青柳 晋(ピアノ)「10回目の今年は、リスト自身が主役です」
青柳 晋
10回目の今年は、リスト自身が主役です
青柳晋による自主企画リサイタル『リストのいる部屋』が、今年で10回目を迎える。このシリーズは、「多面的で包容力のある音楽家」として青柳が敬愛するリストがホスト役となり、その彼の“部屋”にゲスト作曲家が訪れるというコンセプトで進められ、ヤナーチェク、ブラームス、ドビュッシーなど多彩なゲストたちが登場してきた。節目となる今年は、「原点に立ち返り、リスト自身にスポットを当てることにした」という。
「私が初めてリスト作品に焦点を当ててリサイタルを開いたのは1999年。今回は当時のプログラムを再構成する形で選曲しました。前半は『詩的で宗教的な調べ』から〈祈り〉〈孤独の中の神の祝福〉〈パレストリーナによるミゼレーレ〉を演奏します。中心となるのは〈孤独の中の神の祝福〉。全10曲からなるこの作品の3分の1を占める長大な曲です。続く『バラード』第2番は、地獄と天国を表す2つのテーマが絡み合う作品。最後の2分間で、地獄のテーマが明るく開花します。ピアニストでよかった! と感動する瞬間ですね」
ピアノを通じてリストの音楽を伝える青柳だが、その弾き姿は音楽する喜びに溢れ、指揮者の身振りのようにも見える。楽器という“ハードウェア”を忘れさせるほどだ。
「ハードを感じさせない演奏は、アーティストとして理想とするところですね。以前、スケートの髙橋大輔さんの素晴らしい演技を観た時、冷たく硬質なアイスリンクの質感を忘れました。私も88鍵を超えた、より大きな概念と繋がりたいです」
99年のリサイタルでは、後半にムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」を取り上げた。今回もあらためてこの大曲に向き合う。
「学生時代の恩師が、『チャイコフスキーの音楽はトルストイの文学に通じ、ムソルグスキーの音楽はドストエフスキーの文学に通じる』とおっしゃったのが印象に残っています。つまり、ムソルグスキーには重さや濁りがあるのです。『展覧会の絵』のモデルとなった画家ハルトマンの絵にも暗さがありますね。ハーモニーを混ぜ合わせるペダル使いなどで、特有の陰りを表現したいです」
過去9回の「部屋」の中で、とりわけ震災のあった2011年の回では「一音一音に自然と想いが籠った」と語る。「今後もリストと他の作曲家のコラボレーションは続きます。その一通過点として、今年は10回目としてのマイルストーンを置くことができたらと思います」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年12月号から)
自主企画リサイタルシリーズ リストのいる部屋 Vol.10
青柳 晋 ピアノ・リサイタル
12/22(火)19:00
浜離宮朝日ホール
問:ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530
http://www.jesc-music.org