッケー!!そういうことを言いたいなあ!!(打ちのめされる)
中河内:(笑)たまたま中学3年の受験のとき、本当に勉強したくなくて。小さいころからずっと身体を動かすことが大好きだったんです。そうしたら親が「あんた、勉強したくないんでしょ?でも高校はしっかり行ってもらうからね」って言いつつも「こういうのがあるんだけど…」と、ダンスのワークショップを紹介してくれて。そこでダンスに出逢った。
最初は芸能人になろうとかいう気持ちじゃなくて、誰かの後ろのバックダンサーとか、自分でユニット組んで踊るパフォーマーを想像して上京したんですが、いつしか俳優をやるようになっていました。
――では最後に、「ドッグファイト」を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします。
矢崎:この作品、楽しいだけじゃなくて背景にベトナム戦争があって、それを抱えるエディがいて。今のこの時代にいろんなことを考えるきっかけになる作品になると思います。お客様にも何かを感じてほしいです。
中河内:なかなか日本では理解されないものかもしれませんが、そこに男たちの友情とエディとローズの恋愛があって、人は見た目だけじゃなくて中身の良さがお互いを引き寄せ合うんだってのが裏テーマにあるように思います。そこも楽しんでほしい。表面だけでなくその奥にあるものを観てほしいです。
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ちなみに、「ドッグファイト」のあと、ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」でも共演する二人。「君の瞳に恋してる」「シェリー」・・・数々のヒット曲を生み出したフランキー・ヴァリ&ザ・ フォー・シーズンズの真実の物語が2016年初夏、シアタークリエに登場する。「個人的にはもうジャージー・ボーイズのボイストレーニングをやってます」と語る中河内に、「ジャージー・ボーイズ」は「ドッグファイト」より踊らない作品になりそうですね、と軽く話を振ってみたところ、「いや、わかりませんよ!演出家が『ぶっこわす!本国のイメージをぶっこわす!』って言ってましたから(笑)しかも2チームあるので、どうなるか僕たちも本当にわからないです」と楽しそうに語っていた。「ドッグファイト」そして「ジャージー・ボーイズ」と二人の活躍はまだまだ続く!
ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」
【大阪公演】2015年12月11日(金)~14日(月)サンケイホールブリーゼ
【東京公演】2015年12月17日(木)~30日(水)日比谷・シアタークリエ
【愛知公演】2016年1月7日(木)~8日(金) 東海市芸術劇場 大ホール
演出:山田和也
出演:屋良朝幸、ラフルアー宮澤エマ、中河内雅貴、矢崎広、浜中文一(関西ジャニーズJr.)、末澤誠也(関西ジャニーズJr.)、新井俊一、まりゑ、春風ひとみ、戸井勝海、保坂知寿
公式サイト:http://www.tohostage.com/dogfight/
◆ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」
日時:2016年初夏
会場:日比谷・シアタークリエ
演出:藤田俊太郎
出演:中川晃教/藤岡正明・中河内雅貴(Wキャスト)/海宝直人・矢崎広(Wキャスト)/福井晶一・吉原光男(Wキャスト) ほか
公式サイト:http://www.tohostage.com/jersey/